イルカ38景
21:アイツらはもうアナタの生徒じゃない
「コレがバトルスーツか?」
「そうだ」
「…」
いつに無くマジなカカシに、イルカは肉弾戦を決意した。 すると技術開発部の同僚が、イイモノがあると言って出してきてくれたのが、ソレだった。 全身装着式のスーツ・タイプのマシン(?)で、筋力・瞬発力・持久力の増強維持をしてくれるらしい。
「危なくないのか?」
「おまえなら大丈夫」
「俺ならって?」
「イルカはほれ、中の並だろ? これは中忍専用なんだ。」
「…(む)」
「上忍で実験した時はな、人には言えない事態になった」
「…(汗)」
「聞きたい?」
「き、聞きたくないっ」
ぶるぶるっと首を振るとゴクンと唾を飲み込みイルカは観念した。 これを着ていてもあの上忍に敵うとは思えない。 だが、組み敷かれた時の貞操帯の役目くらいにはなるだろうと思われた。
「これは一旦装着すると解除キー無しには脱げない仕組みなんだけど、何て入れる?」
「パスワードか…。 それ、おまえが決めてくれよ。 それで俺にも内緒で打ち込んでくれないか? そうすれば例えカカシさんに捕まってあの車輪眼で吐かされても、知らないなら吐けないだろ?」
「ふむ、ま、いいけど。 何でもいいのか?」
「うん、おまえに任せるよ」
同僚はふんふんと考えた挙句に、胸元にあるキーボードにぴぴっと何やら打ち込んだ。
「じゃ、これでよしと。 イルカ」
「…(ぼ〜)」
「イルカっ 大丈夫か?」
「う、うん」
「しっかりしろよ。 なに、カカシ上忍だって殺したりはしないさ」
「そ、だな…」
いっそ殺されてしまった方がいい、とは言えなかった。 イルカはこうなる前に一度、カカシに組み敷かれていたのだ。
・・・
「アイツらはもうアナタの生徒じゃない」
衆人環視の下でイルカを罵倒して以来、イルカは目を合わせなくなった。 それまでは、3度に1度のペースとは言え、飲みに誘えば屈託無く付いてきてくれたし、話をするのも楽しかった。 だがそれからというもの、受付では愛想よく対応してはくれるし、会えば礼儀正しく挨拶はするが、飲みの誘いは全てさり気なく断られ、他愛のない立ち話も無くなった。 なんて大人気ない! カカシは自分の事を棚に上げてそう憤り、それまでらしくもなく紳士的に進めてきたイルカとの”お付き合い”の手順を、苛々が最高潮に達した時に全て省いてしまった。 つまり、イルカの家に押しかけて力で組み敷いてしまったのだ。 それなりに暴れられたので、それなりに縛ったりした。 一晩中、所謂強姦をして失神させるまで揺さぶって、翌朝腕の中で目覚めたイルカは掠れた声でこう言った。
「どうしてまだ居るんです?」
恋人同士なんだから当然でしょう、としれっと答えると、イルカは少し考えてからまた言った。
「では、これで気が済んだ、という訳ではないんですね?」
その日からだ。 イルカがこのアカデミーという名の難攻不落の要塞に立て篭もってしまったのは。 37日の間、彼は一歩もアカデミーから出ていない。 火影にも話が通っているようで、任務や受付からも外れていて、顔さえ見せない。 玄関のインターフォンで辛うじて声だけは聞くことができたが、それは素気無いものだった。
「もうあなたには会いません」
では、実力行使といきます、俺はカッタルイのは嫌いなんで。 そう言うと、どうぞと言われた。 カカシはアカデミーの迎撃防衛システム”ドリー”の偉大さを、この時初めて知ったのだった。
・・・
すみません。これは続き物です。08→21→10→12→29 の順番です。
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