イルカ38景
08:アカデミー
ここはアカデミー
難攻不落の要塞
今日もここに挑む
愛する人をこの手にするために!
ここを訪れる者は、クナイや忍術と一緒に、
階級と肩書きも玄関に置いてくること。
よろしくって?
「エルミタージュ美術館かよ」
カカシは今日もその看板を見た。 それはアカデミーの玄関の真前に燦然と輝いて飾られている。 それを前にして零す文句もいつも同じだ。 それしか浮かばないんだから仕方ない。 エカテリーナかよ、というバージョンもあるが似たか寄ったかだ。
「人には武器を置かせておいて、中はトラップだらけってのもねぇ」
その上、術もNGときては、反射神経と体力だけで突破してこいと言われているのは重々承知しているが、カカシはカッタルイのは苦手だった。
「ぱっぱーっと瞬身してさぁ、ちょいちょいっと幻術かなんか使って潜入してイルカ先生攫って、スタコラ逃げるのが忍の本分ってもんじゃないのかねぇ」
そうブチブチ言いながらも扉を押し開ける。
≪イラッシャイマセ ハタケカカシ上忍 認識番号009720 アナタノ現在ノ試行回数ハ37回デス ウチ成功回数0回 戦闘不能0回 途中離脱37回デス 今回モ挑戦シマスカ?≫
毎回々々凹ませてくれる電子音声だ。 ええええどうせ俺は直ぐ諦めて逃げ出す根性なしですよ。 だって怪我すんのはやだもんね。 でもこうして懲りずに38度も挑みに来る大バカ者ですよ。 カカシはぽいぽいとクナイその他の武器類と巻物類を所定の箱に放り、イッチニィサンシと屈伸・跳躍などの準備運動をしてから返事をした。
「イエス!」
≪挑戦、受付ケマシタ ドウゾ≫
プシューっという油圧式扉の開閉音と共に、その三重の扉が次々と両側に開いていく。 さぁここからだ。
・・・
≪カカシ上忍ガ再挑戦ナサイマシタ ディスプレイシマスカ?≫
「お、もうそんな時間か…」
イルカはぐぐぅっと伸びをして時計を振り仰いだ。 他の職員達もそれぞれ机から顔を上げ、帰り支度をしたり残業食を買いに走ったりし出す。 カカシがこれを始めてから一月半、毎日々々アカデミーの定時ぴったりにやって来るので、時計代わりにされている始末だった。
「ドリー、D-3ディスプレイに頼む」
≪了解≫
カカシが三重の表扉を潜る処だった。 ふぅと溜息を吐き、さて自分も何かカップ麺でも買ってくるかなと財布を探し出した時、突然ピピピピピピとけたたましいアラームが鳴り響いた。
≪カカシ上忍ガ武器ヲ携帯シタママ侵入シタ模様デス≫
「ったく… コード・レッド」
≪コード・レッド了解 対上忍用バトル・モード展開シマス 各種レーザー・ビーム全砲門開放 全隔壁閉鎖 各室ドアニ3重ロック及ビ電磁結界展開 幻術消去ガス注入≫
「チャフ(対雷撃戦用非電導物質)も撒いてくれ」
≪了解 ミノフスキー粒子噴霧シマス≫
「お? イルカ、今日はカカシ上忍本気みたいじゃねぇか」
「おまえもそろそろ年貢の納め時ってか?」
「どうだかな」
同僚達の冷やかす声さえ最早日常となった。 それほどカカシの飽くなき挑戦は連日に及んでいたのだが、今まで武器を持って入って来たことはなかった。 同僚の言う通り、今日のカカシはヤバイかもしれない。 イルカは自分の装備を手早く整えると、残っている職員達に退出勧告をした。
「済まん。 今日は戦闘になりそうだから帰った方がいいみたいだ。 悪いな。」
頭を下げてそう頼むと、わらわらと数人がディスプレイの回りに集まってきて覗き込んだ。 カカシは次々と襲い来るレーザー砲を難なく交わし、ブロック毎に設けられている隔壁の数メートル手前になると起爆札らしきモノを投げている。
「あ、ずりぃ! 起爆札まで持ってるぜ!」
「イルカ、今日はマジでヤバイぞ」
「…ああ」
「今までのは、レーザー砲や隔壁の位置と数の確認に来てただけなんじゃないのか?」
「有りうるな」
「でも、あのカカシ上忍だぜ、そんなの一日か二日もありゃ充分じゃん?」
「そうだよなぁ。 なんで一月半もチンタラやってたのか、今となっちゃあ謎だよな」
「お、こっち向いたぞ」
ごちゃごちゃわいわいと言い合いをしていると、何個目かの隔壁を潜った所でカカシが監視カメラの一つに向かって親指を上げて見せた。
≪イルカ先生っ 今日はクリアしますからね! 股座洗って待っててくださいよ!≫
「おおーっ」
どよどよっと一同がどよめき、イルカは真っ赤になって俯いた。
・・・
すみません。これは続き物です。08→21→10→12 の順番です。
つづく→
21:アイツらはもうアナタの生徒じゃない
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