イルカ38景
07:傷
「これがかの有名なチャクラ刀ですか?」
「ああ、うん、そうです。 父の形見なんですよ」
「へー、ちょっと触ってもいいですか?」
「いいですよ、どうぞ」
「わぁっ 本当に柄の部分しか無いんですねぇ!」
「チャクラを練ると刀身が出る仕組みなんです」
「コンパクトでいいなぁ。 かっこいいし」
「まぁ使えなければ唯の棒ですけどね」
「俺でも刀身出るかなぁ」
「いや、それはちょっと無理じゃないかな」
「やっぱり中忍じゃ無理ですよね」
「いえ、そういう訳じゃなくってね、多分畑家の血筋の者のチャクラにしか反応しないはず…」
カカシがそこまで言った時、突然ブンッという音と共に刀身が一瞬点って消えた。
「うわっ」
「で、出た…」
「イ、イルカ先生? 今どうやったの?」
「え、さ、さぁ俺別に何にも」
「チャクラ練った? どういう風に?」
「チャクラはちょこっと練ったかもしれませんけど、そんなすげぇ頑張って練ったりは」
「ちょこっと? そんな訳ありませんよ!」
「だって、俺絶対無理だって思ってたし」
「ちょっともう一回やってみせてよ」
「マグレですよ、もうできませんて」
「いいから」
「ええー、俺だってどうやったかよく覚えてないし」
「思い出して」
「えーと、確かこんな感じで握ってぇ」
「それで?」
「それからちょっとチャクラ練り気味でえいえいって」
イルカが「えいえいッ」と言いながら柄を2・3回振ると、またブブっと刀身が点り目の前の卓袱台のカカシの手元に突き刺さった。
「っ!」
「っぶねぇーっ カ、カカシさん、大丈夫でしたか?!」
焦ってオロオロとするイルカに対し、カカシは呆然と言葉を失って唯コクコクと頷いた。
「すみませんっ 俺、また出るなんて思わなくって方向も考えずに」
「い、いいんですけど、それは… でも、イルカ先生、アナタって…」
「わぁ、卓袱台焦げちまった」
イルカはカカシの信じられないモノを見る目付きをものともせずに「あ〜あ」と嘆きの声を上げながら卓袱台のカカシの手元数センチ横にできた焦げ痕をシオシオと撫でた。 だがしかし、その手がふと止まり小首を傾げ…
「…あれ? でもこの痕って…」
「ど、どうかしましたか?」
「どっかでこれとおんなじ痕を見た覚えが…」
「えっ?! どーどこで? 俺んち?」
「違います。 もっと日常的に見てた気が… あ、これだ…」
イルカはつと視線を後ろにやり、居間の柱の一つ、それの腰くらいの高さにある古い傷、その黒く焼け焦げたような窪みの前まで這い進んでピタリと動きを止めたので、カカシもそれに倣って這いずった。
「そっくりだ…」
「そっくりですね…」
ふたりで頭を寄せ合ってしげしげと眺める。 古いその傷はもう焦げ痕かどうかも怪しいモノで、イルカが物心ついた時には既にあったそうだ。 でも、何の傷なのかどうやったらこんな痕がつくのか、イルカにも今までとんと見当もつかなかったのだと溜息と共に呟いた。
「そっかー、この傷ってこんな感じでついたんだぁ」
「はぁ」
「ずーっと気になってたんですよねー」
「さっきまで忘れてませんでした?」
「はぁ、すっきりしたぁ」
「ちょっ ちょっと待って、それで片付けちゃうの?」
「カカシさん、もっかい触っていいですか? 結構おもしろいですね、これ!」
「だ、だめ! 玩具じゃありませんッ! こらッ、危ないから!」
「今度はちゃんと方向考えますって」
「そういう問題じゃないってさっきから」
「えいえいっ」
「あっ! イルカ先生、あぶなっ」
「かっくい〜〜っ そーれそーれビームサーベル〜」
「ちょっ イルカ先生っ 下ろしてっ」
「アーイアムユァファ〜〜ザ〜〜ッ」
「はぁッ?」
「あっ こうすると太くなりますよ ほらっ」
「えっっっ?!」
「わぁ、すっげー、ライトニングソードッ!!」
「わわッ イルカ先生、降参ッ もう降参ですからッ」
「バルボルトーッ」
「もう訳なかんねぇ」
「ギガボルトーーッ」
「もうどうとでもして…」
「雷よ、来たれーッ テスラッ!」
「ぎゃッ」
こうして海野家の柱に新たな傷が加わった。
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