イルカ38景


09:額あて




 さて、訳の解らん小さい生き物の「混ぜご飯を食べたい」と言う要求を理不尽に却下したことで自分の鬱憤を晴らした姑息な男うみのイルカ25歳未だ独身は、その小さい生き物と生活を共にすることと相成った。


『汗臭ぇ』
「なんだって?」

 はは! なーんも聞こえない。 キーキーと捲くし立てられる悪口もブツクサと尽きない雑言もみーんなかわいい。 だってコイツは俺よりずっと小さいくて弱い。 誰かとは違う…。 ああ、俺ってセコイ。 だがコイツが幾ら小さくて害は無いとは言え、他の者には見えないとは言え、誰かを思い起こさせる姿がすっぽんぽんではやはりこちらの居心地が悪く、額宛を舟のようにしてそこに入れ、首元できゅっと縛って持って帰った。

『洗ってねぇだろ、これ! たまには洗えよ、万年中忍!』
「む…、確かに俺は万年中忍だが、オマエにそんな風に言われる筋合いはないぞ」
『ええーい出せっ 俺様は裸でいいんだ!』
「オマエがよくても俺が居心地が悪いんだよ!」
『なんで俺様のらぶりぃな裸でアンタの居心地が悪くなるんだ?』
「そ…れはだな、オマエ、俺の大ッ嫌いなヤツにちょっと似てるんだよ」
『…だ、だいっきらいって…どどどうして?』
「いろいろだ!」
『い、いろいろって、そんなファジィな理由で嫌うっていうのは、その、ソイツがかわいそうなんじゃ』
「ノノノノノーン! ぜーんぜん。 だいたい俺とあの人じゃ接点そのものが無いし、俺みたいなのがこんな世界の片隅でちょこっと嫌いだーって叫んだって、あの人には痛くも痒くもないのさ」
『…』
「でもな、その人は天下の上忍さまで、しかもビンゴブックにまで載ってるような特別なお方なのさ。 だからオマエがすっぽんぽんだと何か気になっちゃってさ」
『…』
「お? なんだオマエ、気にしたか? オマエのことじゃないぞ。 はたけカカシっていう人間の上忍様だよ。」
『ふん』

 コイツがそのはたけカカシ本人の分身の変化かなんかじゃ?と考えないでもなかったが、そのくらい似ていたのだが、けどでもあの人が俺にそんな事をする理由が全く以って思いつかない。 嫌がらせ、くらいしか…。 う…ちょっと悲しい。 公衆の面前で中忍に楯突かれたのが気に食わないからって、いくらなんでもそれくらいで誉れ高い上忍さまが…なぁ。 それに、木の葉の上忍はそんな些細な事に時間をかけるほど暇じゃあない。 こんな俺なんかに…

「な、やっぱ服あつらえないとな。 オマエくらいの大きさに丁度いい服ってったら…やっぱ玩具屋さんかな」
『…』
「膨れるなよ、オマエのことじゃないって言ってるじゃないか。 かっこいい服買ってやるからさ」
『かっこいい服にしろよ』
「おうっ」

 まかしとけ!っと胸を叩いたうみのイルカ25歳独身姑息な男。 自分で自分の卑屈な思考に若干凹んだ分をこの顔が似ている以外無関係な妖精さんに当って晴らそうと、既に頭の片隅では「アイドル・リカちゃん」がいいかな「リゾート・リカちゃん」にしようかななぞと姑息な計画を立てていたのはこの妖精さんには絶対の絶対に内緒である。 でもちょっと、ちょっとだけ、落ち込んでいる風のこの小さい生き物が、ほんのちょっとだけかわいそうかなと、もう意地悪はこのへんにしとこうかなと、そう思い始めていた。







すみません。これは続き物です。20→09→01→31→05→24→33→27→35 の順番です。

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