イルカ38景


28:イチャパラ



「お頭ッ またです!」

 走り込んできた子分Aが息を切らして捲くし立てる。

「今度は森中の罠という罠が外されてます! その上、ぜ、ぜぃ」
「その上なんだ? ほらまず水でも飲め」

 子分Aはウグッウグッと水差しの水を飲み干すと、唇を拭き々々言い募った。

「その上、なんか悪口がいっぱい外された罠の回りに書いてあって」
「なんだとぉーっ」

 ここ最近こんな事ばかりだ。 集落の回りの罠は、食料捕獲用の物ではなく、外敵を牽制するための物だった。 外してもらっては困る。 それに悪口ってなんだ? 先週は堀の囲いを壊された。 先々週は… 

「で、怪しいヤツは見かけてネェのか?」
「へい、例の二人組み以外は」
「例の…」

 ”お頭”と呼ばれた大男と子分Aは、顔を見合わせて何とも言えないショッパイ表情を互いに浮かべた。

「やっぱり、あの二人に確かめに行った方がいいんじゃねぇんすかねぇ」
「うう〜、オメェ仲間何人か連れてって行ってこい」
「い、嫌っすよー。 お頭行ってくだせぇよ」
「なんでだよッ オレの命令が聞けねぇのか?!」
「でもー」
「なんでそこで赤くなるんだ!!」

 ちょっとポッと顔を赤らめてモジモジし始めた子分Aを、更に嫌そうに顔を顰めて長嘆する。 ああ、やっぱオレが行かにゃあならんのか? でもオレだってあんなヤツラにはなるべく近付きたくない。 なんたってヤツラは、ヤツラは…あのイチャパラ・シリーズを地でイッテルような連中なんだよぉ〜!

「うううう、判ったッ オレが行くッ 行ってきっちり確かめてきてやるゼッ!」
「よっ お頭、漢だねっ」
「煽てたって何にも出ネェよっ!」

 仕方ネェ。 ヤツラが犯人って決まりじゃねぇんだ。 ちょっと確かめて違うと判ったら、サッサと帰ってくればいいさ。 もももももしヤツラが犯人だったとしても、そう簡単に白状しやしねぇだろう。 とにかくだ! 触らぬ神、基、触らぬイチャパラに祟無し、だ。




すみません。これは続き物です。28→04→36→25→22→38 の順番です。
 つづく→04:さみしかったんだよなあ



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