窓
2
その夜、またカカシが現れた。 窓の施錠はもちろん、厚くカーテンを引き、明かりも消していたにも拘わらず、スルリと窓が開いて風が吹き込むのを感じて、イルカは暗闇でヒクリと戦慄いた。
「こんな真っ暗にして、そんなとこでなーにやってんの?」
寝てたんじゃなかったの、とカカシは呆れた口調で呟いた。 イルカは返事をしなかった。 この男に何をどう説明せよと言うのだろう。 昼間の話を思い出し、我が身を省みてベッド脇に一人蹲って泣いていたと言えばいいのだろうか。
「まーったく、アンタって人は…」
カカシは溜息混じりで手袋は外すと、ぽんっと脇の机に放った。 その動作に何か違和感を感じて気を取られ、うっかりグスリと鼻を啜り上げると、カカシが顔を覗きこんでくる。
「なーに、泣いてんの? アンタ」
膝を抱いて蹲るイルカの前にしゃがみこんだその顔が、ニヤニヤと笑っていた。 なぜ…カカシの表情が見えるのだろう…?
「あ、アナタこそ、なにやってんですか?!」
「なにって、セックスの準備?」
”セックス”?
マスクも下ろし額宛も取り去った顔がさも可笑しげに笑っている。 更にベストのジッパーをジジーッと下ろし脱ぎ出す段に至って、イルカはハッとなった。
「ひ、昼間の話、聞いてたな?! バカにして! もうたくさんだ!」
イルカは身を翻した。 バカにするのにも程が有る。 人の気持ちを何だと思ってるんだ!
「離せっ もう嫌だっ もうアンタなんかに抱かれたくないっ!」
「なにを今更」
幾らも逃げないうちに捕まえられ、後ろから抱き竦められてイルカは硬直しながらも抗った。 これはカカシ流のお遊びなのだ。 体だけじゃなく、心まで弄んで楽しむつもりなんだ。 ちくしょうっ ちくしょうっ ちくしょうーっ
「離せっ」
「ほらほら、暴れない暴れない。 アンタのして欲しいことしてあげようってんでしょ」
「俺のして欲しい事?」
「処理じゃない、愛あるセックス?」
「!」
カッとなった。 怒りだろうか、羞恥だろうか、顔が熱くなり涙が零れた。 腕を振るって殴りつけようとしたが軽くあしらわれ、片腕を背に捻じ向けられて痛みに呻きを上げると、そのまま抱き込まれ気がつくと接吻けられていた。
「む、むー」
「おっと」
噛まないでね、と口調は相変わらず鷹揚だったが手は容赦なくイルカの顎を掴んでギリリと頤を締め上げる。 そしてまた、ゆっくりと接吻けてくる。
「ん、んん」
二三度唇を併せただけですぐに舌が入り込み、口中を嘗め回され舌を吸われる。 その初めての感触は決して気持ちのよいものと感じることはできなかった。 犯されているとしか感じられないイルカは、また首を振って抗ったが、逃げる先逃げる先へと唇が追いかけてきてイルカの口を塞ぎ、呼吸を奪い、理性も奪ってゆく。 腕を捩じ上げていた手もいつの間にか体を這いまわっていた。 背筋を辿られ尻の肉を揉まれ、頤を掴んでいた手もいつからかイルカの胸のあたりを弄っている。 やっと探し当てたと言わんばかりの仕草で散々スルスルと胸筋を辿っていた指が乳首を掠り、そしてコロコロと転がすように擦っては抓り捏ねられて、尖った先端はちょっとの刺激にも反応してビリリと腰まで響く快感を伝えてきた。
「なんだかんだ言ってて、結構感度よくなってきてるじゃない」
やっと口を離すと、ふふ、と含み笑いながら指摘してくる。 それにまたカッとなったが、もうそれは完全に羞恥心の方が勝っていた。 くっと歯を食い縛って顔を背けるが、腰を引き寄せられあたかも恋人のような接吻けを施されて涙が溢れ出た。
「どうして泣くの?」
「嫌です、こんなの」
「どうして? こうして欲しかったんでしょ?」
「違います。 アンタには一生判んないんです。」
「あーそーですか。 アンタの気持ちはもうどうでもいいよ」
とにかく、とカカシの笑みが酷薄に歪む。 今日から俺達は恋人同士。 キスして、裸で抱き合ってセックスして、アンタは俺の腕の中でかわいく喘いでくれりゃいいんですよ。 俺としては、アンタの感度をもっと上げて、俺の手で容易に欲情するようなヤラシイ体にして、俺のシタイ時にアンタが素直に足開いてくれりゃ文句はありません。 いちいち縛るのもめんどいしね。 アンタがそういう方がお好みって言うんなら、偶には付き合ってあげてもいいよ。
尻を揉む手の長い指が狭間を犯し、乳首を捏ねていた手も下に降りていってイルカの前を擦り出した。
「やめっ あ、あ」
いつもオイルの力を借りていきなり捩じ込んできていたのに、こんな風にまるで”愛撫”のように体を弄られ高められて、返って嫌悪感が増した。 これが愛情の伴った”愛撫”なら、昼間の同僚のように悦びもできるだろうが、カカシは明らかに恋愛ごっこを楽しんでいる。 イルカがそれを切望していると知っていて、態と”与えてあげている”と言っているのだ。
「ひうっ」
完全に勃起したモノを強く握られてイルカは体を強張らせた。 まだズボンの上からしかされてないというのに、もう下着の中は濡れて湿っている。 情けなくて涙が出た。 そんなイルカをベッドに押し倒すと、カカシはバッと自分の上着を脱ぎ捨てた。 鍛え上げられた上半身が晒されて、その初めて見る美しいほど無駄の無い均整の取れた体に息を呑んでいると、カカシは口端を吊り上げてイルカに圧し掛かってきた。
「じゃあイルカ先生、愛し合いましょうね」
一つ一つ楽しげにイルカの衣服を剥ぎ、合間合間にも愛撫を忘れずイルカを嬲る。 直に握りこまれた自身は既に先走りでしとど荷に濡れ、先端をスルリと撫でられるだけで声を上げて達しそうになった。 意地悪く根元を押さえたカカシの手が憎らしかった。 だが、カカシの顔が猛って今にも爆発しそうな自分のソコに沈んだ時は、驚きすぎて呼吸も忘れた。
「な、なにやって、やめてくださいっ」
「愛する人に愛の奉仕をしてるんでしょーが」
「でも、で…あ、う…やめ……や、ぁぁ」
本当に嫌なら抵抗しなよ、と笑ったのを最後にカカシはイルカを口にずっぽり含むと、すぐに喉元まで飲み込み吸い上げ、顔を上下させ出した。 抵抗などできなかった。 そのディープスロートに呆気なく達しそうになったイルカの根元を無情に握り締めたまま、もう片方の手はアナルを探り出す。 すぐさま前立腺を擦り上げられ、握られたまま口淫されて、イルカはビクビク震えながら闇雲に辺りを掻き毟って悶えた。
「ああっ も、も、離してっ や、やぁ」
泣いて懇願しても、ジュブジュブと濡れた音だけが返ってくる。 もうだめだ、気が変になる。 汗と涙と唾液に塗れた顔を打ち振って喘いで気が遠くなりかけた時、悪魔のような囁きが耳元でした。
「イキたい?」
「う、うう」
イルカはただ何度も頷いた。
「じゃ、イカせてって言ってごらん。 かわいくおねだりしてごらん。」
「い、やだ…」
あまりの言葉に一瞬正気が戻りかけ、弱々しくも首を横に振って拒絶すると、体の中の指が激しく中を擦ると同時に根元を押さえたままのイルカ自身にカカシがチュウと吸引してきた。
「いや、いやだ、いや、あーっ」
「いいよ別に。 今日はずっとこのままアンタを嬲ってあげるよ。」
「やめ、や、やめて、ぇ …ねがい」
「じゃあ何て言うの?」
涙がどっと溢れた。 自分の口が勝手に喋っていることが信じられなかった。 だがもう、体はイルカの自制心を離れて一人で突き進んでいた。 口を押さえて塞ぎたかったが、シーツを握り締めた手は1ミリも上がらない。 腰から下の、イキたくてイケない激しくもどかしい感覚だけが頭を占領していく。
「イカせてぇ」
「お願い、は?」
「お願い、イカせて、お願いぃ」
「それから? その後はどうしてほしい?」
「いやぁ、イカせて、早くぅ」
「イった後は俺のを欲しいよね?」
「ほ、ほし…い」
「俺のでめちゃくちゃに突いてもらいたいよね?」
「う、うー、いやだぁ」
「突いて抉ってぐちょぐちょに掻き回してあげる。 気持ちイイよ、ね?」
差し込まれた指が言葉とともに擬似注挿を繰り返し、広げるように掻き回す。 同時に扱かれてどちらの快感なのかもう自分でも判らなかった。
「イかせて…ぇ、ねがい」
「その後は?」
「あ、アナタので突いて、俺をめちゃくちゃにしてぇ」
「OK」
クルクルと回る赤い焔を見た気がしたが、もうイルカにはどうでもよかった。 頭の中が一瞬白むほどの絶頂感を与えられた後、喉から内臓が出るかと思うほどの圧迫感に息も絶え絶えになり余計に思考が拡散する。 後は、ずっと喘いでいた。 体の中を何かが激しく行き来している。 自分の叫ぶような喘ぎ声がどこかから聞こえてくる。 自分の裸の胸に初めて感じる汗ばんだ逞しい胸の感触。 この胸は誰のなんだろう? 考えようととしても、荒く口を塞いでくる唇が呼吸を奪い、苦しくて、それなのにまた下半身からは何かが競りあがってきて、ビクビクと腹筋が痙攣すると自分の上で誰かが呻いた。
「ああ、イルカ…」
吐息が首筋に当り、ゾワリと肌が粟立った。 そしてまた誰かが呻く。 ああ、イイ、と。 その後すぐにもう自分のモノだと言う感覚もなくなった自身の先端を何かが鋭く抉ったので、イルカは背筋を引き攣らせてまた絶頂を迎えた。
「お、お」
呻く人の吐息が、ずっと首筋を嬲り続けていた。
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