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 念入りに気配を探って、ほっと息を吐く。 やっと飽きてくれたか。 風呂上りの缶ビール片手に窓を開け、風を入れる。 まだまだ残暑が厳しいこの季節、閉め切って過ごすのは辛かった。 でも、今日は大丈夫そうだと若干気を緩め、よく晴れた星空を見上げながらビールを煽る。 もう秋だ。 夜風がどこか涼しい。 洗いざらした髪を風が揺らし、気持ちのよさにぼんやりと窓枠に凭れてもう一口ビールを飲もうとしたその時、びゅっという音と共にそれの侵入を許してしまった事に気付いた。

「どーも」

 とんっと窓枠に飛び乗るようにして降り立ち、カカシはボソリと言った。 返答の声は出なかった。 咄嗟に投げつけようとしたビール缶は、さして強い訳でもない力で腕ごと押さえられ、おっとっとという惚けた台詞とともに取り上げられる。

「零れたら後でアンタがたいへんよ?」

 飲みたいけど、ま、任務前だしね、とそれを窓枠に置く。 イルカは後ずさった。 だが、逃げを打つ前に肩を掴まれベッドに叩きつけられる。

「おーっと、時間無いんだからおとなしくしてね」

 きゅいっとワイヤーの音がしたかと思った時はもう遅く、両腕は括り上げられていてそれをカカシがベッドヘッドに結び付けていた。

「っ」
「なーに?」

 イルカは歯を食い縛った。 暴れればワイヤーが手首に食い込むだけだ。 上半身をベッドにうつ伏せて顔も腕の間に埋め、目をぎゅっと瞑って体を硬くする。 だがカカシは気にした風もなくイルカの下穿きを下着ごと下ろすと、すぐに滑るモノを局部に塗りこんできた。

「あらら、ずーいぶん狭くなっちゃって」

 やっぱ毎日のお手入れは必要かねぇ、などと嘯きながら御座なりに解すと既に硬く猛ったモノを宛がってくる。

「う、あ、あ…」
「う〜、狭い」

 堪えきれずに声が漏れた。 圧迫感。 引き裂かれる痛み。 屈辱。 ゆっくりと突き込まれる間吹き荒れていたそれら綯い交ぜの感情を蹴散らすように、カカシは注挿を始めた。

「うっ ううっ あっ」
「ちょーっと間が開いちゃったらもうこんななの? 俺も色々忙しいからさ、今度いい奴紹介するよ〜?」

 ソイツに合間のケアをお願いしようかねぇ

「っ」
「あーれあれ? 泣いちゃった?」

 唇を噛むとからかうようにのんびりとした調子で言われ、だが律動の方は激しくされて、噛んだ歯の隙間に鉄の味が滲み出す。

「うっ くっ うっ」
「っ」

 後ろでカカシも一瞬呻いた。 体内に熱いモノを感じ、ほうと体の力が抜ける。 早く出てってくれ、早く…。 そう心で念じながらそのままうつ伏せて荒く息を吐いていると、カカシが自分をズルッと引き抜いた。

「ううっ」
「はぁ、気持ちいねアンタ、相変わらず」

 手袋も外さない手が腰を掴んだ。 でも指先が熱かった。 あの冷たい人でもこんな風に熱くなるんだ、とぼんやり思っているとぐるりと体を返されて、仰向けにベッドに上げられる。

「な、なにをっ」
「うん? もう一回」
「時間が無いんじゃないんですか?!」
「あと一回くらいだーいじょーぶ」
「そ…んな…」

 腰の上に跨ってきたカカシは、マスクさえ外していなかった。

「アンタの屈辱に歪む顔見ながらシタイんだよ」

 言いながら上着を巻くり上げ胸を這う手も、手甲付き手袋のザラザラした感触と指先のスルリとした感触を混ぜて伝えてきて、肌がゾワリと怖気立つ。

「今度はアンタも気持ちよくしてあげるからさ」
「や、やめろっ 触るなっ! うあっ」

 カカシがイルカ自身に片手を掛けて掴み、ゆっくりゆっくり上下に扱き出したので、イルカは上半身を闇雲に揺すって暴れた。 手首がピシリと鋭く痛み、焼けるように熱くなる。

「ほらほら、そんな手首じゃ明日困るんじゃないの?」
「離せっ くそったれっ」
「いいねぇ、その目。 ぞくぞくする!」

 見えている片目が細く眇められ、マスクの上からでもその唇が残酷そうに笑っているのが判った。 カカシは片手でイルカ自身を嬲り、片手で乳首を捏ね繰り回して一頻りイルカを鳴かせ、イルカが快感に喘ぐ顔を視姦した。 見られていると判っていても、途中からどうすることもできなくなった。 顎が上がり、呼吸が荒く忙しくなり、最後は不覚にも細く声を上げて達し、カカシの手の中に白濁を吐き出してしまった。

「あ、ああー」
「いい声、かわいいよ」
「あうっ うう」

 抗議の言葉も出なかった。 カカシが間髪を入れずにまた押し入ってきた。 そして、達して震えるイルカを掴んだまま腰を揺すり出す。

「アンタもまだまだイケソウじゃない。 ほら、こんなに悦んじゃって」
「や、やめろぉ、離せ」
「だーめだーよ。 こうするとアンタの中、いい具合に絞まるんだもの」
「ああ、やめっ あ、や…ぁ」

 その後は、女のように喘ぐことを余儀なくされた。 カカシが腰を揺すってはイルカの中を掻き回す。 イルカは身悶えて喘いだ。 手首の戒めはいつの間にか外されていて、それに気がついてカカシの肩を押すと、今度はカカシの手に頭上に押さえ付けられる。 覆い被さるようにして体を揺するカカシ。 顔の上でカカシの顔も揺れる。 覗いている箇所に汗が滲んで、時折イルカの顔に滴ってきた。 さすがに苦しくなったのか、マスクを下ろしてその通った鼻筋や薄い唇を晒し、カカシは快感の吐息を吐いた。

「ふっ うっ」

 眉根が寄せられ口元がぎゅっと引き結ばれて、一瞬だけカカシは目を閉じた。 あ、達った。 イルカは朦朧とした意識の中でそう思った。

               ・・・

「なぁ、処理とセックスの違いってなんだと思う?」

 閑散とした受付業務の空白時間帯に、隣に座った同僚がそんな話を振ってきた。 今日は火影の同席も無く、そんな気の抜けた会話も出やすかったのだろうが、イルカは顔を顰めた。 カカシにいいように犯されて、朝窓枠に放置され温くなった缶ビールを片付け、辛い体に鞭打って出てきた午後だった。 手首の傷痕は、目立たないテーピングをして、長袖の下に隠してある。

「ここでそんな話」
「まぁいいじゃねぇか、今は俺達以外に誰も居ないんだし」

 この間、外地任務に借り出された時、とその中忍仲間は話し出した。 どうもそこで処理の相手をさせられたらしい。 そう言われてそういう目で見てみると、確かに標準よりは若干華奢めで、顔付なども涼しげな優男だった。

「イルカはそういう経験無いか?」
「外地でか? 無いよ」

 俺がそんなガラかよ、と茶化しつつも内心では、外地ではな、と吐き捨てる。

「そっか、じゃお門違いだよな、こんな話。 ごめん」
「いいさ。 それよりオマエ、その間中、一人の上忍の相手させられてたのか?」
「そうなんだよ」
「他から声掛からなかった?」
「掛かったけど」

 そうなのだ。 一回そういう役を振られると、皆が皆、そういう目で見るようになる。 つい昨日まで全然普通のただの男だった者が、その瞬間から色気を発しているように感じるらしい。

「その上忍がさ、これは先約済みだって言ってさ」
「守ってくれたのか?」
「守るっていうか」

 頬を染め、ちょっと俯くその顔がやはりどこか艶かしい。 色がある。 こんな顔をされたら、その上忍も情が湧くというものだろう。

「恋、してるのか? その上忍に」
「こ、恋って、そんな…ことは…」
「してるんだな」
「うう〜」

 照れて真っ赤になって恥らう様は将に乙女だな、とイルカは溜息を吐いた。

「それで、相手がどういうつもりなのか気になると?」
「そ、そういうこと」
「処理とセックスの違いねぇ」

 行儀悪く両手で机に頬杖を付いて溜息を吐く同僚の隣で、イルカも片手で頬杖を付いた。 自分の顔を見られたくなかった。 カカシのことを思い出していた。

「接吻け…かな」
「接吻け?」
「そう。 されたか?」
「ヤッてる最中にか?」
「?」

 選択肢があるのか?

「そう」
「うん、まぁ」
「もしかして、普段もされてたのか?」
「ま、まぁ…」

 それは、とイルカは思わず微笑んだ。 そんな待遇を受けていて、何故そこに愛情があると気がつかない? 聞けば、スル時もお互い全裸で抱き合っていたと言うではないか! はーまったく、と溜息混じりに彼の方に体を真っ直ぐに向けると、イルカはぐいとその同僚の肩を掴んで顔を睨みつけた。

「この幸せ者!」
「!」

 綻ぶ笑顔が眩しかった。





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