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「い、いやだ、離してっ」
「アナタが誘ったんでしょ」

 昨夜のアスマの台詞を今夜自分が口にする。 今、体の下でジタバタとかわいく暴れているのは、あの黒髪黒瞳の少年だった。

               ・・・

 自己紹介をし合い握手をすると、彼は自分を見上げてその黒い目を眇めた。 そして握った手に視線を落とし、まじまじと自分の指を見つめ、また見上げてきた。 だがその瞳は、自分の後ろを透かして他の誰かを見ているかのように、遠くを見ている気がした。


 予想に反して、彼は三日も措かずにまたサロンに現れた。 体調不良で暫らくはお籠りかと諦めていたのだったが、彼は来るなり自分からテーブルに近付いてきた。 お近づきになりたい、と。 オズオズとした仕草や幼いほどの顔付の他にも、ボーンチャイナのような肌の肌理、濡れた瞳、鴉の濡れ羽色をした髪、どれを取っても今まで見たこともない代物だった。 近くで見れば見るほど、ゴクリと喉が鳴る。 すぐにテーブルに座らせると、先日はどうしてあんな風に逃げるようにして帰ってしまったのかとまず問うた。

「まだこちらに慣れなくて、ちょっと具合が」
「でも、俺の顔見て急に”具合”が悪くなったんじゃない?」
「そ…んなことは」

 困ったように喋る口元が動いているのを見ていると、塞いで貪りたくて堪らなくなった。 男とのセックスは、抱く時も抱かれる時も後ろから、と決めているというのに。 接吻けなんてまっぴらだと思っていたのに。

「うれしいですよ、うみの男爵」
「爵位はまだ継いでいません」
「俺もですよ。 お父上やお母上はどうしていらっしゃるのですか?」
「ア…アメリカに、まだ」
「ほほう! アメリカからいらっしゃった! それは羨ましい」
「そんなにいいとこじゃないけど」
「一度行ってみたいと思っているんですよ」
「はぁ」

 ならば今度ご一緒に、という言葉を期待したが、彼はポカンとした顔で見上げて首を傾げた。 俺の一つ下なら今16か。 ちょっと幼すぎやしないか? でもかわいいのは大歓迎だ。 抱いていて喘がれても、かわいい子なら許せる。

「ねぇ、もっと静かな場所で二人きりでお話しましょうよ」
「静かな場所?」
「この上に部屋があります。 行きましょう。」

 手を取ると、華奢で指の細い手がヒンヤリと冷たく、やはりあまり体が丈夫ではないのだろうかと思わされた。 最初は加減してあげなくっちゃいけないかな、とほくそ笑み、グイと引っ張って体を引き上げると体も驚くほど軽かった。

「ずいぶんと…ほっそりしてらっしゃるようですが、持病でもあるんですか?」
「イルカさまは食が細くていらっしゃるので」

 イルカの後ろに付かず離れず控えている老人が、彼の代わりに答えた。 コイツが邪魔だ。 なんとか丸め込んでこの子だけと部屋にシケコムにはどうしたらいいだろう。 そう悩んでいたのだが、老人はあっさり身を引いた。

「ではイルカさま、私は馬車でお待ちしております」
「うん」

 老人も老人だが、彼も彼だった。 何の疑問もなく頷いている。 ちょっと頭の弱い子なのか? それならそれで、側の者がもっと守ってやらねばならんだろうに。 これではまるで…。

「まるで、どうぞと言われているようで、なんだかこそばゆいですね」

 本能だろうか。 どこか何かがヤバイ、と告げていた。

「何がですか?」

 だが、小首を傾げて上向いた彼の白い喉元が襟から覗き、またしてもゴクリと喉が鳴った。

「いえ、こちらのことです」

 何がヤバイってこんなガキ。 小っこくて細くって、アスマでなくても一捻りじゃないか。 とにかくこんなチャンスはもう二度とないかもしれない。 頂いちまおう。
 この時の決断の軽さを、数時間後には呪うことになろうとは。

               ・・・

「や、やぁ」

 上着の前を開き薄い胸に手を這わす。 ピンク色をした乳首があまりにかわいく、カカシは主義に反してそこへ唇を押し当てていた。 舌で舐め転がすと、女のような声を上げて身を捩る。 両手は簡単に片手で一絡げに頭上に押さえ込むことができたし、腰に跨ってしまってからはこちらの意のままだった。

「ひっ やだ、や」

 乳首が赤く貼れて色付くまでいたぶり、唇だけ残して手は下へと伸ばす。 二三度撫で付けるまでもなく、彼のソコは既に形を為していた。 口では嫌々と言いながらも結構な好き者なんじゃないのかと、手に遠慮が無くなっていった。 ズボンの前を寛げ下着の中へ手を突っ込むと直接彼を握りこむ。 小さくは無かったが太いとも言い難く、若い張り詰めが手に握り心地が良かった。

「かわいいペニスだね」

 あからさまな言葉責めも、最早躊躇無く出た。 嫌々と抗って見せてはいるが、抱かれ慣れた体だと直感したからだった。

「達っていいよ、ほら」

 上下に扱く手を速め、最後に親指で先端をくりっと押すと、彼は細い声を上げて呆気なく達した。 ベッドに身を投げ出したまま半裸の状態で、はっはっと浅く息を吐き顔に汗を滲ませている様は艶っぽかった。

「今度は…俺が」

 そんな息も絶え絶えな彼が正気に戻る前に後ろも頂いてしまおうと指を伸ばしかけると、意外にしっかりした動作で体を起こし、意外な言葉を口にしたので驚く。 その上、手ではなく自分の股間に顔を埋めたので、尚驚いた。

「口でしてくれるの?」

 なかなかこうまでしてくれるヤツは居ない。 病気が恐いので街角の男妾には手を出さないことにしていたし、かと言って遊びで抱かれるお貴族様のネコの少年はマグロが多い。 タチの男も手でヤルのが精々だ。 口の粘膜に包まれる感触は、アナルに突っ込んだ時とはまた違う、柔らかいだがネットリと粘性の高い吸い付き感のする、なんとも言えない快感だった。 カカシは自分でも相手を口淫などしたことがなかったので、驚きに緩んだ警戒心が諸に性感への刺激を許してしまった。 背筋を這い登る快感に思わず呻き声が出る。

「う、う… あ」

 コイツ、巧い。 こんなガキの顔してるくせに、となんだか癪に障って髪を掴み顔を上げさせると、口一杯に頬張って目を閉じ一心に顔を上下させていた。 濡れて重そうに光る睫が上がり、黒い瞳がきょろりとこちらを見上げる。 ドクンっと心臓が脈打った。

「おいっ 離せっ 出る」
「んん」

 掴んだ髪を引っ張って顔を退かそうとすると、彼は抱きつくように両手を腰に回して退かされまいと尚一層強く吸い付いたので、剥がすどころかそのまま射精していた。 引っ張っていた手は逆に押さえつけるようになっており、吸引のきつさに呻きながら腰が震える快感に酔う。 そして、落ち着いた後もまだ舐め続けて育てようとしているイルカの顔を、今度こそ引き剥がした。

「美味そうにしゃぶっちゃって、アンタ、とんだアバズレちゃんだな」

 口端から垂れる白いモノ。 それをぺろりと舌が追う。

「うまかった?」
「うん、もっと」

 彼は、陶酔したような目のまま一回顔を振って髪を掴んでいるカカシの手を外すと、また股間に屈み込んでくる。 なんてヤツ! さっきまでの抵抗は何だったんだ? こんな好き者初めてだ。

「だーめだよ、これからは一適残らずアンタの下のお口に注ぐんだから」
「…いいよ、早くシテ」

 臆面も無くそう言って、彼は膝立ちして伸び上がった。 顔が近付いてくる。

「おっと、”俺”の味を味わう趣味はないんだよ」
「なんで? 美味しいのに」

 接吻けようとした顔を手で押さえられたイルカが、首を傾げて疑問を口にする。 本当に、本当に無邪気だ。 無邪気にエロい。 こんなタイプは初めてで、対処に困った。 主導権はいつもなら抱く相手に渡したりはしない。 意識しなくとも自然に自分がリードしていた。 だが今夜はどうにも思うようにいかなかった。

「とにかく! 痛いのが嫌だったらちょっと大人しくしておいで」

 何とか主導権を取り戻そうと、細い手首を掴んで押し倒し腰の上に跨ると、彼はにぃっと笑って足を大きく開いた。 腕に負けないくらい細い足。 その両足の間に挟まれて、やはりカカシは相手に翻弄されている自分を感じて不安になった。



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