同居人求む
- RoomMate -
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「いらっしゃい」
「こんにちわー、お邪魔しまーす」
お隣さんとしての付き合いは結構長かったにも拘わらず、カカシを招いたのは初めてだった。 少し緊張気味のカカシがギクシャクとリビングに入ってくる。
「どうぞ、そこら辺に座って楽にしててください」
「あ、はい」
きょろきょろと見回しながら、カカシはその長い足を折ってソファとローテーブルの間に正座した。
「カカシさん…足崩してくださいよ。 そんな窮屈な所でなくてソファの方へ」
「いえ、俺狭いところが落ち着くんです」
「そうなんですか?」
どうぞどうぞと重ねて勧めても首を振り、剰え尻の下に敷くべきクッションを2つ纏めて膝に抱え、きゅっと抱く。 なんだかかわいい。
「足、痛くないですか?」
「ぜんぜん、落ち着きます、コレ」
「カカシさんって…」
「ヘン?」
「ええ」
くすくすと必死で笑いを堪えながら、淹れて来たコーヒーをカカシと自分の前に置く。
「どうぞ」
「あ、どーも」
砂糖壺とミルクポットも添えて出し、自分のコーヒーを啜りながら目の下をちょっと赤く染めるカカシを眺める。 また頬染めて恥らっちゃって、ほんとにホストかしらと未確認なのにカカシの職業を勝手に決めて訝しむ。 まだ寛がないのか、ぎくしゃくした動作で砂糖とミルクを両方マグカップに入れているカカシ。 意外に甘党なのかしらん。 お菓子があったらよかったな。
「イルカ先生んちって広いですね」
「そうですか? カカシさんちと間取り違います?」
「ええ、俺んとこは3LDKだし、リビングもこんなに広くないな」
「へぇ、部屋数まで違うんですね」
「この角部屋だけ他より広くできてるんじゃないですか?」
「ああ、そうかも。 家族用なんですね。 実は俺12歳までここで両親と住んでたんです。」
「え? そうなんですか? ご両親は今どちらに?」
「12の時事故で」
「え…お二人とも?」
「はい」
「すみません、俺、余計なこと…」
「いえ、もうずっと昔の話ですし、両親の知人が保護者になってくれて何不自由なく暮らせてたんですよ」
「でも、寂しかったでしょ? まだ12歳じゃ」
「まぁ、でも…ほら、この間まで居たあの髭の人」
「ああ、部屋に勝手に入る」
「そうそう、その人。 彼、その保護者になってくれた人の息子さんなんです」
「えーっ そうだったの?」
「年も近かったから、ほんとの兄弟みたいに接してくれて…ってゆーか、昔っから遠慮無しに好き放題する人だったんで、振り回されて寂しいなんて言ってる暇なかったな」
「へー」
「で、成人して就職先も決まって生活も軌道に乗ったので、ここへ帰ってきたんです」
「じゃあココってイルカ先生の持ち家?」
「はい」
「へー、いーなー」
「だからできるだけココは手放したくないんですけど、でも、さすがに1人暮らしには広過ぎて」
「それでルームメイトを」
「そうなんです」
「Single Japanese Maleってわけですね」
「あはは、まぁそんなに拘ってるわけじゃあないんですけどもね」
「でもやっぱり日本人の方がいい?」
「そうですねぇ、俺、英語も碌に喋れないし」
「英語?」
「ええ」
「Japaneseって、そういう意味?」
「ええ、そうですけど?」
「なーんだ、そっかー」
「?」
どこかしらガクンと力が抜けたような顔で、カカシは後ろのソファにそっくり返った。
「あ、の…」
そして今度はガバリと起き上がり、正座した膝に両手を着いて畏まる。
「はい?」
「あの、じゃ、じゃあ、俺でも…その、いいかな、なんちゃって」
「は?」
「だ、だだだって俺ほら、日本語喋れるから、それに男だし、独身ですっ」
「え? ルームメイトにって言ってるんですか?」
「はいっ」
「な…なに言って、カカシさんっ もう立派に部屋を持ってるじゃあないですかぁ」
「何ヶ月お隣さんやってるんですか」と言って思わず笑ってしまうと、彼もまた照れくさそうに顔を赤らめて「もう一年経ちますよ」と笑った。 まだ次の同居人は決まっていない。
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