同居人求む

- RoomMate -


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               4人目


「ゴ…ゴホゴホゴホッ ゴホッ」
「だ、だいじょうぶですか、ハヤテさん」
「はい、大丈夫です。 いつもこんな調子なんで。 ゴホゴホッ 気にしないでくださ、ゴホッ」

 さっそくやって来た通算4人目になる同居人は、線の細い、いつも咳き込んでいる、今にも死んじゃいそうなかんじの人だった。

「部屋はこの玄関の脇のここなんだけど、どうしましょう、もっと日当たりの良い部屋の方がいいですか?」
「いえ、これで充分です、ゴホゴホ」
「でも」
「暗いほうが好きなので」
「はぁ」

 大丈夫なのかな、ほんとにこの人。 でもまあ、こそ泥は間違ってもしそうにないな。 ってゆーか、夜中に何か運び出しててもこの人なら俺きっと起きる。 咳の音で。

「ようこそハヤテさん。 大家のうみのイルカです。 ルールはふたつ。 共用スペース以外の部屋には勝手に入らないこと。 使った物は洗って元に戻すこと。 これだけ守っていただけば、後はそうですね、お家賃さえきちんと頂ければ自由に生活してくださって結構ですから。」
「はい、判りました」
「では、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、ゴホ」

 ハヤテさんは、製薬会社にお勤めとかで、とても多忙そうだったが、毎日きちんと出勤しきちんと帰宅するきちんとした人だった。 ルールもきちんと守ってくれる。 とても控えめでおとなしくて礼儀正しい。 でも笑うとかわいい笑顔だなと思った。 お家賃も月末に必ず翌月分をきちんと払ってくれるし、この人サイコー!とイルカは喜んだ。 喜んだ、のだが…

               ・・・

「で、今度はどうして居なくなっちゃったんですか?」
「うー、それは…」

 今日は金曜、可燃ゴミの日。 またカカシと二人、45lのゴミ袋を下げて階段を下る。 やっと理想の同居人を得られたと喜んだのも束の間、ハヤテさんは引っ越して行ってしまった。

「ちょっと説明し辛いんですけど…、ゲンマさんって言う刑事さんが居るじゃないですか」
「…ああ」

 ちょっと考える風をしてから、カカシは大きく頷いた。

「イルカ先生んちによく来る刑事さん」
「そうそう。 あの人がですね」

 連れて行ってしまったのだ。 前回の捜査報告とかで来訪したゲンマは、偶然居合わせたハヤテに一目惚れをしたとか言って、それ以来毎日イルカの家に通い詰め、とうとうハヤテを口説き落として強引に自分のマンションに引っ越させてしまった。 酷い。 俺の同居人だったのに。 理想の真面目くんだったのに。

「もう、吃驚ですよ」
「へー」
「お互い仕事の話とかして、結構楽しかったのに」
「へー」
「2ヶ月経ってないんですよ!」
「記録更新ですね」

 目を細めて笑うカカシに少し膨れっ面を見せていたのかもしれない。 気がつくと、カカシの人差し指がイルカの頬にめり込んでいた。

「フグ」
「もーっ カカシさんまでー」
「ふふ」

 でもじゃあ、また募集しなおしですねーと、カカシは間延びした声で言った。 そして、それじゃあといつものように手を挙げて分かれた。 「今度も、Single Japanese Maleですかー?」とまた2・3歩の距離から問われたので、「そーですー」と答えた。 ”同居人求む”の貼り紙は、駅前の不動産屋さんに一枚と、エントランスの掲示板に一枚、貼ることにしている。




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