再見
7
イルカ 09
「どうしてすぐセックスになるんですっ」
男の顔を両手で遮りながらイルカは叫んだ。
「好きだから」
なんでそんな当たり前の事を、と言うように顔や首筋にキスの雨を降らされる。 ここで負けちゃだめだ。 イルカは必至になった。 振り出しに戻る、だ。
「だ、だからっ さっきもお話しました通り、わたしとしては初対面ですし、貴方だって5年前に一度会っただけなんでしょう? すぐにセックスって言うのは如何なものかと」
「どこが」
「だからっ もっとこう…恋愛の機微って言うか、過程を大事にって言うか」
「レンアイ?」
「…」
5歳から任務に出ていたんだっけ、この人。
「そうです。 恋愛小説とか読んだことないですか?」
「レンアイショウセツ? それどこで手に入るの?」
「本屋さん」
「ふーん」
(かくしてカカシのイチャイチャパラダイスへの道が拓かれた!(笑))
「俺、今度の任務、いつ帰れるか判らない。」
男は、イルカの顔の両横に手を着き、イルカの顔をまっすぐ見下ろしてきた。 その真剣な表情に、イルカは黙って言葉を待つ事しかできなくなった。
カカシ 08
「俺、今度の任務、いつ帰れるか判らない。」
本当なら、今晩中に現地に到着していなければならないはずだった。 先に潜入している者達が仕込みを終えているはずだ。 仕込みには慎重さと時間を要する。 長く神経を使う作業を水泡に帰され、仕込み直しを余儀なくされる。 任期は延びる。 守備良く達成できたとしても、自分は処罰されるだろう。 自分への罰…。
----土牢にでも入れてくれたら休めていいだろうなぁ。
半身を起こし、両手を顔の横に着いて見下ろすと、抗う動きを止めてはっとなる、その真摯さが忍向きではないと思う。
「次の任務もきっとすぐ入る。 今度いつ会えるか判らない。」
自分の両腕に囲われるようにあるその顔は、まっすぐ自分を見上げ、真面目そうに口を引き結んで眉を少し寄せている。 すぐ絆されるその性質が、すぐに忍を止めろ、と言いたくさせた。
「5年前たった一度会って、それから5年間ずっとあんたを探してた。」
腕の間の喉がこくりと上下するのを、自分も唾を嚥下しながら見つめる。
「これがあんたの言うレンアイかどうかわかんないけど、俺はあんたが好きだよ。」
「…」
「お願い、いいと言って。」
懇願する。 片手をその頬に押し当て、耳の辺りから項をぞろりと撫でた。
「お願い」
暫く逡巡している様子で、それでもカカシから目を逸らすことなく見つめ返してくる黒い瞳を、彼はついにゆっくり閉じた。 カカシの掌に顔を摺り寄せ、そして頷く。
カカシは泣き笑いのような顔をすると、その首の下に腕を滑り込ませ、ぎゅっと抱きしめた。 耳元で掠れ声で囁く。
「名前、教えて」
「イルカ」
その声も掠れていた。 そして両手でカカシの頬を挟み、押し上げて自分の顔の前に持ってくる。 そしてじっと待っている。
「カカシ」
カカシが応えると、「カカシ」と吐息のように名を呼ばれ、体がぶるっと震えて熱くなった。
イルカ 10
キスをした。 深く、長く。 イルカはもうされるがままではなかった。 自分から腕をカカシの首に絡め舌を差し出した。 カカシは、キスの合間に何度も、やっと知ることができたと言わんばかりに名を呼んだ。 イルカは自分の名前を呼ばれる度に、身体と気持ちがどんどん熱くなっていくのが判って怖くなった。
こんな気持ちは初めてだった。 こんなにも強く他人から求められるのも、他人を求めるのも。 気持ちが流れ出して止まらない。 怖かった。 カカシの唇が首筋を辿る。 鎖骨の窪みを舐められて、知らずびくんと背が反った。 あっと上ずった声が飛び出てかっと頬が熱くなる。 動きを止めたカカシがじっと見上げているのを感じ、掌で口を抑えてぎゅっと目を瞑った。 カカシが鎖骨の窪みを執拗に舐める。 口を抑えた指の間から、自分のものではないみたいな声がもれるのを、もう止められない。 怖い。 怖くて怖くてカカシの両肩を強く掴んだ。
カカシ 09
「あ……ぅうん、ぁ、……や、やめっ」
感じているらしいイルカの反応に気を良くして、両の鎖骨のくぼみをかわるがわる舐める。 左より右の方が反応が顕著だと知ると、そちらを徹底して攻めた。 自分の下でびくっびくっと撓る体。 抑えても抑えても漏れ出る喘ぎ声。 堪らなくなったように肩を抑えて制止の声を発するイルカの初心な反応に、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「初めて?」
はっとしてイルカが目を開けた。 顔が真っ赤に上気している。 こくこく、と小さく細かく頷く心細そうな顔。 潤む目。
「こわい?」
こくん、と頷くと涙が一筋、眦から流れていった。
「大丈夫、力を抜いて、俺に任せて。」
目許に接吻け涙を吸うと、イルカが口を開いた。
「貴方は、その、経験があるんですか?」
自分が聞いたくせに目が泳いでいる。
「男を抱く方?」
そう聞き返すと、イルカは吃驚した顔で固まってしまった。
イルカ 11
選択肢がそんなにあるんだ…
イルカは目眩がした。
「俺もそれは初めてだけど、大丈夫、抱かれる方は何回かあるから大体要領は判ってる。」
絶句していると、イルカが不安になったと思ったのだろう。 更に言葉を繋げる。
「女は、いっぱい抱いてるし」
この人、一般常識がちょっと、否、かなり足りないかも。
「でも、痛いと思う。 覚悟して。」
直接的な物言いに、何も言えずぱくぱくしていると、ちゅっとキスをされてくすくす笑いを零される。
「ものすごく痛いよ?」
悪戯っぽい顔付きといやらしい顔付きを同時にされて、イルカはものすごく不安になった。
「最初はね。 それからものすごく、…ヨくなる。 今度はきっと忘れられない。」
「…ごめんなさい。」
哀しく謝った。
「あんたのせいじゃない。 それに」
「それに?」
「今度会った時は、もっとずーっとヨくしてあげるし、次の次に会った時はもっともっとずーっとずーっとずーーーーっと」
イルカは両手でその恥ずかしい事を垂れ流す口を押さえた。
カカシ 10
男経験に触れると眉尻を下げて自分の怖さは何処へやらになり、女経験に触れると今度はあからさまに眉を顰める。
----この人、かわいそうなタイプに弱いんだ。
カカシは学習した。
そして性的な事柄にはひどく疎い。 顔を真っ赤にしてカカシの口を必至で押さえるイルカ。 きっと女とも経験無いな、と思うが口に出さなかったのはカカシにとっては僥倖だったと言えよう。 掌をべろりと舐めると、びくっとして手を離す。 もう無駄口は止めようと思った。 この人と話してると調子狂うし。 それに…
----それに、このかわいさはどうだ!
直ぐさまめちゃくちゃに犯したい衝動を抑え、できるだけ優しく、ゆっくり、と自分に言い聞かせる。 そしてじっくり、たっぷり、思う存分…。 最後の方は多分に自分の欲望を取り入れ、カカシは内心舌なめずりをした。 この人は俺のもの。
イルカ 12
急に接吻けを再開したカカシにイルカは狼狽えた。 首筋に施される愛撫が先程よりも数段濃厚に感じ、カカシのやる気を象徴しているような気がして気圧される。
「あ、待って」
「もう黙って」
口を塞がれる。 舌がねっとり唇を舐め歯列を辿り、舌を吸い口腔を犯す。 片手が耳朶を揉み、頬から頤を摩り、もう片方の手が胸元を漂う。 指先が胸の尖りに掛かった時、イルカは合わせていた唇が浮くほど硬直した。
「ぅあっ」
「ここ、感じるでしょ?」
頭が下がって行く。 される事が判って思わず拒んだ。
「いやです、待って」
頭が戻ってきてイルカの目を深く覗く。
「待てない。」
低く耳に届く声に、頭のどこかが痺れた。
カカシはイルカの両脇に手を付くと、ほら、と言って自分の昂ぶりをイルカのそこに擦り付けてきた。 既に硬く形を成しているカカシのそこを感じて、かぁっとなる。 自分みたいな男のどこに、こんなに欲情できるんだろう。 だが、ぐりっぐりっと擦り付けられるとイルカのそこも直ぐに硬くなり始めて、男にも欲情できる事を嫌でも教えられた。
「あ…ぅあ…う、やめ…てくださ…」
イルカは身を捩って逃げようとした。
「黙って感じて」
そんなこと言ったって、とイルカは思う。 こんなのは初めてで、どうしていいかわからない。
「イルカ」
名を呼ばれ、びくっと目を開けカカシの顔を見た。 自分の上でゆらゆら揺れるその表情は恍惚として気持ち良さそうに目を閉じている。 イルカ。 カカシは、もう一度イルカの名を呼ぶと目を開き、首を下げてねっとり接吻け、耳元で囁いた。
「イルカ、俺のイルカ」
イルカは胸が熱くなり、何か高いモノをポンッと越えてしまったような気がしてまた怖くなった。
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