再見


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          カカシ 05

 自分が口走っている言葉さえ覚えが無いほど、カカシは腕の中にやっと収めた者を夢中で抱きしめた。自分より大きかったその体が、今は意外と小柄で細身なことに驚いてもいた。カカシは不安になって、どこか怪我をしていないだろうかと身体中を撫で回した。時折、うっと声が上がる箇所は丁寧に触りなおして、只の打撲なのをひとつひとつ確かめずにはいられなかった。しかし、項や顔回りを探っているうちに棒のようだった身体が緩みカカシに凭れるようになってくるに即け、自分の方が酩酊状態に陥ってしまうのを止められなくなった。頭の片隅で警告音が鳴っていた。
 あのっ と胸元から小さく声が上がる。初めて聞く青年の彼の声に、手を止め胸を少し離してその顔をまじまじと覗きこむ。怯えた表情がまだ色濃く漂う彼の顔が、それでも自分を間近にまっすぐ見上げてくるのは感動だった。身体の状態を問うたような気がするが、もう返事は聞いていなかった。その口元が何か言葉を紡ごうとしたのかぽかりと開いた瞬間、唇を貪っていた。
 あ、うん、と喘ぎにも似た声を聞いてしまったらもうだめだった。顔を左右に振るのをどこまでも追いかけ、逃げをうつ身体を逃がすまいと益々強く引き寄せる。何度も角度を変えて唇を飽きずに味わうと、深く咥内を犯して舌を絡めた。警告灯がくるくる回る。
 やがてその身体からがくんと力がぬけて頽れるのを、一旦は支えようとしたカカシだったが、地面一面に枯葉が敷き詰められているのを見て、ゆっくりとそこに横たえた。



          カカシ 06

 ----この男をどうするつもりだ?
カカシはその声を無視し、煩い警告灯を遠くに放った。
 ----この男をどうしたいんだ?
声は執拗に繰り返す。
 抱くんだ。
 もう止まらない。
 止められないんだっ
 ----どうして?
 この人がほしい。
 指の先から髪の毛一本まで欲しいんだっ
 ----奪うのか?
 違う!
 ただ、感じたいんだ。
 俺の全身で、奥の底から、指先の隅々まで、この人を感じたいんだっ
 ----邪魔が入ったら?。
 邪魔させない!
 誰にも邪魔させない。
カカシは夢中で結界印を結んだ。
 ----邪魔物はどうする?
 排除するだけだっ
 邪魔だ、この胸当ても、この人の忍のベストも。

 「待ってください」

 待てない!

 「話をきいて…」

 話なんか!!

 ----この男の心もか?

 !!!!!!!!!!

 

          カカシ 07

 覚えてない? 覚えてない! 覚えてない……!!
 
 カカシの理性はあっけなく飛んだ。
 それは、そう、彼の方が悪かったのかもしれない。
 落胆と哀しみと怒りがカカシを波状に襲って、せっかく助けた命が早々と逝ってしまうような殺気をカカシが放ったとしても、それは彼の自業自得だったかもしれない。
 カカシはもう、理性と名付けられたものや慈愛と呼ばれるものから目を逸らし、暗い欲求に身を任せた。白い肌を乱暴に撫で回し、噛みつくように吸い痕を残す。
 もうどうでもいい。
 犯ったら殺してしえばいい。
 無理矢理足を開かせればいい。
 慣らさず堅いその後ろに捩じ込んで、血の滑りの中でぐちゃぐちゃに……犯、し、て………

 下卑た笑い声が耳元で聞こえ、カカシは慄然として己の唇をぎりりと噛んだ。血の味が、現実を認識させていく。彼の投げ出された腕がぴくりともせず、無性に哀しくなった。






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