休暇





「カカシさん」

 目覚めると一人で、とても淋しかった。 隣の部屋にカカシの気配。 昨夜は事後に話している裡に眠ってしまい、カカシがそれ以上求めてこなかった事もあり、立てないほどでもなかったが、甘えたかった。 立てなくなるほど愛されたかったのかもしれない。

「イルカ先生、起きた?」
「はい」

 襖をするりと開けて入ってきたカカシは、絣の浴衣に黒い帯をきりっと締めており、裾捌きも慣れた感じでとても見栄えがよかった。 片手に水の入ったコップを持っている。 どこまでも気の利く優しい男。 自分をこれでもかと甘やかしてくれる。 そして愛してくれる。 だが時々今のように、余りに何もかもが良過ぎる様を見るにつけ、どうしてこんな男が自分に感けているのかと、どこか他人ごとのような、信じられない気持ちにさせられた。 それは何年経っても変わらなかった。

「お水、飲みたいでしょ」

 言葉が出ず、ただコクンと頷くと、カカシは口端を吊り上げて微笑んだ。 その顔にまた見惚れる。

「どうしたの? 喉、痛い?」
「カカシさん、かっこいいから」

 見惚れましたと言うと、カカシは目を細めて笑った。 抱き起こされ、支えられ、口元にコップの縁を宛がわれる。 イルカはされるがままに、こくりこくりと水を飲んだ。 よく冷えた美味い水。 飲み干して、ほっと息を吐くと、与えられる接吻け。

「立てない?」

 うんうん、と頷く。 本当は立てる。

「イルカ先生の浴衣は…っと、ああ、ぐちゃぐちゃだな」

 紺無地の浴衣が枕元に投げ捨ててあった。 カカシのモノや自分のモノがべったり付いているいるに違いない。

「取り敢えずシーツ着てて」

 俺の目の毒だから、とまた片方だけが引き上げられる唇。 イルカはそれをじっと見つめた。 カカシの唇が好きだ。 接吻けはもっと好き。 隣の布団から引き剥がしてきたシーツでイルカを包みながら、カカシはイルカの身体を点検するようにするりと撫でた。 知らず身体がヒクリと戦慄く。

「風呂に入りたい?」
「後でいい」

 カカシの胸元の襟にしがみつき、イルカは首を振った。 カカシの手で全身を覆われてしまってから、せっかくきちんと隙間無く包み込まれたシーツから両腕を突き出し、カカシに向かってまっすぐ差し出す。

「だっこ」
「はいはい」

 一度ぎゅっと抱き締められてから、イルカの手が首に絡むのを待って横抱きに抱え上げられる。 どこまでもマメだ。

---ああ、心地いい

 イルカは目を閉じてカカシの歩く振動に身を任せた。

「どうしたの? 随分甘えて」
「だって、今日もう帰るんでしょ? 甘えとかなきゃ」
「ふふ」

 隣の部屋は昨夜の夕食がそのままだった。 そっと座卓に下ろされて、二三度頭を押さえるように撫でられる。

「今、お茶を煎れてあげますから」
「グ〜〜」

 その時、腹の虫がイルカの代わりに答えた。 カカシはくすくすと笑いを堪える。

「腹減りましたよね、昨夜ほとんど喰ってないし」

 すぐに朝食を頼んであげますから、それに箸付けちゃだめですよ、と釘を刺してからカカシは立ち上がった。 この亭の入り口にちょっとした水屋があり、そこに湯沸しなども備わっていた。

「ごっくん」

 冷めて乾いているとは言え、目の前の豪華料理の数々に喉が鳴る。 そっとカカシの後ろ姿を覗い、箸置きに昨夜自分が置いたままの箸をこそっと掴んだ。

「イルカ先生っ」
「うわッ」

 途端、声がかけられ、イルカは全身でびくっとして手に持った箸を取り落とした。 カカシが顔を顰めて睨んでいる。

「めっ」
「だってー、もったいない」
「だめです」
「刺身以外は大丈夫ですって」
「腹壊しますよ」
「俺が腹壊す原因って、食べ物じゃないんだけどな…」
「なんですって?」
「な、なんでも、ないですっ」

 落とした箸を拾い、じっとカカシに睨まれたまま箸置きに戻す。

「よろしい」

 しゅんと項垂れて見せたのだが、カカシはちょっと考えてからイルカを座卓ごとテーブルから離した。

「カカシさんったら酷いっ 俺のこと信用してないっ」
「してないです」

 むーむーと抗議の声を上げたが、カカシはまたぽんぽんと頭を撫で付けただけで再び踵を返した。

---俺が歩けないって思ってるな

 ふんっだ、歩けるもーん。 歩くまでもない、ちょっと這えば事足りる。 水屋から水音が響いてくるのを確認するまで我慢して、イルカは四つに這った。 シーツがずり落ちそうなのでちょっと裾を端折ってまるで甲羅を被った亀宛らにテトテトと数歩這う。 もうちょっとでテーブルだとイルカが手を伸ばしたところで、だがヒタリと冷たい感触が腿を這い、尻を撫で上げられた。

「あ」
「悪い子」

 冷たい指がすぐアナルを犯す。

「や、あ…」
「悪い子にはお仕置き」

 ぐちぐちと自分の後ろから粘質な音が聞こえてくる。 イルカはもう動けなかった。

「カ…カシ…さ、…んん」
「俺もね、食べ足りないんですよ」

 もう片方の手がイルカ自身に伸ばされ、イルカは仰け反って後ろで身体を嬲る者の胸に完全に寄りかかった。

「あ、あん、いや」

 だがその時、もう一人のカカシが湯呑と急須と持って現われ、目の前で二人分の茶を注ぎ出す。

---影分身まで使わなくたって…

 対面に座り茶を啜り出したカカシに視姦されながらイルカは悶えた。 シーツは既に身体を半分も隠していない。 足を閉じて何とか視線から外れようと身体を捻ると、更に肩が肌蹴て胸元が露になり、昨夜のカカシの所有印が自分の目に飛び込んできた。 カッと顔が熱くなる。 チラと茶を啜るカカシを上目で盗み見ると、バチリと視線が絡み合ってしまった。 慌てて反らして目を瞑ると、後ろのカカシが足を使ってイルカの両足を左右に抑えてくる。

「や、やだ」
「いい眺め」
「…!」

 後ろを犯す指と前を扱く手に翻弄されてもはや言葉も繋げない。 固く目を閉じて喘いでいると、ぐいと顎を掴まれて接吻けられた。

「さっきみたいな目で他の男を見たら許しませんよ」
「さ…っき?」
「あんな風に見られたら、十人中十二人は誘われたって思うよ」
「さ、さそって、な、ない」
「あんたにそのつもりがなくっても、そう感じるんだよ、自覚しな」

 まったく幾つになっても、とカカシはぶちぶちボヤキながらイルカを嬲ってきた。

「あ、ん、んん」

 後ろのカカシと前のカカシに同時に嬲られ、もう達くと思った瞬間、前のカカシがぱっと手を離して立ち上がった。

「そうだ、朝食頼まなくっちゃ」
「そ、そんな、や… あ、あっ」

 前を放られだが後ろは犯されて、イルカは胸を喘がせながらも内線電話の受話器を取ろうとするカカシを制止した。

「今は、や、やだ カ、カカシさん、カカシさん」
「そうだねぇ、こんな姿、他の奴には見せられないねぇ」
「でも俺も腹減っちゃって」
「お、俺を、俺を食べてっ」
「OK」
「ここで? 向こうで?」
「あ、あっちで…」

 二人のカカシに代わる代わる話しかけられ、イルカはこれからされる事を知った。 再び抱き上げられて寝間に運ばれると、布団にそっと落とされる。 直ぐに一人のカカシ自身が宛がわれ後ろから貫かれた。 カカシは片足を立て、最初からグイグイとアナルを掻き回してくる。

「ああっ い、いやぁ」
「ほら、掴まって」

 優しげにもう一人がイルカの腕を取った。 されるままその首に縋ると身体が浮いて全く自由が利かなくなった。 後ろのカカシは容赦なく突き上げてくる。

「ああっ ああっ んむっ んーーっ」

 前のカカシに口を塞がれ、そして自分の前を扱かれる。 苦しくて好くて、涙がぼろぼろと零れた。

               ・・・

「ん、んん、ふ、うん」

 穏やかだがカカシの律動は途切れず続けられ、イルカも喘ぎ続けた。 二人に交互に激しく愛された後、カカシはいつの間にか一人になっていた。 布団にうつ伏せられて、背中全体に圧し掛かるカカシの重みや緩い突き上げが気持ちいい。 ただ甘えるように声を漏らし、イルカは手元のシーツを握って手繰り寄せた。

「ごめんやす」

 その時、自分の声でもカカシの声でもない者の声が響いた。 女の声だ。 そしてそれに答えるカカシの声。

「ああ、どうも。 これ、片付けちゃってください。」
「へぇ」

 カチャカチャと食器の触れ合う音がする。 イルカは思わず手繰り寄せたシーツを慌てて口に持っていって噛んだ。 その途端に突き上げが大きくなる。

「…!」
「聞こえちゃうよ」

 耳元で囁かれる言葉とは裏腹な突き上げの鋭さ。 剰え前にまで手を這わされ、掴まれる。 そして律動に併せて扱かれ、先を撫でられた。 口元にやった手とは反対の手で手元のシーツをぎゅっと鷲掴むと、イルカはわなわな震えながら刺激に耐えた。

「ぅ… ぅぅ…」
「イルカ、愛してる」
「ん!」

 卑怯なカカシ。 イルカは全身を引き攣らせて震えた。 言葉と同時に弱い所を突かれ自身の先端を抉られて、達してしまったのだ。 カチっと音がしたのを最後に、隣の片付けの気配が一瞬止んだ。

「お連れはんは…、まだ寝たはりますのんか?」
「ええ」
「お具合でも悪いんどしたら何かお薬でも」
「いえ、疲れてるだけですから」
「そうどすか。 ほな、お朝食は?」
「お願いします」
「へぇ」

 仲居の足音が遠退き、玄関の閉まる音とともに襖が開く。

「おやおや」

 もう一人のカカシが、泣き濡れてシーツを噛む自分を見下ろし枕元に膝を付いた。 そして後ろのカカシに何か合図をすると、自分の浴衣の裾を開く。 カカシは下着を着けておらず、既に隆と猛っている赤黒いモノを惜し気もなく晒してイルカの目の前で自らの手で更に鍛え上げた。

「あんたの悩ましい声で勃っちゃったよ」
「う、あ、ふっ」

 口元のシーツをぐいと外され、やっと声と共に息が吐けた。 そんなイルカの弛緩した身体から後ろのカカシがズリュっと抜けて行き、腹を抱えて起こされるとそのまま両腿を掴んでもう一人の前に足を大きく開かされた。 そして抱え上げられる。

「あ、ああ…」

 すぐに入ってくる太いモノ。 ず、ずずっとそれは二三度揺すり上げられる間もなく、全てがイルカの中に納まった。

「あ、あ、あ」

 浴衣の生地がイルカの素肌を擦って、それがまたイルカを震わせた。 前だけ寛げ自分を犯すカカシは、腰を擦り付けるように深く挿し込んでは回して、容赦のない律動を刻んできた。

「あっ いやっ いやーっ」
「しーー、そんなに叫んだら、聞こえちゃううよ」
「塞いであげる」
「んん、んーーっ」

 乳首を弄んでいる後ろのカカシが伸び上がってきて口を塞ぐ。 イルカの身体は浮いたまま、突き上げられてはグチグチと掻きまわされ、舌を絡められて犯された。 徐々に激しさを増す注挿。 イルカは朦朧となってただ身体を震わせた。 それしかできなかった。

「ごめんやす」
「はいはい」

 口を塞いでいたカカシが、朝食を運んできたらしい仲居に対応するために襖の向こうに消えた。 だが残ったカカシはまだ律動を止めない。 イルカは涙を零して身悶えた。

「ぁ… ぁは…」
「しー」

 前で腰を振るカカシが、合間に唇をちゅっちゅっと啄ばむ。 でも塞いではくれなかった。 もう頭がおかしくなりそうだった。 聞かれたくないという緊張感が、より敏感に自分の中で動くカカシを感じさせ、激しい快感を齎して止まない。

---ああ、好い… もうダメだ…

「ああっ」

 一声大きく叫んだのを皮切りに、イルカは声を抑えず喘ぎ出した。

「ああっ あっ んんっ」

 カカシも併せるように律動を激しくさせてくる。

「イイっ カカシ、ああ、イイッ もっと」
「イルカッ イルカ、イルカッ」

 パンパンとぶつかり合う肉の音、自分の善がり声、カカシの呼び声。 紛れもない情事の気配と音を部屋中に響かせて、二人は縺れ合った。

「うっく…」

 ぶるっと腰を震わせてカカシが熱いモノを中に注ぎ込んでくる。 

「や…ぁ…」

 ふるふるっと自分も身体を震わせ、もう白濁もないであろう汁を零した。

               ・・・

「はい、あーん」

 カカシに抱かれて口に餌を運ばれる。 イルカは抗う気力もなく、雛鳥のごとく口を開いた。

「おいしい?」

 でも頭にきている事には変わりが無かったので、口は利いてやらなかった。

「怒るイルカ先生もかわいいですよ」

 だがカカシは堪えた風も無く、せっせと餌を運び続ける。

「き、聞かれました〜」

 何回目かの豆腐を口に入れてから、イルカはようやっとメソと泣き言を口にした。

「聞かれてませんよ? 俺結界張ってたもん」
「ほ… ほんとですか?」
「もっちろん! あなたのあんなイイ声、他の奴に聞かせらんない」
「もうーッ そうならそうと… いじわるッ!」
「なんの、 あんたが朝からあんなやらしい顔して甘えるのがいけません」
「だってぇ」
「それに、お仕置きだって言ったでしょう? 食い意地の張ったイルカ先生」
「む〜〜〜〜」
「それからね、もう一泊しますから」
「え? は、はぁ?」
「これから明日の朝まで、覚悟してください」
「う〜〜〜〜〜〜〜ッ」
「はい、もう一口」

 あーん、と言われて差し出されると、条件反射で口を開いてしまう自分が悔しい。




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