死がふたりを別つまで -妖狐の廟-
- Until Death Do Us Part. -
10
海野再来
余裕そうに見えていた妖狐は、廟の扉が閉まった途端海野の体を壁に押さえつけて荒々しく接吻けてきた。
「あん、んん、ワンク…」
右手で顎を掴まれて、左腕は首の後ろに回されてがっちり固定されていたが、左腕の先が無いのが気になって仕方がなかった。
「ワンクォー、し、褥に、ん」
「黙っておとなしくしてろっ 我慢できん」
妖狐は右手だけで海野の衣服を引き裂いて、肌に激しく舌と唇を這わせ、海野自身を掴み出した。
「ああ、あ、ああっ」
最初から容赦なく扱かれ、海野は喘いだ。 すると妖狐が海野の唇に戻ってきてまた口を塞ぐ。 手は益々激しく海野を追い上げた。
「ん、んんーっ」
首を振って呻くと妖狐は口を外しはしたが、そのまま耳を齧り項を強く吸い上げては荒い息を吐きながら海野を扱く手も早めた。
「も、イキます、あ、ワンクォー」
銀の長い髪ごと首に縋り付いて震えると、妖狐は徐に跪いて海野を口に含んだ。 膝がガクガク震えて立っていられないほど力が抜けてくるが、妖狐は海野をジュルジュルと吸い上げながら海野の膝をぐいと壁に押し付けた。 海野は頽れることもできなくなり、自分の股間で激しく上下する銀の頭に縋り付いて唯震えた。
「あ、ああ、ワンクォー…、んんーっ」
妖狐の頭を強く抱きかかえて海野は絶頂の呻きを上げた。 この一週間、海野は自分が勃起する正常な成人男子であることを忘れるくらい体力的にも精神的にも疲弊しきった毎日を送っていた。 だが今、来たばかりの廟の入り口で、立ったまま追い上げられ、あっと言う間に達かされて喘いでいる。 自分の体はそれを素直に受け入れて、悦んでいる。 海野はそれが堪らなかった。
「ああ、いやぁ、ああー」
妖狐は相変わらず達したばかりの海野自身を啜っている。 もう完全に体の芯から力が抜けて、海野は壁に背を付けてズルズルと頽れた。 だが妖狐は、まだ足りないとばかりにその場で海野に覆い被さって胸元にむしゃぶりついてきた。 達かされた事ですっかり立ち上がり尖っている海野の乳首をザラリと舐めては指で捏ね、脇腹を揉んで、尻の双丘も揉みしだく。 海野はそこでハッとした。
「ワンクォ、腕、腕は?」
「っ」
妖狐は胸に吸い付いたまま左手を海野の顔の前に突き出して見せた。 腕は手首まで戻っていた。
「あ、もう少しだ」
「ここで抱く」
「ああっ」
妖狐は海野のアナルをいきなり指で抉った。 だがそこは一週間の間に硬く閉じていた。 妖狐はものも言わずに海野の足を持ち上げると腿を掴み、海野の体を折り曲げるようにして腰を高く上げさせると、舌でアナルを犯し始めた。
「あう、や、いやだ、ワンクォ…」
妖狐は無言でそこを舐め唾液を送って舌を差し込んだ。 海野が羞恥で体を赤く染めれば染めるほど、妖狐はそこをしつこく嬲り最後には舌を抜き差しさせて、また海野を追い上げ出した。
「ぁぁ、ん…、ぁぅぅ、はぁ」
海野が切れ切れに喘ぐことしかできなくなっても嬲ることを止めず、また勃起ち上がってきた海野のモノも握って扱いた。 海野は再び、為す術なく達かされた。
「あ、ああ、あはっ」
胸を激しく喘がせていると肩を掴まれて乱暴に体を返される。 息つく暇もなく腰を掴まれ持ち上げられて、妖狐はまた海野のアナルに舌を差し込んだ。
「いや、いやです、もうそれは、ワンクォーっ」
海野は泣き叫んだ。 海野は気付かなかったが、妖狐はもう両手で海野の尻をワシワシと揉んでいた。 唾液でベタベタの海野のアナルに舌と共に両方から親指を突っ込み、ぐっと開いて深々と舌を挿入してくる。 海野は体内で軟体動物が這い回るような感触に腰を震わし、妖狐の舌を締め付けた。 妖狐はそれに負けじと掛けた指で海野を開き、ベロベロと海野を犯し続けた。
「あ…、ぁぁ…、ぁ…」
朦朧として口からは涎を垂らし、海野はガクガクと痙攣するように震えていた。 海野の前も、また勃起ちあがって涙を零して震えている。 妖狐は左手をアナルから外すと海野を握り、アナルと同期させながら扱いた。 海野は立て続けに責められ達かされて、ただ泣いた。 もう何も判らなくなっていた。 まだ来て幾らも経っていなかった。
「イルカ」
それまで睦言も無しに黙々と海野を嬲っていた妖狐が、突然名を呼んだ。 そして徐に海野の口に左指を乱暴に突っ込んだ。 突っ込んで舌を追い回し、摘まみ上げて指で嬲る。 そうしながら掴んだ海野自身の先端を親指でぐりっと抉ると大きく竿を扱いた。
「う、んー、んんーーっ」
海野は激しい絶頂の瞬間に思わず妖狐の指を噛んでいた。 血の味が口の中に広がり、朦朧としながらも自分のやった事だと知り愕然となって頭を振った。 妖狐はやっと海野の口から自分の手を引き出すと、その唾液と血に塗れた左手と、海野の精液で滑る右手を、海野の目の前に翳して見せた。
「おまえの唾液、おまえの精。」
「あ、ごめ、なさ…、俺、噛んだ」
「まだ気づかないのか」
「え…、あ、手が!」
「おまえがあんまり淫らな気を発するから、抱く前に戻った。」
「よかった…」
「イルカ」
妖狐は涙を零す海野の頬を、首筋を撫で回し、胸の尖りに辿り着くと両手でチクチクと摘まみ捏ね上げた。
「ああ、ワンクォ…、ああ」
「イルカ」
手は徐々に下がり、同時に太腿を掴んで大きく広げると、妖狐は濡れそぼった海野のアナルに自分を宛がった。
「あ… ああ……」
「イルカ…」
幼い頃の名を呼ばれながら犯される。 硬く冷たい床の上で、指が食い込むほど強く足を掴まれ限界まで開かされて、その間に男を受け入れて、その太さが苦しくて、熱さが嬉しくて、海野は喘いだ。 体が悦んでいるのが判る。 妖狐はそれまでの激しさが嘘のように、じりじりとゆっくり海野を犯していった。
「あ、ワンクォー、も、もっと、奥へ…」
熱に浮かされた頭が淫らに強請る言葉を口走らせた。 覚えさせられた激しい突き上げや注挿の感覚を、体が欲して震えている。 初めての時のように何もかも奪いつくすように抱いて欲しかった。
「ん、早く、もっとは、んぐっ」
もっと激しくして、と言おうとして妖狐の大きな手に口を鷲掴みにされた。
「黙って、ろって…言ったはずだっ」
妖狐はグルグルと喉の奥で獣のように唸っていた。 目はギラギラと光り血走っている。
「喰われたいか」
低い唸り声が妖狐の興奮を伝えてきて、海野は悦びに震えながら妖狐に向かって手を伸ばした。
「犯して、早く」
「黙れっ!」
「あーーーっ」
残りを一気に突き込んでからも、妖狐は尚全身をブルブル震わせて動かなかった。
「あ、はっ うん、ワンクォ…、あ、もっと、ほしい、もっと!」
妖狐は遂に獣の雄叫びを上げると、遂に激しく海野の体を突き上げだした。
気がつくと、妖狐の褥だった。 初めてここに来た時、妖狐の褥はこの一間きりの広い廟のどこかに適当にあった。 妖狐が獣の毛皮らしき敷物を何枚か重ねて放り投げるとそこがその日の寝床と決まる、といった具合だった。 元々人間のように横になって定期的に眠りを摂るのかさえも怪しかった。 自分の居る間は自分に合わせて夜眠っているのかもしれないと、海野は感じたことがあったほどだ。 妖狐の廟のある地下空洞は、どんな仕掛けか薄明かりが朝・昼・夕を模した様々な明るさで照り、夜は青白い月明かりの他は暗くなった。 だから妖狐も人間と同じサイクルで一日を過ごしているのかと最初は思ったのだが、海野の体を求め出すと、夜昼が無くなるほど行為が続き、全くと言っていいほど眠らずに海野を貪っていた。 今も体の中には彼がおり、緩やかに突き上げられていた。
「……ぁ、うん」
「起きたか」
「ああっ」
急に動きに遠慮が無くなる。 これでも自分が失神している間は加減しているのかもしれない、と海野はおかしくなった。 それでも体は離してくれないのだな、と。
「何がおかしい?」
「いえ、何でも、うんっ んんっ」
的を得た突き上げに切り替えられたのを感じて、海野はどうしようもなく喘がされた。 まだ頭がはっきりしていないうちから体の中を太いモノが出入りして、今や体全体を上下に揺すられていた。 妖狐は片手で海野の片足を掴み軽々と肩に担ぎ上げ、海野の体の片側半分を浮かすとグイグイと腰を押し付け直角に交わる体位に持ち込んだ。
「あうっ」
信じられないくらい体の奥に妖狐を感じ、海野は完全に覚醒した。
「あ… いや、だ…、これ、嫌です、あ……」
妖狐は本格的に体を揺すり出した。 奥の奥、普通では絶対届かないであろう腸壁を強く突き、擦られて、海野は声もまともに出せなくなった。
「や… そこ、やめ、あ……」
褥の敷物を掻き毟り、なんとか体を前へ逃そうとしてみてもどうにもならなかった。 逃げようとしたのが気に喰わなかったのか、妖狐は更に海野の前に手を伸ばし、既に立ち上がりかけていたそれを掴むと腰の動きに合わせてユルユルと扱き出した。
「ああっ んんっ いや、ああっ」
もうのたうち悶えるしかできなくなって、海野は泣き叫んだ。 目覚めた途端これってどうだろう、と朦朧としながら思う。 自分が直ぐに落ちてしまったのがいけなかったのか。 だがこれではまた直ぐに気が遠くなりそうだった。
「ワン、クォ… おねが、あ… ああ…」
「なんだ」
荒く興奮した息を吐き、激しく体を揺すっていた妖狐が、ぐぐぅっと体を倒してきた。
「ああーっ ワンクォ…」
「これ以上は無理だな。 なんだ、どうしたい?」
「あ… キ… キス、した… あ、あ、あん」
海野はとにかくこの体位をなんとかしてほしくてキスを強請ったが、それは返って墓穴を掘ったようだった。 妖狐は一層激しく腰を突きこみ、回し、波打つように揺すってきた。 海野自身は握ったままで、時折思い出したように上下に扱く事も忘れなかった。 体がビクビク痙攣し出した。 もう意味を成す言葉は紡げなかった。 やっと妖狐が海野の中に熱く迸りを叩き付けた時は、ぐったりと指一本動かせなかった。 妖狐の精は海野の中でジリジリと熱く内壁を焼き、腰が勝手に淫らに揺れたが、それでも意識の方がまた混濁してきていて、自分がどんな状態になっているのか全く判らなかった。
「……いか?」
妖狐が何か問うた。
「イルカ」
「キス、した…い」
朦朧として先程強請った事を繰り返した。 すると、腕をがしっと掴まれて体が引っ張られ上半身が反転した。 身の内にはまだ妖狐がいた。 串刺しにされる感覚にまた勝手に体が震えだす。 カクカクと震える体は、だが大きく暖かいものに包まれて、ぎゅっと抱き締められた。 とても気持ちよかった。 胸に頬を預けてうっとりしていると、顎を取られて上向かされる。 妖狐は相変わらず乱暴だった。 でも接吻けたかった。 自分で少し伸び上がって唇を近づけようとすると、体の中で妖狐自身がズルッと擦れて背筋に震えが走る。
「あ…、う、うん…」
肩に顔を擦り付けて首にしがみついて震えていると、また妖狐が顎を取った。 今度は後ろ頭にも手を添えられて顔の角度を固定された。
「ワンクォ…」
小さく吐息と共に名前を呼ぶと、妖狐の親指が海野の唇をすっと辿って、次の瞬間には息も声も唇と共に奪われた。 深い接吻けは長く続けられた。 海野は時折喉を鳴らし、鼻に抜けるような呻き声を漏らした。
「イルカ」
妖狐は時々口を併せる角度を変える時に海野の名を呼んだ。 海野は腕を妖狐の首に絡めると、積極的に舌で応え始めた。 自分で舌を差し出し、絡め、口を併せる。 それと同時に体も揺すり出した。 伸び上がり、沈み、また伸び上がる。 伸び上がる時の内壁を擦る感覚、体を沈める時の奥を突く感覚。 海野は徐々に酔ったように体の動きを激しくし、甲高く喘ぎ声を上げた。 もう接吻けてはいられず、妖狐の首筋に顔を埋めて一心に体を揺する海野を、妖狐は腰に手を添えて支持したまま好きにさせた。
「ワンクォー…、ワンクォー、あ、ああ」
海野はただ妖狐の名だけを呼び、前を触れられもせず達した。 きゅうと抱きついて震え、アナルを締め付ける海野の背を抱いて、その頬や肩に接吻けていた妖狐は、海野が一頻り自分の精を吐き出し終わると、その腰を掴み直し達したばかりの体をガンガンと激しく前後に揺すりだした。
「あ、ワンクォーっ あ」
海野は必死で掴まって刺激に耐えたが、太腿を抱えられて上下させられるともうダメだった。 余りの激しさに呼吸もままならず、遂に手が外れて妖狐の体から離れグラッと傾ぐと、そのまま褥に寝かされた。 妖狐は直ぐに覆い被さってきた。 腰をぐりっぐりっと回し海野の中を存分に掻きまわして海野を泣き叫ばせると、満足したように肩を押さえて激しく腰を打ち付けてきた。 海野はぐったりと手足を投げ出し、喘いだ。 やがて妖狐が一声唸って達すると、ドサッと覆い被さってきて二人で荒く息を吐く。 幸せだった。 重い腕をなんとか上げて妖狐の首に縋りつき、妖狐の汗の臭いをすーっと胸いっぱい吸い込んだ。 幸せだった。
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