死がふたりを別つまで  -妖狐の廟-

- Until Death Do Us Part. -


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               海野再来 二


 久しぶりに会った海野を、妖狐は抱いて抱いて抱き倒した。 もっと優しくしようと思っていたのだが、アクシデントがあり海野の泣き顔を見た途端、抑えが効かなくなった。 剰え、早く早くとせがまれて頭に血が昇った。 だが海野は全身で悦びを示して、妖狐に応えた。 妖狐は海野が失神しても体を離せず、多少加減はしたものの、その体を味わい続けた。 海野は意識が無くてもかわいく鳴いた。 体の反応も素直で、反射のように内壁の締め付けも起こったので、妖狐は突くポイントをいろいろ試して海野の反応を見るという、密かな楽しみを覚えた。
 覚醒する瞬間がまた堪らなかった。 ざわざわっと体を震わして、海野は目覚めた。 掠れた声を零しこちらを見上げて、ぱっと嬉しそうに笑う。 そして「ワンクォー」と相変わらず拙く妖狐を呼んだ。 海野に名を呼ばれると、身の内から何かが湧き上がるような感覚を覚えた。 ただ抱き締めて、接吻けたくなった。


 目覚めて、まだ己の身の内に妖狐が居ることに気づいた海野は、ぱっと顔を赤らめて眉を寄せた。 今更何を恥らうことがあるのかと思う。 だが赤くなり恥ずかしがる海野の気配は好きだった。 起きたのなら遠慮は要らないと突き上げを強くすると、海野は喘ぎ声を零しながら困ったような顔をして少し微笑んだ。
「何がおかしい?」
 問うと、何でもないと答えが返って来たが、気配が、雰囲気が、そこはかとない嬉しさと共に求める淫靡さを漂わせてきて、妖狐は美味しくそのオーラを食し、希望に応えようと海野が失神している間に発見したポイントを責めてみた。 海野の反応は顕著だった。 素直な体。 素直な気配。 かわいい、愛しい、もっと感じさせたい、もっと鳴かせたいと、自分の欲望よりも海野の快楽を優先させている自分がおかしかった。 もっと奥を、もっと激しく。 最初にそう強請られたのを思い出し、妖狐は深く深く繋がることができる体位を海野にさせた。
「あ… いや、だ…、これ、嫌です、あ……」
 嫌? 体は嫌だと言っていないぞ、と態と奥深くを長く擦るように腰を使うと、海野は寝床用に使っている敷物の布地を掴み掻き毟りだした。
「や… そこ、やめ、あ……」
 掴んだ敷物を拠り所に体を前へ逃がそうとしているのが判って、その手を掴み戻そうかと思ったのだが、勃起しかけている海野が目に入りそちらを握る。 海野のモノは掴むと手に馴染み、握り心地がよかった。 腰を揺する速度に併せて海野を扱く。 海野は泣いてのたうった。 いやらしい気配が海野の体全体から発せられ、アナルがきゅうと締まってはパクパクと喘ぐように妖狐を噛み締めた。 腰が震えるほど気持ちがよかった。 泣き顔がまた唆った。 既に焦点の合わなくなっている黒い瞳が、見開き、ぎゅっと閉じ、涙を零した。 海野の全てが妖狐の体を震わせ、胸の内を熱くさせた。 この存在を手に出来た。 この思いを人間は、幸せ、と言うのだろうか。 不安と焦燥と諦めを繰り返した海野の居ないこの五日間を思い返し、心底その”幸せ”と人の呼ぶ感情を噛み締める。 気がつくと激しく海野を責めていて、海野は朦朧となっていた。
「ワン、クォ…」
 海野が自分を呼ぶ。 おねがい、と言って何かを強請っている。 かわいい、愛おしい。 接吻けようと体を倒したが、体勢の苦しさにか海野が仰け反って叫んだ。
「なんだ、どうしたい?」
 手を伸ばし頬に宛がうと、海野は全身を小刻みに震わしていた。
「あ…、キ、キスしたい…」
 だから俺を煽るなと言うに!
「あ、あ、あん、ああっ」
 海野が叫んでも悶えても、とにかく一回達ってこの欲望を収めねばと、妖狐は海野の腰を掴み直して激しく突きこみ掻き回した。 ドクドクと注ぎ込み尚緩く注挿させると、海野のアナルはビクッビクッと収縮を繰り返す。 その気持ちよさは思わず呻きが漏れるほどだった。 まだ手の中にある萎えた海野のモノにきゅっと刺激を加えると、また中がきゅうっと締まり、妖狐は直ぐに自分が力を取り戻すのを感じた。
「もう一回いいか?」
 ほとんど意識を飛ばしている海野に問うてもまともな答えは望めまいとは思いながら、気配が薄れ出している海野を呼んだ。
「キス…したい」
 ああ、俺もおまえに接吻けたい。 今とてもおまえの唇を吸いたい。 細い二の腕を掴んで体を膝の上に引き上げ、ガクガクと痙攣するように震える海野を抱きこんだ。 胸の中に収まると海野は直ぐに頬を擦りつけてきた。 陶然とした表情を浮かべ眠り込んでしまいそうなその顎を掴んで上向ける。 すぐに接吻けようとした時、半開きで自分を誘う唇がなんと自分から近付いてきて妖狐を喜ばせた。 だが自分に辿り着く前に海野は妖狐を身の内で噛み締めたままで判立ちの状態でビクッと止まると、がばっと首にしがみついてきてフルフルっと体を震わせた。
「あ…、う、うん…」
「うぉっ」
 くぅーーーっ
 辛抱堪らんっ
 がしっと顎を取ると今度は頭もしっかり押さえる。 海野は潤んだ黒い瞳に涙を湛えて見つめてきた。 その瞳に自分が映っていた。
「ワンクォ…」
 俺の名を紡ぐその唇。
 つっと指で濡れた赤いその膨らみを辿ると、海野は口を少しだけ開いてちらっと舌を覗かせた。 その無意識だろう仕草にくらっとなるほど欲情する。 後は貪るのみ。 貪って貪って貪り尽くす。 海野の唇は柔らかく弾力があり、絡まり合う舌はこの上なく淫らだった。 呻くように漏らされる喘ぎ声は鼻にかかり、余計に情欲を煽った。
「イルカ… イルカ…」
 角度を変える合間合間に名を呼ぶと、海野は体を揺すり出した。 海野を貫いたままの硬く猛ったモノを自分でズルズルと出し入れさせて海野は淫らに喘いだ。 この男がこんな風に自分で乱れてみせるようになるとは思わなかった。 彼の纏う空気は極上の淫靡さを漂わせていて、妖狐はそれを吸っているだけで酔ってきた。
「ああ、ああ、ワンクォー、ああ」
 触れ合わせたままの唇は震え、妖狐がちゅっちゅっと時折吸うと思い出したように応えようと舌を差し出すが、それも長くは保たなかった。 互いの腹の間で震える海野自身もぐしょぐしょに涙を流している。 海野は体を時折密着させて擦り合わせるようにしていたが、後ろへの刺激の方が感じるのか、いつしか妖狐の肩に両手で縋ると激しく体を上下させだした。 その腰を支えてやりながら、妖狐は海野の汗を滴らせ乱れる陶酔した顔を堪能した。 半開きの口元が小さく紡ぐのは、妖狐の名前以外は意味の成さない喘ぎばかりで、海野はただひたすら快楽を追っているようだった。 この男をこんな風にアナルで感じるようにしたのは俺だ、と思うと堪らなくなった。 徐に海野自身に手を掛けるとぐしぐしっと二三回扱いた。 海野はそれだけで体をガクガクと引き攣らせて達した。
「あ、あ、ああー…」
 手に溢れる海野の精を吸いたかったが体勢がそれを許さなかった。 代わりに達った海野を更に扱いて海野を泣かす。 この瞬間が何より美味だった。 海野はのたうち叫び許しを請うた。
「い、いや…、あ、いや、さわらな、いぁ、ああっ」
 アナルがこれでもかと引き絞られ、不規則にきゅっきゅっと痙攣する。 堪らなかった。 達った海野の体をガッと掴むと、今度は自分の欲望を満足させるために海野を前後に揺する。 海野は甲高く叫び、妖狐を呼んだ。 妖狐は獣の雄叫びで答え、海野の腿を両手で掴みガツガツとその体ごと上下させて海野を抉った。 必死で首に縋っていた海野の腕が緩んでくるのが判ったが、揺することを止められなかった。 ぐらっと倒れてきた海野を抱き締めて、そのまま二人で倒れこむ。 そしてそのまま腰を振った。 掻き回す動きを加えて激しく突き荒らすと、海野はもう完全に正気を手放した様子で大声で叫んだ。 抉るたびにグシグシと濡れたいやらしい音が響いた。 達する瞬間は、思わず咆哮を上げるほどの快感だった。 お互い汗まみれで重なり合って荒い息を吐きながら、抱き締め合った。 海野の指が自分の髪に差し込まれ、愛おし気に弄られる。 なんというのだろう、この気持ちを。 胸が引き絞られるほどの感動を、妖狐は人間の言葉で”幸せ”と言うのだろうか、と海野を抱き締めながら頭のどこかでまた思った。
 
 





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