死がふたりを別つまで -妖狐の廟-
- Until Death Do Us Part. -
8
セックス
五日目の朝、ぽかりと目を開けると共に「ワンクォー」と小さく呼んだ海野を、妖狐は即座に貪った。 海野は抵抗せず揺さぶられて喘いだ。 そしてまた直ぐ、眠りに落ちた。 妖狐にとって、それは朝食のようなものだったが、海野にとっては激しい運動に他ならなかった。 海野は二日前に死の淵から戻った時よりも消耗していた。 水以外、何も食事を摂っていないばかりか、昨日は日がな一日体を貪られていたのだ。 だが妖狐はその事になかなか気づかなかった。 自分が必要としないのだから仕方がないが、せっかく回復してきていた海野の衰弱振りには気が付いており、首を捻った。 そして、眠っている間はさすがに海野を休ませた。
「イルカ」
何時間かぶりに目を開けた海野の顔を覗きこんで、妖狐は眉を寄せた。 唇は乾き、顔色もよくなかった。
「具合、悪いのか?」
「いいえ」
海野は微笑んで首を振ったが、その様子も弱々しく妖狐は苛々した。
「水、ください」
「あ、ああ」
しきりに水を飲みたがる海野に甲斐甲斐しく水を運び、ふと思いついて部屋の隅のテーブルを振り返る。 海野を引き入れる前に青龍が用意した果物の使い道がやっと判ったからだった。

「何か食べるか?」
「食べるもの、あるんですか?」
「果物なら」
立ち上がってテーブルまで歩く。 合点が行くとやや焦りを覚えて、妖狐は海野が来てからの日数を指折り数えた。 そうだ、人間は食わないと死ぬ。 大皿に何種類もの果物がとりどりに盛られていた。 それを皿ごと抱えて戻ると、葡萄の粒を一つ摘まんで海野の口元に持っていった。 海野はちゅるっとそれを啜ると、おいしい、と呟いた。 その口元にまた欲情する自分を抑え、妖狐は次々と果物を海野の口に運んだ。 だが海野は、幾らも食べない裡に急にえづきだして、せっかく食べたものを皆吐いてしまった。
「すみません、汚してしまって…」
「イルカ…」
「ちょっと胃が食べ物を受け付けなくなってるだけです。 そんな顔をしないで」
「…」
海野がそっと自分に手を差し延べてくる。 その手を握ったまま妖狐は黙って少し考え、海野に精気の玉をまた飲ませようと思いつく。 項を抱いて接吻けようとすると、海野がどうしてかそれを察知して抵抗した。
「それは嫌です」
妖狐の口を手で押さえ、腕を突っ張って顔を横に向ける。
「我侭を言うな、体が弱るばかりだぞ」
「大丈夫です」
「どこがだ!」
「いやですっ」
「おとなしくしてろっ」
妖狐は暴れる海野を押さえつけ、無理矢理接吻けて玉を飲み込ませた。 海野は熱そうに喉元に手を当てていたが、涙目で妖狐を見上げるとそろりと手を伸ばしてきた。
「抱いて」
またバカな事を、と思いながら妖狐はその手を取って握ってやり、海野の髪を撫で付けた。
「今は眠れ」
「いやです、抱いてください」
「バカを言うな、そんなに疲れた顔をして、幾らも持たないだろう。 俺は直ぐ落ちる奴を抱きたくない。」
「……じゃあ、キスして」
「イルカ…」
なんてバカで頑固なんだ、と心の中で罵りながらも、お願いです、と両腕を伸ばされて妖狐は陥落した。 本当は欲しくて堪らなかった。 その唇に接吻けると直ぐに腕が首に絡みつき、海野自身が舌を差し出してきて深い接吻けを強請った。 抱き締めて一頻り接吻け合い体を密着させていると、妖狐の昂ぶりを自分の腰に擦り付けるように体を揺すり、海野がまた抱いてくれと請うてくる。 その淫らな仕草にカッと頭に血が昇り、妖狐は海野の太腿を掴んでぐいと開いたが、さすがに戸惑われた。
「本当に、大丈夫なのか?」
「平気、だから早く」
潤んだ黒い瞳には欲情した色が揺らめいていた。 妖狐は海野の淫靡な気をすーと吸い込むと、海野自身に指を絡めた。
「あ、俺はいいから、早く抱いて、挿れて」
「少し黙ってろっ」
淫らな言葉を漏らしながらも献身の気を纏う海野に、一昨日の海野の姿を彷彿とさせられて妖狐は震える思いだった。 もうあんな姿はごめんだ、失いたくないんだ、と妖狐は唇を噛んだ。 握った海野自身は、いくら擦っても反応しなかった。 だがアナルに指を差し込むと、海野は体を捩って喘ぎ出し、自身を立ち上がらせて涙さえ零した。
「おまえ、たった四日で後ろの方が感じる体になったのか」
「ん、あなたの、所為ですから、ね、あ、ああ…」
揶揄するように言いながらアナルを掻き回すと、海野は喘ぎながら言い返してきた。 憎らしいその口を口で塞ぎ、アナルとペニスを同時に嬲る。 海野は苦しげに喘ぎ悶え、登り詰めた。
「あ… は、はぁ…、うん、早く、抱いて」
汗と涙で汚れた顔で、海野は強請った。 後ろからの方が楽だろうと体を引っ繰り返して腰を掴む。 双丘に手を掛け左右に開くと、アナルがひくひくと息づいて妖狐を誘っていた。
「あ… ああ……」
ズブズブと硬く猛った自身をめり込ませ、全てを穿つと腹を引き寄せて抱き締める。 汗に湿る背中に接吻けると、うんっと声を上げてその背を撓らせ、そしてガクッと肘を折った。
「イルカっ」
「うん、だいじょ、ぶ」
肩越しに振り返る目つきに、腰がブルリと震えた。 海野からは纏わり付くような淫靡な気配が溢れ出していた。 ぐっと一度突き込むと、あっと小さく叫んできゅうと締め付けてくる。
「気持ちいいのか、イルカ」
「ん、気持ち、いい」
妖狐は堪らなくなって海野を後ろから突き荒らした。 熱い海野の中を抉り掻き回すと、海野はイイと鳴いて、もっととせがんだ。
「ワンクォー… あ、イく…、ワンクォーっ」
名を呼びながら達する海野に煽られて、妖狐は何度も激しく海野を貪った。 体を返し、足を担ぎ上げ、乱れる顔を見ながら真上からガツガツ突いてやると、切なげに寄せられる海野の眉と自分の名を紡ぐ口元に益々欲情した。 抱き合って達きたいと強請られ、対面座位でも愛し合った。
「あぁ、イイっ ワンクォーっ もっと」
「イルカ、うう、イルカ…」
首にしがみついて自ら腰を揺する海野を更に大きく突き上げながら、妖狐も呻いた。 妖狐も自身が海野に貪られている感覚に翻弄され、更に海野を求めた。 もう止まらなかった。 海野が落ちると、精気玉を飲ませてまた繋がった。 海野の体は柔軟に妖狐を迎え入れるようになったばかりでなく、さざめくように妖狐の全てに感じ、震え、艶やかに喘ぎ、妖狐を煽った。 その体を離せなかった。 そうしてずっと繋がったまま日を過ごし、名前を呼び合って互いの体を貪り合い、そのまま五日目の晩を抱き合って眠った。
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