死がふたりを別つまで -妖狐の廟-
- Until Death Do Us Part. -
3
生贄 三
海野は、妖狐に後ろから貫かれ、胸を揉みしだかれ乳首を引っ掻かれ、首筋を吸われ、前を扱かれて、淫らに悶える自分が堪らなく嫌だった。 アナルの好い処を突かれ、前を触られもせずに何度も達した。 時には口で啜られ、時には手で扱かれてまた達かされ、文字通り精を吸い尽くされ搾り取られたが、自分の中に妖狐の精を注がれると、体中が熱く火照り、再び自身が猛った。 浅ましい体。 浅ましい性。 海野はただひたすら妖狐が自分を喰ってくれるのを待った。
「ぁ…ぁ…ん…んぅ…は…ぁ…」
何日経ったのか全く判らない。 ここは時間の感覚がない。 海野は妖狐の下で手足を投げ出し喘いでいた。 何回か意識を失い、目覚めるとまだ妖狐が海野の中に居て、また失神するまで揺さぶられる。 その繰り返しだった。 飲まず食わずであることに気付いて、このままでいればいずれ自然に命が尽きると思い、嬉しくなりさえした。 が、妖狐自身も何も食していないことに思い当たり、そう言えば人の精気が栄養なのだと聞かされたことを思い出した。 自分が弱るほどにこの妖魔が活力を得ているのか。 ならばやはり、餓え乾いて死ぬより、精気のなくなった自分が妖狐に喰われる方が先だろう、と思えた。 そう思うと、非常に恐ろしくはあったが、何故か昏い愉悦がひたひたと押し寄せた。 妖狐に喰われたいと、喰われることに最後の悦楽を感じると、有り得ない期待が生じてきたのだ。 自分はもう狂っているのだ。 海野は自嘲の笑みを零した。
「なにを笑っている。」
海野が最後の拒絶の言葉を発して以来、黙々とただ海野を犯し続けていた妖狐が、訝しげに首を傾げた。 海野がふるふると首を振ると、ふんと鼻を鳴らして足を抱え上げた。
「おまえも大概頑固だな。」
妖狐は自分の絶頂を迎えるべく、激しく腰を打ち付けてくる。
「あっ ああっ うあっ んんっ」
海野が喘ぎを激しくさせると、妖狐は何を思ったか、海野の腕を掴んで膝立ちの自分の上に引っ張り上げた。
「あうっ」
自重で繋がりが深くなり、衝撃に背を撓らせた体を両腕で抱きこまれ、乳首を吸われる。 そのように隙間無く抱きしめられるのは初めてだったし、海野自身、最初の頃上に座らせれた時は意地でも踏ん張って縋ったりしなかった。 が、今はもうそんな力は残っておらず、海野は妖狐の首に知らず縋り付いていた。 抱き込まれたまま下から大きく突かれると、その度にアナルがこれでもかと抉られた。
「あっ あぅっ うっ ああっ」
海野は妖狐の首に必死で縋った。 妖狐の銀の髪を掻き混ぜ、大声で喘ぎ声を発し、涙を零した。 もうどうでもいい、どうとでもなれ、となげやりな感情に支配され、思い切り淫らに乱れてやれと自棄になった。 自分のアナルはこの妖魔のための性器だ、それでいい。 自分は、この男のペニスに突き上げられて善がり狂う淫買だ。 最後は引き裂かれ、血を啜られて喰らわれる、この妖魔のただの餌なのだ。 諦めがつくと、快楽は非常に心地よく、体の隅々まで敏感に感じ出した。 妖狐の首に縋り、妖狐が突き上げるリズムに合わせて自分でも腰を淫らに揺すった。 憚ることなく善がり声も上げた。 妖狐は唐突な自分の変貌に訝しげな目を向けたが、終に堕ちたと思ったのだろう---その通りなのだから---、より興奮した様子で海野の体を隅から隅まで貪った。
海野は、それまで自分が随分と妖狐に手加減されていたことを知った。 淫魔だと言っていた。 淫らな気や精そのものを養分とすると。 獲物が淫らに悶えれば悶えるほど美味いのだと。 もちろん生体自体も喰らうが、その前にそうやって獲物を陵辱し、いたぶるだけいたぶって弄ぶ。 それがこの妖魔のやり方なのだ。 彼がそのつもりになれば、自分などその手管に抗う術も無く喘がされるだけなのだ。 自分がその手に堕ちるのは時間の問題だったのだ。 だからもういい。 こうやって身を投げ出せば、きっと終わりも直ぐやってくる。
今妖狐は、素直に快楽に身を任せようとしている自分の体中に指と舌を這わせ、快楽点を探し出し、引き出そうとしている。 こんなところで、という箇所で己の体が激しく反応するとなんだか可笑しかった。 妖狐はいちいち海野の反応のいい場所を執拗に攻めて海野を喘がせ震わせた。 妖狐の息も荒かった。 いつになく興奮したさまで、時折海野の反応する箇所に噛み付いた。 実際、牙を立てられ血が彼方此方から滴っていた。 しかし今の海野には、痛みすら快楽だった。 もっと噛んで欲しい。 もっと肉を抉って欲しい。 血を啜って欲しい。 この命を喰らって。
「ああっ あんっ もっと、もっと噛んで!」
海野は妖狐の下からの突き上げに応えるように腰を振りながら、仰け反って妖狐に首を晒した。 乱れ、悶え、淫らに喘いでいる自分の気を大きく吸い込み、妖狐が吼えた。 妖狐が自分の乱れ欲情した気配に酔っている。 そう感じて海野は体の悦びとは異なる箇所から湧き上がる歓喜に満たされていくのを感じた。 海野自身でさえ、自分がこんなにも淫らに乱れ、乱されることに悦んだりできるとは思っていなかった。
「ああ、 ああ、 もっと、 あああっ」
妖狐が海野を突き上げながら乳首をちゅうと強くすった時、海野はがくがくっと震えて精を放った。 妖狐はその時の締め付けに、ううっと呻きを漏らしながらも耐えると、力が抜けて崩れる海野を床に倒し、更に激しく注挿を繰り返した。 そしてやおら海野に覆い被さり肩を掴んで首筋にがぶりと深く牙を突き立て、ぶるっと胴振るいをして海野の中に射精した。 最後の余韻を楽しむかのように腰を緩く海野の中で揺すりながら、妖狐は陶酔したように首に流れる鮮血を啜っている。 ああ、やっと喰らわれるのだと、海野は暗く落ちてゆく意識の底で歓喜した。
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