死がふたりを別つまで
- Until Death Do Us Part. -
3
弐ノ鳥居
「皆様方!」
いつの間にか5人は弐の鳥居の近くまで来ていたらしかった。 そこには一人の禰宜らしき者が待っていて、5人の姿を認めるや遠くから苛々と声をかけてきたので、話は中断した。
「勝手に結界を取り払われては困ります!」
大人二人は火影を同時に見、子供二人はそれぞれの保護者を見上げた。
「わしらは何もやっておらんがの」
火影は飄々と嘯くように答えた。 が、微妙な位置取りをしているのを感じて海野たちは少々緊張させられた。 禰宜はあからさまに眉間に皺を寄せ、一行を検分するようにじろじろと見てくる。 と、火影の裾の脇からひょこっと顔を覗かせたイルカに目を止めるなり、顔を青褪めさせて大きく一歩飛び退いた。
「中和者…?!」
そのままじりじりと後退しながら続けて叫ぶ。
「封印者の儀式に中和者を連れてくるとは! どういうことです?! 封印するのではなく滅するおつもりですかっ?!」
慌てたのは海野だった。
「いえっ イルカは確かにちょっとその…ヒーラーですが決して滅するなどという力は!」
「その子はヒーラーなんかじゃありません! わからないのですか?」
「ですがっ」
図らずも怒鳴り合いの様相を呈しかかった、その時、もう一人の声が場を制した。
「落ち着きなさい。」
鳥居の向こう、建物の中に、長身の人影がひとつ佇んでいた。

「ご案内なさい」と重ねて諭され、先の禰宜は5人にやっと弐の鳥居を潜ることを許した。 建物と思われたが声の主の居たのは参の鳥居だった。 鳥居の回りを屋根と壁が囲み、壁は左右に長く続いていた。
「チンロンさま、本当に中にお入れするのですか?」
禰宜が尚も言い募ると、一見して位が上と判る「チンロン」と呼ばれた恐らくはこの社の宮司らしき人物が、大丈夫だからとその若い禰宜を諫めた。
「だいたい、彼がその子を、と選んだんだから」
禰宜は、えっという顔をすると幾らか青褪めてその場を退いた。 チンロンが、「あなたはなるべく離れていなさい」とその背に声を掛けると、振り返って何度も頷き、足早に去ってゆく。 忌ものでも見るが如くの目付きに息子を晒され、海野は内心少なからず憤っていた。
「下の者がたいへんな失礼を・・・」
が、丁寧に腰を折られてその気勢も削がれ、その代わりに先の禰宜が発した言葉が気になり出してくる。
「お待ちしておりました。」
どうぞ、とチンロンはにこりと笑んでみせたが、やはり顔色は幾らか褪めていた。 なんだか嫌な感じがする。 元々分を過ぎた大役だと怯んではいたのだが、これは思った以上に危険なのではないか、と、縋る思いで火影を振り返った。 が、既に火影はゆっくりと参の鳥居の敷居を跨ぐところだった。 すぐにカカシ達2人が後に続いて行く。 仕方なく、海野もそれに倣うしかなかった。 最後に、海野に手を引かれたイルカが鳥居を潜る時、中の空気が一瞬揺らいで、遠く叫び声が響くような耳鳴りが襲った。 チンロンが緊張する様子が伝わってくる。 海野はイルカの手を握り、もしかしたら此処で帰れるかもしれないと淡い期待を抱いた。 ”彼ら”にとって、この子が”そんなに”危ない何かなのだとしたら、何もこの子でなくてもよいのは・・・と。
「あの、わたくしどもはここで待たせていただいても?」
「ばかを言うな」
やっぱりダメか。 がっくり項垂れる海野に火影は、すまない、とまた詫びた。
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