玉姫様御乱心実記
5
「まーまー、取り敢えず仕事の話しましょうよー」
「ほんにムカつくわ、その語尾もオヌシも」
「はいはい。 でね、例の4男は御父君より一日早く到着されるようなんですよ。 その前に一度接触を試みるつもりです。 どんな男か、アナタも事前にお知りになりたいでしょう?」
「別にどうでもよいわ」
「まぁまぁ。 俺も実は興味津津なんですよねー。」
「ワシはともかく、なぜソナタが興味津津じゃ?」
「ウチの火影は金に意地汚いところはありますが、先の見えない方じゃあないんですね。 んで、アナタの御父君がですね、俺のハニーを連れ出すにあたって国軍まで出して守る約束をしてまで彼をお召しになりたいと仰った時もですね、彼女はまぁ断った訳ですよ。」
「多額な報酬と大国の信用、この先の優先的な仕事の依頼も安定的に見込めるだろうに、先の何を読んで天秤がそちらに傾いたのじゃ?」
「俺が臍を曲げる方がより損失が大きいと、ま、そういう事です」
「これはまた…たいそうな自信家じゃ。 その上、里長の命令よりもアヤツとのイチャイチャのほうが大事と言い切るか?」
「もちろんです」
「結局ここで一緒に居れているではないか。 怪我の功名とはいえソナタには都合のよい方へ転がったはずじゃろう?」
「ただおんなじ場所に居るってだけじゃ一緒に居るって言わないのっ それに、そういう問題じゃあないんです。 俺は、あの人には里から出て欲しくなかったんですよ。 危ないんだもん。」
「過保護じゃの」
「いいえ、本当は四六時中暗部の護衛付きでいて欲しいくらいのところなんですけど、まぁいろいろあってですね、里中に納まっててくれるんならって自由にさせてるわけで」
「ソナタ…かなり横暴じゃのぉ。 イルカが不満に思う気持ちが判ってきたぞ。」
「もー、姫様には判んないんですっ あの人も…ぜんぜん判ってくんないし…」
「写輪眼のカカシの恋人とは、斯様にたいへんなものなのかや」
「そう…なんですよ。 ずっと隠しときたかったんですけどねー。 なかなかうまくいかなくて」
「火影もそれは承知の上だったのであろう? 何故イルカを出した?」
「それはですね、まず一つにはこの国が非常に安定していて治安も良好な何の問題も無い国だということ。 御父君の粉骨砕身のお働きの賜物ですね。」
「ただのスケベ親父じゃ」
「国の隅々まで視察してお周りになり、臣民の声に耳を傾け、改善に努めておいでではないですか」
「ただの諸国漫遊じゃ」
「厳しいですね」
「父上の話はよいわ。 いま一つはなんじゃ?」
「もう一つには、御父君がそこまでイルカ先生を気に入った理由だそうです」
「理由?」
「イルカ先生に一目惚れしたって…あーもーっ!」
「イルカに一目惚れ?」
「そうなんですよー」
姫御前、木の葉の上忍の言葉を聞くなり御身ぶるぶる震わせ給ひける。
「あ…んの糞オヤジが、とうとう男に走ったかっ!」
「姫さま、違う、違いますって」
「何が違うのじゃーーーっ!!」
「まぁまぁ」
立ち上がり、地団駄踏んでお怒り召される姫御前を、彼の上忍片手ひらひら振りて宥めたるが一向に治まる気配なし。
「数多の放蕩にも敢えて目を瞑ってきたがもう我慢ならんっ 今度見えたらば目に物見せてくれるっ」
「まぁまぁまぁ」
「何を呑気にしておるっ ソナタのイルカであろうがっ!」
「そ…そうですよっ 俺のイルカ先生ですよっ!」
なべて人とは、先に激したるが勝ちとなる。 宥めて治まらずばこちらも更に激するが上策というものか。 上忍、すくと立ち上がり、姫御前凌ぐ勢いにて地団駄踏み出し候。
「そ・れ・を、こともあろうに惚れただぁ? 冗談じゃんねぇっ いっくらイルカ先生が博愛の人だって男なんかにくれてやるもんかっ!」
「お、応よ」
案の定、姫御前、上忍の俄かな怒気に気圧され給ふ。 ソナタも男であろうと突っ込みたしと思し召すも儘ならずいまそがり。
「亡くなった妻にちょっと似てるだぁ? 知るかっ そんなことっ!」
「イルカが母上に? そう言われてみればちょっと…」
「怒鳴りつけられちゃって萌え〜って、なんだそりゃーっ」
「そ、そう言えばワシもそんな感じじゃったな」
「人のモンに勝手に萌えるなーーっ」
「ソナタ…実は結構イライラしておらんか?」
藪を突いて蛇を出したか、と姫御前ちっと舌打ち遊ばす、いとはしたなし。
「結構じゃありません。 すごーくイライラしてますし怒ってます。」
「任務に出したのはその方の里の火影であろう」
「そうですよっ! あの人はね、他人が困るのを見るのが何より楽しいんです。 俺がイルカ先生の事で手を焼いてるの知ってて何かよからぬ謀を思いついたに決まってるんですもー」
「ソナタが臍を曲げるのを恐れて最初は断ったと言わなんだか?」
「何か思いついてその結果をアレコレ予想してゾクゾクしだしたら止まらない性質なんですよ。 そのためだったら里が傾こうがどうでもよくなるんです。 そういう人なんですっ もーっ」
「ギャンブラーじゃな。 木の葉は大丈夫なのか? 人事ながら心配になったぞ。」
「イルカ先生が俺の事頑として認めなくって、それで俺がいろいろ悩んでるのも知ってるもんだからおもしろがっちゃってもーっ」
「老婆心というヤツじゃな」
「ただの余計な御世話ですっ!」
「わかったわかった、大声を出すでない」
深夜にて、姫御前御就寝後の密談なればいつもの小姓共も居らず、姫御前、木の葉の誉れと謳われし上忍の支離滅裂ぎみな物言いに些か閉口され給ひたり。 上忍、激すに従い姫御前宥め賺す当初の目的忘れたか、毛髪ばりばりと掻き毟り両掌わきわきと握々し苛つく様子少しも隠さで居たり。
「どーどー落ち着け。 ったく、アヤツのこととなると我を失っておるぞ? 上忍の威厳はどこへやった。 そもそも、ソナタはアヤツのどこにどうして惚れたのじゃ? 人の事ばかり言うて自分はどうなのじゃ?」
「俺は…その、ど…怒鳴られたんですよ… ナルトはアナタとは違うって」
「ナルト?」
怒鳴られたが故なれば我等と同じではないかと突っ込みたしと思せども、堪え給ひける。 涙ぐまし。
「ナルトはー、木の葉のー…、ま、まぁいいや、もー。 ふー…。 えーっと、4男坊はですね、どうもイルカ先生を10歳若くしたみたいなヤツらしいんですよ」
「ほ…ほーほー」
やうやう本題に戻りける、とく話せよと身乗り出し給ひて姫御前、徒なる突っ込みはつゆせじとぞ思し給ひける、さらなり。
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