玉姫様御乱心実記
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スクープ! 玉姫様、15歳の御誕生日にご乱心!!
○月×日、我が国唯一の皇位継承者”玉姫”さまの15歳のお誕生日と成人とを祝うパーティが、姫様御父君の主催にて賑々しく執り行われたが、当日、遠国より多くのお婿様候補と見られる若い男子数十人を御父君がお連れしたことにキレた姫様が大乱闘を繰り広げ、パーティは滅茶苦茶になった。 玉姫様はそのまま出奔召され、行方知れずとなられていたが今日、別宅の一つに潜伏・籠城しているのを近隣住民より通報があり発覚。 御父君が対策に奔走されているとのこと。
◇関係者談話
「ご乱心遊ばしたとしか言いようがありません」(パーティ当日の出席者談)
「御父君がおかわいそうです。 姫様は頑として御父君にお会いになろうとせず、無理にも出向けばまた行方を御晦ましになり…」(使用人談)
「お父上の日頃の御乱行に予てよりお心を痛めていらっしゃった姫様が、思い余ってのご抵抗かと」(姫様ご友人談)
現在、某所に数人の使用人とともに隠遁生活のような日々を送っていらっしゃる姫様の姿を当社記者が確認しており、数回に及び接触を試みているがいずれも成功していない。
***
「…確認しましたところ、お父上は今××にて御公務中。 供の者以外の同行者は居ないようですが、一人別路にてこちらへ向かわせている男が居ます。」
「一人? ふむ、今回は少数精鋭作戦に転じたかの。 して、その男はどの国のバカ殿かや」
「いえ、この国の辺境で下級官吏をしている者の4男ということです。 全く利害関係は無く、ご視察中、偶然お会いになられて気に入られたとか。 ま、この者の家にはそれなりの見返りをお約束されているでしょうが、国家レベルとは程遠く、姫様にも何のメリットもリスクも無いかと思われます。 恐らくお父上ご本人にも…」
「ふんっ あの男の頭の中に詰まっているものが国家レベルであるものかっ どうせ何かエロい理由があるんじゃ」
「それは親近感が湧く方ですね。 早くお会いしたいものです。」
「オヌシ…口が減らんのぉ。 イルカもたいへんじゃ。 して、ヤツの機嫌は直ったかえ」
「いえー、それが…あれから一言も口を利いてくれませんし、目も合わせてくれませんよ」
「相当怒らせたな」
「みんな姫の所為ですよ。 責任とってください。」
「ワシには口も利いてくれるし、笑うてもくれるでのぉ、別に支障はないわ」
「あ、ひどいっ 俺のなのに」
「あの者は楽しいのぉ。 傍におるだけで愉快になるし、次に何をしてくりゃるかと思うと飽きんしワクワクする。 ワシも手元に置きとおなった。 どうじゃ、ワシに譲らんか? 代わりに2・3人美女を宛がってやるぞ」
「ふーっ、それではお父上とやってることおんなじじゃないですか」
「む」
「あの人は俺んのです。 手ぇ出さないでください。 ったく、なるべく里外に出さないようにしてもらってきたのになー、アンタラ親子ときたら厄介事ばっかり持ち込みますよ。」
「あの男と一緒にするなっ」
「へいへい」
「とにかく、これからも諜報と工作のほう、よろしく頼むぞ」
「了解」
・・・
契約により五日の間、木の葉の上忍はたけカカシと中忍うみのイルカの両名、当屋敷に留まり候。 当家姫御前護衛の任、一日二交替にて執り行われる運びとなりて、朝と夕、姫様御寝所天守回りに巡らされたる回廊にて引き継ぎを行い、夜の任を上忍が、昼の任を中忍が受け持ち候。 五日後の御父君ご訪問までの間不測の事態に備え、これ有る場合は速やかに排除すべしと約書には有り。
「護衛護衛と言うがのぉ、実のところはワシの監視じゃ」
うみのイルカ、姫様の御側近くに控え、護衛方々姫様の囲碁・将棋の御相手、昼餉のお毒見方々の御話相手などなど仕り候。
「不測の事態などこの国では有りようが無い。 長閑なだけが取り柄の田舎国じゃからの。」
「お父上が名君でいらっしゃる証拠じゃないですか」
「ふんっ その名君が、娘のワシが逃げぬよう其方ら忍衆を雇ったのじゃ」
「前科がお有りと聞いてますよ」
「おお、あるぞあるぞ! 山のようにある。 父上が見合の話を持ち出す度にの」
「ドナタかお心に決めた方でもいらっしゃるので?」
「居ぬ」
「では、一回くらいお受けになってはいかがです。 後でお断りしても差し支えないでしょうに。」
「絶対に嫌じゃ」
「どうしてです。 別にお見合いくらいいいじゃないですか。」
「其方はしたことがあるのか?」
「お見合いですか? 無いですよ」
「どうしてしないのじゃ」
「お…私は、まだ結婚は考えてないんです」
「其方、年は幾つじゃ?」
「25です」
「25で独身のくせに17のワシに説教か」
「だ、男子は一家の大黒柱にならなければなりません。 きちんと稼ぎも必要ですし、一人前の男になるにはそれなりに時間がかかるんです。」
「オナゴも一家の大黒柱にならんとも限らんぞ? ワシなど一国の大黒柱たらんと幼少の砌より数多の帝王学を受けさせられてきたが、未だスケジュールの半分も終わっとらん。 それなのに婿だけ取れとは矛盾しておらんか?」
「え…えーと女子はですね、子を産むという一大事業があるわけで、それはなるべく若いうちに」
「ナンセンス! 今時35までは高齢出産と言わんのだぞ。 常識じゃ。」
「そ、そりゃあそうですが、お父上にしたら早く孫の顔が見たいとか、あるんじゃないですか?」
「それこそ余計な世話じゃ。 其方こそ早うパパになっとかんと幼稚園の運動会とかで辛いときくぞ?」
「え、そういうもんですか? うーん、そっかー、そうなんだー、そう言われてみればそうだなー、うーん」
「あっはははははっ 何を悩みおる、虚けよのぉ。 そのような事、あの男が許すはずがなかろうものを。」
「そ、そそそそそんなこと、あ、ありませんっ 俺…わ、私たちは、その」
「”俺”でよいわ、もう。 して、其方はタチか?ネコか?」
「た…ね…(滝汗) 姫様…、そんな単語どこで覚えてくるんですかっ」
「ネットで調べたんじゃ。 ”受け・攻め”と言った方が判り易いか?」
「ネットって…。 引き籠ってないで、ちっとは外でお遊びなさいませ」
「知らんのか? 今この屋敷と敷地の回りをぐるりと国軍が取り囲んでおるのだぞ。 蟻の這い込む隙もないわ。」
「それを言うなら這い出る、でしょう。 賊からアナタを守るためでなく、アナタを出さないためと仰ったのはアナタですよ?」
「ワシを逃がさぬように見張っているのは其方ら。 国軍が守っておるのは其方じゃ」
「はぁ? 何を仰いますやら。 国の軍を動かしてまでなんで俺なんか守るんです?」
「はぁ…其方は暢気でよいのぉ。 あの男の気苦労が知れるというものよ。」
「む」
姫様、御溜息吐きつつ若干脱力されて脇息に凭れ給ひ候。 うみのイルカ、それに対し俄かに気色ばみて顔色変えたるを、相も変わらぬ大人気無さよ、といつもの小姓共も今となっては見向きもせで溜息吐くばかりなり候。
「誰が何の苦労ですか! だいたい、国軍がお守りしているっていうのに上忍を呼び付けたのは姫さまですよ。 私一人じゃ頼りないかもしれませんけど、上忍を呼ぶほどじゃあないですよ。」
「オヌシのぉ、アヤツを呼んだ理由、よもや忘れた訳ではなかろうの?」
「そ…(汗)、それは、そうでしたけど、でも…、あの人は暇なはずじゃあないんです。 ここは俺一人で十分ですから、もう帰しちゃってください。」
「なんだ、気を使っているのはオヌシの方か? それともアヤツと一緒に居たくないか? オヌシの雇い主はワシの父だが、アヤツの雇い主はワシじゃ。 ワシにはワシの用がある。 アヤツは中々の働き者だぞ。 当分は帰すつもりはないわ。」
「御用なら俺に仰ってくださればいくらでも」
「其方を勝手に外へ出したりしたら、あの男、さぞや怒ろうのぉ」
「カカシさんは関係ありませんっ」
またまた大声を出しし中忍イルカ、そこで姫御前ニタリとお笑い遊ばすを目にし、「したり」となり候。
「ワシは”カカシ”とは一言も言うておらんよのぉ?そこもと達」
「は」
「なっ そ、だ、だって…」
いきなり振られしも少しも慌てることなく答えるはさすが御側に仕えし者どもなり。 比べてうみのイルカ、だくだくと汗掻きて挙動不審なことこれ極まれり。 姫御前、たいそう面白がられ給ひ候。
「あっはははははっ 其方はほんに愉快じゃのぉ」
「だって…こ、ここには俺とカカシさ…はたけ上忍しか、その、呼ばれてないじゃないですか」
「よいよい、誤魔化さずとも判っておる故。 毎夜あの男に惚気られて往生しておるのじゃ。 其方ももそっと素直になったが楽じゃぞ?」
「惚気って…お、俺とあ、あの人は、別に、なんでもありませんっ」
「なんでもなくて、其方は男の身で男に抱かれるのかや?」
「!」
姫御前の露わな物言いに、うみのイルカ、顔色赤を通り越してどす黒くさえ見えるほど体戦慄かし候。 さすがの姫様も「過ぎたか」と扇で口押えられるも遅し。
「俺達は…、いえ、俺は、あの人と合意でそ、そういうコトをしたことは一回もありません。 あの人が時々夜押しかけてきて、それで…、そういうコトを勝手にしていくだけで、気紛れなんです。 普段は俺のことからかってばかりだし…、それに、中忍の俺では上忍のあの人には逆らえませんから、俺は…ただ…」
「仕方なく抱かれていると、そう申すのか」
「そ…うです」
「…では其方達の間には愛は無いと、そういうことか?」
「愛なんて…アレはただの処理で…」
「なるほどの」
腕組みされ物想いされること暫し、姫御前、扇でポンっと膝を叩き給ひ、いと勇ましゅう言い放ち給ふ。
「あい判った。 イルカ、其方はワシのところに婿に来い!」
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