玉姫様御乱心実記


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 さて、姫御前の見事な右アッパーを喰らい尻餅つきし中忍、言葉も無く左頬を左手で押さえ、女体の最も柔らかならん部位鷲掴みし右手と姫の御顔を交互に見比べ候。

「女体? そこまでやる?」
「ええいっ この無礼者めがっ! よくもよくも、このワシの…どうしてくれよう」
「カ、カカシさんが、だって」
「まだ言うか! よう判ったっ そこまで頑固に言い張るならば、そのカカシとやらも此処へ呼び付けてやろう。 その目で確と確かめるがいいっ」
「そんな、なにを言って…無理です! だって今ここに居るって事は他の任務で出ている事になってるんでしょう? 五代目にバレたらどうするんですか」
「無理なものか! 木の葉五代目が何するものぞ。 我が家の政治力と財力、見せつけてやるわっ その時になって吠え面かくなよ!」
「姫様、そのようなご勝手は」
「御父君がまた嘆かれまする、たまひめ様」
「その名で呼ぶなーっ」

 小姓一はよしとして、小姓二の学習能力の低さは如何なものかと、玉姫様が後に語った事をここに付記し候。

               ・・・

「たいへん失礼をいたしました」

 うみのイルカ、額を畳に擦り付け平身低頭謝罪し候。

「目に物見たか、この頑固者め! ふん、やっと溜飲が下がったわ」
「平にお許しを」

 そのイルカの横で困惑頻りの様子で頭を掻き々々正座するは銀髪覆面の男。 イルカに遅れること数時間にて当家姫御前護衛の任に着したるが、木の葉の忍里の上忍にして「写輪眼のカカシ」と遥か遠国にまでその名を轟かせたる忍らしからぬ忍にて候。

「まぁ、久方ぶりに刺激があって面白かったわ。 もう許す故、顔を上げぇ。 胸を揉みつ揉まれつした仲ではないか、のぉ」
「ははっ 申し訳もございませんっ!!」
「胸? 揉みつ揉まれつ?」

 表を上げよと再々仰せつかりしも彼の中忍、畏まること頻りにして一向に畳から額を離さず、唯々冷や汗掻くばかりにてござ候。 木の葉上忍はたけカカシ、姫御前の御言葉に唯一見えたる片眉跳ね上げ、隣で伏す中忍をちらと見やり候えば中忍、心做しか怖れさえも醸し出し候。 姫御前もいと訝しと眉顰め給ふ。

「ところで、のぉカカシとやら。 なるほど、髪の色は似ておらぬでもないが、そんな形では顔立ちも判らん。 その覆面と斜め掛けにした帯かの? それを外してワシに顔を見せてはくれぬか?」
「これは額当と呼ぶ物です。 額、即ち急所をこの金属板で守るために着用しています。 それと、この金属板に彫られた印が所属の里を表します。」
「其方の急所は左目なのか?」
「はい」
「外せない、と言うことか?」
「その通りです」
「では、その覆面だけでも」
「覆面の下は、閨を共にする者以外には見せないことにしているんですよ」
「ふむ…なるほどのぉ、そういうことか」
「そういうことなんです」

 姫様、上忍と顔見合つつにやにやとお笑い合い、怪しげなる気配漂わさせ合い給ふ、いと恐ろし。 話題変わりたるを嬉しと思ゑたか中忍、ようやっと体起こしたるも、再び雲行き怪しと身縮こまらせ候。

「顔が赤いぞ、うみのイルカ」
「あまり苛めないでやってくださいよ」
「よいだろう、少しは。 この者がワシにしてくれた事への礼じゃ」
「それならば私が代わりに里へ帰ってからたっぷりとさせて頂きますので」
「ほほぅ、如何様に礼をしてくれるのじゃ」
「あーんなことやこーんなことです」
「うむ、なるほど。 其方、なかなかの好き者のようじゃのぉ」
「いえいえ、それほどでも」

 あーはっはっはっと高らかにお笑い遊ばし給ふ姫様に対し、少しばかり口の辺釣り上げて笑む上忍、脇でただひたすら俯きて全身朱に染め戦慄く中忍を横目で見やり、「難し」と嘆き候が誰の耳にも届かで候。




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