嵐の夜に
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「ヨウスケのパーティへの出席を暫らく控えさせた方がよろしいかと…」
刈谷は間島の秘書としてもかなり重要なポストに居たため、ヨウスケの世話をする一方で、間島とヨウスケのスケジュール管理なども行なっていた。 間島は、基本的にフランス人を信じていなかった。 間島自身がこの地へ来た時の苦労がそうさせているらしいが、刈谷には与り知らぬ事だった。
「何を言っている。 ヨウスケはまだデヴュさせて間が無いんだぞ。 まだまだ知名度を上げている段階だ。 ここで手を抜く事はできん。」
「ですが、先日のパーティで輪姦された後から体調が極端に悪くなっています。 今は食事をほとんど受け付けません。」
「無理にでも食わせろ」
「もちろんやりましたが、ほとんんど吐いてしまわれます。 睡眠も足りていないようですし…」
「昼間は寝ているんだろう! 夜は仕事だ、それは休めさせられない。 判っているだろう? ヨウスケは今引く手数多になりつつあるんだ。 大事な時期なんだ。」
「ですが、来週ムシュ・ベールとの商談が入っております。 その時ヨウスケに吐かれでもすると拙いのでは」
「そうか! ムシュ・ベールから打診があったか?」
「はい、ヨウスケ、ヨウスケと矢の催促でした。 どうしてもヨウスケをと、おっしゃられ、代償は幾らでも払うと」
「そうか!」
間島は上機嫌で相槌を打った。 その商談の相手はかなりの好き者で、差し出すモノによって商談の成否が決まると有名だった。 間島はヨウスケをその手のパーティに連れ歩き、彼を見せびらかしてはあちこちで味見さえさせてヨウスケの知名度を上げる事に努めていたのだ。 それもこれも、こういった好き者との取引を有利に行なうための布石だった。 ヨウスケの株が上がれば上がるほど、商談の方から舞い込んでくるようになった。 しかもヨウスケの存在一つで全てがこちらの思惑通りに運ぶ。 今間島のビジネスは、飛ぶ鳥を落とす勢いと言ってよかった。 そのためにヨウスケを拉致誘拐紛いの真似までして連れてきたと言っていい。 彼は、偶然出会ったヨウスケにその素質を見出し、この役を粉す人材は彼しか居ないと惚れ込んで事を進めてきたのだった。 それほどまでにヨウスケは、男を虜にする身体をしていた。
---ヨウスケもとんでもない人に見込まれたものだ
それまで間島は、決して素人には手出しをしなかった。 それなりに仁義を守っていたのだ。 だいたいが歌舞伎町辺りで金で話がつくタイプに持ちかけて、何人か連れてきては試してきたのだが、どれも功名心ばかりが勝つ役立たずばかりだった。 あの時も、次の候補を探しに日本に来たついでに、フランス人客の接待をするためにあの温泉街に来ていた。 自分が間島をうっかり一人で宿に行かせたりしなければヨウスケの家に迷い込む事もなく、今のような状況にもなっていなかったのだろうか、と刈谷は運命の残酷さを呪った。 だがこれは、自分にとってはもしかしたら大転機になるかもしれない事態ではないか、と最近思えてくるのだ。 ヨウスケを知れば知るほど彼を助けたくなる。 そして今まで然程罪の意識も無しに間島の手足となって行なってきた数々の非道を恥じる気持ちが湧き出し、その世界から足を洗いたいと欲するようになった。 そうだ、これはチャンスなのではないか。 これは神が自分に与え給うた唯一にして最後のチャンスなのではないかと、思うようになった。
「それなら仕方がないな。 今日からパーティは暫らく行かなくていいと言え。 その分身体を休めて、来週までには体調を整えさせろ。」
「イエス・ボス。 それと、先日の輪姦騒ぎの写真がどうも高値で出回っているようなのですが、いかがいたしましょうか?」
「放っておけ、いい宣伝になる」
「ですが、前例の無い値が付いているとの事で、余計な組織から目を付けられかねません。 事実、先日も拉致られかけましたし。 回収した方がよろしいかと。 ヨウスケの知名度は既に充分広まっています。」
「そうだな、では写真は集めて処分しろ。 いや、1セット私のところに持って来い。 見てみたい。」
「は」
刈谷は実は既に写真の回収に手を回しており、自分の手元にかなり集まっていた。 それは先週、間島が連れて行ったパーティの間にヨウスケが若いツバメ連中の一部に一室に連れ込まれ、輪姦されてしまった時に撮られた物だった。 口にハンカチを押し込められ泣き濡れて犯されているヨウスケの写真だ。 両手を頭上に括られ、タキシードの前を開かれて、胸や腹、乳首やペニスにまで四方から手が伸ばされ弄られている写真。 獣の恰好で前後から男を受け入れさせられている写真。 両腿を大きく左右に開かれてアナルを犯す男の赤黒いペニスまでがはっきり写り込んだナマ写真など、一枚に日本円にして数万の値が付いていた。 そのこともあり、ヨウスケの名が一気に広まってしまったのだ。 輪姦された時、ヨウスケは薬を打たれていた。 刈谷が発見して間島に報告した時には既にかなりの人数を受け入れさせられていたのに、間島は見てみぬ振りを決め込んだ。 そして頃合を見計らってやっと助けに入ったのだが、その頃にはもうヨウスケは薬で完全にトリップしていて、乱交状態だった。 多くの男に一度に絡みつかれ、アナルで、口で男を受け入れて、精液塗れで喘いでいた。 か弱そうに見えて結構芯が強く己を律する事を捨てないヨウスケが、そのように我を失くして乱れる事が余りなかったので、前に抱いた事のある男が、その時のヨウスケの淫らさが前とは違う格別な妖艶さだったと吹聴し、リピーターまでがヨウスケの待ち行列に加わって膨れ上がった。 取引き相手とパートナーを交換するという趣向で商談を進めてきた間島にとっては、今がこの世の春なのだ。 皆、ヨウスケ抱きたさに間島との商談に応じている。 夜の仕事だと? 身体を売らせて自分だけがいい思いをする事がか! パートナーという呼び名一つでヨウスケを縛り、セレブの嗜みだとかぬかして彼を他の男に抱かせるだけ抱かせておいて、彼の体調すら考慮に入れない。 ましてや精神的ダメージなど、最初から無いもののように扱っている。 それに、商談の無い夜は間島自身がヨウスケを泣き叫ばせて抱き倒すのだ。 ヨウスケが泣いて許しを請う声を、何度拳を握り締めてドアの外で聞いたことか。 しかもヨウスケが輪姦された晩、間島は自分に彼を抱けと言った…。
「連れて帰って落ち着くまでおまえが相手をしていろ」
間島は刈谷にそう言ってヨウスケを押し付けた。 相手をしろ? 落ち着くまでとは薬が切れるまで、という事か? 自分にヨウスケの薬が抜けるまでヨウスケの相手を、即ちヨウスケを抱いて抱いて吐き出させろと言うことか? こんなショックな目に遭わされたパートナーを部下に任せて、否、部下にまで身体をくれてやるのか! 刈谷は間島の冷徹さに、それまでの忠誠心が完全に冷めるのを感じた。 だがヨウスケを部屋まで連れ帰ると、刈谷はヨウスケを抱かずにはいられなかった。 喘ぎ苦しむヨウスケを救う方法がそれしか無かったというのも事実だが、淫らな痴態を見せ付けられて堪らなくなったのだ。 他のSP達と一緒にさせられた調教の一環ではなく、一対一の関係で情を籠めて抱いてしまった。 そして、自分もとっくにヨウスケに捕まってしまっていたと気付いた。
刈谷はその日から、ヨウスケを連れて日本へ逃げる事を真剣に考えるようになっていた。
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