嵐の夜に
8
フランスの間島のコンドミニアムに着くなり、また足を開かされる。 自分はただの男妾なのだ、と思い知らされた。 だが、気が済むと間島は仕事に出かけると言って黒服の男を一人置いて出て行ってしまった。 男は自分の倍はあるかと思われる屈強な体付きをしており、自らを間島に雇われたSPで、彼が日本からパートナーを連れてきた場合の世話係なのだと言った。
「ここでのあなたの世話をします、刈谷です。 日本語で何でも言ってください。」
言いながら、ベッドで動けず身体を投げ出す全裸の自分を抱き上げようとする。
「な、あ、いや」
「落ち着いて、何もしません。 あなたを風呂に入れるように言われています。」
「お、俺、じ、自分で、あの」
「歩けないはずです。 任せてください。」
「いやっ」
バシっと手を振り払ってベッドにうつ伏せ、必死でシーツを掻き寄せた。 男が恐かった。 触れられただけで身体が震える。
「ご、ごめんなさい、でも俺、こ、恐いんです。 触られたくない。」
「判りますが、慣れてください。 私の仕事ですから」
「あ、後で、い、いいですったら、あっ」
抵抗虚しくひょいと抱き上げられ浴室に運ばれる。 そこにはちゃんと深めのバスタブがあった。
「湯に身体を沈めれば少しは落ち着きます。 それに身体も楽になりますよ。」
刈谷と名乗った男は、腕の中でガチガチに固くなっているヨウスケになるべく優しげな声で言い聞かせるように言葉を繋いでくれているようだった。 だが、ヨウスケの方は、抱き上げられた瞬間から失神寸前に緊張していた。 心臓がバクバクと激しく打ち、息も絶え絶えになる。 刈谷は、そんなヨウスケをゆっくりと湯に浸けると、徐に自分の衣服を脱いだ。
「ひっ」
ヨウスケは知らず悲鳴を上げて顔を覆い、バスタブの端に逃げた。
「落ち着いて、何もしません」
「い、いや… あ、やだ」
「ヨウスケ」
湯船の中を逃げ惑う自分を、太い腕がガシリと掴む。 途端にヒクリと喉が引き攣り、竦みあがった身体と共に呼吸が止まった。
「ヨウスケ、息をしてくださいっ ヨウスケっ」
「…う、うげっ ゲホっ」
パシリと背を叩かれて呼吸が戻り、激しく咽る。 刈谷はゆっくり背を擦りながら溜息を吐いた。
「まったく… 間島は今回に限ってなぜ、あなたのような素人を…」
「う、うふ… ふ…」
言われている意味が頭に入らない。 だが無性に泣けてきて、ヨウスケはボロボロと涙を零した。
「今は思う存分泣いてください。 でもなるべく早く慣れてくださいね。 間島は苛々すると何をするか判らない。 私ができるだけ力になりますが、何でもという訳にはいかない事も判ってください。」
ゆっくりと湯を掬っては肩に掛け、刈谷はそっとヨウスケの身体を洗った。 ヨウスケも段々落ち着いてきて、この男が自分に何もしない事が理解できてきた。 それどころか、もしかしたらこの地でたった一人の自分の味方かもしれないと気付く。
「か、刈谷さん、でしたっけ? さっきは、すみません、でした。」
「いえ」
ヨウスケがしゃくり上げながらも会話らしい言葉を口にしたので、刈谷はほっと安心したように表情を緩めた。 随分困らせたようだ、と申し訳なく感じた。 心細くて寂しくて、今こんな風に優しくされると際限なく頼ってしまいそうだった。 後から後から零れてくる涙で濡れた顔を、刈谷が暖かいタオルで拭ってくれる。 嗚咽に震える肩を撫でてくれる。 縋り付いて泣きたかった。 だがヨウスケにそんな事ができるはずもなく、それどころか、なるべくこの男だけには迷惑がいかないようにしようと心に決める。 余り表立って頼りにして間島の気に障ったら、世話役を変えられるか、悪ければ彼が解雇されてしまう。 そんな事になったら自分は完全に一人だ。 彼に頼ってはいけないと、固く自分に戒めた。 彼は間島の雇い人なのだ、仕事で自分に優しくしてくれているだけなのだ、と言い聞かせる。 だから頼っちゃいけない。 どんな形でもこの人に居てもらいたかったら、自分は我慢するしかない。
「すみません、困らせて…。 もう大丈夫ですから」
「…」
嗚咽を堪えて身体もしゃんとさせると、刈谷は暫らく黙ってヨウスケを見つめていたが、また身体を洗う手を動かし出した。
「私では頼りになりませんか?」
「え?」
「どうにかして助けてくれとか、言わないんですか?」
「だって…、そんな事、あなたが困るでしょう?」
「!」
手を止めて刈谷が凝視してくる。 ヨウスケは、何か怒らせたかと不安になって首を傾げた。
「あの」
「来て早々にそんな事を言われるとは思いませんでした。 あなたはご自分がどんなにか心細いでしょうに。」
「でも、あの人、間島さんは……… 恐い人ですよね?」
ヨウスケは一旦言葉を切り、思わず気配を窺ってしまった。 部屋に他には誰も居ない事を確かめてほぅと息を吐き続きを口にすると刈谷はぷっと吹き出した。
「本当にかわいい人だ。 彼らがあんなに必死になる理由が今解った。」
「彼ら?」
「コウキチさんと立川さんとおっしゃる方達です。 あなたの力になってくれと、日本を出る前に頼まれました。」
「え、コウキチさん達が?」
そうだったのか、それでこの人こんなに自分に良くしてくれるんだ、と納得し、ヨウスケは刈谷を全面的に信用してしまった。 緩んだ気持ちが顔に出たのだろうか、刈谷はだが困った顔をしてヨウスケの身体をまた洗いだした。
「でも、私にも限界があることを判ってください。 間島は抜け目の無い人ですから。」
「はい」
もう何でもいい、この人が近くに居てくれるなら何とか耐えられそうだと、身体の力を抜いて刈谷の手に身を任せていると、刈谷がすっとアナルに指を挿し込んできて飛び上がる。
「か、刈谷、さん?」
「あ、いえその、アナルのモノを掻き出さないと…」
「え? そ、そそそんなの、俺、自分でやりますから!」
「ヨウスケ…」
真っ赤になって手を拒むと、刈谷はまた困った顔をして笑った。
「仕事です」
「でも」
「仕事です」
「…」
「力を抜いてください」
ヨウスケが言葉を発せずにいると、了承と取ったのか刈谷の指がまたアナルに伸ばされた。 ヨウスケはびくりと震えながらも、目をぎゅっと瞑って刈谷の指を受け入れた。 我慢しなければ、この人を困らせてはいけない。 そう必死で自分に言い聞かせる。 だが、太い刈谷の指にアナルをほじくられて、ヨウスケは自分の前が反応してきてしまった事に焦った。
「あ、あの、ちょっと待って、待ってくださ、あっ」
喘ぎに似た声まで漏れて口を押さえるが、刈谷は冷静にヨウスケを宥めた。
「大丈夫、生理反応です。 私が処理しますから、そのまま力を抜いていてください。」
「そ、そんなの、させられません!」
「…ヨウスケ、それも私の仕事なんですよ」
「え?」
呆けたように見つめると、刈谷はいきなり身体を抱き上げて湯船から引き出し、片手の指をアナルに埋め、もう片手をペニスに掛けた。 ヨウスケは思わず刈谷にしがみついて呻いた。
「あ、か、刈谷、さ、うん」
「気にしないで、達ってください。」
「や、やだ、こんなの… 俺、淫乱だから」
「あなたは!」
だが刈谷はそこで言葉を途切らせると、後は無言でヨウスケのペニスを扱く方に専心した。 ヨウスケがか細く悲鳴を上げて果てると、間髪を居れずにアナルをほじる。 ヨウスケは、急激な環境の変化と責められ続けた事による疲労が射精後にどっと出てきて、猛烈な眠気にトロトロとしながら刈谷のなすがままに身を任せて喘いだ。 アナルからはドロドロと大量の精液が流れ出してきた。
「こんなに…」
「う… うん…」
「ヨウスケ… かわいそうに」
そう言われぎゅっと抱き締められた気がしたが、後はよく覚えていない。 気がつくとベッドに寝かされていた。 そうして、フランスに来て初めての夜は、一人でゆっくり眠ることができた。 だが、それが最後だった。
・・・
次の夜から、間島はヨウスケの調教に取り掛かった。 ヨウスケが泣いて嫌がる奥のある場所をこれでもかと突き捲くり、息も絶え絶えになった所で浅い所をゆるゆると掻き回してヨウスケをあやす。 そして耳に吹き込む。
「ヨウスケ、君は淫らだ」
男に抱かれて泣いて善がる、そういう身体だ、と。 接吻けには舌を絡めて応えよ。 乳首を弄られたら下腹を引き締めろ。 口で奉仕しろ。 自ら上に乗って腰を振れ。
「なんだヨウスケ、君はフェラチオもまともにできないのか! あの二人はいったい何をやってたんだ!」
間島は呆れたように肩を竦めると、部屋にSPを二人呼んだ。
「この人にフェラの仕方を教えてやれ。 同時に後ろからも可愛がってやるのを忘れるな。 こっちの好き者共はそういうのがお好きだからな! それと、私の大事なヨウスケに傷は付けるなよ!」
刈谷が居た。 迷惑をかけてはいけない。 おとなしく、いう事をきいて、早く覚えて…。 ヨウスケは泣きながら一心にフェラチオを覚えた。 刈谷の顔が一瞬、苦しげに歪んだのを見たからだ。 騎上位も刈谷に教えられた。 彼のペニスは立川と同じくらいで、腰を手で支えられて下から揺すられると、立川を思い出してまた涙が出た。 だが、刈谷に縋りついて泣くのだけは、なんとか堪えていた。 一回それをしてしまったら、もう自分を保てない気がした。
そうやって何日かを間島やSP達に抱かれて過ごしたある晩、部屋に訪れたのは間島ではなかった。 見たこともないフランス人の大男が、フランス語で何やら喋りながら自分に覆い被さってきた。 そして、一晩中あらゆることをされた。 奉仕させられ、犯され、また奉仕させられて犯された。 耐えられない体位を要求され、泣き叫んで抵抗すると返って興奮して激しく責められ、口にもアナルにも溢れるほど精を注がれた。
翌朝気が付くと、刈谷に抱かれてバスタブに浸かっていた。 思わずギクリと身体を竦めると、刈谷は後ろから抱き締めて耳元で「大丈夫です、大丈夫ですから」と繰り返した。 そして、昨夜の男が間島の商談の相手で、アレが間島の取引きの仕方なのだと教えられた。 自分がそのために連れて来られた事も、その時やっと知った。
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