嵐の夜に
7
「さっきSPと揉み合った時、一人だけ日本人がいたんですよ」
立川はヨウスケのパスポートを捜す振りをしながらコウキチに囁いた。 パスポートのある場所は実はとっくに判っていたのだが、時間を稼ぎたかった。
「彼以外はフランス人のようでした。 多分、日本語は判らないでしょう。」
「じゃ、その人が間島の指示を聞いて他のSPに伝えてるのかな」
「今は多分そうなんじゃないですか。 でもあの間島って男、もちろんフランス語喋れるんでしょう?」
「前来た時は喋ってたよ」
「だからですよ、他のSPには日本語は判らないって思ったのは」
「でも、それでどうするの? その日本人のSPに何か頼むの?」
「そのつもりです」
「聞いてくれるかな」
「さっき、俺のこと押さえつけながら彼、言ったんですよ、おとなしくしてください、ボスはああいう人ですからって」
「ああ、それで君、意外とすぐ抵抗やめたんだ?」
「いえ、どちらにせよ余り抵抗はできなかったんですけど…」
情けなくて少し低い声でボソリと言うと、コウキチは横でくっくっと含み笑った。
「まぁ、今はどうにもできないよ。 で、その人に何をどう頼むの?」
「え…っと、それは、まだ考えてなかったりして…」
それを考えてほしくてコウキチを呼んだのだ、と頬を膨らませればまた笑われる。 全く、こんな状況でよくそんな風に暢気に笑っていられるものですね、と不平を言うと、いや君が活路を見出してくれたからだよ、と励まされた。 この人にはどうしても適わない。 人生経験が倍近くあるのだから仕方がないが、ヨウスケも彼を頼りにしているのが丸判りで自分の不甲斐なさが悲しくなることが屡だった。 少なくともベッドでは、肉体的に若く容量もある自分の方が、よりヨウスケを満足させてやれているはずだと思うのだが、どうもテクで適わないのだ。 ヨウスケは、大きさにかけては自信がある自分のモノで責められている時はただ苦しげで、コウキチの時の方が我を失くす事が多いように思うし、抱かれている時以外は前のままのお兄さん的態度で自分は弟扱いなのも気に喰わない。 もっと頼りにして欲しい。 もっと気持ち好さ気に喘いで欲しい。 もっと自分を欲してほしいのだ。 翌朝、風呂に抱いて入れてやる時だけが、唯一頼りなげにしなだれかかり完全に自分に身を任せる瞬間だった。 だから、必ず風呂に一緒に入る。 でもそれだけだ、と唇を噛む。
「うん、よし、ここは真正面から頼んでみよう」
「え? 何を?」
急にコウキチが立ち上がって、例のSPを探し始めたので慌てて後に従う。
「君は、その人が良識の持ち主だって感じたんでしょ?」
「はい」
「だからさ、君のその勘と、その人の良識に賭けるのさ」
途中、電話台の下の引き出しからパスポートを取り出すと、既に用意してあったヨウスケの服と共に袋に詰め、さっさとSP達が屯す廊下へ出て行く。 立川は、もうコウキチに任せるしかなかった。
「はいこれ、服とパスポートね」
「どうも」
「ね、君。 君にお願いがあるんだけどね。 ちょっと聞いてくれる?」
「いえ、ご遠慮ください」
ただ一人の日本人SPは、取り付く島も与えずさっと踵を返そうとした。 だが立川が後ろに回りこんでそれを押し止める。
「お願いです、あなたにしか頼めない。 彼を、ヨウスケさんを助けてやってください。」
「私のボスは間島氏です。 筋違いです。」
「ヨウスケ君は真面目で優しい、いい子なんだよ。 頼む、力になってやってくれ」
「助け出して返してくれとは言わない。 でも、彼が困っていたら影から支えてやって欲しい。」
「間島の噂は聞いてる。 ヨウスケ君みたいな人には到底耐えられない。 君もそう思うだろう?」
「それは…」
「頼むっ できるだけでいいんだ」
「この通りだ」
二人で頭を下げると、そのSPは焦った声を出した。
「止めてくださいっ そんな事をされている所を見られたら、幾ら言葉が通じなくても他のSPに怪しまれます!」
「なら、助けてくれますか」
「今少ししか無いが金なら…」
「いえ、そういう物は受け取れません。 が、できるだけのことはしましょう。」
「ほんとですか?」
「できるだけ、です。 私も職を失いたくはない。」
「それでいいよ。 でもこれだけは持っていてください。」
コウキチはそう言うと、懐から自分の名詞を一枚出して、そっと渡した。
「何かあったら、連絡ちょうだいね」
「お願いします!」
立川がまた深々と頭を下げると、彼は飛び退くように自分達から離れ去った。
ヨウスケは意識の無いまま毛布に包まれ、そのSPに抱かれて車に乗せられ、この町から消えた。
・・・
気が付くと、どこか知らない部屋で、間島が自分の中に居た。 自分の部屋であのままずっと組み敷かれているのかと錯覚するほどだったが、途中一回車の中で気が付いたのだから違うはずだ。 ホテルの一室のようだった。
「ここ… どこ…」
「空港のホテルだよ」
間島は、自分が覚醒したらしいのを期に律動を本格化させだした。
「あ、ああ、うん」
「ああ、本当に君の身体はすごい。 抱くのを止められないよ、ヨウスケ」
「ま、間島さん、ん」
「なんだい、ヨウスケ」
男に名前をいつ教えられたのか覚えが無い。 だが、何回も名前を呼ぶように強要され、記憶に刻まれていた。
「く、空港って、俺、ど… あ、あう、んん」
「フランスだよ」
「フラ… そんな… 俺、お、う、うん、間島さん、間島さ…」
「行くんだよ、ヨウスケ。 君は行くと言ったろう? そして私と向こうで暮らすんだ。 夢のような暮らしをさせてあげよう。」
「いやです、いや、あ… 俺、行けない、そんなとこ、あ、いやぁ」
「返事はイエス、これだけだ、ヨウスケ。 またお仕置きされたいのかい」
「でも、俺… う、うぁ、ああっ や、やめ、あはっ あうっ うーっ」
尖ったように感じる間島のペニスの両脇の突起が、身体の奥のある部分の内壁を行ったり来たりする度に、身体が痙攣するようにガクガクと反応し呼吸ができなくなった。 間島は暫らくそこを思い切り擦り付けると、ヨウスケが冷や汗を滲ませて青褪める頃やっとそれを収め、浅い箇所をゆるゆると掻き回して自分に快感を与え、その上で言葉を強いる。
「答えは?」
「は…い」
ヨウスケはそうされると従わずにはいられなかった。 意識も朦朧としてきて、何を言われているのかも判らなくなってくる。 ただ、はい、と答えて頷く人形と同じだった。 間島は満足そうに接吻けてきた。
「ヨウスケ、私が接吻けたら舌を絡めなさい」
「う… ん、んん」
「そう… 上手だ」
そう言うと、間島はヨウスケの舌をこれでもかと強く吸ってきた。 ツキンと身体に1本線が入ったように痺れが走ったかと思うと、自分の上で間島が呻く。 アナルが勝手に中のモノを締め付けるらしい。
「ああ、イイよ、ヨウスケ。 最高だ。」
呻きながら身体を揺すり、更に快感を貪ろうとする間島にヨウスケは翻弄された。 間島はヨウスケを固く掻き抱いたまま身体の奥を抉り、舌を吸い上げ、乳首を捏ね回した。 自分がどうなっているのかなど、全く判らない。 ただ間島が首筋に顔を埋めたまま快感の呻きを上げ続けるので、おそらくいやらしい反応をしてしまっているのだと、自分の身体の浅ましさに泣けてくる。
「ああ、もっとだヨウスケ、そうだ、締めて、おおうっ なんて身体だ! いやらしい、とてもいやらしいよ、ヨウスケ」
「う、うふ、あ、あん」
「かわいいね、ヨウスケ。 私の名前を呼んでごらん。」
「あ、ま、間島さ、うん、間島、さん」
「かわいい、かわいいよ、ヨウスケ。 とてもいい子だ。 さぁご褒美をあげよう!」
言うが早いか、あの凶器であの場所を激しく擦り上げてくる間島。
「いっ あっ あ、あ、ああーーーっ やめっ はっ 間島、さ… あ、あん、んんーっ」
「ああ、イイ、イイよ! ヨウスケ!」
「ああっ いやっ いやぁっ たすけて、いやっ ああーーっ」
「もっと叫べっ もっと悶えろっ」
「ん、んんーっ 間島さ、ま… おねが、許して、そこ、許してぇ」
「ここだね、判ってるよ、ほら、ほらっ! ヨウスケ、ヨウスケ…」
「あ、あ… 許して、あ、許してぇ、…ねがいぃ」
「ああ… いい… いい…」
狂ったように間島に突き荒らされて、ヨウスケは泣き叫んだ。 それから何時間叫ばされたか、何回男の達った証を注ぎ込まれたか、何回自分も達かせられたか…。 次に気がついた時は、車椅子に乗せられて搭乗手続きをするところだった。 抵抗はできなかった。
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