嵐の夜に
6
ヨウスケは、自分のベッドで組み敷かれ、大きく足を開いて男を受け入れ、力なく横たわっていた。 顔は涙と唾液で汚れ、もうシーツに縋る力もない手はただ横に投げ出されている。 男は、ヨウスケの片足を抱えて斜めにアナルを抉っていた。 コウキチ達が踏み込んでも狼狽えるどころか律動を収める様子もなく、ヨウスケを揺すり続けている。 ヨウスケは微かに首を揺らめかせて弱々しく喘いでいた。 玄関先で聞こえた悲鳴のような声ではなく、どこか恍惚としている風に喘ぐ様は気持ちよさ気でさえあった。 だが、コウキチと立川は、羞恥心が非常に強いヨウスケが中々そんな状態にはならないことをよく知っていた。 初めの頃、態と彼をそういう状態にしては、男としての矜持を取り去り自分達に抱かれる事への抵抗感をなくさせる、言ってみるならば洗脳を行なっていたのだが、ヨウスケは本当に中々正気を手放さなかったのだ。 弱い箇所を責め上げては好い場所を突いてあやしてやるというのを交互に繰り返し、やっと徐々に我を失くしていく。 だがそうなったヨウスケの可愛さは格段で、初めの何日かは彼を横取りされた腹癒せもあり、容赦なく責め立ててはそういう状態にしていたものだ。 だが、ヨウスケの頑なな気持ちが解け、自分達を受け入れるようになってくれてからは、逆にそんな事は稀になった。 二人揃った時に、対抗意識などを燃やしてやり過ぎてしまうことが偶にあったくらいだ。 ヨウスケは、元々男に抱かれる素質のある身体をしていたので、受け入れて素直に喘ぎさえすれば、お互いにとても気持ちの好いセックスができたのだ。 無理にそんな事をする必要がなかった。 お人好しで優しく、バカが付くほど律儀で真面目なヨウスケが、簡単には正気を手放せない事もよく判っていたし、そうなった間の記憶があやふやな事をヨウスケ自身がとても恐がったから、というのもあった。 ヨウスケは、あの嵐の晩の記憶がない事を自分でもあれこれと考えて、結局そこに結び付けていたようだった。
「これはこれはコウキチさん、それにこちらが立川君かな」
男はヨウスケの抱えた太腿をベロリと舐めながら、白々しく挨拶をした。
「ヨウスケさんを離せっ」
暫し呆然としていた立川が、我に返ったように気色ばんだ。 だが、コウキチが立川の腕をぐっと掴んで押し止める。
「立川君、落ち着いて」
「でもっ コウキチさん!」
「この人を随分仕込んでくれたみたいですね。 お陰で一月ぶりでもほら、楽に楽しめましたよ!」
「こいつっ 何しに来たっ」
「何しにって、こういう事をするために、ですよ」
「あ、あ、いやぁ、あ」
言うなりもう片方の足も抱えて一頻り激しく突き荒らす。 ヨウスケは弱々しく嫌々をしながら喘いだ。 彼の目には自分達が映っていないようだった。 もう意識が相当朦朧としているに違いない。 泣き濡れた顔が切なげに歪み、ぎゅっと瞑られた目尻から新たな雫が零れ出していた。
「ああ、イイ。 最高の身体ですよね? そう思いませんか?」
「貴様…」
「立川君、止めなさい。 どうせヨウスケ君はまた忘れる。 彼には耐えられない記憶なんだよ。」
「いいえ、今度は忘れさせませんよ! 私、彼をこのまま連れて行きますから。 忘れる前にまた身体に刻み付けます。 嫌という程ね。」
「連れて行く? フランスにですか、間島さん」
「間島?」
「そうなんだよ、君も名前くらいは聞いたことがあるだろう? この人は”その”道ではちょっとした有名人だからね」
「お見知りおきくださっていて光栄ですよ、コウキチさん。 そうです、フランスの私の家に連れて行きます。 私のパートナーとしてね!」
「そんなこと、ヨウスケさんは拒むはずだ!」
「いいえ、ヨウスケは行くと言いましたよ? ねぇヨウスケ?」
そう言うと、間島はヨウスケの顎を掴んで二三度揺すった。 そして瞑っていた目を開かせると、顔の間近で囁いた。
「ヨウスケ、私と行くね?」
そして腰をぐいっと突き込む。
「ああっ」
喉を晒して喘ぐヨウスケをぐっぐっと突いて一頻り鳴かせると、また問うた。
「行くね?」
「あ、う、うう」
ヨウスケは微かにコクコクと頷いた。 だが間島はまだ足りないとばかりにまた突き荒らすと、重ねて言葉を促す。
「ヨウスケ、「行く」と口で言いなさい」
「あ、い、行く… 行きます」
「いい子だ」
「止めろっ そんな強引に言わせてどうする!」
「だめだよ、立川君、ヨウスケ君ああなっちゃうと逆らえないの、君も知ってるでしょ。」
「だからこそっ あんなの無理矢理じゃないですか!」
「でも、ヨウスケ君に怪我させたくないでしょ?」
「!」
「そういう人なんだよ、彼は」
「酷いなぁ、コウキチさん、私は至って紳士ですよ?」
そう言いながらも、だが間島はヨウスケの首筋から手を離さなかった。
「この人は私のモノだ。 あなた達も目を付けていたかもしれないが、私が最初に手を付けた。 あの時連れて行かなかったのは失敗だったが、今度は離さない。 今まで躾けてくれていた事には感謝していますよ。 でもあなた方も楽しんだようだし、充分でしょ? こんな身体、めったにないからな」
「それじゃあまるで、ヨウスケさんの身体だけしか価値がないみたいな言い方じゃないか!」
「そんな事ありませんよ、彼は性格もいい。 向こうでは東洋人はとても喜ばれます。 従順で可愛いとね。」
「あんた…、ヨウスケさんをいったいどうするつもりだ」
「どうするって、パートナーとして一緒にいてもらうだけですよ?」
「でも、だって、今の言い方じゃ…」
「立川君、ここは堪えよう。 間島さん、ヨウスケ君はとても真面目で優しい人だ。 直ぐにあなたには付いていけなくなりますよ。 そうしたら彼は帰ると言うだろう。」
「言わせませんよ、そんな事。 毎日ちゃんと愛してやれば、猫の子だって恩を忘れません。」
「おまえっ」
「いいから、立川君。 ヨウスケ君がそれでも帰国したいと言ったらその時は、邪魔したりはしないでくださいよ、間島さん」
コウキチはそれだけ言うと、行こうと言って立川を促した。 だが、立川は動こうとしなかった。
「コウキチさん、俺は嫌だ。 こんなヤツ、今俺がぶちのめしてヨウスケさんを取り戻します。」
「それは無理ですよ」
「立川君、彼はね、その道の人なんだ。 だからきっとその辺に…」
「ええ、もう来る頃ですよ。 さっき呼んでおきましたから」
言い終わらないうちに、黒服の屈強な男達が現れた。 二人は直ぐに囲まれて、特に立川は肩を押さえ込まれ揉み合いになったが、力の差は歴然だった。
「ウチのSPです。 この人と楽しむのに邪魔だったのでちょっと追っ払っていただけなんですよ。 おい、この人を連れて行く。 そこのお二人には暫らくおとなしくしていていただけ。 それと、この人の服一式とパスポートを探し出せ。」
「イエス、ボス」
「ちょ、ちょっと待て」
直ぐに出て行こうとする何人かに向かって立川が追いすがった。
「立川君、抵抗するな」
「大丈夫です、コウキチさん、逆らいませんから。 服とパスポートのありそうな場所なら俺が判る。 だから家捜しのような真似は止めてくれ。」
「…ふん、いいでしょう。 おい、案内していただけ」
「コウキチさんも手伝ってください」
立川がそっとコウキチに目配せをしてくる。 コウキチも直ぐに意図を汲んで従った。
「うん、わかった。 ヨウスケ君の家を荒らすような事はさせられないからね。」
部屋を出ると直ぐに、後ろからヨウスケの喘ぎ声が響き出した。 そのか細い弱々しげな声に胸が鷲掴まれたように痛む。 今はどうする事もできないが、必ず助け出してやらねばならない。 間島という男は、人を人とも思わない扱いをすると噂に聞こえてきていた。 立川は、背中にヨウスケの声を聞きながら、くっと口を引き結んで早足で歩いていた。 その横顔を斜め後ろから眺め、この男は心底ヨウスケを愛しているのだ、とコウキチは感慨深く思った。 もちろん自分もヨウスケはかわいい。 だがやはり妻帯者である自分には、どこか一歩引いた所が否めない。 それに比べこの若者は、真っ直ぐにヨウスケを愛している。 負けたかな、そう感じ、少々苦い味のする唾液を飲み込むと、コウキチはどうしたらヨウスケを助け出してやれるか、それだけに集中した。
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