春雪
5
三.破瓜
どうします? 灯りを消しますか? と問われて頷いた。 山城が枕もとの灯りを消すと、明り取りの高窓から入るぼんやりとした月明かりだけとなった。 雪は止んだのだろうか。 見て、と言われて指差された部屋の四隅と入り口付近に目を凝らすと、薄っすらと白い光が小さく柱を作っている。
「物理結界です。 カカシは入れません。」
カカシの写輪眼にも見えているでしょう、と言われて返って安心した。 別れ際、カカシは忍の目になっていた。 冷静に判断するはずだ。 だが、あなたの艶姿も見えるでしょうけど、と追い討ちを掛ける様に言われて天井を凝視した。
---カカシさん
カカシは、その存在を主張するかのように最初一回だけ殺気を放った後は沈黙を守っていた。 今は塵ほどの気配も感じない。 だがそこに居る。
「キス、してもいいですか?」
山城がまた問うた。
イルカは三度首を横に振った。
わかりました。 と溜息混じりに山城は言い、諦めたのかイルカの首筋に顔を埋めた。 容赦のない熱の篭った愛撫が再開された。 イルカが声を堪えていると、無理に抑えないほうがいい、と耳元で囁かれる。
「返って悩ましいから。」
イルカは暗闇の中で体を朱に染めた。 唇以外の全てに舌を這わされ、接吻を落とされ、愛撫を施されて喘ぐ。 カカシの見ている前で痴態を晒したくはなかったが、どうしようもなかった。 秘所に指を差し込まれると、からだがぴくりと跳ねて、抑えていた声までもが漏れる。 女の体の快感の拾い方が掴めぬ裡に喘がされ、男が女の秘部に施す愛撫というものをよく知らないイルカは、唯々感じていく体に戸惑うばかりだった。
「あ…ぅん…」
親指と人差し指で入り口の上のある部分を摘まれくにくにと捏ねられる。 最初ただ柔らかかったそこに、何時の間にか粒のような痼が生まれ、それを摘まれ押しつぶすように捏ねられると、その部分を中心に耐え難いもどかしさが繁殖していった。
---これがクリトリスなのか。
女との経験が薄くても、生物学的な知識ならあった。 イルカはそれを無理に頭に浮かべて、なるべく意識を散らすように散らすように努めていたが、徐々に育つ粒ともどかしさに知らず腰が揺れ、太腿を閉じようと力が込もった。 もっと強い刺激がほしいような、今すぐやめてほしいような、ゆっくりとした酷くあやふやなもどかしさ。 男の前立腺に対する直接的で強烈な刺激とは全く種類を異にするもどかしさだった。 これが大きく育ったら、いったいどうなるのだろう。 女が達する様をイルカも見たことがない訳ではない。 自分もあんな風になるのだろうか。
「怖いですか?」
山城は、指の動きを一旦休めるとイルカの頬を撫でた。
「顔が強張ってますよ。」
イルカは間近にある山城の顔を凝視した。 はっはっと息が浅く短く切れる。 言葉は何も出なかった。
「あの…、もしかして初めてってことは……?」
イルカははっとなった。 ”破瓜”という言葉が頭に浮かぶ。 山城もその反応に戸惑ったようだった。
「この体になるの、初めてなんですか?」
呆然とした様子でイルカを見つめ、暫らくお互いに言葉もなかった。
「いいんですか?」
---いいって何が?
その先を考えることを拒否している自分を感じる。 山城はじっとそんなイルカを見つめると、更に確認するように具体的な言葉を使った。
「このまま続けていいんですか。 あなたの処女を俺が貰うことになりますよ?」
思わずイルカは天井を見ていた。 山城はイルカの目の動きを敏感に読み取り、視線を遮るようにイルカの顔の前に自分の顔を突き出してくる。 その目を見つめ、イルカは声を絞り出した。
「止めて…くれるんですか…」
じわっと視界が一気に滲んだ。 すぐに幾つもの水滴が頬を伝っては落ちた。 山城もじっと動かず黙り込んで随分と長くイルカを見ていたが、やがて苦悩を含んだ声音で告げた。
「やめられません。」
「だったら聞かないで…くださ…」
「ごめんなさい…」
顔を覆って嗚咽するイルカの体をぎゅっと抱き、肩口に顔を埋めて山城が吐息と共に呟いた。
「ごめんなさい。 あなたには本当に悪いと思いますけど…だけど俺は嬉しい。」
あなたの処女が貰えて。 と泣き笑いのような顔でイルカの顔中に接吻けてきた。 だが唇だけ律儀に避ける山城の真摯さに、この人もバカなひとだ、とイルカは思った。
「できるだけ優しくしますから。 痛かったら言ってください。」
そしてまた赤面するような事を言われ、愛撫が再開された。
クリトリスへの刺激は的確で、徐々に熱を持ち痺れるような感覚に変わっていった。 膣はしとどに濡れそぼり、男を迎え入れる準備が整ったことを伝える。 女の体ってすごいなぁ、などと意識を散らすイルカは、天井を見ないように見ないように努めていたのだが、いつも自分を解すことに非常な時間と労力が費やされるカカシとの行為が思い出され、気がつくと天井に目が行ってしまってまた涙が零れた。 太く固く猛った山城の欲望の徴がイルカの入り口に擦り付けられた時は、さすがに緊張して山城の顔を見た。 山城はちょっと微笑んで、大丈夫ですよ、楽にして、とイルカの汗に張り付いた前髪を指で掬ったが、言葉とは裏腹にその表情は切羽詰った余裕の無さをを露呈していた。 そんな男にイルカの方が落ち着きを取り戻し、ちょっと微笑み返して頷くと、山城は呆けたような吃驚した顔をしてから更に余裕を無くした表情をして、行きます、と宣言し体を進めてきた。
「あっ…い、痛…」
「う……ぅく…ぅ」
ゆっくりじりじり腰を勧める山城が時折呻きを漏らす度に、イルカの内部でぷつっと何かが弾ける感覚と痛みが襲い、我知らず体が上へ上へと逃げてしまう。 山城はそんなイルカの肩と頭に手を掛けてぐっと抱き込みながら、更に体を進めてきた。 最後はぐぐぅっと一気に突き込まれ、イルカは喉を晒して仰け反った。 二人して荒く息を吐きだす。
「ごめん、俺、加減できなくて」
息を乱しながら山城がイルカの頬を撫でた。 イルカは浅く呼吸を繰り返し、ぐったりとして体を貫く痛みに耐えていた。 冷汗がじっとりと体中に滲み、繰り返す息に意識が白く霞んでいく。
「イルカさん、大丈夫ですか? イルカさん」
名前を呼ばれて引き戻される。 そう言えば、本名を知っているのだな、と頭の隅で思った。 深呼吸したほうがいい、と言われ大きく息を吸うと激痛が襲う。
「あぅっ……っぃ…は…」
はぁはぁと荒く胸を喘がせ、思わず山城の肩に額を擦り付けて耐える。
「い…たいです、すごく…」
「うん、ごめん」
「な、なんか嬉しそ…ですね」
「うん、嬉しいもん。 すげぇ幸せ、今死にたいくらい。」
「ば…」
バカなことを。 そんなことを言ったら、天井の人が本当に死を齎すかもしれませんよ、と言いたかったが言えるはずもなく、イルカはただ胸を上下させた。 くノ一達もこんな風なのだろうか。 あげたい相手には処女をあげられず、他の誰かに抱かれながら、哀しく愛しい人を想うのだろうか。
「動いて、いいですか?」
「えっ? あっ ぅぅっ」
返事を待たずに開始される律動に感慨の淵から引き戻されると、イルカは痛みを訴える声を上げ続けた。
最初の一回は痛いだけで終わった。 山城の太いモノが更に膨れ上がり、自分の内部で弾けるのを感じた時は、どっと涙が溢れた。 直ぐに始められた抜かずの二回目は、山城が余裕を取り戻した所為か、じっくり執拗に快楽点を探られ、イルカは為す術なく喘がされ達かされた。 達する時のあの感覚。 何かが湧き上がりせり上がってきて、クリトリスを中心に痺れるような快感の大波に攫われ、内部がひくひくと締め付けを繰り返すと共に体ががくがくと痙攣した。 これが女のオルガスムスなのか、とどこか醒めたもう一人の自分が感慨に浸る。 登り詰めるのに時間がかかる代わりに、その絶頂が体に与える激しい感覚は拷問のようだった。 そして、激しい絶頂の後には、僅かの間隔を措いて二回、三回と幾分高さが減じた絶頂の波が再来し、徐々にその波が治まるまでイルカは喘ぎ続けなければならなかった。
「あ…ああ……ぁぁ」
何回目かの絶頂に震えるイルカを、時々揺すっては更にその波が持続するように刺激を与え続ける山城は、イルカの体を抱き締めながら呻くように呟いた。
「あなた、すごい。 すごくイイ。」
がくがくとイルカが震える度に、中の山城を締め付けるのだろう。 山城は緩く抜き差しを繰り返しながら、ああイイ、と呻く。 山城のモノは、イルカが最初の激しい絶頂を迎えた時に一緒に達っていたのだが、既にもう硬さを取り戻していた。 いったい何回犯られるのだろう。 イルカは気が遠くなる思いがした。 回を増す毎にイルカの快楽も深まってゆく。 散々に悶え、喘ぐ様をカカシに見られていると言うのに、もうこれ以上痴態を晒したくなかった。
山城の律動が、また本格的になってゆく。
「あっ あっ う、んっ」
ゆさゆさと揺さぶられながら、イルカは壊れたように涙を零し続けた。 そんなに泣かないで、と山城が舌で涙を掬う。 喘ぐ口のすぐ上に山城の唇が来たが、接吻けはされなかった。
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