聖域

-SANTI-U-


8


Anniversary

-SANTI-U after-


 カカシの愛撫は、普段からとても丁寧で丹念だ。 別の言い方をすると執拗だ。 それは、自分とカカシの体の相性の問題もあるので仕方ないと諦め、カカシに任せて今まできたが、今日は過去最高にしつこかった。 カカシと体を合わせるようになって彼是一年近くになるが、ここまで”丁寧”に”丹念”に愛撫を施された覚えはない。 体中を撫でられ舐められ揉み解されて、あちこちに鬱血の跡を刻まれ、絶え間なく接吻けを送られ、髪を梳かれた。 接吻けにしても、いつもなら喰い付くように貪るように口中を荒々しく犯されることが多かったが、今日は終始柔らかく唇を吸われ擽るように歯列を舐められた。 じりじりとじれったいほどゆっくりと体の熱を上げられ煽られて、イルカは堪えられないもどかしさに喘いだ。 羞恥心を抑えて、もうください、とせがんでみても、いつものカカシなら喰らい付いてくるものを今日は、まだですよ、と言われまた忙しく愛撫の手を働かされた。
 イルカはくったり体を投げ出して、力の入らない腕をカカシに伸ばし、喘ぎながらカカシに問うた。
「カカシさん、今日は、どう…したんですか? 何かいつもと、ん、違います。」
 カカシは、沈んでいたイルカの下半身から顔を上げると、伸ばされたイルカの掌に接吻け伸び上がってきた。
「何がですか?」
 ちゅっちゅっと優しく唇を啄ばまれ、覆い被さってイルカの首筋に顔を埋める。 首筋に触れるか触れないかの様な微かな接吻けを何度もされて、イルカはカカシの下で身を捩った。 体がびくびく震えてしまう。
「う、あ… そこ、やです、……あっ」
 カカシは判ってやっている。
 イルカは同じ首筋でも右の方が弱かった。 今カカシは、軽くイルカの頭を右手で掴んで傾け首筋の右側を晒させて、左手でイルカの右の掌の指に指を絡ませてシーツに縫い付けていた。 そのような緩い拘束でも、今のイルカには為す術もなく、カカシの唇が弱い箇所を刺激するたびに、ぴくんぴくんと体を跳ねさせた。
「あ… う… やぁ……」
 イルカが息も絶え絶えに喘いでも、カカシは止めようとしない。
 それどころか、鎖骨の窪みを舌でそっと舐められて、イルカは喉をひくっと鳴らして仰け反った。
 カカシが左手にも指を絡めて縫い付ける。
 磔られたように両手を押さえられ、カカシが窪みに舌を差し込んで舐め回す間、まともな呼吸も儘ならずイルカは体を跳ねさせた。
「あ… はっ… か、カカシ、さんっ」
「ん? なぁに?」
 カカシはまた首筋をすうっと舐め上げると、唇をちゅっちゅっと啄ばみながらイルカの言葉を促した。
「も、ん、もう…、あ、んん」
 イルカが喋ろうとする度に唇を吸われ、舌で舐められる。
 そうしながら、イルカの両手を磔たまま自分の猛った股間を誇示するようにイルカのそこに擦り付けてくる。
「あ、ああ、カカシさんっ」
 イルカは残る力の限りを尽くして頭を振ってカカシの愛撫を止めさせると、恥をかなぐり捨てて懇願した。
「もう、もうください、あなたを。 あなたのその太いので、いつもみたいに俺をめちゃくちゃにしてくださいっ」

     ・・・

 くらっときた。
 目の前では、体を朱に染めたイルカが潤々した目で自分を見上げている。
 思わず初志を忘れてイルカに喰らい付きそうになったが、寸でのところで踏み止まる。
---あぶねぇ
 イルカ先生も凄いこと言うようになったなぁ、と感動しながらもなけなしの理性を総動員させてクールな顔を取り繕った。
「しょうがないですねぇ、じゃあアナル解しますから」
 もうちょっと待ってて、と言ってイルカの下肢に顔を沈めた。 正直、今の自分の顔を見られたくなかった。 どんなに鼻の下が延びていることか。
 今日はイルカをめろめろにして、絶対に痛い思いをさせないと心に誓っている。
 その為ならどんな我慢もする覚悟だ。
 我慢だ我慢、俺。
 とにかくイルカを傷付けないよう念入りに解さなければと、後ろに顔を埋めようとすると、焦ったイルカの声が上がった。
「それは嫌です。 オイルでいいから… あっ んっ」
 イルカの声は無視をする。
 嫌がるのは何時ものことだ。
 始めてしまえばこちらのもの。
 何時もはイルカの腰を高く抱え上げ、体を二つに折って口淫する。
 その方がしているところをイルカに見せ付けられるからだ。
 まぁ大抵手で顔を隠してしまうから、自分のアナルを俺が舐め解している現場なんて殆ど見たことがないのだろうが。
 一回無理矢理見させた時は、それはそれは真っ赤になって恥ずかしがって、その後の乱れようも凄かったなぁ。
 あれはよかった。
 でも今日は、イルカの負担にならないようにしなければ。
 なんてったって病み上がり。


               ***


 二週間程の任務から戻ってみると、イルカは寝巻き姿で迎えに出てきた。
 もう平気なんです、と言って笑っていたが、一目見て肩が細くなっているのが判った。
 高熱で苦しんだらしい最初の何日かを一人で過ごさせてしまった。
 かわそうなことをした。
 だが、そんな事はおくびにも出さずにイルカは俺の世話を焼く。
 禄に食事も摂っていなかったのだろうに、ふらふらとしているイルカをベッドに押し込み、長期任務後の休暇をもぎ取ってイルカの看病に勤しんだ。
 イルカが寝込まなくても、元々休暇は取るつもりだったのだ。
 イルカとふたり、三日ほどいちゃいちゃしようと思っていた。
 側に居られれば、別に看病でも何でもいい。
 側に居てイルカを抱けないのが何行苦行だったが、最後の日くらいは大丈夫だろう。
 そう思って二日目の晩、イルカの方から抱いてくれと言ってきた。
 この人はいつもそうだ。
 自分のことは二の次なのだ。
 偶に寝込んでも一人で我慢して、俺を頼ってもくれない。
 それどころか、俺が我慢の限界なのをちゃんと知っていて、身を差し出すような真似をするのだ。
 そんなことをされても嬉しくない、と怒ってみせると
 あなただけが欲しがってるなんて思わないでください、と逆に怒られた。
 この人には敵わない。
 掴んで引き寄せた手首は一回り細かった。


               ***


 イルカの腰の下に枕を差し込み、イルカの体を逆向きに押さえ込んでアナルを舐め解す。
 それが一番イルカの体に負担をかけない遣り方だと思えた。
 経験ではうつ伏せも苦しがったし、何時ものように体を二つ折りにするなど論外だった。
 暫らくの間、足元からイルカのあえかな喘ぎ声が聞こえてきていたが、突然名前を呼ばれて顔を上げた。
「ん、カカシ、さん」
「なに?」
「足、もっとこっちに」
「…え? 足をどうしろって? 苦しい?」
 どこか当たっているだろうか。
 振り返ってイルカの顔を見ると、これ以上ないくらいに真っ赤になって、俺もします、と言ってくる。
 お…
 またこの人、なんてこと言ってくれるんだ 全く
 69?
 それは男のロマーンというヤツではないか?
「い、いえ、イルカ先生はじっとしててください」
 声が震えてないか?俺
「したいんです、させてください。」
 ね、カカシさん、お願いしますと来る。
 うううう、かわいいぞっ
 前にもこれでやられちまったんだ。
 心を通わせてからは決して口淫はさせまいと誓っていたのに、”お願い”されてつい致されてしまった。
 今日は、今日だけはイルカに奉仕させられない。
 俺が奉仕するんだから。
「また今度、してください。」
 そう言ってまたイルカのアナルに舌を埋めると、イルカが俺の足首を掴んで引き寄せた。
「イルカ先生」
「したい」
 もう、頑固なんだから
 溜息ひとつ吐いてイルカの顔の上に跨った。
 結構マヌケな感じ。
 でも、そんな感慨もイルカが俺自身に指を絡め、熱い舌で舐め出した瞬間から霧散した。
「ううっ」
 まずい。
 さっきからずっと我慢してたからなぁ
 イルカは既に口いっぱいに俺を含んで上下させていた。
 このままだと達かされちまう。
 俺はイルカのアナルにぬぷっと指を突っ込んだ。
「あはっ」
 イルカの口が俺から浮いた。
 ここぞとばかりに攻め立てる。
 指をすぐに二本に増やし、弱い所を連続して突く。
「あっ あっ」
 跳ねる体を押さえ付け、指の抜き差しを激しくする。
 もう俺への口淫はお留守になったようだな
 ちょっと残念な気もするが、イルカの顔に掛けるなんてできない。
 今日だけは。
 アナルに両側から指を掛け、引っ張っても柔らかく延びることを確かめて、ピンク色をしているその中へ舌を深く差し込んだ。
「うぁっ」
 イルカは腰を大きく浮かせてゆらゆらと揺らした。
 やらしい仕草。
 舌を尖らせ、深く浅く注挿する。
 時々回りをべろりと舐めてアナルに接吻けるように唇で吸い上げると、イルカはびくびくと体を震わせた。
 何回か達かせたイルカの前も、また力を取り戻し涙を流し始めている。
「ああ、ん…、ああ」
 イルカの頬の震えが俺自身に伝わってくる。
 俺は少し腰を上げてイルカの顔から自分自身を遠ざけると、イルカの尻の双丘を掴んで擦り合わせるように揉みながらぐちぐちと口淫を続けた。
「あ、カカシさんっ も、いっちゃ、うう、はなしてっ」
 後ろへの刺激だけで達くと言うイルカに目を細めながら、達っちまいな、と心の中で言って一際深く舌を突き刺すと、イルカは細く叫びながら達した。
 口元を手の甲で擦りながらイルカの方に向き直ると、イルカは胸を喘がせ泣き濡れて、怨めしそうに俺を見上げた。

     ・・・

 やっと埋め込まれたカカシの熱は、硬く、太く、脈を感じるほど猛っていた。 だが、カカシの突き上げは緩く揺すり上げるようなもどかしいものばかりで、いつもの猛々しさの欠片もなかった。 イルカはどうしようもなく喘いだ。
 もどかしい。
 じれったい。
 自分で腰を揺らしてしまう。
 もっと激しくしてほしい。
 なぜ?
 なぜ!
 何故いつものように激しく、荒々しく突き荒らしてくれないのだろう。
 いつもは快感と共に与えられる痛みと圧迫感から来る苦しさが、自分の僅かな理性の糸を繋ぎ止めてくれるのだが、今日はただひたすら快感のみを引き出され煽られて、自分の体が何か別の物に作り変えられれていくような気がしていた。 部屋に響き渡る自分の喘ぎ声も、耳を塞ぎたくなるような鼻にかかった甘い声なのに、止めることができなかった。 カカシが触れる所全てに快感が走る。 肌が粟立ち、ぞくぞくと騒ぎ、ウィークポントを刺激されるとそこからマグマが噴出すように熱くなった。 繋がった箇所はぴったりとカカシの太いものを嵌め込み柔軟に飲み込んで、いつも感じる引き攣れる痛みも全く無い。 圧迫感はあるもののイルカの内部は寧ろそれを悦び、顫動する粘膜がカカシをやわやわと食む感触がイルカ自身をまた煽った。
 ああ、気持ちいい
 どうかなる
 もっと強く突いてほしい
 息も詰まるほど抱き締めてほしい
 そこに混じる微かな痛みが、自分が確かにカカシに抱かれている事を教え意識させてくれるのに
 これでは何処も彼処も溶けて無くなってしまいそうだ
 カカシの背に縋り付き、腰に自分から足を絡めて一緒に腰を揺らめかしてしまう。
 ああ、なんて淫らなんだ
 もっと、と言いたいのにカカシはずっと接吻けを外そうとしない。
 口端から溢れる唾液と涙と汗で、イルカの顔はぐしゃぐしゃだった。
「ん、んう… んあっ」
 溶ける…
 腰から下がもうドロドロに溶けている
 気持ちいい
 いいよぉ
 カカシの手が徐に自分に掛かり、緩く扱き出した。
「あ… あ、あ……」
 背が浮くほど撓り、体の震えが体中に順繰りに伝播して太腿がびくびくと痙攣した。
「うっ ああ、いい…」
 カカシが呻いた。
 頭の中がかぁーっと煮え滾る。
 アナルが無意識にきゅうっと締まり、内部までカカシを噛み締めるように蠢いた。
「うう… イルカ、ああ」
 カカシは思わずと言った感じでイルカ自身を握り締め、数度強く扱くと親指で握った先端をぐりっと抉った。
「ああっ!」
 途端に脳天まで突き抜けるような電撃を受け、イルカは達した。
 自分の白濁が胸まで飛んだ。
 がくっがくっと体が痙攣し、その度にアナルが締まるのか、カカシはイルカの肩を強く掴んで押し付けた腰を震わせると、急に幾度かそれは激しく突き込んで熱いモノをイルカの中に吐き出してきた。
 自分に覆い被さったまま緩く抜き差しを繰り返し、余韻を味わっているカカシの荒い息遣いを聞きながら、その僅かな刺激にまた内部がざわめき出す。
 びくびくびくっと太腿から腹筋から震えている。
 いつもなら意識が飛んでしまうところを、今日は気の遠くなりそうな快感に返って感覚が冴える。
 達ったばかりなのにまだ体中がその先を望んでいる。
 もっと高く登り詰めようとしている。
 自分の中でまた硬くなり始めたカカシを感じて、もっともっとと強請っている。
 なんていやらしい体なんだろう
 イルカは止まない快感に身悶えた。

     ・・・

 なるほど。
 じっくり追い上げて優しく愛してやると、こういう風になるのか。
 カカシは目の前で壮絶に色気を放って乱れ喘いでいるイルカを眩しげに見つめた。
 いつもは俺ががっついちゃって、イルカ先生すぐに落ちちゃってたからなぁ
 こんなイルカは嘗て知らない。
 事後のイルカは大抵失神しているか、息も絶え絶えで消耗しきっているかのどちらかだった。
 今イルカは、達した余韻に内部をぴくぴく痙攣させ、そうする事でまだ強度を保っているカカシの形を感じるのか、カカシの体の下で身を捩って悶えている。 時折カカシ自身をきゅうと強く締め上げては、背中に縋った手があてどなく彷徨い、艶かしい喘ぎ声を発している。 達したばかりにも関わらず、既に新たな熱を孕んで育てているのだ。
「うん… あ…… ん…」
 首を振り乱し、眉を顰めて喘ぐ様はそこら辺の遊女よりも余程艶かしい。
 いいこと覚えたなー
 また今度やってみようっと
 ま、俺に余裕のある時にでも…
 ここでカカシは遠い目になった。
 イルカを前にしていったい何時、自分に余裕ができるのか?
 うーむ
 無理
 今日の俺は偉かった
 何せ今日はイルカ先生の…
「カカシさん…」
 イルカが呼んでいる
 かわいいイルカ
「はいはい、何ですか〜」
「ん、カカシさん… もっと」
「………」
「もっとしてください」
「は、はいっ 喜んで!」
 しあわせ〜
 まさかこんな日が来ようとは!
 いやよやめてが日常茶飯事のイルカだったが、もっととおねだりされるなんて
 生きててよかったー
 だが、俺の我慢もここが限界だった。
「いつもみたいに、してください。 めちゃくちゃに俺のこと、犯して」
 何かがプツンと切れる音が聞こえた。

     ・・・

 カカシは次々に体位を変えて挑んできた。
 手を掴み、足を掴み、組み敷き、引っ繰り返し、上に載せ、抱え上げ
 去年五人のカカシに輪姦された時のように、思う様体を翻弄されたが、やはりどこか手付きが優しかった。
 太腿を掴んで内側にねろりと舌を這わせながら、カカシは
「また細くなって」
 と呟いた。
 四つに這わされ腰骨を掴み上げられた時は、手が何度も背中を擦り尻を丸く撫でられた。
 その、ひとつひとつ体を確かめるような手付きがカカシの心配を表しているようで、胸が熱くなる。
「だいじょうぶ、だから…」
 後ろを振り返ってカカシを見ると、カカシは体を倒してきて頭を掴んで接吻けてくれた。
 項にカカシの荒い息を吹き掛けられながらゆっくり抜き差しを繰り返される。
 カカシの形をまざまざと感じ中が蠢く。
 カカシが快楽に呻く声が耳元で聞こえる。
 カカシの手が前に回され、律動に合わせてゆっくり扱かれる。
「あ… ああ…」
 体中が快感にさざめく。
 やさしい律動、やさしい手淫
 もどかしい快感の波がじりじりと脳を焼くが、二週間ぶりのカカシを求める体が訴える。
 足りない
「ん、ん… か、カカシさん」
「なぁに」
「もっと、奥に…」
 カカシは一瞬動きを止めると、背中でひとつ唸り声を上げた。
「まったく…あんたって人はっ」
「あっ ああっ」
 突き上げる角度が変わった。
 前立腺を擦り上げながら、入り口から奥まで突き上げられる。
「ああ、いやぁ、ああ」
「いや、じゃないでしょう、あんな風に、煽ってくれちゃって」
「あ、い、いくっ いぁ」
 カカシの手が根元をぎゅっと握り込んだ。
 握られた強さと、塞き止められた苦しさに仰け反って喘ぐ。
「う、うぁっ は、はなし、て」
「だめだ」
 カカシの突き上げが激しさを増す。
 尻にカカシの腰骨が当たる感覚と音が、ダイレクトに脳をも犯す。
「俺が、せっかく、我慢して」
「う、うん、あ、はぁ」
「病み上がりのあんたに、やさしく、してたのにっ」
「あっ あああっ やあっ」
 カカシが腰を大きく回しだした。
 自分の中がぐりぐりと掻き回され、気が狂いそうなほど激しい快楽が押し寄せる。
 塞き止められたままの自分が痛いほどはちきれる。
「あんた、俺に、どうされたいんだっ 壊されたいのかっ」
「ん、こ、こわして」
「…!」
「寂しかった…、二週間、長かった、あ、だから」
「…だから?」
 少し動きを緩やかにして、カカシは俺を後ろから抱き締めた。
「ん、んん、もっと、感じさせて もどかしいのは、いやだっ」
 カカシは溜息とも吐息ともつかない息を吐くと、俺の腰を掴み直した。

     ・・・

「ここだね?」
「ん、そこ」
 膝裏を抱え上げて奥の奥を突く。
「ああっ」
 イルカの足がぴんとつっぱり震えた。
 狙い澄まして何度も抉り、ぐりぐりと腰を回す。
「あっ あっ あああ」
 首を打ち振りイルカは喘いだ。
 黒髪がシーツに踊り、手は頭の上辺りのシーツを強く掴んで震えている。
「これは?」
「ひっ」
 中で上下に揺すりイルカの好い所を擦るように刺激すると、イルカは声にならない悲鳴を上げた。
 イルカ自身はふるふる震えて、もう白濁もない透明な汁を零し続けている。
 イルカが震える度に俺自身も引き絞るように締め付けられて、快感に眩暈がした。
 俺を翻弄して止まないこの寂しがりの恋人は、従順に快感に喘ぎ震えて、俺を感じている。
「イルカ」
「は、はい」
「気持ちいい?」
「ん、気持ち、いい」
 いいです、と何度も繰り返し体を震わせる。
「めちゃくちゃに、するよ」
「ん、ん、して」
 首に両腕を縋り付かせ、イルカは強請るように頬を擦り付けてきた。
「始めちゃったら俺、もう止められないよ。 イルカ、ほんとに大丈夫?」
「…ぁ、ぁぁ、ぁ……」
 やはり心配でもう一度確かめるつもりで声を掛けた途端、イルカは喉を晒して仰け反った。
「うっ イルカ… それ、ちょっと、ヤバイから…」
 痛いほどの締め付けに、イルカの肩を掴んで弾けそうになる自分を堪える。
 イルカは数秒ひくひくと痙攣した後、ふしゅと空気が抜けるように弛緩した。
「イルカ、イルカ… 大丈夫?」
「あ、うん…」
 大丈夫?と問う度に中がうねり俺を締め付ける。
 俺の言葉に反応しているのか?
 何回抱いても、この人は解らない。
 とろんとした目が俺を見上げ、指が髪に差し込まれて弄ってきた。
「イルカ…」
「カカシ…」
「いくよ」
 うん、とひとつ頷くのを見て、もう我慢はやめた。
 足を抱え直すと、俺は腰を大きく一回グラインドさせ、ガンガンと打ち付けるように律動を開始した。
 部屋には互いの荒い息遣いと、イルカの嬌声と、ベッドの軋む音のみが響き渡った。 
 そうして日付が変わる頃、背中に縋っていたイルカの手がぱたんと落ちた。
 俺はぐったりと失神したイルカに気づき、時計の針とイルカの顔を見比べて嘆息した。
「しまった、せっかく日が変わったら一番に、おめでとうって言おうと思ってたのに…」


               ***


 翌朝、熱がまた少しぶり返した。
 カカシは、おはようのキスを髪を掬って首筋に落とすと同時に飛び起きて、額に手を宛がい顔を顰めた。
「ごめんなさい。 やっぱり熱また上がってる。」
「大丈夫ですよ。 風邪の熱じゃないですから。」
 そう笑って答えたが、それフォローになってませんから、とカカシは更に眉間の皺を増やした。
 それからまた甲斐甲斐しく世話を焼き、一頻り家事を済ませると、ベッドの背凭れに枕を積んで寄りかからせてくれて、自分も横に並んで肩を抱いてくれた。
「ねぇイルカ先生、今日って何の日か判ってます?」
「今日、ですか?」
 去年のカカシの誕生日に酷い目に会ったことを思い出して内心冷や汗を掻く。
 あの時は知らなかったばかりに、アカデミーの一室で犯され、場所を移して五人のカカシに輪姦されたのだった。
 でも、と考える。
 カカシの誕生日は九月十五日だ。
 こればかりはしっかり覚えた。
 同じ轍は踏めないのだ、二度と。
 だとしたら…。
 そうだ、あれが丁度今頃の季節だったっけ、と思いついた。
「えっと、ご…」
「…ご?」
 カカシが訝しげな顔をする。
「強姦、記念日?」
 なんちゃって、と言って後ろ頭に手を当てあははと笑ってみたが、カカシの点になってしまった目を見て硬直する。
 違ったか、やっぱり。
 汗がだりだりと流れる。
 と、いきなりカカシがばたんと倒れ伏し、しくしくと泣き出した。
「い、イルカ先生、酷いっ 俺をいじめてるでしょう」
「いじめてなんんかいませんよ? ほんとです、俺、本当にわかんな、い…」
 カカシがガバッと起き上がってずずいと身を乗り出してきたので言葉に詰まる。 カカシはそのまま覆い被さるように顔を近づけると、目をじーっと覗きこんでから、がくぅーっと再び頽折れた。
「イルカ先生が記念行事ごとに弱いのはよっく判りました。 俺の誕生日の時もほんとのほんとに知らなかったんですね。」
 まだ疑ってたのかこの人は、と内心びびりながら俺はこくこくと頷いた。
「今日はあなたの誕生日じゃないですかぁ」
「え……、ああ、そう言えば…」
 カカシは、はぁーーっとまた大きく溜息を吐いた。

 自分の誕生日など、十二のあの時から無くなってしまった。
 そんな余裕も、期待も、望みも、何もなかったのだから。
 自分にとって五月は、唯の風亘る皐月でしたかなかったのだから。
 中忍に成りたての頃は、どの日もどの日も唯の一日だった。
 寒いか熱いか、雨か雪か、満月か新月か…
 季節は任務を粉す為の重要なデータで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 教職に就いてからは、アカデミーの新学期も漸く落ち着き、新入生や新学年の子供達の緊張も解け出す頃。
 逆に気が抜けて心のバランスを崩し鬱状態になる子が出る時期、それが五月だった。
 イルカはいつも他人の事で走り回っていた。
 気が付くと既に梅雨に入り、六月を迎えていたものだ。
 母が自分を産んでくれたその日は、ずっと唯の普通の一日だった。

「ごめんなさい、俺…、自分の誕生日なんて長い事全然思い出しもしなかったから」
 それにしてもカカシさん、よく俺の誕生日なんかご存知でしたね? と前にもしたような気がする質問をうっかりしてしまって、また後ろ頭に手をやったままダリダリと汗を掻いた。
「そ、そう言えば何とか言うデータブックに載ってましたっけ、ね」
 焦って笑って誤魔化そうとすると、そんな自分をカカシはじっと黙って何とも言えない表情で見つめ、いきなりぐいと抱き締めてきた。
「イルカ先生、お誕生日おめでとうございます。」
 生まれてきてくれて、ありがとう。
 来年も俺とこうして過ごしてください。
 そう耳元で囁かれる。
「あ、ありがとう、ございま…す……」
 カカシの肩に顎を乗せて天井を呆然と見つめながら、零れる涙をどうすることもできない自分に驚いていた。 
 カカシが背中をぽんぽんと叩いている。
 叩かれる度に、溜まった涙がころっころっと零れていった。
 カカシの背中に腕を回し、肩口に顔を埋めてぎゅっと抱きつくと、堪らず声を押し殺して泣いてしまう。
 カカシはただ背を撫でながら、ずっと抱き締めていてくれた。

     ・・・

「でも、カカシさんがそんなにアニバーサリーに拘るタイプだったなんて、意外です。」
 目元を赤くしたイルカが可笑しそうにそう言った。
「俺だってね、あなたと付き合う前はそんなもの屁とも思いませんでしたよ。 でも、あなたが余りにも頓着ないから」
 余りにも自分に執着ないから、と心の中で独りごちる。
 あなたを縛れるものなら何でもいい、俺は利用してあなたをこの世に繋ぎ止めるよ。
「因みに、”強姦記念日”は来週ですから」
 お楽しみに、と嫌味たらしく言ってやると、イルカはたいそう慌てて言い繕った。
「あの、さっき間違えたのは態とじゃないですよ? もしかして根に持ってます?」
 カカシさん?と心許無げに俺を伺い小首を傾げるイルカを心底かわいいと思う俺も、相当末期だ。
 俺は真剣に”強姦記念日”の催し物を考えた。





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