聖域
-SANTI-U-
6_2
***
「おい、カカシ…」
「わかってる!」
カカシは大声でアスマを制した。
「判ってるから、外してくれないか。 そっちは任せた。」
「おう」
アスマは一言答えると、イルカによって半殺しにされたその上忍の襟首を掴んで部屋を後にした。
「イルカ先生」
まだクナイを握り締めて自分の首に押し当てたまま硬直しているイルカに向き直り、カカシはそっと名前を呼んだ。
「イルカ先生、クナイ離して?」
そう言ってイルカの手首をそっと掴むと、ぎっちりと握られたイルカの指をひとつひとつゆっくりと剥がしながら、強姦した翌々日の夜、自分を迎えたイルカが玄関ドアのノブから手を離せなくなった事を思い出していた。 クナイを離しても強張りを解けないイルカの手を握って優しく揉み解しながら、首筋に付いた傷に布を押し当てる。 出血はたいしたことは無かったが、罷り間違えば命を落とす場所だった。 はっはっと浅い呼吸を繰り返して硬直していたイルカが、やっと少し緊張を解きその目に焦点を結び出した頃、カカシはそっとその体を抱き締めて宥めるように髪を梳いた。
俺はいったいこの人の何を見ていたのだろう。
この人が何でも許す人だなんて、とんでもない勘違いをしていた。
このまま気付かずにいて、もしこの人に今日のような事があったら、俺は確実にこの人に置いて逝かれていたのだ!
よかった、今気付くことができて…
「イルカ先生、ね、俺を見て?」
イルカがぼーっと目を合わせる。
「よく聞いて、イルカ先生。 大事な話です。」
カカシは、できる限りの言葉を尽くして、イルカに訴えた。
・・・
イルカから式鳥がきたのは夕方。 任務で里外に出ている時ならいざ知らず、同じ里内に二人とも居てイルカから鳥が来るなど初めてだった。 アスマと二人、上忍控え室に屯していると、見覚えのある白いその鳥が来てカカシの肩に止まった。
「イルカ先生?」
鳥の言葉を待つがそれは何も告げず、またぱっと飛び立って頭の上を二三度旋回して飛び去る。 カカシは何も考えずに鳥の後を追って窓から飛び出した。
「お、おいっ カカシ!」
アスマの驚く声が背中に掛かるが、もう振り返ってはいられなかった。
イルカに何かあったのだ。
少し前、授業中の事故でイルカに一悶着あった時、有事の対処法として決して独りで無理をしてはいけないと、懇々と諭したばかりだったが、それでもイルカがカカシに鳥を寄越すことは一回もなかった。 それが来たという事は、余程の事がイルカに起きたということだ。
カカシの背がぞくっと冷えて、ただひとりの人の顔が頭にいっぱいになり、ひたすら無事を祈った。
鳥は一軒の茶屋に入った。
その一室で、イルカは半裸で血塗れになって自分の首筋にクナイを押し当てていた。
イルカの足元には、見覚えのある上忍が既に意識を失って倒れていた。
だが、その左手はがしりとイルカの足首を掴み、右手にはクナイが握られ、イルカの足の間の畳に突き立てられていた。
畳にはその上忍が這ったと思しき跡に血糊が筋を作り、壁に背を貼り付けるイルカの所まで真っ直ぐ続いている。
脇に敷いてある一組の布団は、既にぼろぼろに切り刻まれて血だらけだった。
奥の方に、イルカの物と思しき切り裂かれたベストと額宛が転がっており、布団の回りには荒縄が幾つもの短い切れ端となって散らばっていた。
イルカの手首にもまだ絡まった縄が見える。
「イルカ先生…」
カカシが呆然として名を呼ぶと、イルカはびくっと体を震わし、自分の首に当てたクナイをサクリと突き込んだ。
途端に鮮血が首を伝う。
カカシは一瞬でイルカとの間合いを詰めると、その手とイルカの頭を押さえて力の限りに間を広げようとしたが、思いの外強いイルカの抵抗に遭って血の気が引いた。
「イルカ先生!」
強くもう一度名を呼ぶと、イルカがぎぎっとこちらを仰ぎ見た。
漆黒の双眸から一筋涙がはらりと零れる。
イルカはクナイを突き込む手に更を力を入れた。
「イルカ先生!!」
唯一無二のものを失う恐怖に震え、カカシは必死にイルカの手を押さえながら名を繰り返した。
知らず熱い液体が頬を伝う。
顎を伝って滴り落ちたそれがイルカの頬に数滴掛かった時、イルカが瞠目してカカシの涙を凝視した。
「カ…カ…シ…さん…」
搾り出すような声がカカシの名を紡ぎ、イルカの手からやっと力が抜けて、クナイがその細い首から離れた。
・・・
イルカを襲った上忍は、前からイルカを狙っていた輩の一人としてカカシの記憶にあった。 遅れて追ってきたアスマが膠着している自分達の足元からその上忍を蹴り離し、イルカの手からクナイを奪おうと手を伸ばした瞬間、またイルカがクナイを握り直して首に当てたので、アスマは傍観するしか術がなかった。
---自分の手は拒まれていない
カカシは一縷の希に縋る想いでイルカの手首を掴むと、アスマに退出を願ってイルカと対峙したのだった。
「イルカ先生、お願いです、俺を見て。 俺です、カカシです。」
放心したままの空洞のようなイルカの目に、カカシは一心に心を注ぎ込んだ。
今ここで、しっかりイルカの意識に、二度と同じ事を繰り返さないように刷り込まねば後は無い。
カカシはそう直感した。
この人は、何でも許す人なんかじゃなかった。
この人は、簡単に自分を手放してしまうだけなのだ。
自分自身に執着心が足りない、とは思っていたが、足りないどころの話ではない。
皆無と言ってもいいくらいだ。
俺は、いとも簡単に、この人に置いて逝かれてしまうのだ。
「イルカ先生、こんな…、こんな事で自分で命を絶ったりしないで」
イルカの手も足も、首も、あちこち血が滲んでいたが、カカシはイルカの両肩を掴んで何よりもまずそれを訴えた。
だがイルカは、大きく目を見開いたまま壁際に居るにも拘わらず更に後ろに引こうと背を壁に張り付け、激しく頭を振って当たりに視線を彷徨わせた。
「クナイはもうありませんよ。 あなたを死なせやしません。」
お願いだからこっち見て、とうろうろ彷徨うイルカの顔を両手で掴むと、唇に唇を押し当てる。
「だめっ!」
途端にイルカが胸を強く撥ね退け、拒絶の言葉を浴びせてきた。
イルカの唇は血の味がした。
イルカは手の甲で唇を何度も擦り、ダメです、と繰り返しながら頭を振り続ける。
「あいつが、あ…いつが…」
そう言ったまま後の言葉を呑むと、涙をぽろぽろ零しながらイルカは口を両手で押さえた。
「だめです…、触れないで、俺は…」
「イルカ先生」
カカシが強引に抱き寄せようとすると、イルカは更に体を強張らせ、触らないで、とただ泣いた。
横を向いてカカシから顔を逸らせ、両手を畳みに付いて項垂れて、また目を彷徨わせる。
クナイを探しているのか。
カカシは哀しみに打ちひしがれてイルカから離れ、畳に座り込んだ。
「イルカ先生、イルカ先生は俺を置いていっちゃうの?」
イルカがピクリ手を止めた。
「クナイはここだよ。 イルカ先生、俺をひとりにするの? 俺が哀しくて、気が狂うほど淋しくても、俺を残してひとりでいっちゃうの?」
イルカ先生は平気なの? と繰り返すと、イルカはやっとカカシを見た。
・・・
イルカ先生、お願いです
何があっても、どんな目に遭っても
必ず生きて、生き抜くと誓って
側に俺が居なかったら、俺の所に戻って
側に俺が居たら、俺を頼って
ひとりで決着をつけてしまわないで
ひとりで逝ってしまわないで
俺を置いて逝かないで
お願いです
誰かがずっと耳元で何かを必死に訴えている。
どうしてそんなに必死なのだろう。
自分には何の価値もないのに。
「お願いです、イルカ先生」
気が付くと、カカシが泣いて縋っていた。
「カ…カシさん、俺は…」
イルカは瞠目してカカシを見つめた。
「俺は、あいつに…、俺は…もう」
そこまで言うと、イルカは両手で顔を多い嗚咽も漏らした。
「もう、もう殺して…、いえ、自分でっ クナイくださ…」
こんな自分をもうカカシに触らせられない。
でも、カカシ無しでは生きていけない。
もっと早く行動するべきだった。
こんな姿、カカシに見られたくなかった。
カカシの手は汚させられない。
自分で… 自分でしなければ…
「クナイ…ください」
「イルカ先生」
それまで黙っていたカカシが低く唸るように自分を呼んだ。
「そんなに死にたけりゃ俺が殺してやる。 でも今じゃない。」
先程までの哀しそうな目の色に、更に怒りの色が灯っていた。
「俺が満足するまでおまえを犯ってから、望み通り殺してやる。 それまでは絶対死なせない。」
イルカはふるふると首を振った。
「俺はもう、あなたに抱かれる資格ありません。 もう、だめなんです…」
「何がダメなんだ! どんな奴なら資格なんてあるんだ!」
カカシは大声で怒鳴り出した。
「おまえは最初、俺に縛られて犯された。 何故あの時死ななかった?! え? どうなんだ!」
どうしてって…
どうして、あの時、俺は死ななかったんだろう?
カカシに強姦された時と今と、どこが違うのだろう?
イルカは混乱してきて、カカシを見つめたまま唯頭を振り続けた。
「俺…、俺は…あの時…」
「どうしてあの時死ななかった!」
それは…
「あなた…だったから」
イルカが呆然と答えると、迂愚を言わせず強引に体を抱き寄せられて、きつくその胸の中に抱き締められた。
「あんたは俺の手を取った。 俺の理不尽な暴力にも負けず、その上俺を受け入れてくれた。 どうして今それができないんですか。 どうしてそんなに簡単に俺の手を離しちゃえるの?」
「俺は、あの時は何も持ってなかった。 何も失うものなんか無かった。 でも今は違うっ 俺は、あなたに会って、あなたを愛して愛してもらえて、でも、もう愛される資格が…」
「だから、資格って何なんです!」
カカシはイルカの頭を強く掴んで掻き抱くと、イルカの肩口に顔を埋めて言い募った。
「俺があんたにどんな資格を求めたって言うんですか?!」
「俺は…、他の男に犯されました。」
「それが何だって言うんだ!!」
イルカは愕然として目を見開いた。
後から後から涙が溢れて、止まらなかった。
自分を抱き締めて肩を震わすカカシの背に、そっと腕を回し縋りつくと、更に涙が零れてきた。
「カカシさん、カカシさん、俺、悔しかった、悔しくて哀しくて、もうあなたに会えないって思って、怖かった。」
カカシは抱き締める腕に力を込めて、うんうん、と頷いた。
「カカシさん、痛かったです、胸が張り裂けそうに、痛かったです。」
「イルカ先生、間に合わなくてごめん」
そう言って体を離したカカシは、イルカの顔をじっと見つめ、生きててくれてありがとう、と呟いた。
そして泣き濡れた顔を歪ませて少し微笑んだ。
「手当て、しましょう。」
イルカは、はい、と頷いてカカシの差し出した手を取った。
***
「それに俺が直ぐに落ちるのって、俺の体力云々よりもあなたが上手すぎるっていうか…、感じ過ぎて、快感が激しすぎるっていうか、要するにカカシさんの所為だと思うんですよね。」
ある日閨で、事後にイルカが感慨深げにそう言うのを聞いて、カカシは予てから感じていた事を改めて確認する思いだった。
---この人、天然だ
カカシしか知らなかったイルカが明らかに他の経験から性技の比較をするような危ういことを言っていると、この人は自分で意識していない。 自分の方が上手いと言われているのだから嬉しくない訳ではないが、何か微妙だ。 あれはイルカが望んで経験した事ではなかったが、それでもこの人の一つの経験として蓄積されてしまったと感じて遣る瀬無かった。 あの時自決しようとまでしたイルカが、あの経験を自分なりにどのように咀嚼し消化したのか、カカシには解らない。 だが、それでもこの人が今も生きて自分の側に居てくれる、それだけで充分だと思うことにした。
例の上忍は死にはしなかった。 取り敢えず病院に収容され、その後は里長のみが知るところだ。 上忍に対する傷害沙汰に関しては、イルカはもちろん不問に処された。 カカシはその上忍を知っていたし、腐っても上忍の実力があることも知っていたので、例え閨中で油断していたかもしれなくても中忍にあそこまで遣られた事実に少なからず驚き、イルカの戦闘能力というそれまで余り考えたことも無かった事を考えて、イルカについてまた感慨を新たにした。 そして改めてこの人を戦場には出したくない、と強く思った。 チャクラの総量と性格に若干の問題はあるものの、総合力として既に上忍となっていても不思議でないイルカが未だ中忍でいる理由。 否、三代目火影がイルカを上忍にさせなかった理由とでも言うべきか。 もしこの人が上忍で単独任務を受けるようになっていたら、とっくにこの世にいなかっただろう。 仲間さえいればこの人は生き延びる。 自殺も出来ない。 何故なら、その状況での自分の死が後に誰かの負担になるからだ。 だが、単独任務中の殉職ならば、この人は大手を振って死ねるのだ。 この人は、死に場所を求めている。 それが意識的なものなのか無意識のものなのか、カカシには解らなかったが、イルカをこの世に繋ぎ止めることは容易なことではない、と肝に銘じた。
今も、イルカの自分自身に対する執着心の薄さは相変わらずで、その危うさが益々カカシをイルカに傾倒させる結果となった。 あの事件以来、片時もイルカから離れたくないとさえ思うほど、カカシ自身が被った後遺症とでも言うべき心理状態に悩まされたのだが、当のイルカは程なく傷も癒え、何事も無かったかのようにアカデミーに復帰してしまった。 彼のその強さと危うさの両面を知るカカシにとって、イルカが又しても禄に自分を頼らず一人で立ち直ってしまった事が、淋しくて哀しかった。
「ねぇイルカ先生」
カカシはただ、自分の淋しさを埋めるためだけと自覚しながらも、イルカに問うてみずにはいられなかった。
「真面目な話、あなたほんとに俺に囲われる気、ありませんか?」
もっと頼ってほしいとか、もっと縋って泣いてほしいとか、そんな風に言えばよいものを、と思いながら。
イルカは目をパチクリとさせてカカシを見た。
「それは、俺にアカデミーも忍も辞めて、あなたの家で一緒に暮らせってことですか?」
「そう」
イルカはまたひとつ瞬きをした。
「それは、つまりあの、あなたの、つ…」
「つ?」
「つぅーー、妻になれと、そういうことですか?」
イルカがこれでもかと顔や項を赤らめる。
なになに?
この人何言い出したの?
なんか一人で盛り上がってるし。
「そう、なってくれる?」
カカシは別段、紙切れの契約や世間体的な同居関係を欲しているわけではなかったが、イルカの言わんとしているところが今ひとつ判らなかったので話に乗ってみた。
---でも、”妻”っていい響きだなぁ
そんな感慨に浸りながらイルカの返事を待っていると、イルカがポスッと枕に顔を埋めてしまった。
「い、イルカ先生? 無理強いじゃないですよ? なってくれたらなぁって」
当然拒否されると思っていたので、思わず弱気な言い訳をすると、イルカがパッと顔を上げてカカシを見た。
「俺、うれしです。 妻ってなんか、いいですね」
にこ、と微笑むその顔の可愛さよ!
「ほほほほ、ほんと? イルカ先生、嘘じゃないよね、妻ですよ妻、俺のとこに嫁にくるってことですよ? 判ってる?」
「…嫁……」
イルカはまたポッと赤らんで、枕に顔を伏せた。
「至福ですね」
枕の中でくぐもった声がする。
シフク…
”至福”?
今、至福と言ったか?
それって、この上ない幸せってことだよな?
「イルカ先生っ」
カカシは我慢できなくなってガバリとイルカに抱きついた。
「ねねね、嫁に来てくれるの? 今? 今すぐ? 俺の、俺のつ―妻に」
妻
言っててなんだかこっちが恥ずかしくなってくる。
いい響き…
カカシがうっとりしていると、イルカも枕から顔を上げてカカシに恥ずかしげに答えた。
「はいっ 妻にしてくださいね、カカシさん」
「イルカ先生、うれしいっ」
イルカの体を返し、抱き締めて顔中に接吻ける。
「じゃあ直ぐ引越し、引越ししましょ」
「え? 今すぐは無理ですよ」
「……はぁ?」
カカシはおやつを目の前にちらつかされたままお預けを喰らった犬の心境になった。
なんだそりゃ
「だって、だってだってさっき、今すぐって聞いたら、ハイ、ってハイって…」
「アカデミーも直ぐ辞める訳にはいかないし、里も今いろいろたいへんだから、忍の仕事も入れば断れませんしねぇ」
イルカは何事か指折り数える仕草をし、眉尻を下げてはぁと溜息を吐いた。
「イルカ先生ー」
溜息吐きたいのはこっちだ。
「でも、でも…、じゃあ引越しだけでも、ね? 一緒に暮らしましょ?」
「それは俺、嫌です。」
「…………!」
カカシはパクパクと口を開けたり閉めたりしたが直ぐに言葉が出なかった。
酷いっ
即答だよ、即答!
「なななななんでですかー?!」
「カカシさんちに行った時はいつも俺、アカデミーに行けなくなるじゃないですか。」
「そ…、それはですね、イルカ先生なかなか俺んち来てくれないから、偶に来た時はそりゃ箍が外れるって言うか。 でも、一緒に住んでくれたら善処しますよ? いっくら俺だって」
「それに…」
「そ、それに? なに?」
「カカシさんが任務中、カカシさんの家で待つの、俺嫌です。」
「…」
これにはカカシも何も言えなかった。
気持ちが充分解るからだ。
自分にも経験がある。
でも
「でも、妻になったら待っててくれるの?」
「もちろんです。」
よくわからない。
「どこが…ちがうの?」
「それが妻の務めですから」
う〜
益々わからない。
「妻になったら、俺の家で俺を待つの、嫌じゃないの?」
「嫌、とかそういう問題じゃなくなりますもん。 妻ですよ?妻」
………
ま、いいか
なるべく早く妻になってもらえばいいんだし
「じゃ、じゃあ早く妻になって? ね? アカデミーの引継ぎとか半月くらいで…」
「何年後になりますかね」
「何年後…って、年なんですか? 年単位ですか?」
俺が泣き崩れてこの天然を詰っても、誰も何も文句は言えまい?
「酷いですよ〜、イルカ先生〜」
「うーん、でも将来必ず妻にしてくださいね」
ね、カカシさん?
なんてかわいい顔で小首を傾げられて、俺が否と言えると思う者がいるなら、ここになおれと言いたいのだ。
でもま、答えがYESなのだから、今はこれでよしとしよう。
最近の俺は殊勝だ、と思わなくも無いカカシだった。
己に対する執着心の薄いイルカが、殊カカシに関しては案外深く執着していることを、この時まだカカシは気付かなかった。
アカデミーよりも忍の任務よりも、イルカの中に於いてのカカシのプライオリティがずっと上である事にも、気付けなかった。
もし気付いていれば、それはカカシにとっては将に”至福”であるのに違いなかったのに。
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