聖域
-SANTI-U-
5
Pitch-Black
-SANTI-U after-
ここはどこだろう。
アカデミーのどこかの用具室か。
壁に手を付かされ後ろから犯されている。
片方だけズボンから引き抜かれた足。
胸元まで捲り上げられた上着。
抜いた方の腿を掴み上げるカカシの左手。
胸元で乳首を捏ね回す右手。
項を擽る荒い息。
自分の内部をゆっくり入ったり出て行ったりするカカシ。
「あ… やぁ、ん…」
どうしてこんなことに
もどかしい
イルカは熱くなった体を持て余した。
***
数分前、廊下でカカシと会った。
二言三言言葉を交わした。
今夜の予定を聞かれ、受付の当直だと告げる。
カカシは何か言いたげにしていたが、結局何も言われなかった。
それじゃあと軽く手を挙げて別れた。
筈だった。
あれ? と思った時は回りにいた幾人かの人が消え、自分ひとりが廊下に立っていた。
幻術だ。
そう思って身構えた途端、後ろから口を塞がれ腹に腕が回り
「静かに」
聞き知ったカカシの声が耳元で囁いた。
何か不測の事態かと緊張してじっとカカシの次の指示を待っていると、ネロリと項を舌が辿る。
ふるっと生理的に震えると、後ろで押し殺した笑いが漏れた。
「ん、んん」
「静かに。 解ってると思うけど、回りにはいっぱい人がいます。」
ここはカカシの幻術結界の中か。
自分に回りが見えないように、周囲の人間にも自分達が見えていないが、声は聞こえると?
いったいどういうことなのか
アカデミーで事に及ぼうとしていると?
項を舐め回す舌が耳朶に届き、耳穴に差し込まれる。
「いやだっ」
ぞくぞくっと背筋に震えが走り、イルカは頭を振って抵抗した。
すると、くるりと体を反転させられ、トンと壁に背を押し付けられる。
カカシは両手首を壁に縫い止め、体を押し付けて直ぐに唇を被せてきた。
固く歯を喰いしばり舌の進入を拒んで意思表示をするが、カカシは逆にやる気になったようだった。
「口、開けて」
低く命令する声がする。
「開けて」
目をぎゅっと閉じて頑なに頭を振った。
「開けろ、イルカ」
目を見開くとぽろりと涙が零れて頬を伝う。
「どうしてこんな…」
如何なカカシでも、今までこんな事をされたことなどない。
否、寧ろカカシは外では大概紳士だった。
「今犯りたくなったから」
カカシの無表情な顔が目の前で自分を冷たく見下ろしていた。
カカシは本気だ
こくんと一度唾を飲み込み、もう一度緩く目を閉じると、残っていた涙がつるつると顎まで伝って落ちていく。
そのまま小さく口を開けて上向いた。
ぬるりと舌が入ってくる。
直ぐに口中を乱暴に犯され、服の上から乳首を摘ままれ尻を強く揉まれると、どうしようもなく息が上がる。
頭がくらくらしてきた時、カカシが恐ろしいほど硬く猛ったモノでぐりっと小突き上げてきた。
「ぁ、ぁ…」
「いやらしい顔」
足の間にカカシの膝が捩じ込まれ、既に形を成し始めた自分のモノをぐりぐりと刺激される。
「ん、ん」
唇を噛んで声を堪えるが、その唇をべろりとカカシに舐め解されて我慢できずに喘いだ。
「あ、いや、んむ」
カカシの口に塞がれて、どうにか声は抑えられたが、体は完全に熱くなってしまった。
頽れそうな体をカカシにがっちり抱き締められ、深く舌を絡ませ合って接吻けを交わす。
舌を強く吸われ、手はカカシの背に縋り、唯ひたすら与えられる快感を追った。
「ふふ、もうトロトロだね。 どうする、ここで止める?」
体は焦れてカカシを求めていたが、ここがアカデミーの廊下であるという意識が、僅かな理性を繋ぎ止めていた。
止めなければ、と言う心の声に促され、イルカはこくこくと頷いて力なくカカシの胸を押した。
「ふーん、案外頑張るね」
と不満そうにカカシは言い、じゃこれはどう?、と額宛を外して車輪眼を晒した。
「見て、イルカ先生。」
イルカは思わずその緋色の三つ巴の焔を凝視してしまった。
突然頭の中に、カカシに犯され婀娜っぽく喘いでいる自分の姿が割り込んできた。
大きく足を開かされ、その間でカカシが激しく律動を刻んでいる。
カカシが体を突き上げる度に、恰も自分が突き上げられているような衝撃を覚えたが、別の所から聞こえてくる自分の喘ぎ声にどうしようもなく焦燥を感じた。
抱かれているのは自分だったが、自分ではない。
既に疼いている体が尚一層熱くなる。
自分が抱かれている時には見えようはずがない、自分の足の間で激しく腰を振るカカシ。
その初めて見る光景に眩暈がし、カカシの腰が動く度、びくびくと感じて体が跳ねた。
だが、カカシがその腕の筋肉を隆起させるほど強く抱き締めている体は、別の自分だった。
カカシがふと動きを止めて、組み敷いている別の自分の腰骨を掴むと、ぐるりと腰を回した。
ああっ
掻き回される快感が襲ってくる。
だが、カカシの下で身悶えているのは別の自分だ。
やめてくれっ
いやだ、他の俺を抱かないで
抱くならこの俺を…
「戻る?」
カカシの低い声が耳に囁く。
イルカは今度は首を横に振った。
もう理性は吹き飛んでいた。
「じゃあどうするの?」
「抱いて、俺を」
カカシの胸にしがみついてせがむ。
「早く」
「わかった、直ぐぐちゃぐちゃに犯してあげる。」
悪魔の囁きを耳にして、カカシに抱き上げられた。
***
イルカ
後ろから呻く声がする。
俺の、イルカ
いいよ、すごく好い
あんたの中、熱くて吸い付いてきてきゅうきゅう俺を締め付けてるよ
ああ、いい
「いやぁ、言わないで、ああ、ああ」
アカデミーの一室で絡み合っているという背徳感が、蔦のように体に絡んで締め上げる。
感じる。
何時もより早く、何時もより激しく、快感の波に翻弄される。
自分はなんて淫猥なんだ。
こんな所で淫らに喘いで。
でも、でももう止められない。
カカシが欲しい。
もっと淫らに犯して
もっと喘がせて
カカシの律動が速くなった。
ああ
いい
もっと好くして
もっと激しくして
もっと奥まで突いて
もっと!
・・・
気がつくと、真っ暗闇にいた。
仰向けに寝かされているようだったが、上下も解らない程の暗闇だった。
寒い
自分の体を掻き抱くと、全裸のようだ。
カカシ
カカシはどこなのだろう。
ここはいったいどこだろう。
突然、何も無かった空間に人間の気配が湧き上がり覆い被さってくる。
「カカシさん?」
答えはない。
「い、いやだっ カカシさんっ」
力いっぱい暴れると、両手首を掴まれ頭上に押さえつけられる。
見えているのだろうか。
怖い
「誰? カカシさん? 誰だ?」
いやだーっと叫ぶと口を塞がれる。
ぬるりと舌が差し込まれ、口であることがわかった。
強引に体が足の間に割り入ってくる。
固く怒張したものが押し当てられた。
「ん、んんっ」
全力で頭を振って口を外すと叫んだ。
「カカシさんっ」
たすけて
入ってくる
ああ
犯される
助けて
泣き出すと、上から溜息が降ってきた。
「まだ俺だってわかんないの?」
俺傷ついちゃう、と言うのはカカシの声。
俺は泣いた。
「あ…、ああ、あ… ん…」
何も見えない真の闇に、俺の喘ぎ声が木霊していく。
「ここ、どこ?」
「ないしょ」
「あ、アカデミー、は?」
「さぁ」
「あ、ん、今、何時?」
「さぁね」
カカシは先程から胸元で乳首をしつこく舐っている。
強く打ち付けられる腰は痛いほどに両側から掴まれていて、カカシの太いモノが激しく出入りしている。
イルカ自身は緩急をつけて巧みに扱かれ、袋までやわやわと揉まれて時折先端を舐められる。
唇と舌は、間断なく吸われ舐められ
右手にはカカシの硬いモノを握らされ…
あれ?
あれ…?!
どうして唇があちこち…吸って…?
どうして乳首と自身を一度に舐められてるの?
俺の中にカカシは居るのに、どうして俺の右手にカカシが…
あ、あ?
手が、腰を掴んでいる手以外の手が、俺を扱いてる
俺の右手を掴んでる
俺の左手首を押さえつけてるのは誰?
ああ、あああ!
俺が震えて達すると、呻き声が聞こえて熱く中が濡れる
ずるりとカカシが出て行き
「次、俺ね」
体の脇から声がして
ぐぷっ
…!
先程とは違う律動
違う突き込み方
違う掻き回し方
両方の乳首をふたつの唇が吸う
接吻けも外されない
誰かが俺を口淫し始める
あ?
ああああああ!
俺、俺、輪姦されてる…!
「うっ」
また誰かが俺の中で果てた
もう何回目だろう
ずるずると体内を出て行くモノの感覚に震える
体を起こされ後ろから抱き締められ、誰かの胸に凭れさせられる
指が乳首を捏ね回す
舌が尖った先端をざらりと舐める
前から誰かが両太腿を掴んで押し広げてきた
ああ
また誰かが入ってくる
「い、いや、あ、ああ、ぁん」
そんなに掻き回さないで
もう俺を扱かないで
苦しい
キスしないで
「カカシさん」
時々確かめずにはいられない。
他の誰かに犯されているのではないことを。
一切の光の無い世界では、目が慣れれば見えるというものではなかった。
「はい」
カカシの低い声が耳元で答えた。
「なぁに、イルカ先生」
右側からも
「イルカ」
左?
「俺のイルカ」
俺を突き荒らしている男から…
「イルカ」
………
何人のカカシに輪姦されているのだろう
わからない
何も
何も…
暗闇で俺は唯泣いた。
もうくたくただった。
体をされるがままに動かされて、使われて
何回達かされたのか
何回男を受け入れたのか
どのくらい時間が経ったのか
全くわからなかった。
意識が落ちそうになると、誰かに頬を掴まれ軽く揺すられながら名前を呼ばれ、覚醒させられた。
意識は朦朧としているのに体は絶え間ない刺激に敏感に研ぎ澄まされ
体の奥から湧き上がるうねりが、高くなり低くなりして自分を苛んだ。
今度は誰かが両足を掴みあげた。
両足を胸に付くまで折り曲げられ、ずくんっと深く奥を突かれる。
「あっ そこ、いやっ」
掠れた、弱々しげな声が自分のものとは思えない。
「ここ、好きなんだよねぇ」
狙い済ましてまた突かれる。
「ちがっ い、ああっ」
二つの手が前に掛けられ、竿を扱かれ、先端を抉られた。
「達っていいよ、ほら、気持ちいい?」
乳首を摘ままれ、強く引っ張られ、しつこく捏ねらる度に背筋を通って腰まで痺れが走る。
「好い? すごい締まってるよ」
また奥をぐりっと抉られ、そのままぐりぐりと捩じ込まれる。
「ああ、ああ」
律動が激しくなった。
頭を打ち振って身悶えて、声を上げ続けた。
髪を弄る手、頬に宛がわれる手、首筋を擽る手、腕や腿を擦る手、指に指を絡ませる手、乳首を捏ねる手、俺自身を扱く手…
多くの手に体中を撫で回され
代わる代わるに接吻けられ舌に口中を犯され
体の中では自分には過ぎた太さの熱い塊が激しく注挿を繰り返し
奥の弱い所を連続して突かれ、足先が引き連れ、体がガクガク震え、俺は…
「いやぁ、ああ、ああ、いやーーっ」
・・・
「いやぁっ」
叫んで飛び起きると、隣のカカシの腕に引き戻されて抱き込まれる。
「あ… あ…」
「どうしたの? 怖い夢でも見た?」
カカシは一人だった。
見回すと、カカシの部屋のベッドの中だった。
胸を喘がせ、震えてカカシの顔を凝視する。
なかなか呼吸は落ち着かなかった。
感情も。
「どんな夢みたの?」
はっはっと息を乱す俺を、落ち着いたカカシの色違いの双眸が観察している。
「誰かに輪姦でもされた?」
「!」
カカシの顔は悪戯そうに笑っていた。
「五人の俺と犯ったご感想は?」
一気に溢れ出した涙で視界は滲み歪み出して、もうカカシの顔は見えなかった。
「イルカ先生? 泣かないで、イルカ先生」
もう嗚咽を止められない。
おろおろと宥めるカカシの声も遠い。
俺は体を丸めて泣き続けた。
「ごめんなさい…、イルカ先生、許して?」
帰りたかったが、立てなかった。
毛布を頭まで被って丸まって、もう何分立て篭もったろう。
酷い
あまりにも酷すぎる
顔も見えない真っ暗闇で
あんな風に一度に何人もに抱かれ達かされ弄られ喘がされ
代わる代わる何回も犯され
誰に犯されているのかも判らず
誰に接吻けられているのかも判らず
誰に扱かれ、舐られ、達かされているのかも
何もかもわからない状態で
押さえつけられて
いいように体を使われて
「俺なんかどうせ、あんたの玩具ですっ」
唯の道具です…
また涙が零れ出す。
「イルカせんせぇ、そんなこと言わないで。 俺が悪かったですから」
ね?
カカシは先程から何回も何回も謝っていた。
「あんたが用具室で、もっともっとってせがむから、俺がんばったんですよー」
何ががんばっただ、五人で俺を輪姦しておいて。
聞けば、アカデミーにも自分に変化させた影分身を送ったという。
なんて!
なんて無駄に上忍なんだ!
だいたい、廊下で仕掛けてきたこと自体、言語道断だ。
「すぐ堕ちちゃったのイルカ先生じゃないですかー」
俺があんたに敵うはずないだろう。
どこが弱いか、どこが好いか、全て知られてしまっているのに。
上忍の殺気で脅したくせに。
車輪眼まで使ったくせに。
「もう、あ、あんたとは、別れますっ」
しゃくりあげながら叫んだ。
本気だった。
もうたくさんだった。
歩けるようになったら、すぐ家に帰る。
そうして当分この男とは会わない。
”当分”?
ふんっと鼻を鳴らし、自分の情けなさを噛み締めた時、ぐいと毛布を引き剥がされた。
「別れるって?」
カカシの顔が凍りついたように固まっていた。
「わ、別れますっ もうこんなのや…」
言い終わらない裡にカカシが跨ってきて両手首を掴まれ押さえ付けられる。
「離さないよ、俺は。 離すくらいなら殺すって言ってるでしょ、いつも」
ひくっと喉を詰まらせていると、カカシは尚も言い募った。
「絶対離さない。 解らないなら体に利かせる。」
もうこうなったらカカシは止まらない。
直ぐに下肢を割られ、慣らしも無く捩じ込まれた。
昨夜の荒淫にそこは普通よりは緩んでいたものの、ぴりりと裂ける感覚とともに痛みと熱さが襲ってくる。
「い、痛っ」
だが、律動は躊躇無く荒々しく始められた。
「おまえは俺のものだ、イルカ。 離れるなら繋いで閉じ込める。」
俺のものだ、俺のものだ
顔を歪めて繰り返し、汗を滴らせ、自分の上で体を揺するカカシに涙が出る。
この人はいつもこうだ。
組み敷いてさえいれば離れていかれないというように
繋がってさえいれば安心とでもいうように
お気に入りの玩具を取られまいと駄々を捏ねる大きな子供は、泣きそうな顔で俺を抱き締める。
馬鹿な人だ。
後で俺の血塗れた下肢を見て、泣いて謝るくせに。
俺を嫌わないで、と縋るくせに。
「あ、うう、カ…カシ」
痛みを堪えてカカシに手を伸ばし、呻くように名を呼ぶと、カカシはやっとキスをくれた。
キスをして抱き締めて、首筋に顔を埋めてくるカカシの髪を指で梳く。
「俺のものだ。 離さない。 俺のイルカ」
カカシの泣きそうな声に、胸が締め付けられる。
「はい、あ、あなたの、ものです、ん」
律動は緩められ、優しくじれったい動きに変わった。
徐々に痛みが薄れて快感に摩り替えられ、ゆっくりと追い上げられる。
はっはっとお互いの荒い息遣いだけが聞こえてくる。
カカシの大きな手に自身を強く握られて、大波に浚われるように俺は昇り詰めた。
「あっ あっ ああ」
「イルカ」
カカシが耳元で名を呼んで、ぎゅっと抱き締めてガンガンと激しく打ち付けてきた。
達った体が過ぎた刺激に身悶える。
「あ、カカシ、ああ、ああ」
「ううっ」
ぶるっと腰を震わせ、カカシが果てた。
どっと覆い被さられ、二人で荒く息を吐く。
「あんたは、俺のものです。」
カカシはぎゅうぎゅう抱き締めて、泣き声を出した。
「はい」
「離しませんから」
「はい」
カカシの腕をそっと擦り、背を撫でると、やっと締め付ける腕を緩めてくれた。
「俺はあなたのものです。 ただ俺、こうして二人抱き締め合って繋がりたかっただけなんです。」
「ん、ごめん」
もうしない、とカカシは顔を上げて自分を見た。
なんて切なげな瞳。
ごめん、イルカ先生、俺を嫌いにならないで
キスの雨が顔中に降らされる。
「なりませんよ」
バカですね、あなたは
そう言って髪を撫でると、カカシは泣き笑いを浮かべて答えた。
「あんたが俺をバカな唯の男にするんですよ。」
・・・
下肢の感覚が全く無く、カカシに抱かれて風呂に入った。
カカシは何時になく真面目に体を洗い、抱えて一緒に湯に浸かってくれた。
温めの湯にゆったりと二人で浸かりながら、お互いの手を取り合い指を絡ませ合い、時折接吻けをしたりした。
「俺ね、あなたを強姦した時ね」
カカシがぽつりと初めて最初の自分達の繋がりについて話し出した。
今まで、どうしてあんなことをしたのか、どんな理由があったのか、話そうとはしなかったし、イルカも聞かなかった。
最初は、自分を唯の性的対象として見、興味本位で凶行に出たのでは、と思っていたが、今のこの執着振りを見せられては、そこに何か止むに止まれぬ理由があったのだろうと推測し、それだけでよいと思うようになっていた。
「俺は焦ってました、すごく。 回りはライバルだらけだったし、あんたは中忍試験の推挙の時以来、俺を避けるし」
「俺、避けてました? 前からそれほど親しいという訳ではなかったですよね?」
殆どまともにお話したこともなかったし、それにライバルなんて思い過ごしですよ、と笑うと、あんたは全然解ってない、と最近よく言われる台詞をまた言われる。
「あなたが知らないだけで、あなた物凄くモテルんですよ?」
自覚してもっと警戒心というものを持ってください、と請われてしまう。
「それに、あなた避けてないって言いますけど、あの後ちっとも俺と目合わせてくれなくなったじゃないですかぁ」
「それは…」
イルカは言葉に詰まった。
「それは、俺、あなたに嫌われてると思ってたから。」
分を弁えない、判断も甘い中忍風情と軽蔑されてると思ってました、と正直に当時の心情を告げた。 カカシはふっと溜息を吐くと、後ろからイルカの肩をそっと抱き寄せて首筋に軽く唇を当てた。
「あなたって案外後ろ向きですよね。 特に自分の事となると、時々吃驚するくらいマイナス思考しますしね。」
その所為で後々いろいろと誤算があったとカカシは零した。 一回離れようとした時の事を言っているのだろう、と思った。
「とにかく、俺は相当煮詰まってました。 俺はずっと以前からあなたが好きだったから。」
「え? 何時頃からですか?」
全然気付かなかった、とイルカが驚きを隠せないでいると、カカシはまた嘆息した。
「あなたは相当鈍いですよ」
ま、そのお陰で回りの奴らからの熱い視線にも気が付かず、今まで手付かずで来れたんでしょうけどねぇ、と言われて赤面する。
「あなたは鈍いし、俺は無視されて煮詰まってるし、そこへあんたを輪姦すっていう話が入ってきて」
「ええ?!」
はぁーっとカカシは長嘆した。
「あんた、絶対犯られてましたね。」
「でも俺、何もそんなこと… 無かったですけど」
「そんなの当たり前です。 俺が端から締めて回ってましたから。」
「そう…だったんですか」
「ええ。 でも、上忍師の俺にも時々は任務が入りますし、俺が居ない間にあんたを犯ろうって密かに計画してたみたいで」
「えええ?!」
「それで俺、誰かに先に取られるくらいなら俺が先にって…ね…… ごめんなさい」
カカシは徐に頭を下げた。
「い、いえ… そんな」
イルカは驚愕に軽い放心状態になりながら、守ってくれていたらしいカカシに詫びられて慌てて恐縮した。
「俺はあんたを手に入れた後、あんたはもう俺のものだから手を出すな、出したら殺すと、その筋の奴らに脅しをかけました。 あんたが順調に衰弱してくれたんで、奴らもあんたが毎日俺に犯られ捲くってるって納得して諦めたみたいで、まぁ事実そうだったんですけども」
ごめんなさい、と再び謝られたが、今度はイルカもただ黙って頭を振るだけしかできなかった。 それほどショックな話だった。
奴ら、あんたと俺が合意でそうなったんだと勝手に勘違いしてくれたのが運が良かったんです、とカカシは言った。 もし合意でないとなれば、または、カカシとの関係がまやかしであるとなれば、奴らはあなたにまた手を掛けようとしたでしょう、何となれば俺の留守の間にあなたを襲ってもあなたの申告無しには俺に相手の特定はできない訳ですから、と。
「あなたがあの時、辛かったでしょうけど、俺に逆らわずに従ってくれていたから怪しまれずに済んだんですよ」
カカシはそっと頬に手を宛がうと、愛おしげに何度か撫でた。 イルカが目を瞑ってその手に頬を預けると、体の向きを変えられ向き合って暫らくの間互いの唇を味わった。 離れる時も名残惜しげに何度か舌を絡ませて、最後にカカシがイルカの口元の二人分の唾液を舐め取った。
「あなた、あの時どんどん痩せて、顎なんか尖ってきて、普段アカデミーでも笑わなくなってぼーっとしてばかりいて。 でも夜のあなたは段々色っぽさに磨きがかかってきたって言うか、体の強張りも解けてきて俺に体を預けてくれるようになって、かわいく喘ぎ声も上げてくれるし、俺の手で達ってくれるし、俺正直あなたに完全に溺れてました。 昼のあなたは見ないようにして、夜になるとあなたの家に通ってあなたを抱かずにはいられなかった。」
でもあなたは、俺が最初に触れようとすると必ず体をぴくっと竦ませてた、とカカシは寂しそうに笑った。
イルカは正直なところ、別の人間の話をされているようで、ただ黙ってカカシを見つめて聞いていたが、延びてくるカカシの手にどうしようもなく怯えていた頃の自分を思い出し、当時の感情がまざまざと蘇ってきた。
「俺、あなたが怖かったです。」
ん、とカカシは頷いた。
「あなたは実際にはずっと優しかった。 最初の晩以外はですけど。 時々血の臭いをさせて来られた時のあなたは正気じゃないと直ぐに解りました。 だから、体は辛かったけど、最初の晩ほどは怖くはなかったんです。」
俺のトラウマは、全てあの最初の晩のあなたなんです、とイルカも初めて気持ちを話した。
「あの晩のあなたは、なんて言うか、全身で俺を犯すって言ってるみたいで、あなたの目も俺の何もかもを奪い尽くすぞって言っていて、俺はずっと一晩中、生きたまま猛獣に喰らわれてるように感じてました。」
怖かった、と細く息を吐き出すと、ん、とだけ言ってカカシは切なそうに髪を撫でてくれた。
「どうして俺なんだろうって、ずっと思ってました。 それは今でもそうなんですけど」
イルカが首を傾げてカカシを見ると、カカシは黙ってじっとイルカを見つめ返して問い返した。
「それは、俺があなたのどこに惚れたかっていう事ですか?」
イルカはひとつ頷くと、今までずっと疑問に思っていた事をやっと口にした。
「あなたが俺を好いてくださってることは信じます。 好きな相手を強姦するだろうかって考えたこともありましたけど、今は信じてます。 でも、正直俺はどうしても解らないんです。 俺のどこがそんなにあなたを惹き付けたんですか?」
俺にそんな所、ありますか? と問うたイルカは至って真面目だった。 だがカカシは笑って、それがあなたの後ろ向きな所だって言うんですよ、と茶化した。
「俺、あなたの近くにいるようになって、あなたが余りにも自分自身に執着が無いので吃驚しましたよ。 吃驚した以上に焦りました。 このままじゃいずれあなたは、直ぐに俺を置いて逝ってしまう。 俺はそれが何より怖い。」
そう言ってイルカを引き寄せると、ぎゅっと抱き締めた。
「俺を置いてかないで」
カカシの声が震えている。
イルカは母親に縋る子供のようなカカシの、その広い背を擦り、でも、と続けた。
「俺、さっき大勢のあなたに抱かれてた時、何度も名前を呼んで確かめましたよね?」
「あ、ええ、そうですね」
「真っ暗で何も見えなくて不安で、怖かった。 俺、もしあなたじゃない誰かにあんな風に犯されたら、その場で」
カカシがさっとイルカの口を塞いだ。
「言わないで、言わないでください。」
カカシはじっとイルカの目を見つめ、
「俺はそれでもあなたに生きていて欲しいです。」
と言ってイルカの手を取り、指に恭しく接吻けた。
俺たちは忍です。
もっと酷い目にも会うでしょう。
でも、どんな目に会っても必ず生きてください。
どうか自分の命にもっと執着してください。
それで俺の元へ必ず還って。
お願いです。
カカシは切々と懇願した。
「カカシさん、俺は今までそんな事考えたこともなくて、正直よく解らないんですが、自分が生きることにその、あまり一生懸命でないと言われた事も初めてで、どうしていいかも解らないんですけど、でも俺は多分何かあった時、あなたに会いたくて、ただもう一回会いたくてそれだけでも生き残ろうとすると思います。 こんな気持ちは初めてです。 多分これが執着心なんだと思います。」
自分自身に対する執着心とは違うかもしれませんけど、それじゃダメですか? と問うと、カカシは数瞬固まったように動かずイルカをじっと凝視してからくしゃりと顔を歪めて、それで充分です、と呻くように言ってイルカを強く抱き締めた。 イルカは少し考えて、俺が他の誰かに犯されても、あなたの所に戻ってもいいですか? とカカシの腕の中で震える声で再び問うと、カカシは抱き締める腕に力を込めて、当たり前です、と強い声で答えた。
もう冷めてしまった湯の中で、体をぴったり寄せ合って、唯お互いの体を抱き締め合う。 カカシの片手に頭を掴むように掻き抱かれ、もう片方の手で腰を強く引き寄せられたイルカは、有らん限りの力でカカシの広い背中に縋るように両腕を回した。 カカシの体は温かく、その肩口に唇を押し付けて、自分の首筋に顔を埋めるカカシの頬に頬を摺り寄せる。 触れ合った所から、カカシの体温が伝わってきた。
暖かい腕、暖かい胸、暖かいカカシ。
イルカは、その腕の中で心底安堵している自分を知り、
カカシと出会えた事を、生まれて初めて超越した存在に感謝した。
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