聖域
-SANTI-U-
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聖域・裏 カカシ
-SANTI-U underground, side KAKASHI-
最近のイルカは変だ。
言ってみるなら、猫だ。
イルカは俺に犬耳と尻尾が見える、と言うが、俺には黒い尖った猫耳と長いくねくねと動く尻尾が見える。
昨夜も最中に余りにすりすりしてくるので、猫みたいですね、と言ったら噛みつかれた。
「イルカ先生、猫みたい。 かわい〜」
言った途端イルカは、擦り付いていた俺の首筋にカシリと噛み付き、ニャオンと鳴いて噛み跡をぺろぺろ舐めた。
俺の理性の糸は細いし脆い。
今日、イルカがアカデミーに行けなくなったのも、強ち俺の所為だけとは言い切れないと思うがどうか?
変わったのはやはり、例の”着替え覗き事件”からだと思う。
正確に言えば、翌朝、イルカの家の玄関先で震えていた俺を中に入れてくれた。
あの後からだ。
イルカは出入り禁止と言った。
それでも俺が震えて泣き付けば、家に入れずにはいられないイルカ。
剰え風呂に入れ、暖かい食事を用意し、俺の髪を撫でてくれる。
そうやってどんな事でも全て許してしまうんですね、イルカ先生。
俺はそれが凄く心配です。
イルカにとって俺は、そうやって許してきた多くの物の一つに過ぎないのではないか。
そう思わずにはいられない。
何せイルカは、強姦した俺を許し、両親を殺した九尾の器、ナルトでさえも許している。
「違います、カカシさん。 俺がナルトを許してるとか、そういうんじゃありません。」
ベッドから出られないイルカが俺に向かって手を伸ばす。
「ナルトに出会わなければ今の俺はありません。 俺の方がアイツに生かされてきたんです。」
それに、と続けながら、ベッドの端に座りイルカの手を取った俺の指にイルカは指を絡ませてきた。
「言ったでしょう? 俺はあなたが好きです。 あなたは特別なんですよ?」
胸が詰まって、キスしていいか、と問うと、もう片方の手も伸ばしてきた。
覆い被さってキスをする。
イルカの両腕が首に絡む。
深い接吻けをするとイルカは自分から舌を絡めてくるが、それはあの頃と同じ。
イルカを強姦し調教しているつもりだったあの頃、教えた通りに舌を差し出してくるものの一向に上達しなかった拙い仕草。
その拙さが俺を煽るのをこの人は知らないのだ。
形を成し出した自分に苦笑し、イルカの唇を啄ばみながら問う。
「ね? イルカ先生」
「ダメです。」
「………」
「無理です。」
もうっ
言う前から釘を刺されて項垂れる。
そんなに顔に欲が出ていただろうか。
脱力してイルカに覆い被さると、重いです、と首元でくすくす笑われる。
くすぐったい。
重くしてやる〜、えいえいっと体重を掛けているとイルカの両手が背中に回り、きゅっとしがみついて
「気持ちいい」
と吐息とともに言われてしまう。
この後、俺の理性の糸がまたもや切れてしまったとしても、全部が全部俺の所為ではないと思うがどうか?
「ん、無理ですって言って…、あっ」
腕の中で震えるイルカの背中は、快感の為と言うよりも痛みの方が勝っているのだろう。
解っている。
でももう止められない。
俺は既にイルカの中に居る。
震える体を抱き締める。
愛している。
狂おしいほど。
強姦した時もそうだった。
理性など、何の役にもたちはしない。
片手で胸を弄り、片手で力の無いイルカ自身を握る。
「ああ、ほんとに無理、です、あああっ カカシさんっ」
イルカの声が涙声になる。
痛みに耐える、呻くような喘ぎ声。
シーツを掴み引き寄せて握る、震える指。
荒く呼吸を繰り返し、上下する肩。
しっとり汗を掻いた頬、項、背中。
そして、俺自身を吸引するように包み込み離さないアナルの粘膜。
「イルカ先生、明日も休んでください。」
俺は、イルカの背中から覆い被さり、シーツを握り締める手を上から掴んで指を絡ませると、激しくイルカを突き上げた。
自分の中の獣が、檻の扉を破って飛び出すのを俺は許した。
***
俺達は体の相性がぴったりいい、という訳ではなかった。
標準より華奢めなイルカは、俺の若干大きめの一物を迎え入れる時かなりの負担を強いられる。
俺に我慢が足りない所為もあるが、大概イルカを歩けなくしてしまう。
初めての時は無理矢理だったこともあり用意なども有りようはずも無く、イルカも随分抗ったので、やっと自分を収めた時は濃厚な血臭の中に居た。
もちろん次からは毎回丹念に濡らして解して、なるべく傷付けないように気を使ったが、事後は必ずイルカは立てなくなった。
暗部の任務の後、意識朦朧として抱いてしまった事も何度かあり、その時も気がつくとイルカの局部は血に塗れていた。
自覚してからは、暗示をかけてでも暗部の任務後にイルカの家の戸を敲かないようにした。
その分を償うように、普段はできるだけ優しく丁寧にイルカを抱いたつもりだったが、イルカが翌日アカデミーを遅刻・欠勤することが多いのを知っていた。
それでも、抱くことを止めることはできなかった。
感情では、焼け付く程にイルカそのもを求め、肉体はイルカの体に溺れていた。
苦しそうなイルカが少しでも楽になるように、快楽の求め方を教えたが、まさかその事が自分の首を締めようとは思わなかった。
従順に性技を覚え、徐々に素直に喘ぐようになり快楽に乱れる様はこの上なく愛しくかわいかった。
俺は益々イルカに溺れ、毎夜のようにイルカの元へ通った。
だが、程なくして俺はそんなイルカを見ていられなくなった。
イルカが淫猥に体を揺すると、体は震えるほどの快感を得たが、感情のほうは悲鳴を上げ出した。
イルカ、愛しい人。
彼は俺を一度たりとも見ず、ただ淫らに体を揺する。
まるで相手が誰でも同じだと言わんばかりに。
俺はイルカが見知らぬ何人もの男達に輪姦され悦んで腰を振り乱す夢に魘されるようになった。
俺は、イルカを手放す決心をした。
イルカを解放し、俺が近づかなければ、イルカは元のあの”イルカ先生”に戻ると単純に思ったのだ。
バカだった。
イルカはみるみる衰弱していった。
離れてからも心配で、できるだけ遠くから見守っていたが、思わず側に駆け寄ろうとしとことは一度や二度ではない。
それでも、時間が全てを解決してくれるとまだ思っていた。
だがあの日、俺の元を訪れたナルトにイルカの様子を聞かされ、居ても立ってもいられなくなった。
ナルトはイルカが倒れたと聞いて見舞いに行ったと言った。
戸を敲いても返事はなかったが、明らかにイルカの気配があった。
消そうとして消しきれない弱々しいイルカの気配に焦り、何回も戸を敲き名を呼んだが応えは無かった。
明らかに居留守を使われた事に多大なショックを受けて、ナルトは自分の元に来て泣いて訴えた。
誰がイルカ先生をあんな風にした、と。
何故ダメなんだ?
もう取り返しがつかないのか?
俺のした事は、そんなにイルカを壊してしまったのか?
気がつくとイルカの部屋に居た。
あの時の、虚ろなイルカの顔を俺は一生忘れない。
***
意識の無い体を抱えて風呂場に行く。
浴槽の縁に体を凭れさせシャワーを当てて局部に指を入れると、どろどろと自分の吐き出した物が流れ出てきた。
「…ん」
折り曲げた指で中を掻き出していると、イルカの背がぴくりと揺れる。
まだ獣は檻に戻らず、のしのしと行ったり来たりを繰り返している。
まだ足りないと呻っている。
華奢で体力のないイルカは、限界を超えると直ぐに意識を手放すという方法で逃げる。
最初がいけなかったのかもしれない。
同じ男に強姦されるというストレスは、如何ばかりの精神的・肉体的負担だったか。
そう思うが、もう少し体力をつけてもらいたいというのも本音だった。
意識のない体を犯したことも少なくない。
だが今日は、もう少しで覚醒しそうだった。
意思を持ってアナルの一点を押す。
「あっ」
反射なのだろう、イルカは仰け反って声を上げた。
イルカが背を撓らせる姿が好きだ。
美しいし官能的だ。
俺の中の雄が刺激される。
もっと、と声がする。
イルカはまだ朦朧とし、自分の状況が解らないようだった。
二度、三度と前立腺を押す。
「うっ ああっ」
普段より甲高い声が浴室内に響く。
差し込んだ指がきゅうきゅうと締め付けられる度に、自分自身がそうされている時の快感を想起させられ堪らない。
緩く勃ち上がりかけたイルカ自身を掴み、アナルへの刺激と同期させて扱く。
「あああっ い、やぁぁっ」
悶える体を後ろから抱き込み、指を三本に増やし、前を扱く手はより淫らに動かし、項に吸い付く。
イルカはガタガタと震え出し、細い叫び声とともに果てた。
中の指が痛いほど締め付けられる。
がくりと床まで落ちそうになった体を抱き止め、まだ震えるイルカ自身を根元から先に向けて搾り出すように扱く。
「うあ、やめ、てぇ」
腕の中で戦慄くイルカを抱き締めて、抱き締めて、体中を弄り口づける。
「…カカシ、さん」
「なに?」
はぁはぁと息を乱しながらか細く名を呼ばれ、耳に齧りついて答えると、幼い舌足らずな言葉が返ってくる。
「ここ、どこ?」
「風呂場、俺んちの」
「あなたの、の?」
「そ」
「じゃ…こえ…」
「うん? なに?」
「声、出して、へ、き?」
「ん」
うふふふっと思わず笑ってしまう。
「あなたの家じゃないよ。 遠慮なくどうぞ。」
「ん」
イルカはへらっと笑ったようだった。
「挿れるよ」
「ん、待って」
イルカは、ぐずるようにして弱く抗った。
「もう少しだけ」
「待たない」
腕の中で身じろぐ体を抱き締めるように拘束する。
向かい合って抱き締め合うのは勿論好きだが、こうして後ろから抱き竦めて動きを戒めると何故か安心するのだ。
絶対離さないし、誰にも渡さないし、逃がさない。
イルカを抱き締めながら強く思う。
項を激しく吸いながら、もうぎんぎんとして先に滑りを纏っている自身をイルカのアナルに擦りつける。
「あ、おねがい、まだ…」
「だめ、待てない」
ぬぷっと先だけ潜らせ、浅い場所を行き来させるとイルカは悶えた。
「あ、ん、やぁ」
「いや、じゃないでしょ?」
「いや、です」
「じゃ、どうして欲しい?」
「ん、んん」
イルカはじれったそうに腰をゆらゆらさせた。
いやらしい仕草だ。
直ぐにでも奥まで突き入れたい気持ちを抑え、イルカを焦らす。
「ほら、ほら」
ぐぷっ くぷっといやらしい音が欲室内に響いた。
「ん、挿れて、奥まで」
「いい子」
正気の飛んだイルカはかわいい。
顎を掴んで後ろに捻向け、唇を舐めるとちろちろとイルカの赤い舌が覗いて応える。
一生懸命だねぇ
「いくよ」
ぐぷぷっと最初だけ音がして後はイルカの叫び声に掻き消される。
「あ、あーーーっ」
「もっと叫びな、ほら、ほらっ」
腰を強く掴んで最初から思い切り掻き回し、叩きつける。
「んっ んんっ うあっ あん」
「イルカ」
「あ、か、カカシさんっ」
イルカの前を掴んで強く扱くと中がきゅうっと締まった。
「あ、ああっ」
「う、す、っげぇ締まる」
イルカの背中に自分の胸を貼り付けるようにぴったり抱き締め、イルカ自身を容赦なく扱きながら体全体を揺すり上げる。
イルカは殆ど身動ぎもできず、びくびくと体を震わせて喘いだ。
「ああ、離して、いやぁ」
「まだ、俺が達くまで待ってて」
張り詰めたイルカの根元を押さえて律動を激しくする。
「いやぁ、はなして、ああ、ああっ」
イルカは身悶えて泣き叫んだ。
だめだ、もっと悶えろ、もっと泣き叫べ
自分の中の凶暴な獣が、イルカという生贄を骨まで喰らい尽くそうとして止まらない。
「イルカ、俺のイルカ」
がしがしと扱くと、これでもかと中が締まり、射精感が抑えられずに登り詰める。
イルカの中に熱い飛沫を叩きつけると同時にイルカを解放してやると、イルカもびゅっびゅっと白濁を飛ばした。
休まずイルカをしこしこと扱いて、最後の一滴まで搾り取る。
「あ、や、ぁ、う」
わなわなと震える体を抱き締めて胸に凭れさせるように起こし、尚も緩くイルカを扱きながら空いた手で乳首を抓ると、ぴくんぴくんと体を跳ねさせ、その度にまだ中に居る俺を締め上げられて、俺はすぐさま力を取り戻した。
「全然、萎えないよ。 まだ全然足りないよ」
俺は硬くなった凶器でイルカを中からぐいと突き上げた。
「ぅ、ぁ、も、むり」
「だめだ、足りない、イルカ、イルカ…」
俺はうわ言のようにイルカの名を繰り返し、腿の下からイルカの体を掬い上げて胡坐をかいた。
イルカの体を持ち上げてはずんっと落とす。
「ああっ あ… ああっ」
ずるっと引き出される時イルカは俺の肩に仰け反って戦慄き、ずんっと落とされるとがくがくと体を震わせた。
「も、いや、ああっ カカシさ、…ねが、あ… ああっ」
そう言いながらも、イルカ自身もまた緩く立ち上がりかけてきて、揺すられる度にぷるぷると震えだした。
「また勃ってきたよ、まだ達けるでしょ」
俺はまだ半勃ちのイルカを掴むと、乱暴に扱いた。
「あうっ うー、あ、も、さわらないで、んっ」
俺を受け入れたまま、俺の胡坐の上で体を悶えさせ、イルカが喘ぐ。
もっと喘がせたい。
またぞろ凶暴な欲求が湧き上がってくる。
もうこれ以上はかわいそうだ
もう止めなければ
そう言う自分の声もするのだが、体は勝手にイルカを苛んだ。
完全に勃起したイルカを握り、先端を指で抉りながら乳首を捏ね回す。
イルカの先端からは透明の汁がたらたらと零れ、ぴくぴく震えていた。
「あ、もう、もういやぁ、許してぇ」
イルカが頭を振り乱して泣き叫んだ。
「こんなに悦んでるじゃない、あんたのここ。 もう精液も出ないのに、ぴくぴくして悦んでるよ」
「カカシさ、あーー、あーーー」
イルカはとうとう肩を震わせて泣き出した。
しまった、と思う気持ちと、泣き声に更に興奮する自分とがいた。
「泣きながら喘がれると燃える」
俺は欲望に負けて大きくイルカを上下に揺すり、泣き声の混じったイルカの喘ぎ声を欲室内に響かせた。
「あっ あーっ 許してぇ、あーっ」
俺の肩に頭を預けて目を見開いてイルカは嬌声を上げ続けた。
ああ、まずい
壊しちゃいそう
注挿を速め、激しく揺すり、イルカが引き攣ると同時にイルカの中にまた注いだ。
「イルカ、俺のイルカ、どんなに泣いても、おまえは俺のものだ。」
繋がったままの体勢でイルカに接吻ける。
頭を掴まれ捻られて、イルカは苦しげに呻いた。
ぐったりしたイルカの体を今度こそ洗い清めて、ベッドに戻り、新しいシーツに替え、イルカを寝かせ自分も横たわる。
イルカはうつ伏せて顔を枕に埋め、こちらを見ようとしなかった。
「イルカ、大丈夫?」
遣りすぎた、と後悔の念に苛まれ始めてきた俺がイルカに声を掛けると、イルカはぴくんと肩を揺らしたが無言で頭を二三度小さく振った。
「イルカ、こっち向いて」
肩を掴んで少しばかり強引に体を返すと、イルカは両手で顔を隠し、啜り泣いていた。
「ごめん、イルカ、体辛い?」
顔が見たくて腕を外そうとすると、イルカは頑なに拒んで泣き続けた。
「そんなに泣かないでよ、イルカ、何か言って?」
尚も言い募ると、やっと小さく声がした。
「俺は……すか?」
「え、何?」
「俺はっ あなたの玩具ですかっ」
イルカが叫んだ。
***
あの日、再びイルカの元へ足を運ぼうと決心した夜。 ぼんやりと俺を仰ぎ見るイルカの痩せ細った体が、尖った顎が忘れられない。 無理矢理、関係を強要し続けていた時でさえ、ここまで衰弱することはなかった。 いったい何が悪いのか。 俺さえ居なくなれば元に戻れるはずじゃなかったのか。 俺の存在がこの人を追い詰めていたのじゃなかったのか。 それとも、もう取り返しのつかないくらい、俺はこの人を追い詰めてしまっていたのだろうか。 どうしたら償える? どうしたら元のあのおおらかなイルカに戻ってくれるのだ。
それなのにこの人は、俺が痩せたと言って優しく抱き寄せてきた。
俺は、この人を強引に犯した事や、その後も無理矢理関係を強要し続けてきた事に関しては、後悔していない。 あの時はそれが必要だったのだ。 いろいろな事情が俺にそれをさせたのだ。 言い訳をして自分のした事の正当性を押し付ける気は更々なかったが、それに関して謝る気もなかった。 もちろん、してしまった事自体の罪は充分理解しているし、それについてイルカに出来るだけの償いをすることは厭わない。 だが、まさかイルカがこんな風に自分を受け入れてくれるとは思ってもみなかった。 あのままイルカに頑なに拒み続けられていてもいい、自分はこの人の前にただ手を翳し続けるのだと、思っていたのに。 イルカは何も問わず詰らずに、俺の手を取ってくれた。
「何か一緒に食べませんか」
と、イルカは言った。
急に腹が減ったから、と。
共に食卓を囲んだことの無かった関係だったので、何かとても新鮮だった。 普通の恋人同士なら、抵抗無くやっているだろうことなのに慣れなかった。 自分達の関係はただ、閨の中だけにあったから。 イルカが食べ物を口にするのを見るだけでほっとする自分がおかしかった。 だが、その動く口元に欲情する。 まずい、と思い、食事が終わってそそくさと帰ろうとする自分を、イルカが引き止めた。
「帰るんですか?」
頼りなげな表情で見上げてくるイルカに、内心ほとほと困った。 泊ったりしたら自分を抑えられる自信がない。 この人は、やっと戻ってきた元の生活に未練がないのだろうか。 だが、自分を卑下するようなことを言い出しおどおどと詫びるイルカに腹が立った。 何か勘違いをしているようだが、露ほどもこちらの意図を汲み取ってくれていないらしい態度に、無性に腹が立った。 少し声を大きくすると、体をびくりと竦ませる。 それは自分が最初に手を伸ばす時にいつもイルカが見せる怯えと同じで、やはり今日は帰ろうと哀しく思った。 それなのにこの人は、一緒にいてくれれば眠れるから、と俺の手を取り続ける。 不思議な人だと、思った。
強姦した男を躊躇無く泊めることを浅慮だと詰ると、人の顔を不思議そうに見つめて若干顔を綻ばせる。
もう呆れて、湧き上がった情欲も少し落ち着き、おとなしくすると約束すれば、今度は戸惑う表情で俺の手を引いて廊下の途中で二人顔を突き合わせた。
それから俺に真顔で尋ねたのだ。
「もう俺を抱かないんですか」
と。
どういうつもりでこんな事を言うのかと、真意を問い質さずにはいられなかった。
自分の中では、イルカを直ぐにでも抱き締め、衣服を剥ぎ取って、めちゃくちゃに犯したい衝動が逆巻いていた。
だが、何の為にイルカの手を離したのだ、と問う自分もいた。
せっかくもう一度手を取ってくれたのに、また間違いたくはなかった。
イルカは、俺が手を離した理由を聞きたがった。
もう要らないのか
もう飽きたのか
面倒くさくなったのか、とまで言われた。
正直、この人馬鹿かと思ったものだ。
俺に抱かれたいか、と問うて、イルカの口から「抱いて」と言われた時の俺の中の嵐を、どう抑えられよう。
「あなたが欲しい」と喘ぐように言われて、目の前が真っ赤に染まる。
だが、愛撫を施し焦らされたイルカに「早く」とせがまれた時、脳が溶け出すかと思うほど激しく欲情したが、同時に、ああこの人は俺にこんな体にされてしまったんだ、と哀しくなった。
強姦されたことを差し引いても、俺に抱かれることを選んだ。
この人が望んでいるのは、ただ体の関係なのだ。
この人をこんな体にしたのは自分だ。
でも、それでもいい。
今は差し出されたこの人の手を、俺は取る。
この人の側にいて、この人に掛かる火の粉を払いながら、この人が食べられて眠れれば長上だ、と思った。
俺は側にいられればそれでいい。
拒まれなければ、充分だ。
心まで望むのは、あんな事をした自分には過分の希だ。
この体だけでいい。
この体は俺のもの。
そう思っていた。
それなのに、イルカは俺を好きだ、と言った。
***
「あなたは…、時々俺の体で遊ぶ。 あなたが欲しいのは俺じゃなくて遊べる体です。」
体に飽きたら捨てるんです。
そう言って、イルカは目を固く閉じた。
「あなたが、俺のイルカって言う度に辛くなるんです。 あなたが背を向けて出て行った姿が忘れられないんです。」
「あれは…っ」
思わず詰まると、イルカは顔を覆って嗚咽を零した。
「あなたは、どうしてあの時俺を捨てたのか、教えてくれなかった。 俺は自分の何処がいけないのか解らない。 きっとまたあなたは俺を捨てる。」
「あれは、その方があなたの為だと思ったから!」
「俺のこと、捨てました。 カカシさん、俺のこと要らないって」
「要らないなんて言ってない! 俺がどんな想いであんなこと…!」
「捨てました…」
「…」
「また捨てるんです、いつかきっと」
「もういいですっ」
カカシは切れて怒鳴った。
「解らないなら体に教えますっ」
こちらの言葉に頑なに耳を塞ぎ、駄々を捏ねる子供のように不安を口にするイルカ。 初めて見るその姿は、多分本当のイルカなのだろう。 真の胸の内を明かしてくれた事は嬉しい。 だが、このままにする気はなかった。
抗う体を組み敷いて、大きく足を開かせて深く深く繋がった。
腰を押し付けてぐりぐりと回すように擦り付けると、イルカは頭を打ち振って眉を顰めた。
普通ではなかなか届かないイルカの奥の奥を突くために、一回沈み込んで押し寄せるように突き込む。
イルカはそこが弱かった。
「ああっ」
イルカは仰け反って喘いだ。
もう一回。
沈み込み、覆い被さる。
「ああっ」
沈み込み、突き刺す。
「あっ そ、そこ」
「ここ?」
沈み込み、貫く。
「ああっ そこ、や」
「ここね、わかった」
「ちがっ いやぁ」
沈み込み、一気に突き込んで今度は狙いをつけてぐりぐりと捻り回す。
「あ… ああ……」
イルカは泣きながらひくひくと痙攣しだした。
沈み、突き刺す。
「あうっ」
ぐりぐり掻きまわす。
「ぁぁ……ぁぁぁ…」
喉を晒し、口をぱくぱくさせて、完全に意識を飛ばせて喘いでいる。
沈み込み、貫き、捻り込む。
「ぁぁ… いやぁ…… ぁぁ…」
沈み込み、突き上げる。
「俺のものだ、イルカ」
「ぁぁ…」
狙い済まして捻り込む。
「離さない 絶対に」
「ぁぁぁ…い、やぁ…」
ぐりぐりと掻き回す。
「ぁぁ、ぁぁ、ぁぁぁ…」
「あんたは誰の? 言ってみな」
「あうっ うう」
「言えないならずっと泣いてなっ」
大きく沈んで、これでもかと突き上げる。
肩を掴んで思い切り腰を押し付け、ぐりぐりと奥を抉るとイルカは泣いて身悶えた。
「いやぁ、ああ、ああ、許してぇ」
「許さない、ほら」
抉ったまま腰を上下に中で揺する。
「あ……あくっ た、たすけて…」
「誰も助けない。 イルカ、お前は俺のものだから」
「あなたは…俺を……捨てるっ」
「捨てないっ」
「俺なんかっ 俺なんか何も無いっ あなたに想われる物なんか、何も!」
「例え何もなくても俺はあんたがいいっ」
「嘘だ、体に飽きたら捨てるんですっ!」
「あんた! そんな風に思いながら俺に抱かれてたの?!」
「……そうです…」
「…あんたは何も解ってない。」
カカシは唸った。
「俺が、あんたにどれだけ焦がれてたか、あんたは知らない。 俺が! 俺があんたを強姦してでも手に入れたかった気持ちなんか、あんたはなんにも知らないんだっ! 俺があんたを一回手放そうとした時、どれだけ苦しんだか! あんたは知らないんだ!」
イルカが瞠目して凝視してくる。
「あんたは、俺があんたを強姦し調教してた間、ずっと俺を見ようとはしなかった。 仕方ないと諦めてたけど、俺がいつもどんなに苦しんでたか、あんたに解るか!」
「…カカシ、さん……」
「俺がどんな想いであんたから身を引き、どんな想いでもう一度あんたの所に行ったか、解るか!!」
イルカはぽろぽろ涙を零しながら、ふるふると首を振った。
「あんたはあの時、俺の腕に戻ると言った。 俺は二度と離さないし逃がしもしないと言ったはずだ。 俺はおまえを離さない。 離すくらいなら殺す。」
カカシは幾分声を落としながら、声を殺して泣くイルカの顔を真上から見据え繰り返した。
「おまえは俺のものだ、イルカ。 嫌だというなら殺す。」
イルカは顔を覆って嗚咽すると、微かに顎を幾度か引いてやっと答えた。
「俺を… 離さないで…」
「離さない、絶対に」
「ひとりにしないで」
「しない」
「あなたのものです、全部、あなたの…」
「俺のものだ、俺のイルカ、決して離さない」
カカシはイルカを抱き締めて、ひたすら耳に囁き続けた。
・・・
結局イルカはその後三日間アカデミーを休むことを余儀なくされた。 俺は、全く立てなくなるまでイルカを抉り続け、体中に刻印を刻んだ。 イルカは若干発熱し、軽い打撲症状と間接痛によってベッドから一歩も出られなかった。 こんなに激しく求めたのは強姦した夜以来だった。 普段は嫌がる入浴や下の世話までおとなしく俺に頼り、食事も俺の背に凭れて口に運ばれるまま摂った。 昼も多くの時間をうとうととして過ごし、目覚めた時に俺の顔を目の前に見つけるとふわっと嬉しそうに微笑んだ。
「イルカ先生」と呼んだ時と、「イルカ」と読んだ時の反応が明らかに違う。 目の色が違う。 二日目の晩、やっと歩けるようになったイルカを久しぶりに引き寄せ抱き締めて、耳元で「俺のイルカ」と呼んでみたら、イルカは腕の中でふるふるっと戦慄いた。
「そんな風に、呼ばないでください。」
「何で? まだ納得してないの?」
俺が少し怒りを滲ませると、イルカは慌てて頭を振った。
「違います。 そう呼ばれると俺、なんだか堪らなくなってきちゃって…」
頬を染めて俯いてそんな事を言われたら堪らなくなるのはこちらだ。 だが、さすがに抱くわけにもいかないのでイルカだけでも達かせるかといやらしく手を蠢かせると、弱々しく抗いながら言い募る。
「だめっ 無理ですったら」
「うん、判ってる。 あんただけ好くしてあげるから」
言いつつ手は休めずに弱い箇所を巧みに攻めていると、体は敢え無く陥落していく。
「あ… カカシさん… だめ、です…」
「いいから、力抜いて」
イルカの口を塞いで追い詰めると、あっあっと短く叫んでイルカは呆気なく俺の手の中で果てた。
白濁を纏った手を翳す。
量は少なく色もまだ薄かった。
相変わらずこの人は性欲が薄い。
くちっと音をさせて手を握り、洗面所に行こうと立ち上がりかけると、イルカがだるそうに体を起こし俺を引き止めると股間に顔を埋めてきた。
「イルカ先生、俺はいいですから」
本当はイルカの媚態に既に形を成していたが、もうイルカに口淫はさせないと決めていたので何時ものように止めた。 だが、イルカは何時に無く強引に事を進めてきた。 片手が塞がっているため空いている手で肩を押さえるが、するりと空かして前を寛げてしまう。 イルカの細い少し熱くなった指が俺を取り出し握り込んだ。
「イルカ先生、ほんとにいいから」
だが声は既に上がってきていた。 そこはもう充分張り詰めていたし、イルカの手を感じて一気に漲って先走りさえ滲み出ている。 俺は諦めてして貰うことにした。
「ああ、久しぶりです。 カカシさんの…」
ここ、と言ってイルカが俺に頬刷りをした。 その陶酔したような表情と俺自身の組み合わせを眼にしただけで達きそうになる。 思わず呻くとイルカは上目遣いにこちらを見上げた。 なんて目の色をしてるんだ。 欲望の炎がゆらゆらしているように見える。
「イルカ…」
名を呼んで頭を掴み、そっと撫でるとイルカは目を細めて俺を口に含んだ。
「ああ」
呻き声が止められない。 イルカの唇が先端をぱくっと咥え、舌先がちろちろと鈴口を舐めている。 二日我慢しただけなのに、俺自身は滾ってはち切れんばかりだった。 唯でさえ溜まっているのに、イルカの口がしていると思うだけで熱が上がる。 口を窄めて上下させ出したイルカの頬を押さえ、俺は弾けさせる寸前でイルカを止めた。 もうイルカに俺のモノを飲ませたりしない、と誓った。
「呑みます」
「だめ」
「…」
俺が鬼の我慢をしてイルカを止めると、イルカは眉を寄せ口をへの字に曲げて俺を睨んだ。
「じゃあ抱いて」
「無理でしょう?」
「大丈夫です」
「イルカ先生…」
抱きたいのはやまやまだが、やっと歩けるようになったものをこれ以上無理させられない。
俺が溜息を零してイルカの肩を押して体から離すと、イルカはベッドの上でぺたんと座り込み、両手を前に揃えて突いて俯いた。
伏せた顔から、ひたりと雫が落ちてぎょっとする。
「イルカ先生?」
「解ってないのはカカシさんの方です。」
イルカは搾り出すような掠れた声を出した。
「カカシさんは、どうして俺があなたを求めるのか全然解ってないです。 俺があなたに体を仕込まれて、快楽だけであなたとの繋がりを求めてるんだと思ってるんです。 俺だって…、俺だって最初は解らなかった。 でも、俺、俺は、あなたが好きなんです。」
イルカは言葉を切って、益々下を向いた。 顔は見えなかったが真っ赤な項が黒髪とパジャマの襟の間に見え隠れしていた。
「俺だって、自分が淫乱だって知ってます。 あなたに抱かれるようになってから、どんどん自分の体が変わっていくのが怖かった。 あなたの触るところ全て、信じられないくらい感じるし、俺の中にあなたが…入ってきたら、俺、体中がざわざわして堪らなくなるんです。 そんな時、あなたが耳元で、俺のイルカって呼んだりしたら、俺それだけで…。 でも今まであなたに唯されるままでいられたのは、俺、あなたが俺の体だけを気に入っていると思ってたからなんです。 あなたの玩具でもいいと、思ってました。」
イルカは再び俺自身に手を伸ばし握ってきた。
「でも、俺もう玩具は嫌です。」
「玩具なんて思ってないよ」
俺は即座に否定したが、イルカは聞こえないように今にも弾けそうな俺をゆっくり扱きながら、もう片方の手も伸ばして先端を撫で出す。
「う、イルカ先生…」
俺は熱くなった吐息を零さずにはいられず、さりとてイルカを拒めなくなっていた。
「あなたにいいように、唯されるだけなんて嫌なんです。 俺は、俺は…」
イルカは言葉に詰まり、屈んで俺自身を口に引き入れた。
熱い粘膜の感触に包まれて俺は腰を震わせた。
「う、ああ、イルカ先生、ん」
イルカに髪に指を差し入れ、弄るように掻き回して頭を押さえ付けてしまう。
イルカは、前に俺に教えられた通りに舌を使い、俺を追い上げていく。
先端から先走りが止め処なく零れ出すと、口を窄めてずぼずぼと上下させられ、俺は射精感を抑えられなくなってきた。
「イルカ、離して、出る、から」
イルカは首を振って更に上下動を激しくさせた。
「あ、ああ」
俺は喘いでイルカの口の中に放ってしまった。
イルカがちゅうっとまだ俺に吸い付いている。
腰がびくびく震えて、達した後に与えられる刺激に思わず身を捩った。
「ううっ イルカ、も、いいから」
イルカの頭を押さえて止めさせようと引っ張ると、イルカが顔を上げて俺の目の前でごくりと喉を鳴らした。
「イルカ先生…」
「まだ、萎えませんね」
口元を手の甲で拭いながら独り言のように呟くと、イルカは俺の胸を押してベッドに倒してきた。
「自分で挿れます。」
「イルカ先生、ほんとにもういいよっ」
俺は本気で跨ってくるイルカを止めようとした。
まだ解してもいない。
だが、イルカは俺の体の上に覆い被さるようにしてベッドヘッドに手を伸ばし、潤滑ジェルの瓶を手に取った。
「イルカ先生っ」
イルカの手首を掴んでその体を抱き締め拘束する。
イルカが最初の強姦の夜をトラウマに持つなら、俺は自分の上で淫らに腰を揺するイルカの姿にトラウマを持っていた。
自分で自分のアナルを潤滑剤で解させるなんて、絶対させられない。
「離してっ あっ」
暴れるイルカを抱き締めて、その手から瓶を取り上げると、イルカは瞠目して俺を見た。
「俺が、俺が自分で、自分の意思で、あなたを愛するんですっ 返してください。」
興奮したように言い募るイルカの背を唯宥めるように擦りながら俺はイルカに懇願するしかなかった。
「俺がやります、ね? 俺にさせて?」
「だ、抱いて、くれるんですか」
とイルカは俺を見上げた。
涙が一筋ぽろっと頬を伝っていく。
「あしたも歩けなくなりますよ?」
「いいんですっ」
イルカは叫んだ。
「あなたが俺のこと、俺のイルカって呼び捨てて、俺に接吻けて、俺の体に触れたりしたら、俺もうダメです。 もう何処にいてもあなたを求めてしまいます。 アカデミーでも道端でも、俺、あなたが欲しくて堪らなくなっちゃいます。 俺を最後まで抱く気がないなら、そんな風に俺を呼んだり触れたりしないでください。 俺だけ達かせて終わらせるんなら、最初からしないでください。 俺の体は、淫乱なんです。 でも俺はあなたが好きだからっ」
パニック状態になって既に自分でも何を言っているのか判らないのか、支離滅裂になりながらもイルカは訴えた。
「俺だけなんて嫌です。 我慢なんてしてもらいたくない。」
俺はふぅっと溜息を吐いた。
我慢してるのがバレバレなのは仕方がないが、そんな風に思われていたとは意外だった。
「言っとくけど、あんたは全然淫乱なんかじゃないよ。 俺が本気であんたを犯そうと思ったら、こんなもんじゃないの、あんた知ってるでしょ? 俺はなけなしの努力して、あんたの体を気遣ってるつもりなんだけど、あんたは俺のその努力を無駄にするって訳?」
「だったら、俺だけ達かせて終わらせようなんてしないでくださいっ」
「イルカっ」
俺は唸った。
なんて頑固なんだ、この人は。
「俺の、イルカ」
欲を滲ませ俺はイルカを呼んだ。
胸を喘がせ、泣きそうな顔でイルカは再び請うた。
「抱いてください」
「来い」
イルカがどんと身を投げてくる。
「カカシさんっ」
首に縋りつくイルカを抱き締め、項や頬を吸うとイルカが自分から唇を併せてきた。 お互いがお互いを貪りあう接吻けを何度もし、合間には目を見詰め合う。 早急にイルカの下穿きを下ろし潤滑剤を塗りつけてアナルを解すと、イルカは肩に噛り付いて震えた。 イルカの中は、既に燃えるように熱かった。
「おいで。 ゆっくり」
肩に掴まったイルカの腰を導き、ゆっくり体を下ろさせる。 一気に引き下ろしてしまいたい衝動を抑え、イルカのするように任せると、イルカは頼りなげな顔をしてこちらを見ながら、時々目を瞑ってじりじりと俺自身を自分のアナルへ迎え入れていった。
「あ… ん…」
「イルカ、大丈夫?」
うんうんと細かく頷くと、眦から涙が弾け散る。
「きつい…です、カカシさん」
「ん、俺も。 眩暈しそう」
勃ち上がってふるふる震えているイルカ自身に手を掛け、竿を握って上下に扱いてやると、イルカはあっと声を上げて残りを一気に沈めてしまい、背筋を反らせて戦慄いた。 撓る背を抱き締め乳首を吸うと、イルカは髪を弄り俺の頭を抱きこんで呻く。 腰は自ら淫らに揺らし、喘ぎ声も既に艶を含んで悩ましかった。
---俺が淫らにしたこの体…
一定のリズムで腰を振り、喘ぎ乱れて俺を締め付ける。
艶かしい体。
最初、強姦したあの夜から暫らくは、がちがちに強張った体を抱き締めて泣いた。 この人は俺が泣いていたのを知らないが、体のほうは従順に俺を飲み込むことを覚え、痛みの変わりに僅かな快感を拾い上げ摩り替えていくことを覚えていった。 そうさせたのは俺。 毎晩のように抱いた。 キスの仕方も教えた。 口淫も、騎上位も、最中の自慰も、なるべく気持ちのよいセックスをする為のあれこれを手取り足取り教えて、イルカが淫らにそれらをする度にまた泣いた。 イルカ。 愛しい人。 体を重ねることと愛を得ることは別なのだと、俺に教えた人。
「イルカ」
尻を掴んで強く揉むと、イルカは俺の胸に凭れて喘いだ。
そっと併せるだけの接吻けをして、イルカ自身を握り上下に扱く。
イルカの中がうねり、俺自身を擦り合わせるように顫動する。
「イルカ…」
「カ…カシ」
最中でさえ滅多に俺を呼び捨てることがないこの人が俺を呼び捨てる時、いったい何を感じているのだろう。
「カカシ… 俺の、カカシ…」
「……!」
馬鹿な…!
涙が溢れる。
イルカは俺の目尻に舌を伸ばし、そっと涙を舐めて吸った。
イルカが俺を見ている。
泣いている俺を知ってくれている。
「イルカ…!」
抱き合ってキスし合って名を呼び合って一緒に昇り詰める。
許してください、俺はこの人を無理矢理犯しました。
俺は、生まれて初めて超越した存在に懺悔した。
イルカが翌日もう一日休んだのは、120%俺の所為ではないと思うが、どうか?
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