淋しい兎は狼にその身を捧げ

- A Lonesome Rabbit sacrifices himself to the divine Wolf. -


32


「イルカ」

 抜糸も済み明日退院という日の晩、また英照の夢を見た。
 英照が病室を訪れる夢…
 これは夢だ、きっと夢
 だって、でなけでば…


「英照殿! これは綱手さまの罠です、入ってきてはいけません!」
 思わず叫んでいた。 だが英照はどんどん近寄り、覆い被さってきた。 身体は金縛りにあったように動かなかった。 ねっとりと口を塞がれ、すぐに舌が入ってくる。 両手は顔の横で磔けられた。 夢ではないのか? このはっきりした質感。
「う… えい…の、やめ… ん」
「しー」
 英照は少しだけ唇を浮かすと、首を振って抗うイルカを宥めるように何度も「しー」と言って瞳を覗き込んでは、また唇を啄ばんでくる。
「大丈夫、これは夢だよ」
「でも」
「しー、いいから」
 英照の手が入院患者用のパジャマの併せを解き、胸を弄ってきた。
「やめてくださいっ」
 執拗に唇を求める英照から顔を振って逃れ、やっとのことで抵抗の声を上げた。 だが直ぐに顎を捕まえられて固定されて、舌を強く吸われる。 体を這い回る手は脇腹をしつこく揉み、足の付け根に指を這わせると、ツイと胴を撫で上げて乳首をツンと弾いた。
「んっ んんっ」
 乳首に辿り着いた指が容赦なくそこを摘まみ捏ね上げる。 刺激がダイレクトに腰に伝わり、イルカは情けなくて涙が滲んできた。 カカシ以外の他の人間には欲情しないのに、英照だけは体が先に反応してしまうのを止められなかった。 自分は本当は唯淫蕩なだけで、相手がカカシでなくともいいのだろうか。
「バカな事を考えるな」
 泣くイルカに英照がやっと口を外して言ってきた。
「おまえの体が私を覚えているのは仕方がないよ。 それくらい私はおまえを抱いたのだから」
「英照殿…」
 それでも涙が流れて止まらなかった。
「俺はカカシさんを裏切りたくないんです、やめてください。」
「悪いが、時間がない。」
 そう言うと、英照がイルカの股間に顔を埋めた。
「あ、あ…あ……」
 ジュルッジュルッっと濡れた音が部屋に響き、イルカの微かな喘ぎが重なった。
「あ、ん、んんーーっ」
 英照の口に迸りを全て吐き出させられ、更に吸引されても体は動かせず、イルカはフルフルと震えるしかできなかった。 英照はイルカを口に含んだままイルカの後口に指を忍ばせてきた。
「あ、いっ 嫌です、英照殿っ それだけはっ あっ」
 指に前立腺を擦られて、イルカは再び前を硬くさせた。 英照の巧みな指の動きに唯喘がされる。
「あ、ん、やめ… てぇ」
「イルカ、愛している」
 一回耳元までせり上がってきた英照はそう囁くと、イルカの唇を存分に味わいまたイルカ自身を咥えた。 二度、三度と責めが続き、アナルで蠢く指の数も解らなくなった頃、英照が熱く猛った自身を宛がって体を起こした。
「嫌です、英照殿、お願いです、いやぁ、ぁぁ」
 ヌクリと先がイルカを犯した。 充分解されたイルカのアナルは、迎え入れるように英照を飲み込んでいった。 英照は根元まで突き込むと直ぐにイルカに接吻けてきた。 上と下と同時に犯され揺すられて、徐々に意識が朦朧としてくる。 指に尖って震える胸の飾りをキュッと摘ままれ指の腹で撫で転がしては爪を立てられ、イルカはその度に中の英照を締め付け喘いだ。 突き上げが速く激しくなり、英照が呻いて腰を震わせる。 英照の迸りを体内に感じ、ああまた犯された、と涙が零れた。
「ああ、イルカ」
 ドクッドクっと脈打ちながら熱く中を濡らす英照に、イルカも堪らずブルリと全身を震わせた。 だが、英照の責めはそれで終わらなかった。 イルカは片足を高く抱え上げられ斜めに英照を捩じ込まれて思わず大声で叫んだ。
「い、ああっ」
「もっと深く、もっと奥で繋がりたい。 イルカ、イルカ」
「あ、えいしょ…の、いやだ、あ」
 英照が中で自身を回す。 内壁の襞を擦り奥を突く。
「あっ あああっ」
 奥の一点でイルカは仰け反って甲高い声を上げた。
「ここか」
 カカシしか知らなかった奥のその一点を擦られ突かれ、イルカは泣き叫んだ。
「いやだっ やめてー、ああ、いやだぁ」
 英照は涙でぐしょぐしょのイルカの顔を舐めまわし、イルカの奥に自身の先端をヒタと押し当てグリグリとイルカを抉った。 更にイルカ自身にも手を掛け、シュッシュッと突き込む腰の動きに併せて容赦なく扱いてくる。 そうされると体から全ての力が抜け落ちて、善がり声を抑えられなくなった。 何回も達かされては更に責め上げられ、イルカの中が溢れるほどに精を注がれ、接吻けた口からは唾液も飲まされる。 英照の体液は媚薬そのものなのか、イルカはもう既に正気を失ってただ喘いでいた。
「イルカ、こっちを見なさい」
 イルカを揺すり上げながら、英照は耳に吹き込むように囁いた。
「イルカ、私とおいで。 一緒に行こう、遠い所へ」
「ん、ぁ、あん」
「イルカ、私のモノになれ。 私と契ろう」
「ち…ぎる…?」
「そうだ、契ろう。 今すぐに。」
「え…しょ…のぉ」
「いい子だね、イルカ。 今度注いだらそのまま魂で交わる。 そうしておまえの全てと私の全てを交わらせよう、イルカ」
「いやだぁ」
「しーー、イルカ、いいとお言い。 さぁ私の目を見なさい。 じっと見て、そう。 私と行くね」
「えいしょ…の…」

 見上げると、金の虹彩を纏った妖魔の瞳が待っていた。 宙に開いた裂け目のように縦に割れた瞳。 それを言われるままじっと見てしまい外せなくなった。 身体ごと吸い込まれていく感覚に襲われる。

 もって行かれる

 そう感じた。 このままでは意識を持って行かれてしまう。 イルカはなんとか自我を保とうと唇を噛み、ギュッと目を閉じた。 あの夜、英照に血を与える事ができて嬉しかった。 英照には逃げて欲しかったのだ。 カカシを想う気持ちとは別に、英照を慕う気持ちを拭えなかった。 あのテントで、済まなかったと繰り返しながら自分を掻き抱いた英照の腕が忘れられなかった。 あの時の英照は、真実自分の事を案じ、労わってくれた。 この八年間の自分を正しく理解してくれていたのも、英照だけだとイルカは思っていた。 そんな存在を、イルカは長く持たなかった。 失いたくなかった。 だから逃げて欲しかった。 木の葉からどこか遠くへ。 なのに、また危険を冒してまで来て、こんな事を…。 こんな事は望んでいない。 英照はカカシとは違う。

「違う… あなたは、違う」

 ゆらゆらと混濁しかけた意識の波の間から、イルカはやっと浮上した。 だがまだ溺れるように、ともすれば持って行かれそうになる。 ダメだ。 意識をしっかり持て。 自分にそう言い聞かせ、イルカが再び目を開けようとした時、また激しい突き上げが襲ってきた。

「あっ ああっ ああっ」

 覚えられてしまった奥の好い場所を、カカシだけが突いていい場所を、激しくだが的確に突かれ抉られて、頭の中が真っ白になった。 もう何も考えられなかった。

「イルカ、愛している。 私と行こう」
「は、あ、ん… カカシさ…ん… カカ…シィ」

 イルカは目を瞑ったまま、唯々そのうねりに身を任せ、喘いだ。




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