淋しい兎は狼にその身を捧げ
- A Lonesome Rabbit sacrifices himself to the divine Wolf. -
22
「ぁ… ぅぅ… や…」
短く、微かに喘ぎながら、イルカの腕がゆっくりと首から滑り落ちた。 情事の最中に失神するようなことが殆どないイルカだったが、今日ばかりは限界のようだった。 昨夜からずっとその体を責めてきたのだ。 それに今朝はただ、体を痛めつけるためだけのような責め方をした。 股関節に負担がかかるように、背中や足腰の筋肉が悲鳴を上げるように、アナルが裂けているのが判ったがそれでも抉り続けた。 やっと落ちてくれたイルカの体を抱き締めて、カカシも漸く動きを止めることが出来た。 寝室には、はっはっという自分の荒い息遣いだけが響き、体から湯気が上がるほど汗が滴り、熱くなっていた。
「ごめん、イルカ先生、ごめん…」
汗と涙と唾液で汚れたイルカの顔を掌で拭い、しっとりと濡れて額に張り付いた髪を掻き揚げて接吻ける。 半開きの口元は、いつかイルカの家で添い寝した時の疲れた顔を思い起こさせた。
「何やってんだろうな、俺…」
一時の激情に流されてイルカに酷いことをしてしまった。 他に方法があったろうに。 この人を前にすると自分はどうしても感情に逆らえなくなる。 自己嫌悪に苛まれ、漏れるのは溜息ばかりだった。 自身を引き抜くと血が纏わりついていた。 カカシはぐったりと横たわるイルカの横に座り込むと、両手で顔を覆い何回目かの長嘆を漏らした。
・・・
昨日、あの妖魔の子供らしき蛇が見つかったと、連絡が入った。 里の人間の顔を盗み化けていたらしいのだが、変化に失敗したらしく凡そ人には見えないモノになっていて直ぐに見つかり、暗部に追い詰められて掴まったということだった。 カカシはイルカを見張るように言われ、イルカを自宅に連れ帰った。 決して外に出すな、と五代目は言った。 「イルカは何処か、と聞いたそうだ」と。 イルカには何も知らせず、執拗に体を求めて翌日のアカデミー欠勤の理由を作る。 腕の中で眠るイルカの顔を見ながら、このまま何事も起きず、イルカの知らぬうちに全てが済めばよい、と心から祈った。 だが早朝に式鳥が来た。
『蛇が逃げた。 至急本部へ来られたし。』
カカシは最悪の気分で朝を迎えた。 イルカに恨まれるのを覚悟で彼を縛るか。 睡眠薬で眠らせるか。 否、彼に薬は効かないのだった、と極最近の苦い経験を思い出す。 できれば彼に事の次第を知らせたくなかった。 知ればイルカのこと、行くと言うに決まっている。 正直どうしていいか判らなかった。 腕の中では、昨晩散々痛めつけられたイルカが、疲労しきった隈のできた顔で眠っている。 もうこれ以上は酷い仕打ちはできないと、自分でも情けなくなった。 本当は昨日もちゃんと話をしようと思ってはいたのだ。 まだ仕事があると言うイルカに付き合って、アカデミーで待機しようと一時は譲歩もした。 あのイルカの同僚があんな風にイルカを誘いさえしなければ、そうしていたと思う。 だが結果はご覧の通りだ。 もう止めよう、きちんと話をしようと思った。 そして、絶対自分から離れない事を条件にイルカを連れて行くしかないか、と考え始めた時、腕の中でイルカがうなされ始めた。
「え…しょう、の…」
はぁはぁと呼吸も荒くなり、もがくようにイルカが体を捩った。
「う、ああ」
喘いでいる?
カカシは、心が凍りつくような感覚に襲われた。 自分の腕の中で、愛しい者が他の男の名を呼んで喘いでいる。 喩え夢だとしても許せなかった。 イルカの足を押し開き、アナルに指を這わせると、そこは昨夜自分が放ったもので鵐に濡れヒクヒクと息づいていた。 夢で自分以外の男に犯され、喘ぎ、アナルをヒクつかせるイルカに頭の中が真っ赤に染まった。
「う、ん…」
カカシが自身をイルカに穿っても、イルカは目覚めなかった。 昨夜の責めが激しかったからだろう。 ずずっ ぬちゃっとイルカのアナルがいやらしい音を立てた。 ゆっくり、だが大きくイルカに注挿を繰り返し、もう起きてもいいから律動を激しくして自分を解放したいと思い始めた頃、イルカの目尻から涙が後から後から流れ出した。
「…カシ…」
俺の名を呼んだ?
「イルカ、イルカッ」
気がついた時には、イルカの頬を叩いて名を呼んでいた。
覚醒と同時にあっと小さく叫んで背を撓らせたイルカの身体を掻き抱き、自分はまたやってはいけない事を繰り返してしまった。
・・・
体だけは奇麗にしてやりたくて、サッと風呂に入れて出したモノの処理もしたが、手当てはしなかった。 歩けるようになってもらっては困る。 手首を柔らかい布で拘束し、ベッドヘッドへ括りつける。 忍犬には決して中からも外からも人の出入りを許すな、ときつく命じた。 結界も中と外と両方張る。 そこまでする自分が情けなく、バカのようだと笑が漏れるほどだった。 だが、あの日、テントの中、濃厚な血臭の漂う澱んだ空気の向こうで、局部を血だらけにして青褪め意識を失っていたイルカを思い出し頭を振った。 もう二度とあんな光景は見たくない。 それに、あの時は何とか間に合ったが今度はもう後が無い気がした。 今度イルカをあの妖魔に会わせたら、イルカは行ってしまう。 イルカを幾ら抱いても少しも自分のものにした気になれず、カカシはそんな強迫観念に囚われ続けていた。
「パッくん、おまえの方がイルカ先生より強いとは思うけど、この人も戦忍だった人だから、くれぐれも気を抜かないようにね」
『わかった』
妖魔追跡のために他の忍犬は連れて来いとのお達しだった。 仕方ない。 早くあの妖魔の生き残りを捕まえて、今度こそ禍根を残さぬように、こんな思いをしなくて済むように、それだけを考えてカカシは家を後にした。
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