淋しい兎は狼にその身を捧げ
- A Lonesome Rabbit sacrifices himself to the divine Wolf. -
21
「…カ、イルカ」
呼ばれて意識がやっと浮かび上がった。 呼ぶ声はカカシのものだった。 よかった、夢だったんだと思った。 だが何故か体が熱く、夢と同じに苦しいほど体の内部で動くモノを感じてイルカは唯息を上がらせて喘いだ。 まだ夢の中なのか。 それともあれが現実なのか。 どうしたらいいんだ、とただ泣いた。
「どうしたんです、そんなに泣いて。 怖い夢でも見ましたか?」
自分の上で、汗を滴らせたカカシの顔が揺れていた。 カカシの動きに併せて、体の中の圧迫感のある物がゆっくりと出入りする。
「あ」
引き攣ったような声が喉から飛び出て、上半身が弓形に撓った。 体の奥の、イルカがどうしようもなく感じる場所をぐりっと何かが突いたのだ。
「やっと起きた。 ならもう遠慮は要らないよね」
圧し掛かっていたカカシが体を起こし、片手でイルカの腿を掴んだ。 片手は腰を押さえている。 体を出入りしているモノの動きが早く激しくなって、上で揺れるカカシが一回視界から消えるほど上下しだした。
「あ、ああっ、な、なんで、あうっ」
奥の一点を抉るように突かれて呻きが漏れる。 カカシはそこを狙い済まして先端を宛てると、波打つように体を揺すってきた。
「あ、やだ、それ、やだぁ、あ、んん」
嫌だ嫌だと頭を振って泣くと、カカシは今度は腿を両手で掴んで限界まで開き、腰を押し付けてきた。 イルカ自身が挟まって擦れるほど体を密着させると、擦り合わせるように腰を回し、中をぐりりと抉っては突きを繰り返す。 昨夜から注ぎ込まれたカカシの精がグチュグチュと音を立てて掻き回され、一回収縮したイルカのアナルが軋むように広げられた。 イルカは気が狂いそうなほど悶えた。
「いやっ あああーっ」
悲鳴をあげると、カカシがグンと体を倒してきてイルカの顔を覗きこんだ。
「目が腫れてる」
昨夜も散々泣かされたんだ、当たり前だとイルカは思った。
「唇もぽてっと充血してるよ」
アンタが乱暴に吸うからだろっ
「かわいい顔」
なんだとぉーと思う。
どうしてこんな意地悪な真似をされ、意地悪な言葉を浴びせられなければならないのか。
「いあっ」
悔しさに歯を喰いしばったところで動きを再開され、カカシはまた腰を回しだした。
「も、やだ、もう、掻き混ぜないで、やだぁ」
「今日はね、やだって言われても止めないことにしたのよ、俺」
「な、なんでそんなこ、と… んっ んんっ」
突然口を塞がれて、同時に律動も刻まれる。
「ん… んぁっ はっ くるし…」
「いやよだめよも、なんでどうしても今日は聞かない。 あんたが言っていいのはひとつだけ」
「…」
「俺を好き?」
「…」
「好き?」
「…好き」
カカシの目は据わっていた。 何か気に喰わない事がある度に、カカシは自分を閨に連れ込む。 そして身体にモノを言わせる。 そういう時のカカシには抵抗のしようがない事を身をもって教えられているイルカは、その目を見て諦めた。 途端にまた呼吸を奪うように激しく接吻けられ、波打つように腰を揺らされる。 カカシの先端が奥の好い所に当っていて、そこを続けさまに抉られて体が跳ねるが、体全体で圧し掛かられていて身動ぎもままならない。 イルカは闇雲に手を彷徨わせ、シーツを掻き毟った。 するとそれも直ぐにカカシの両手で縫い止められ、動きを封じられたまま暫らく嵐のように律動が続いた。
「う… ふ、ん… あ…」
体の芯が痺れてきて、ふわっと浮いたような感覚に囚われ始める。 感情のほうがまだ追いついていかなかったが、体はカカシを受け入れ求め始めているのが判った。 イルカは体の力を抜いた。 突き上げられる度に嬌声が漏れる。 それも認めよう。 これは喘ぎ声。 体がカカシを感じて悦んでいる。 起き抜けにどうしてこんな目に遭わなければならないか判らなかったが取り敢えず、今はカカシと一緒に登り詰めようと、素直に快感を追い出すと、カカシは口を外し手も離してイルカの顔の両脇に手を着き、若干動きも緩めて顔を見つめてきた。
「イルカ」
イルカ先生と呼ばないカカシは、自分を情愛の対象としている時。 自分がかわいく素直であれば、カカシは満足する。 カカシが好きだ。 その気持ちに嘘はない。 暴れてみても罵ってみても、だから最後はカカシの望むようにしてきた。
「ん」
緩い突き上げに吐息を漏らしながらイルカは喉を鳴らした。
「俺を好き?」
「好き」
「手はどこ?」
「ん…」
ゆっくりのろのろと両腕を上げる。 カカシはまた体を倒してイルカがその腕をカカシの首に絡めるのを待った。
「カカシさん、好きです」
「ん」
「あなたが好き」
「ん」
ぎゅっとしがみつくとカカシはまた大きく体を揺すり出した。 だが動きは先程よりずっと優しい。
「あ、あ、あ、ん」
喘ぐと塞いでくる唇も、吸っては舐め解し角度を変えてはまた吸って、イルカの呼吸を妨げない程度に繰り返された。 何に怒っているのか知らないが、最後は必ずこうして優しく愛してくれるカカシがズルイと思い、最初の時を思い出した。
口で、言葉で、きちんと”好き”と言う事。 縋りたい時は縋る事。 それはカカシが妙に拘った約束事だった。 初めて体を繋いだ時は、しつこく”好き”と何回も言わされ、シーツを握る手を何度も首に持っていかれた。 できないと激しく体を責められ、自分からするまで許されなかった。
”一回抱いたら飽きる”と言ったと、何度も詰られもした。 ”飽きる”なんて言った覚えはなかったが、カカシが余りに傷ついた顔付をしていたので反論できなかった。
「残念だけど全然飽きないし、抱けば抱くほど嵌る。」
カカシにそう言われ、暫らくの間毎晩激しく体を貪られた。 遠慮も加減も何もなかった。 イルカの仕事とか体力とか、そんなことさえお構いなしに毎日毎晩抱き倒されて、イルカはとうとう音を上げてカカシに謝って懇願した。 判った風な口を利いてごめんなさい、と。 あなたの気持ちは確かだと。 認めるからせめて、せめて仕事に行けるくらいにして欲しい、と。
「イルカ先生」
閨では”イルカ”としか呼ばないカカシが自分をそう敬称し、手を取って恭しく接吻けられた。
「俺は仕事をしているあなたを尊敬してますし、子供達といるあなたも大好きです。」
”でも覚えておいて、あなたは俺のもの”
一言も言葉が出ずにただコクリと頷くしかできなかったのを覚えている。
「あ、あ、カカシさ、も、イクっ」
んっと下腹が引き攣りイルカは達した。 太腿の内側がヒクヒクと痙攣を繰り返している。 カカシが少し遅れてイルカの上で呻くと、ブルッと腰を一回震わして動きを止めた。 腹の奥がジワリと熱くなった。
「くっそー、引き摺られた。」
尚も緩く注挿を続けながらカカシは悔しそうに呟いた。 汗がしっとりと顔や髪まで濡らしていた。 落ち着きが戻ってくると、この余りに酷い扱いにジワリと涙が滲んでくる。
「ひ、ひど…、です… 俺、眠ってた、に…」
喘ぎとしゃくり上げが一緒くたになって言葉を遮ったが、抗議の声を上げずにおれなかった。
「カカ…さん、ひどい、んん、意識ない時、犯したり、しな…って、前、俺…こと、怒った…せに」
「え…、なんで、すって?」
カカシも胸を喘がせながら問い返した。 だが先を求めず再びイルカの項を片手で掴むと、カカシは押し当てるように唇を併せてきた。 まだ苦しいのに、まだ返事ももらってないのにと、イルカが首を振って抵抗すると、もう片方の手が顎を掴み乱暴に口中を荒らされる。 同時に体も押し付けられ、ユサユサと下から揺すり上げられた。
「んー、んんーっ」
「っ 苦しい?」
一回体の動きを止めると、カカシは口を外して問うてきた。
「あたりまえだ! もう抜けっ!」
「やだ」
「カカシさんっ」
「だって、あんたが悪い」
「どこがっ」
「だってかわいい顔して泣くんだもの」
「あんたが泣かしたんだっ」
「でも抜かないよ、もう一回する。 もう大きくなっちゃったもん」
「お…、もんって…、あんたさっき達ったばっかりじゃないですか」
「だってあんたの中、きもちーんだもん」
「もんって言うなっ」
「あんたの中、熱くて、ヌルヌルしてて、俺のでぐちゅぐちゅ言ってて」
「も、もうわかりましたっ それ以上言うなっ だいたい、意識の無い人間は犯さないって、あんた前言ったじゃないですか?」
「言ったっけ?」
「言ったっ!」
「いつ?」
「俺が、俺が…、テントで…」
「ああ、あの後? 言ったかも。 でもあんたが悪い。」
「だから、どうして俺なんですっ?」
「だって、起きたら俺の腕の中で可愛い顔して寝てるんだもの」
「そ……、だ……」
イルカは余りの理不尽さに口をパクパクさせたが言葉が出なかった。 それは、だって、昨夜あんたが俺のこと嫌って言うほど抱き倒して、離してくれなかったからじゃないかぁ、と本当は言いたかった。 だがそれ以上言う事はできなかった。 カカシがまた体を揺すり始めたからだ。
「そうかと思ってれば泣き出すし」
「うあっ ああっ」
カカシは容赦なくイルカの奥を突いてきた。
「いったい誰の夢を見てたんだか」
「え…」
中のカカシが強度を増し、凶器のように硬く育ってくる。
「あ、や、やめ…、て…、おっきく、しな…で」
「もう無理」
「や、やだ、やだぁ、もう抜いて、おねが…、あ、あっ」
「かわいい顔。 もう無理だから、観念して」
朝起きたらこれで、俺は泣かされてて、もう腰も足もガクガクで、体の中はカカシの出したモノでいっぱいで、今はカカシでいっぱいで、さっきまで身も世もなく喘がされていたのに、また自分は朝っぱらから第2ラウンドに持ち込まれてどうすることもできない。
「あ、アカデミー、また行けない、ん、カカシさん、俺困ります。」
「アンタは今日、アカデミーはお休みです。 もう連絡しました。」
「え? え、え? またそんな、勝手な事!」
「だって行けないでしょ?」
カカシは動きを緩めると、イルカの体に覆い被さり首筋に顔を埋め、そのまま耳裏にちゅっちゅっと接吻けてはイルカの匂いをクンクンと嗅いだ。 犬みたい、と思いながらもイルカは抗議の声を上げ続けた。
「せめて遅刻にしといてくださいっ」
「だーめ」
「意地でも行きます…」
「意地でも根性でも行けないくらいにしてあげるから、安心して休んでください。」
「カカシさんっ」
「だーーめっ」
「どうして?!」
「…」
「カカシさん?」
「…どうしても」
カカシはそこまで言うと、自分も口を噤み、イルカの口も塞いで、動きを再開した。 足を大きく広げさせられ、激しく何度も穿たれた。 自分自身も痛いほど扱かれ、何度も達かされ、カカシの精も注がれた。 下半身に感覚がなくその時はよく判らなかったが、乱暴に掻き回されると鉄の匂いが漂ってきた。 朦朧としながらも目を凝らして上で揺れる男の顔を仰ぎ見ると、汗を滴らせ歯を喰いしばるようにして、快楽の欠片も追っていないような苦しげな顔をしたカカシの顔があった。 ああ、この人はセックスをしているのではない、ただ自分を立てなくするためにこうしているのだ、と思った。 しかもとても辛そうに。 バカな人だなぁ、と思いながらイルカは意識を手放した。
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