淋しい兎は狼にその身を捧げ
- A Lonesome Rabbit sacrifices himself to the divine Wolf. -
15
店の中を、イルカの手を曳いて通り過ぎる。 イルカはおとなしくされるがままにカカシに従った。 どよめきと好奇の視線が浴びせられ、イルカが若干俯いたが、それさえも新たなどよめきを生んだ。
「イルカがカカシ上忍にドナドナされてくぜ」
「なんだよ、ドナドナって」
「イルカは仔牛か?」
「イルカもついにあの人のモノか…」
「もう手は出せないな」
そう、それでいい。
この人は俺のモノ。
決して手を出すな。
カカシは周囲を威嚇しながら殊更ゆっくりと歩き、店を出た。 外へ出てもそのままカカシに曳かれて後ろを歩くイルカの手を少し引っ張り、自分に並ばせる。 イルカはそれにも逆らわず、カカシの肩に触れるか触れないかの距離を手を握られたまま歩いた。
「嫌でしたか?」
「何がですか?」
「店の連中の声が、いろいろ聞こえたでしょ?」
「ああ」
イルカはひとつ大きく頷くと、くすっと笑ったようだった。
「あのくらいでよかった。 カカシ先生の悪口はひとつもなかったし」
「え?」
「俺のこと、みんな知ってるし、カカシ先生がそれの所為で何か言われたら俺、多分我慢できなかった。」
「イルカ先生…」
イルカはふふっと笑って付け加えた。
「みんな意外とすぐ忘れるんですね。 安心しました。」
「イルカ先生、今、キスしてもいい?」
「今、ここでですか?」
「そう、キスしたい、今すごく」
「いいですけど…」
即答だった。 相変わらず恥じらいが無い。 人前で手を繋ごうが往来でキスをしようが構わないと言う、性的倫理観の薄さ。
「人が見ますよ?」
だが回りを見回して、こちらの倫理観を責めるような顔付をする。
「構わない」
「カカシ先生、俺とですよ? 何か後でいろいろと…、う、ん」
腰を引き寄せ、往来でキスをする。
恥じらいではなく、怯えを感じた。
自分の所為で何かを誰かに失わせることへのか?
事件は終わり、回りのイルカに対する目も変わったというのに、当の本人は少しも変わらず自分の人生を半分諦めたように生きている。 そんなイルカが堪らなく哀しかった。
・・・
「あ、ふ、うん」
雪崩れ込むように玄関を潜ると、ドアにイルカを押し付けて唇を貪った。 体も密着させて昂ぶりを擦り付ける。 欲しい、今すぐおまえが欲しい、と言葉より雄弁にそれは語り、イルカの前が反応する事で答えを得たと思った。 だがイルカの口は否を唱えた。
「カ、カカシ先生、話し、話しが先、んん」
「だめ、我慢できない」
カカシはイルカの両手をドアに押さえつけると、体を密着させたまま下から数度イルカの股間を突き上げた。
「あ、あ、やだ、カカシ先生」
「俺が、どんなに我慢してたか知ってる? 俺はずっと待ってた、あんたが俺の手を取るのを」
「し、知ってます、でも、で…、あ、カカシ先生、カカシ先生っ」
イルカの尻を両手で掴み、揉みしだく。 そのまま抱き込んで自身に押し付け、お互いの昂ぶりを擦り合わせると、イルカは腕を突っ張らせなんとか体を離そうともがき、何度もカカシの名を呼んだ。
「欲しい」
「カカシ先生ぇ」
首筋に顔を埋め、耳元に直接欲望を吹き込むと、か細くまた名を呼ぶイルカの声が反対側の自分の耳を擽り、尚欲望が煽られる。
「欲しい」
アナルを擦るように尻たぶを揉んでいた手の指を、すっと双丘の割れ目に這わせ、アナルの上でグイと押す。 イルカはヒクリと体を震わせ首を振って身を捩った。
「う、あ、んん、やめっ カカシ先生っ」
「欲しい、いいって言って」
「…」
喘ぎながら見つめてくる黒瞳が潤んでいる。
ああ欲しい、堪らない!
「言って!」
激情に任せてイルカの体中を撫で回し、首筋に噛り付きながら身体を擦り付ける。 もう他の言葉は聞けなかった。
「べ… ベッドへ…」
だが、「いい」とは言わずに場所を指示して同意を表したイルカにククっと一つ笑いを漏らすと、カカシは意趣返しとばかりにその場でイルカの唇を貪った。 貪る、という言葉がこのためにあると言うように、イルカの唇に噛み付き、舐め、吸った。 項を掴んで上向かせ、言葉も奪い、呼吸も吸い取る。 イルカは首を振り喘いだ。 ヒクッと喉が鳴り、甲高い悲鳴のような制止の声も上がった。 何度か名前も呼ばれたが、カカシは接吻けを止めなかった。 ドアに押し付けられたイルカの体は、いつしかズルズルと重力に引き摺られて、ついには二人とも玄関先に座り込んで、それでもまだ絡まりあった。 イルカの手が胸元でベストをぎゅっと握り、カタカタと震えている。 その手を掴むと高く引き上げ、再びドアに磔ける。 そうやって次から次へとイルカの手を封じ、イルカに二人分の唾液を飲み込ませて口中を犯し続けた。 どれだけやっても足りない気がした。
「イルカ先生…」
欲望に塗れた掠れ声で名を呼び、ぼんやり見上げるイルカの頬に手を宛がう。 はっはっと肩で息をして、涙で滲む目でイルカは自分を見ていた。 もうここで一回挑んでしまおうか。 そう考えていた時、イルカが喘ぎ喘ぎ掠れた声を出した。
「はっ ふっ も、もう、こんなのやだ、ベッド行くっ」
「…はぁ?」
「ベッド!」
イルカは片手でバンっとドアを叩いた。
「…」
そして怒ったようにベッドベッドと怒鳴り出したイルカに呆けて、カカシは暫らく動けなかった。 イルカにドシッと胸元を叩かれ、やっと我を取り戻す。
「ベッドじゃなきゃヤラナイっ!」
「ああ…、はいはい」
この人は!
カカシは、くくくっと肩を震わせ横隔膜が痙攣するのに暫らく逆らえなかった。 涙を零して笑い転げる自分を、イルカは最大級に頬を膨らませて睨んでいる。 その顔がまたかわいい。 こんな彼を、他のヤツラも見たのだろうか。 それとも俺だけか。 それならいいのに、と思いながら徐にイルカを抱き上げる。 イルカは自分で歩けるとまた暴れた。 いやだ下ろせと喚き散らすイルカを無視して、カカシは相好を崩して笑い続け、寝室まで歩いた。
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