淋しい兎は狼にその身を捧げ
- A Lonesome Rabbit sacrifices himself to the divine Wolf. -
13
やっと結界を抉じ開けると、隊の中は既に混乱を極めていた。
あちこちで隊員同士で切り結んでいる。 医忍がサッと出てチャクラを篭めた掌底を次々に隊の者達に打ち込み始めた。 暗部が幾人かサポートに回っている。 斬りあっていた者達で掌底を打ち込まれた者の内、一方は何事もなく、もう一方はがくっと膝を折り、次に顔を上げた時は辺りを不思議そうに見回して、今まで切り結んでいた相手に手を差し延べられ引き起こされる、という具合だった。 カカシは彼らにそこ等辺を任せると、奥へと突進していった。 見覚えのあるテントの前では、斉場カズキと写真で見せられた榊姉妹が睨み合っていた。
今回の元凶が斉場なのか、はたまた別に居るのか。 五代目との議論の最中には然とした答えは得られず、取り敢えずは両方疑わざるを得ないと言う苦しい結論に達するばかりだった。 だが、出撃する直前に答えがやってきた。 榊姉妹のモノとして回収された遺体の身元が確認されたのだった。
「斉場!」
「カカシッ」
カカシが忍刀を構えて名前を呼ぶと、イルカの幼馴染の男はチラともこちらを見ないでカカシの名を呼び返した。 目前の二人のくノ一姿の者達から目を離さず、ジリジリと間合いを計りあいながら、斉場はまた叫んだ。
「ここはいいっ 早く、イルカはそのテントの中だっ!」
カカシは一つ頷いて踵を返し、テントに向かいざま手裏剣を女の一人に放った。 その途端、斉場が切り込んで行き、膠着状態が崩れた。 後ろから二三人応援が駆けつけてきている。 目の端でそれを確認し、カカシはテントの幕を跳ね上げた。
中は血臭に満ちていた。 男がひとり、肘から先を血塗れにしてその手で何かを掴んでいる。 蛇だった。 小さな蛇が男の手の中でくねっている。 男の足元には、血の気を失ったイルカが、全裸で両足を大きく広げたまま横たわっていた。
「英照!」
テントの中、忍刀を上段に構えることが出来ず、カカシは刀を投げ捨ててクナイを握り直した。
「覚悟っ」
間髪を居れず間合いを詰めようとすると、男がさっと飛び退いて、ハッと気合一閃気を放った。 次の瞬間にはテントの半分が吹き飛び男の姿も消えていた。
「イルカ先生っ」
ダッとイルカに駆け寄り名を呼ぶが、イルカはピクリともしなかった。 足の間、局所からは血が滴り、血溜まりを作っていた。
「イルカ先生、イルカ先生っ」
何度も名前を繰り返し、上半身を抱き起こすと、その余りの冷たさにゾッと背筋が震える。 急いで自分のベストを脱ぎ、イルカの体を包みながら大声で医忍を呼んだ。 首筋に指を当て脈を確かめようとしたが、指が震えてなかなか見つけられなかった。 呼吸を確かめようにも、自分の荒い息遣いが邪魔をして、どうしてもイルカの呼吸音を聞き取れない。 ガクガクと体が震え止まらなかった。 イルカを抱き締めながら、カカシはひたすら医忍を呼び続けた。
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