かけがえのない人をこの腕に抱き締めたい想いを綴る


3



閨中・案山子



「……ぁ ……っ」
 ひくっと声にならない悲鳴を上げてイルカが仰け反った。 イルカから自身を引き抜いた後、ほとんどうつ伏せるようにカカシに背を向けて呼吸を整えようとしているイルカの背中に、触れるか触れないかの微かな接吻けを背筋に沿って落としていく。
「かっ カカシさんっ それっ …ぁ」
 反射のように撓る背がしっとり汗で湿って艶かしい。 前に事後、同じ事をして同じ反応を返された時、暫らくすれば落ち着きますから今は触らないで、と言われて覚えたこの楽しみ。 そんな事を言われて素直に止める奴は馬鹿だ、とカカシは思う。 背中の産毛が総毛立って震えている。 堪らない。
「やっ ……ぁ ……ぅん」
 軋むであろう体を無理に起こそうとするイルカの肩を押さえ込み、背骨の少し横の筋を辿るようにそっと接吻けて行く。 本当に反射なのだろう、事後で敏感になっているその背は、刺激を受ける毎に見事に反応して撓った。 かわいそうなくらい息が上がっている。 嗜虐心を唆るその姿態と反応に、すっかり力を取り戻した自身をイルカの尻の割れ目に沿って擦り付けると、イルカは半泣きになって懇願した。
「ぁ… ッカシさん、 もう少し待って、まだ…」
 本当に辛いのだろうに、もう止めてくれとは言わず、待ってくれと言うイルカが愛おしい。 長期任務からの帰還後、イルカを閨に連れ込んでからいったい何回この体を貫いただろうか。 どうしてこんなに足りないんだろう。
「だめ、待てない」
 指を二本纏めて挿し入れると、きつくもなく緩くもない柔らかいが弾力のある締め付けに、自身を突き込んだ時の快感を想起させられ腰がぶるりと震えた。 指に自分の放ったものが淫らに纏いつく。
「すごい、トロトロだ」
 イルカは枕を抱きこみ顔を埋めて刺激に耐えていた。 くぐもった声を漏らしても、拒絶はしない。 どこまでも自分を受け入れようとする様は、いっそ献身のそれで情欲に乱れてのそれではないような気がして、カカシはどうしてもこの体を悶えさせたくなる自分を抑えられなかった。 いつもそうだ。
「イルカ」
 自分のこの欲に塗れた掠れ声はどうだ。 こんなにもこの人を欲している。
「あ…あ…ぁあっ」
 ずぶずぶと飲み込まれる自身を見ながらイルカのあげる切なげな声に更に欲情する。 今すぐめちゃくちゃに揺さぶりたい衝動を抑え、最後まで突き込んでから、体を折ってそっと触れるか触れないかの接吻をその背に落とした途端、ヒュッという息を呑む音と共にイルカが仰け反って硬直した。
「くぅっ…… イルカ先生っ 息してっ…」
 咄嗟のとき「先生」と呼んでしまう自分がおかしいと、涙目になりながら激しい締め付けに耐える。 イルカはピクリと震えた後、はぁと息を吐いて頽れた。 かくりと肘を折って胸をぺたりと落としたイルカは、前を弾けさせ震えていた。 腰だけがカカシに向けて突き出されている。
---これからだ、イルカ。
 カカシは腰を強く掴むと、達したばかりのイルカの中を大きく掻き混ぜた。
「ぁああっ ま、待って…」
「待たない」
 突き込む。 突き込んで回す。 回して揺する。 抜いて挿す。
 達った直後の過敏な体は、痙攣するようにヒクヒクと戦慄いた。
「イルカ… イルカ…」
「ああ… ぁぁ… ぅん…」
 頽れたままのイルカの腹を抱き寄せ、背と胸をぴったり合わせると、イルカの体ごと大きくゆっくり揺すりながら項を吸う。 胸を弄り突起に指腹を当ててくるくると捏ねると、震えが波のようにイルカの体を伝播して最後にカカシをぎゅっと締め付けた。 思わず呻き声が漏れる。
「ああ、すごい気持ちいい」
 イルカがぴくっと震えて僅かに自ら腰を揺すった。
「ぁん、ああ… ぁあ… ぁぁ…」
 注挿と共に発せられるイルカの声のトーンが徐々に低く落ちてくる。
 もう少しだ。 もう少しで堕ちる。
 カカシはもどかしい刺激を胸や首筋に与えながら、体をゆっくり揺すり続けた。
「カカシ…さん」
 イルカが呼ぶ。
「なぁに?」
「前、向かせて…くださ…」
 きれぎれに願いを口にするイルカがこの上なく可愛い。
「うん」
 わざと勢いを付けてずりゅっと引き抜くと、イルカはあぅっと切なく喘いだ。 力の無い体を返し、片足を持ち上げて腿を開くと直ぐに自分をイルカに宛がう。 ぬくりと滑り込んでゆく様が淫らだ。 イルカは一回仰け反って顎を反らしたが、直ぐに両腕を伸ばしてきた。
「キス…したいです」
 体を倒した瞬間、再度仰け反る喉元に噛り付きながら、イルカの唇に辿り着くと、ちゅっちゅっと啄ばんでからばくりと全体を覆うように喰らい付く。 深く口腔を犯しながらズンとひとつ大きく突き込んで律動を始めると、ふわっとイルカの腕が首に絡んできた。
「ん… ぅん…」
 イルカの手が髪を弄り、掻き混ぜ、きゅっと抱き締めてくる。 イルカの内部はうねるように顫動し、カカシ自身をやわやわと握り込むように締め付けている。
「…イルカ」
「んぁっ あ… カカシ…」
 唇を解放し名を呼ぶと、イルカは普段は絶対にしない呼び捨てで、カカシの名を呼んだ。
 不覚にも涙が零れた。
 ただ名前を呼び捨てられただけなのに。
 首の下に腕を通し、きつく抱き締め返して首筋に顔を埋める。 お互いがお互いを抱き締め合いながら、名前を呼び合い、体を揺すり合う。
「ん、カカシ… あ、カカ…シ、ぁぁ…」
「イルカ、イルカ、イルカ…」
 悩ましく喘ぎながら、熱に浮かされたように自分の名前を繰り返し呼ぶイルカの声が、胸を熱くする。
 あなたをここまで乱れさせるのに、俺はいつも苦労するよ。 でも最高に嬉しい。
 かけがえのないこの人を、俺のこの腕に抱き締めて、愛し合い、名を呼ばれる幸せ!





BACK / NEXT