ギター弾きを知りませんか?
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Epilogue 6 イルカ
花園
薔薇の門
小道
城
「イルカ?」
妖魔
見てなんとなくそう思う。
でも見た目は普通の男の人だった。
年齢はちょっと判らない。
「はい?」
妖魔は好きだ。
多分、人間よりも
ナルトも好き
半分妖魔のアイツは側に居ると落ち着いた。
「マサキの息子?」
「はい」
「まだイルカ?」
「はい、俺はずっとイルカです。」
「マサキは名前を付けなかった?」
「いいえ、俺が拒んだので」
「そう…」
「…」
父の話はしたくない。
母の話もしたくない。
でも、この目の前の妖魔のなんて悲しそうな顔
でももう、行かなくちゃ
急いでるんだし
大分遅れてるんだし
「ジルに呼ばれて来たんだね?」
「はい」
「他の客人はもうとっくに来てるよ」
「はい、俺だけちょっと仕事が間に合わなくて」
「そう。 じゃあ急がないと、ね?」
「はい」
頭をひとつ下げて横を擦り抜けようとした時
頭上からカカシの殺気が降ってきた。
「!」
「!」
ふたり同時に塔のひとつを見上げていた。
あの塔は、あの時俺が落ちた塔だ。
実を言えば、カカシが居るのを知っていて態と落ちた。
そうでもしなければ、カカシに触れなかった。
あの時の激情が懐かしい。
それを許して、背を押してくれたもう一人の自分はもう顔を見せないけれど
きっとまだ俺の中にいる。
そう信じている。
でなければ、今の俺がこんなに頑張れるはずがない。
意気地なしで
弱虫で
泣き虫で
唯の甘えたがりの
こんな俺が
一人でこんなに頑張れるはずがない。
今も心が潰れてしまいそうで
挫けてしまいそうで
歯を喰いしばっているんだから
誰かに縋ってしまいそうになるのを
必死で堪えているんだから
カカシ
カカシの殺気
空気がビリビリと震えている。
俺は走り出した。
門で衛兵に止められる。
招待状を見せて、兵の一人が確認に走り、帰って来てから暫らく顔を寄せ合って話した挙句、やっと通してくれた。 それを延々繰り返す。 もう一つの門で。 城の大扉で。 各棟の出入り口で…・。
こんな事をやっていたら間に合わない
カカシがあんな殺気を出すなんて
「その人はジルの客だから、俺が連れて行こう。」
苛々していると、やっと通されたドアの先に、さっきの妖魔が何時の間にか待っていた。
「行こう、急ぐんでしょ?」
「はい、助かります」
彼の後を着いて走る。
衛兵達は皆、彼を見ると一礼して道を開けた。
「あなたはいったい…」
「俺? 俺はジルの個人的な顧問てとこかな」
「妖魔のあなたが?」
「ジルしか知らないことだ。 それに、ジルと俺は共通の愛しい者を亡くした同士みたいなものだから」
「…」
その先は聞かなくても判った。
聞きたくないから黙っている。
ジル
この国の王
父の父
俺の祖父、海野杭を愛した人
この妖魔にも愛されたのか
祖父は木の葉で死んだと聞いたが
本当のところは判らない。
海野の家には墓はひとつも無い。
『呪われた海野の血』
長老の一人がそう言った。
でもいいんだ。
海野の血は俺で絶える。
俺は妖魔とは番わないし
人の女とも交わらない。
「この部屋だよ」
考えに沈んでいる裡に目的の部屋の前まで来ていた。
もう殺気は無い。
カカシ
カカシの気配は微弱だが感じられた。
大丈夫だ。
彼は気配を抑えているだけ
ほら、深呼吸して
なんでもない顔を作って
狼狽えた様子なんか見せないで
取り敢えず顔を見て
殺気の理由を聞いて
海野イルカはそうするのが普通だから
「ありがとうございました。」
「イルカ」
「はい?」
「マサキを、クイを…許してね」
「…」
俺は答えなかった。
答えられなかった。
父の
祖父の
何を許せと?
でも、この目の前の妖魔のなんて悲しそうな顔
俺は、ちょっと口端に力を入れて微笑もうとした。
ちゃんと笑えていたかどうか、判らない。
妖魔はずっと悲しそうな顔のままだったから。
もう一度頭を下げて、俺は扉を押し開けた。
・・・
「カカシさん!」
「イルカ先生…」
カカシの顔が若干青かった。
「大丈夫ですか? 今さっき、あなたの殺気が…。 何かあったんですか? 賊か間諜でも」
「違う違う、イルカ先生、落ち着いて」
カカシはどこかいつもと違う風だった。
何があったのだろう。
不安が森の梢のように、チラチラを影を射す。
それでも、はい、と答えて頷いてみせた。
後はいつも通り
海野イルカはいつもこんな感じだから
微笑むカカシ
低くよく通る優しい声
少しだけ見上げる位置にある顔
抱き締められるとスッポリ収まってしまう、広い肩と胸
カカシ
カカシ
あなたが好きだ。
もう当の昔に別れてしまった愛しい人
愛しくて愛しくて
心が張り裂けそうなくらい別れが辛かった
今でも辛い
でもこれでいいんだ。
カカシとの間に一歩半の距離を置いて
俺は…
「イルカ」
王の声がした。
「イルカ」
「イルカ君」
「イルカ先生」
「イルカ」
次々に声が掛けられて、俺は振り返った。
「誕生日おめでとう」
杯が一斉に上げられた。
淡く発砲した薄い琥珀色の液体がキラキラと揺れ
眩しかった。
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