ギター弾きを知りませんか?


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               Epilogue 4   カカシ


「…カシくん、カカシくん!」
 呼ばれてハッと知覚が戻る。
 瞬くとと、王とカルーソが並んで自分の顔を覗きこむようにしており、残りの者もどこかしら心配そうな訝しげな顔をその肩越しに覗かせていた。

 し… 信じられん!
 こんな事は今まであったろうか
 こんな失態
 こんな油断!

「大丈夫かね」
「!」
 考えるより先に体が動いた。
「カッ カカシくん!」
「おいッ」
 王とゴッドファーザーはその場に伏し、辛うじて若者と中年三人は立ってはいたが今にも膝を付かんばかりに震えていた。
「何をした!」
「お、落ち着き、なさい」
 外の衛兵に踏み込まれると厄介だ。 声を落としてはいたが、それでも充分鋭く叫ぶ。 王は高齢ながらさすがに一国の主と言うべきか、床に這い蹲りながらもカカシの方を見て声を上げた。
「俺に何をした? 幻術か!」
「何も、していない。 頼むから、その殺気を…」
「…」
 考えてから殺気を少しだけ緩める。
「この中に催眠術使いか幻術使いがいるのか?」
 気配を探るが室内の自分も含めた六人以外には人は居ない。 それは確かだ。
「だから、ワシらにそんな事ができる訳なかろう。 落ち着きたまえ」
 ふぅと大仰そうに息を吐き、王は椅子の所まで歩くとドカリと腰掛けた。 まだ床に居るカルーソを、ガストンが助け起こしてソファへ連れて行く。 若者二人はさすがに若干戦闘モードに入っていた。 王子は腰の剣に手を掛け、腕っ節の強そうな海の男はその太い腕をボクシング・スタイルに構えている。
「ああ、いいからそこの二人も座りなさい。 カカシ君は何もせん。 ワシが悪かったんじゃ。」
 ほれほれ、と双方に手を振りそこはかとなく場を和ませていくムードのリード振りはさすがに王だ。 二人は手を下ろしそれぞれ元の椅子まで戻ったが、カカシは皆から少し離れた場所で腕組みをして仁王立ちしたまま殺気だけは引っ込めた。
「ふぅ、やれやれ。 上忍の殺気と言うものを味わえたのはまぁ、冥土の土産にはなったかの」
 額を手の甲で拭い、王は飲み物を手にした。
「カカシ君も、そんな所に突っ立ってないで座って酒を飲んでくれ。 知っているとは思うが、何も毒も薬も入っておらんし、君の言う術とやらは我々には無縁の存在じゃ。 とにかく話を聞きなさい。 君は、ただワシとカルーソの質問に幾つか答えていただけじゃよ。 本当に覚えておらんのかね」

 そう
 質問に答えていた。
 王に、2・3聞きたい事があると言われ
 先日のイルカの刃傷騒ぎから始まりどうしてイルカと別れたのかという事まで
 国王がするにはかなり下世話な話だと
 考えながらも一つ一つ極力失礼の無いように
 答えていた

「巴の国の宰相殿のことを話していたのは覚えているのかね?」
「山城霞… 覚えています。」
「では、××××××…………」


 ………………………………………………


 ハッとする
 また
 まただ

「徹底していますね」
 カルーソの低い声が脳を揺すり、カカシはジンワリと嫌な汗を掻いている事を意識した。
「カカシ君、もうよい。 座りなさい。」
 今度は素直に従って、よろりと側の椅子に頽れるように身を投げ、額に手を宛がった。 ひんやりと汗で冷えた肌がごわごわとした感触しか伝えて来ず、触角も鈍くなっていると知る。 これが何かの術だとしたら、相当な使い手だ。 自分はとっくに殺られている。
「誰かの術ではないと?」
「何度も言うようじゃが、ワシらは何もしておらんよ。 深呼吸をしたほうがよさそうだ。 無理をさせたかの。」
「じゃあ!」
 関係ない事を色々喋りだして止まらない王を少し大きめの声で制する。
「じゃあ、どうして俺はこんな風になってるんです。 記憶がズッポリ飛んでいる。 体中冷や汗もかいてる。 すごく嫌な気分だ。」
「…その事を君に話しても、今の繰り返しだ、カカシくん。 君には強い暗示が掛かっているんだよ。 勿論、我々が掛けたのではない。 ずっと昔、君が随分と幼い頃の事だろう。 これ以上はきっとまた君はブラックアウトする。 もう少し落ち着いたら、ゆっくり対策を考えよう。」
 低く、諭すような口調のカルーソの声が、ズキズキする頭に遠く響いてくる。

 やめてくれ
 おまえの声の方が暗示みたいだ
 
 嘔吐感に襲われ手で口元を押さえながら、止まらない冷や汗と悪寒に体を震わす。 だがそうしながらもカカシは、意味ありげに顔を見合わせて頷きあう王とゴッドファーザーの二人の老人の姿を苦々しく睨みつけた。 今日のこの集会に自分が呼ばれた真の目的が、自分のこの反応を確かめる事にあったのかと、やっと判った。





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