ギター弾きを知りませんか?


13


 ニタリと嗤いクナイを構えるイルカを目の前にして、忍刀の柄を強く握り締めながらカカシは迷っていた。

『お願いです、アイツを守って』

 ああ、守りたいさ
 だが、目の前のコイツを切ればイルカも死ぬ。
 放っておいてもコイツがイルカを殺す。
 どうしたらいいんだ…

 目前では、荒く肩を喘がせてはいるもののその顔付は狂気を孕んだ殺人者のそれで、イルカ自身も満身創痍だったが他にも何人もの無関係な者を傷つけてここまで逃げきていた。 カカシも例外ではない。 それどころか、最初の被害者だった。

『アイツが愛してる者は、俺も愛している』

 あの国に追ってきたイルカと、木の葉に残っていたイルカ。 その他にもこんなヤツが居たとは。 今コイツを何とかしても、まだ他にも居るかもしれないと言う事か。 こういった乖離性神経症は、一回その逃げ道で味をしめると次からは安易にその方法に縋るのが人間の弱さだ。 かわいい方とかわいくない方。 あの二人は普段統合された人格だと言っていた。 それを信じるなら、どちらが主人格かは知らないが彼らは一応安心として、取り敢えずコイツだけは何とかしなければ。 コイツは、イルカを殺す事で解決としようとする”イルカ”だった。

「俺の事は放っておけよっ 一度捨てただろう!」
「もう一度拾おうと思ってね」
「勝手な事言うな! アイツはまた捨てられるとクヨクヨグズグズ悩むだけだ。 鬱陶しいんだよ!」
「クヨクヨグズグズでも、かわいいよ」
「はっ 今更何言ってるんだ! アイツはもう絶望してんだよ!!」
「まだ絶望はしていない。 失望はしてるかもしれないけど」
「もう遅いんだよ… 俺はアイツを殺す、邪魔をするな!」
「もう一人のおまえは、そうは言っていなかったぞ」
「ヤツだって本当は同じだ。 イルカはもう何も信じない。 生きている事がアイツの罪で罰なんだ。」
「その罪と罰、俺が一緒に背負うよ」
「ぺらぺらと調子のいいことばかり… もう誰も信じないって言ってるだろう!!」

 カカシの肩を抉ったクナイを、今イルカは自分の左目に向けていた。 眼窩を抜けて脳に達すれば、悪ければ命は無い。 良くても重い障害を負う。 少なくとも左目は潰れてしまう。 自分と同じ。 あの奇麗に澄んだ黒い瞳が一つ、永遠に失われてしまう。 しかし今の自分は片腕しか使えない。 間に合わない。

「イルカ」
「呼び捨てるな!」
「イルカ」
「こっちへくるな!」
「イルカ」
「離せ! 離せ離せ離せ! この役立たず! 臆病者!」

 目の前にいるイルカのクナイを持った手が、誰かに押さえつけられたかのように空中で引き攣った。
 もう一人のイルカの手が、押さえたのだろうか。




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