ギター弾きを知りませんか?
12
「カカ…さん、……さ、あ、んん」
「ん、なぁにイルカ先生」
「俺、俺は」
ドーピングし続けながら抱き倒し、イルカは朦朧としてカカシに縋った。 かわいくない方のイルカがかわいく縋る。 それだけで胸の中が熱くなり、固く抱き込んで深く繋がりユラユラと体を揺らし続ける。 奥の弱い箇所を微妙な強さで強く弱く抉り続けられ、イルカは達する事もできず落ちる事もできず、あえかに喘ぎ鳴いた。 慣れた体、慣れた行為。 カカシはその瞬間だけ別れた事を忘れて、恰も恋人同士のようにイルカを愛した。
「…さん、カ…さん」
「ん、んふ、なに」
キスで口を塞ぎながら答えていると、朦朧としたイルカがふるっと顔を一度振って唇を噛んだ。
「こら、血が出る」
喰いしばったために赤く血の滲んだ唇を舐め解す。 イルカは痛みに意識を幾分はっきりさせたのか、覚束ない腕を上げカカシの髪を掴んできた。

「カカシさん、俺、もうダメ、です」
ふっふっと浅く息を吐き、一心に目を抉じ開けて見上げてくる。
「まだまだいけるでしょ。 なんならもう一発薬打っときますか?」
「違う…、違います」
聞いて、と必死な様子にカカシは漸くイルカの異変に気付いた。 体が、あんなに火照って熱かった体が、冷えてきていた。
「俺、あと三日は、持たすつもりだった。 アイツが起きるまで」
はっはっと苦しげな顔も青褪めてくる。
「だ、だいじょうぶですか、イルカ先生っ」
慌てて律動を収め自身をイルカから引き抜こうとすると、イルカがはしっとカカシの肩を掴んだ。
「だめ、今、止めないで、揺すってて、さっきみた…に」
「でも」
「でないと、俺、落ちちゃう」
ユサリと緩く突き上げると、うっと呻いて眉を顰め、イルカは掴んだ髪を引っ張った。
「俺、もう持ちません。 アイツが寝てる今、俺が、眠ったら、ヤツが、起きる」
「ヤツ?」
「お願い、です、あ、カカシさん、アイツを守って」
「アイツってかわいい方のイルカ先生? ヤツって?」
「おねが…です、は、あ、俺、俺は、アイツ、守んなきゃ」
「ヤツって誰です? イルカ先生」
「イルカは、アイツはあなたが、好きで好きで…、死にそうな顔するから、一人で行かせた、こんなことになるなら、ああっ」
うっかり突き込みが強くなっていたのか、イルカが腕の中で背を撓らせ息も絶え絶えに喘いだ。
「ごめん、大丈夫?」
「うん、ん」
「イルカ先生」
意識が飛びそうになっているイルカを、なんとか繋ぎ止めようと名を呼んで緩く揺すり上げると、イルカはようやっと薄く目を開けた。
「さっき」
「ん」
「言ってた、アレ…、俺じゃない、から」
「アレって?」
「あなたに、抱かれてたの、俺じゃない」
「じゃあ、かわいい方の、アイツ?」
「ちが…、違う、俺じゃないけどアイツじゃなくて、俺だけどアイツで、俺たちは」
「え、普段は分裂してないの?」
コクコクと細かく頷いて、カカシの髪を掴んでいた手を頬に宛がい、イルカはじっと瞳を覗き込んできた。 深く深く真っ黒く澄んだ瞳。 吸い込まれそうなこの瞳にヤラレルのだ、いつも。 カカシは息もせずに待った。
「ヤツはアイツを殺す、きっと。 守ってやってください、お願いします。」
「判った、守るよ」
カカシは訳も判らず頷いた。 イルカの必死さがそうさせた。
「よ…かった…、あなたも、気をつけ…くださ…、ヤツは狡猾…だから」
「ヤツって、でも…イルカ先生」
ふぅーっと体を弛緩させ、イルカは眠りに落ちる寸前の子供のようにウツラウツラとし出した。
「カカシさん、俺も、あ…たが…」
「イルカ先生、イルカ先生」
「あなたが、好きです… アイツが愛してる者は、俺も愛している…」
「イルカ先生っ」
腕の中の体は冷え、死人のような青褪めた顔色がカカシをぞっとさせた。 何度名を呼んでも、その夜イルカはそれきり目覚めなかった。
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