ギター弾きを知りませんか?
10
暗い森
風に撓る枝
ざわめく葉ずれの音
イルカは大門の外、森に大分入った所に一人立っていた。 月は無く、暗闇で、カカシは少し離れた大枝の上で気配を消して待っていた。 そう、待っていた。
「おかえり」
イルカが徐に囁いた。
「ただいま」
ボロボロの恰好の、もう一人のイルカが藪を分けて姿を現した。
「酷い恰好だな」
「うん」
イルカがイルカを抱き寄せる。
「辛かった?」
「うん」
よれよれのイルカを抱き締める支給服姿のイルカは、昨日の朝カカシを冷たくあしらったあのイルカだ。
「バカだな、もっと早く帰ればよかったのに」
「うん、行く先々で色々あってさ…」
「それがバカだって言うんだ」
「うん」
よれよれのイルカは、元気な方のイルカの肩にコトンと頬を預けてほぅと息を吐いた。
「あの人、無事?」
「とっくにぴんぴんして帰ってきてる。」
「そっか、よかった」
「バカ」
「うん」
二人はじっと目を見詰め合った。 冷淡な方のイルカがかわいい方のイルカの髪を優しく撫で付け、さも愛おしげに額に接吻けた。
「疲れたろ? 少し眠れ」
「うん、でもおまえの方が疲れてるだろ? 何週間も」
「あと二三日延びたところで同じだ。 いいから眠れ」
「うん」
ぎゅっと抱き合って、二人は暫らくじっと動かなかった。 その時間が長かったのか、一瞬だったのか、カカシには判らなかった。 煙が上がり晴れた時には、イルカは一人だった。 後に残ったのは、よれよれの方のイルカだった。
影分身を解いて一人に戻ったイルカは、ガクッとその場に膝を付いた。
「酷いな… 体、ガタガタ」
「あなたが本体だったの?」
「…ええ」
特に驚くでもなく、イルカは突然現れたカカシに答えた。
「でも、かわいい方のイルカ先生は、今はおネンネしてるって訳?」
「ええ」
「あんたは誰なの?」
「俺はイルカです」
「じゃあ、かわいい方のイルカ先生は?」
「イルカです」
「分裂症なの?」
「…」

「そうなんだ」
「疲れたので帰って休みます。 おやすみなさい、カカシさん」
「ちょっと待って、俺に抱かれてたのはどっち?」
「おやすみなさい」
「いいよ、答えてくれなくても。 抱けば解る」
「カ、カカシさんっ」
暴れるイルカを組み敷いた。
森の中
暗い空
ざわめく枝葉
別れてから初めて抱く、イルカの体…
カカシには、解らなかった。
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