ギター弾きを知りませんか?


9


 イルカは結局、答えになるような事は何も言わなかった。
 上げられた顔は何も映しておらず、あの嵐の晩、カカシに唯頷いて見せた時と同じく、泣きもしなかった。
 カカシはイルカを置いて里へ還った。
能面
「おっ」
 驚いた。
 正直、心臓がドキドキしている。
「イルカ先生、速かったですねぇ」
「何のことですか?」
 報告書を渡しながら思わず声を掛けてしまった。 まさか置いてきたイルカに抜かれているとは。 俺も焼きが回ったか。
「任務おつかれさまでした。 事前申請した期間の3分の1で済んだんですね。 ともあれ、ご無事で何よりでした。」
 事務的な受け答えをして、イルカは書類をポンと「済み」の箱に入れた。
「どうぞ、ゆっくり休養してください。」
 取り付く島も無い。 そうだ、別れてからのイルカはこんな感じだった。 一応笑顔で応対してくれるだけマシというくらいだ。 あの国でのイルカの方が変だったのだ。 でも、それでも…、何かおかしい。
「ね、あの後どうなったんですか? よくこんなに早く帰してくれましたね。 あの人達、絶対イルカ先生の事離しそうもなかったけどな」
「さっきから何のお話ですか?」
「だーかーらー、あの王宮で王子やゴッドファーザーに捕まって、随分と歓待されたんでしょうねって」
「私は木の葉を一歩も出ておりませんが」
「は?」
 イルカの顔はやはり能面のようだった。 何も感情を映さないその顔をフイと横向けて、イルカは火影に同意を求めた。
「火影さま、俺ずっと毎日アカデミーと受付に出てましたよね?」
「ああ」
 火影様には”俺”って言うんだな、とカカシには”私”と言うイルカの顔を見つめながら首を傾げる。
「変だなぁ。 じゃあアレは誰だったんでしょうね? あなたにそっくりでしたよ」
「さぁ、他人の空似じゃないですか」
「カカシさん、カカシさんって煩かったけど」
 そこで初めてイルカの表情にピクリと動きができた。 顳あたりをヒクヒクとさせてイルカはそれでも平静を取り繕った。
「それは、私になど似た者がご迷惑をお掛けしました。」
「いえいえ」

 とにかく、変だ。
 確かにアレはイルカだった。
 だが、こちらのイルカも嘘は吐いていない。
 だとすると…





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