ギター弾きを知りませんか?


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「イルカくんの父上には、若い頃たいへんな恩を受けまして、何とかもう一度会いたいと、ずっと探しておりました。 あの港に海野さんとよく似た容姿の若者が居ると聞いて、調べさせたところ彼の事を知って、是非お会いしたいと切望し、あの晩はやっと…、やっとお目にかかれると心底楽しみに…」
 ゴッドファーザーはグレイの髪の初老の紳士で、ソファにゆったりと腰掛けて手を組み、仄かな灯りの下で遠い日の想い出を懐かしむ目をして王の問いに答えた。
「わたしだとて同じです、父上。 わたしが12の頃、賊に攫われた時に救い出してくれたのがイルカ先生です。 その後どうしてもまた会いたいと、ずっと望んで参りました。 あの港での噂、酷かった。 その後のイルカ先生の消息に付いて回る話を聞くにつけ、イルカ先生がどんなに酷い扱いを受けてきたか…! わたしは、絶対イルカ先生をお助けせねばと思い、父上には申し訳ありませんでしたが突入部隊を1隊お借りしました。」
 王子は眩い金髪を靡かせた美青年で、頬をピンク色に染めて少々興奮ぎみだ。
「…ふむ。 して、あなたは?」
「や、俺の事はお構いなく」
 いきなり振られてまた乾いた笑が漏れる。 だが部屋に居る全員がジットリと非難する眼差しでこちらを見つめていた。 まぁしょうがないかな、これじゃね。 また、ははっと笑って、カカシは首にぶら下がったままのイルカの肩をポンポンと叩いた。
「ほら、イルカ先生、皆さんが困ってらっしゃいますよ?」
 だがイルカは頑なに顔をカカシの肩に伏せ、フルフルっと強く首を振るばかりだった。

ソファ
 幸せになれば…
 幸せになれば ファドが歌えない

 イルカ先生
 俺と別れてください


 あれは嵐の夜だったな。
 この人は何も言わなかった。
 何も言わずにただ頷いた。
 頷いたじゃないか。
 なのに何故今になって…


「私はこの人の同僚で上官です。 国王陛下には初めてお目にかかりますが、貴国の依頼は何度も受けております。 今回も、まぁ本当はこんな事言っちゃあ拙いんですがね、お宅からのご依頼の件でここにこうして罷りこして来た次第でして。 ですがこの人は、今回の任務とは無関係でして、私としてもどうしたのもか困惑頻りといった具合でして、はぁ」
「ふむ」
 王は、顎鬚を片手でずっと弄んでいたが、そこからフッと手を離し、椅子から立ち上がった。
「して、海野イルカ。 今度はあなたの番じゃがな」
 イルカはピクッと一度体を震わすと、カカシの肩からゆっくり顔を上げた。
「何故この国に来たのじゃ?」

 そうだ
 俺もそれが聞きたかった




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