ギター弾きを知りませんか?


1


ギター  うらぶれた港
 小さな居酒屋
 ギターを弾いていた
 男を見ませんか?

 銀の髪
 碧い瞳
 左目に傷のある
 男を知りませんか?


 そう聞きまわっている若い男がいると聞いた。 バーテンに頼んで身を隠し物陰から様子を窺っていると、その男は真っ直ぐ奥のカウンター・バーまでやってきて案の定バーテンダーに話しかけた。 イルカだった。 洗いざらしの白いTシャツは少し大きめで、捲くった半袖の袖口からは細い二の腕がすんなり伸び、シャツの裾はくたびれたブルージーンズに律儀に仕舞われていて、その細腰を強調していた。 あの腰を引き寄せ、あの腕を掴み、あの体を組み敷いて何度鳴かせただろう。
「そのギター弾きの男なら知ってるぜ」
 黙って首を振るばかりのバーテンにイルカが項垂れて踵を返しかけると、突然脇から声がかかった。 ビクリとするが、知らない男だ。 男はイルカの側まで行くと、すぐにその腰に手を回した。
「上に部屋を取ってあるから、そこでゆっくり話そう。」
 イルカの強張る顔がふるふると二三度横に振られた。
「知りたくないのか?」
 だが男の言葉に暫し瞠目すると、イルカは俯くように頷いた。 手を掴まれ、曳かれて行くその姿をバーテンは眉を顰めて見送り、チラリとこちらに目線を寄越した。 仕方が無い。 ふぅと溜息が漏れる。 カカシは光の中に出て行った。

「イルカ先生、久しぶり」
「カカシさんっ」
 何でもないように笑って挨拶をする。 イルカの顔は泣きそうだった。 男は邪魔が入ったことに心底不機嫌そうに顰め面をしている。
「あの、探してた人、この人ですから。 ありがとうございます。」
 そう言って掴まれた手を振り払おうとするが、男は手を離さない。
「邪魔すんなよ」
 それどころかカカシに向かって凄んでくる。
「邪魔はしないよ。 ちょっと話をしたいだけ。 後でちゃんと返すからさ。」
「おまえが後にしろ」
「しょうがないなぁ」
「カカシさん…!」
 イルカの縋る瞳を見ないように、カカシは後ろ手に手を振った。
「じゃ、後でね、イルカ先生」
 イルカは男に引き摺られて、2階のカカシの部屋の辻向かいの部屋へ入っていった。 何か言い合う声が暫らく続き、ドタンバタンと争う音が響き、そして静かになった。 イルカの喘ぎ声が聞こえてきそうな気がして、カカシはその安宿を出た。

 全く!
 何をやっているんだ、あの人は!
 どうして拒まないんだ?
 できるだろう?
 そんな男、一捻りにして逃げ出せるだろう?
 だいたい、何故ここへ来たんだ?
 俺を連れ戻しに来たってか?
 はっ



BACK / NEXT