森の縁の家で
10
馬 その2
「判ってくださいっ 他の場所でならいくらでも」
「俺はっ ヤリたい時に、その場所で、ヤリたいのっ!」
珍しいこと。 イルカがカカシ相手に声を荒らげて。 頑なに体を強張らせて全身で拒絶して。
「どうして今日に限ってそんなこと。 今までは」
「今までは今まで、今日は今日っ!」
バカカシ。 なに泣きそうになってんのよ。 どうも最近様子がおかしい。
「もういいよっ!!」
キス無しでいいのか。 イルカが慌てたように後を追い掛け、止めた。 約束は破られた。
・・・
子供の前で求められたのだ、とイルカは言った。 それだけは、と拒み場所を移してくれと頼んだ結果がアレだった、と。
「きっとアンタ達の関係なんて、子供達もとっくに聞いて知ってるわ」
「聞くと見るのとでは違います」
「そうかしら」
「それに、子供達の前で肯定するような行為はできません」
「あら、アンタの今までの態度からすると、なんか意外ね」
「子供達の前以外でなら、俺は否定する気は全くないんです、でも」
「子供の前だと、どうしていけないの?」
イルカは信じられない事を聞いたという面持ちをした。
「俺は…カカシさんとの関係を否定したいと思ったことはありません。 でも、同性同士の性行為を子供達相手に肯定する訳にはいきません。 恋愛も唯の性行為も、正しく男女間でするべきです。」
「それが意外だって言うのよ。 アンタは最初から全然違和感無くカカシを受け入れていたじゃない。 今更どうしてそんなこと」
「今更じゃありません。 カカシさんが今まではちゃんと場所を移してくれていたから言う必要がなかっただけで」
「カカシは捜してるのよ。 ずっと捜してたのよ。 アンタが本当は嫌々なんじゃないかって、その根拠を」
「そんなこと………! 別にそんな理由が無くても俺は…、いつでも…」
「別れる?」
「俺達は恋愛関係じゃありません」
「じゃ、身を引く?」
「処理です。 身を引くもなにも…」
「関係無いって顔をする?」
「俺はただ…元の通りに…」
哀れなカカシ。 元通りなんて無理に決まってる。
「木の葉は…少子化傾向にあります。 拍車を掛けるような行為は里の存続の危機に繋がります。 子供のうちに知らなくてもいい事を実例として見せられて、あの子達の未来にそんな選択肢を設けてしまう必要はどこにも無いはずです。 恋愛もセックスも異性間でという倫理観が育つ前に、そんな事はしてはいけないんです。 大人になって、それでもそういう道を選ぶと言うなら、それはその子の選択ですけど。 ハードルはできるだけ高くしておいた方がいいんです。」
「それは…アナタの経験?」
「…」
イルカはそこで黙した。 俯いて、膝の上に握った拳を押し当てるようにして、もう何も喋ろうとしなかった。 こんな時にアイツはどこで何やってんのかしら、と捜したが、その巨体も煙草の匂いも見つけることはできなかった。
---卑怯者、オマエの所為だろうに
否、時代の所為か。 ここでアスマにフォローさせたとして、どうしようもない。
「カカシさんだって、ご自分のDNAを残さない訳にはいかない身分だと、重々お分かりでしょうに…」
問題は別な所にある。 それを指摘するように最後の言葉を呟いて、イルカは上忍控え所を出て行った。
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