森の縁の家で
9
慰安
処理処理と侮る無かれ。 こうして抱き合って繋がって、彼は俺の上で、その身の内に俺自身を深く迎え入れて、首に両腕を回して、固く縋り付いて、ゆっくりと体を揺する。 拙い動き。 もどかしい快感。 胡坐を掻いた腰の上で、背に足を絡みつかせるようにして座り、肩口に乗せた顎が緩く上下し同期して耳元にあえかな喘ぎ声が届き、そして俺の腹には彼の張り詰めた快楽の証が当る。
「あっ 待って、まだ…」
じれったかったが動くのはイルカに任せて、彼のペニスを握り先端を撫で付けると、ふるふるっと震えたそれは指の中でニチャリと音をたてた。 耳元に吹きかけられる吐息が少し荒くなる。 縋りつく腕がきつくなる。 中が顫動し、締め付け、緩み、また締め付け、まるではむはむと食まれているかのような感触に、自分の背も震えた。
「イキなよ」
「でも、アナタがまだ」
「俺はこの後からがお楽しみだって、知ってるでしょ」
膝を使って下から突き上げながらイルカのペニスを扱く。 イルカは最早自分で体を揺することさえできずに、しがみつくばかりだった。
「あ、ああっ う、んんーっ」
目の前で粟立つ首筋や鎖骨付近の肌に舌を這わせ、彼の汗を味わう。 彼の唾液の味も知っている。 精液の味も知っている。 アナル粘膜の粘液の味さえ知っている。 彼自身が見ることの適わぬ体の部分を見、彼自身が知らない体液の味を知っているのに、足りない足りないと訴えて貪って、彼を責めて、泣かせて、その挙句の果てに見たことの無かった表情のひとつも拝めれば満足するのだが、最近それも稀になった。 もう見尽くしてしまった。 それほど責めた。
「っ」
ぶるぶるっと痙攣すると、彼は声の無い叫びを上げた。 握った手の中で彼のペニスが一瞬膨れ上がって、勢い良く白濁を飛ばす。 飛沫が互いの腹を汚し、彼の顎にも付着した。
「あ、あ、まだ… まだぁ」
顎のモノを舐めながら、ひょいと彼を抱えて繋がったまま押し倒すと、彼は泣きながら震える手を伸ばしてきた。
「もうちょっと、待って、ねがい」
「だーめ」
膝裏を抱えながら寝かした体に圧し掛かる。 そしてまず一突き。
「ああっ」
顎がこれでもかと上がり、喉が晒される。
「ああっ ああーっ」
ぐっぐっと荒く突き上げると絶え間なく上がる喘ぎ声。 否、悲鳴か。 達した体が辛いと訴えるのだろう。 刺激が強すぎると緊張する。 中が強張るように固く締め付けてきた。 彼は顔面を蒼白にして、細かな汗をびっしりと噴き出させて、喘ぎ声さえか細くさせて、涙を零れさせて…、そしてただひたすらシーツを握り締める。
「ぁ、ぁ… ぁぁっ ぁ」
揺する度、ぽろっぽろっと転がる涙を見ながら、自分の限界も近い事を感じて尚一層注挿を激しくし、腰を打ち付けた。 自分の先端が彼の奥を突くと瞬間後に、彼の体全体がビクンと引き攣り、中も締まる。 ああ、気持ちいい。 これだから手放せない。
「うっ」
呻き、中で果て、動きを止めた。 荒くなった息に上下する肩、滴る汗、立ち上る湯気。 覆い被さるように彼の上に倒れ込むと、自分とは違うリズムで胸が上下していた。
「イルカ」
呼んでその口を塞ぐ。 苦しげに呻く彼。 逃げるように振られる顔を手で掴み押さえ、犯すように口中を舐めまわす。
「息、できな」
合間に訴える声を無視して接吻けを続け、そして口を併せたまま乳首を抓む。
「や、あっ」
ビクッビクッとそれだけで背を反らして震えるイルカに気を良くして顔を下げると、彼の手が慌てたように頬を掴んできた。
「も、も、だめ、も、できな」
「できる」
「あした、に、む、ある、ある、から」
「任務?」
こくこくっと細かく必死の態で頷く彼を見上げ、言った。
「じゃあその任務、俺の慰安と差し替えね」
俺が最優先なんでしょ、と心無く言うと、ぐすっと一瞬だけ啜り泣くような声が上がった。
「なに? 嫌?」
「いえ、いいえ」
顔を両手で覆ってしまったので表情を見ることはできなかった。 でも頬から手が外れた。 なのでそのまま顔を下げて、勃って尖った彼の乳首を舌先でチロリと舐める。
「うんっ」
跳ね上がる背。
「い、う」
嫌って正直に言えばいいのに。 ザラリ、ザラリと舐め転がすと、彼がまだ抜いていない自分をまた締め付ける。 舐めてくる。 すぐに硬く太くなって、彼も圧迫感でそれが判るのかまた切なく喘ぎ出す。 そして
「い…やぁ」
強度を確かめるつもりでグルリと腰を回すと、彼が初めて”嫌”と泣いた。 だから態とグラインドを続ける。
「いやっ いやぁ、あ、いやーっ」
もう箍が外れたように嫌々と繰り返すイルカ。 懇願するように伸ばされてきた両手を、その手首を掴み顔の横に押さえつけ、気の済むまで掻き回してやった。
「ひっ、や、ぁぁ… ぁ、うふ、ひうっ」
啜り泣く彼の目はもう焦点を結ばず、その耳が言葉を拾っているかどうかも判らない。 そう思うと、言いたい言葉、確かめたい言葉が湧き出してきて止まらなくなる。
「イルカ、俺は…」
泣き濡れるイルカの虚ろな目。 覗くと自分の顔が映り込んでいる黒い瞳。
「俺のこと…、イルカ」
「カ…カシ」
名を呼ぶと名を呼び返す。 その途端ぼろぼろっと零れる涙を、俺はどう解釈したらいいんだ。
・・・
「カカシ」
好きです、ごめんなさい、ごめんなさい
「あ、カカシ、あ、ああ」
中を掻き回されて、気が狂うほど好かった。
「カ、カカシ… カカシ」
「イルカ先生」
「カカシ…」
どうして”イルカ先生”?
哀しい。
「カカシ… カカシ…」
「イルカ先生」
「カカシ」
「ん」
先程までとは打って変わった穏やかな律動。 ”先生”と敬称する呼び声。 醒めてしまったのか。 心の声が聞こえてしまったか。 名を呼び捨てては激しく抉り掻き回すのが、欲情している時の彼の常なのに。 でも、好きなんだもの。 好きなんだもの。 好きなんだもの…
だから一時、正体を無くして名を呼び、喘ぐ。 明日の朝は忘れた振りをする。
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