森の縁の家で


8


               酒宴


「上忍の方は割りと皆さん、一人に固執したがりますよ。 処理の相手を物扱いする方はまず居ませんし」
「そういうもんなのか」
「はい。 求めるモノが性欲処理だけではないということなんでしょうけど、戦場では余計にその傾向が強まるみたいです。」
「逆かと思っていた」
「そうですね、女性の方とか、里に常駐している方とかからはそう言われることが多いですね。 でも、俺の経験では、外ではその方が普通でした。」
「その関係が里へ帰ってからも続いたりはしないのか?」
「いえ、そういう事は極稀です。 大概の方は既に恋人か配偶者がいらして、任務が終了して部隊が解散されると同時に自然解消します。 例えば次の任務で偶々前の時のお相手と同じ隊に配属されても、他の上忍の手が先に付いていたら何も言わずに手を引いてくれます。」
「要するに、その任務限定の”恋人”役を演じている、ということか」
「そんなかんじです」
「それでお互いが精神の安定が図れるのなら、文句は言えないが。 抱かれる側としてはどうなんだ?」
「あれを擬似恋愛と呼ぶなら、抱かれる側もその方が気が楽です。 物扱いされた場合は人間的な感情を殺さないとやってはいけませんし、かと言って彼らのパートナーの女性とそういう意味で揉めるのはまっぴらですしね。」
「それもそうだろうが、そんな一時的な恋人”役”ばかりでは虚しくないのか?」
「一時的な…、暫定的な、臨時の、かりそめの、束の間の…。 言い方はどうでも、そういう役割が必要で、その時その時の丁度都合のいい年頃の少年がその役を振られる、というだけの話ですよ。 あまりに子供過ぎても罪悪感が増します。 かと言ってゴツ過ぎても抱く気になれないでしょう? そんな期間はほんの2〜3年ですよ。 体が大人になるのが先か、自分が上忍に昇級するのが先かと言って頑張っていた同僚がいましたが、本当にそうです。 そう思っていれば耐えられます。 幸い、そういう経験に対する偏見は薄いですし、酒の席で3人寄ればその内の一人は経験者だというくらい、一般的なことです。」
「だが、”擬似”恋愛では済まない場合もあったんだろう?」
「…」
「里までその関係を持ち帰って、継続したいと強要する者も居たのではないか?」
「そうですね。 確かにそういう方もいらっしゃいました。 恋人が居ない方はブレーキがかからない分、感情移入が激しいのでしょう。」
「揉めたことはないのか?」
「…ありますよ、多くはないですけどね。 修羅場も演じたことあります。 里内だからと言って力関係が対等になる訳ではありません。 結局、避けても拒んでも組み敷かれてしまいます。 抵抗、即ち、強姦ですから、暴力を振るわれて傷付くのは自分です。 ならばお互い気持ちよくなった方がいいだろう、と言われます。」
「三代目に相談しなかったのか?」
「俺が贔屓されてるって言われてたのご存知でしょう? 言えませんよ、ましてやそんなこと。」
「そうだな…。 だがオマエは成長が遅かった。 人よりそんな耐えねばならん期間が長かったのではないかと思ってな。」
「ええ、長かったですよ。 やっと体が今くらいになったのは二十歳も間近の頃でしたし、今でも華奢だとカカシさんには言われます。」
「着膨れするタイプだな」
「ふふふ…。 これね、そういう風に見えるように細工がしてあるんですよ。」
「そうなのか?!」
「ええ」
「剥いてみて初めて判る、という訳だ。 カカシはそれにヤラレたんだな。」
「あの方は…、多分、相手が少年だとか女だとか、そういうことに拘らないんだと思います。 純粋に処理なんです。 挿れてみて気持ち好ければ誰でもいいんじゃないでしょうか。」
「それは…カカシには聞かせたくない発言だな。 泣くぞ、アイツ」
「またそんなこと…。 俺にどうせよと仰るんですか。」
「別れろ」
「カカシさんに言ってください」
「オマエが切れ」
「俺は処理で抱かれています。 切るとか別れるとか、そういう言い方には語弊がありますよ。」
「そこだよ。 カカシのヤツもそこに気付いたんだろうさ。 アイツは狡いからねぇ。 オマエに決して愛してるだの好きだの言わないだろう?」
「もちろん言いませんよ! 処理ですから」
「哀れだねぇ」
「すみません」
「カカシの方だよ」
「だから、すみません、と」
「オマエも負けずに狡いねぇ」
「…すみません」
「オマエ、子供を産む気、あるかい?」
「………は?」
「カカシの子を産む気はあるかと聞いてるんだ」
「俺、男ですよ」
「アタシを誰だと思ってるんだい」
「綱手さま…」




BACK / NEXT