森の縁の家で
6
家
「なんで呼ばれたか判ってるんだろうな。 いつまでぐずぐず拗ねているつもりだ? え? 任務も蹴って何が里の誉の上忍だ! 怠けるなっ 仕事をしろっ」
「嘘を言うな。 オマエが捨てたと聞いたぞ。 女共が見てたのさ。 さようならイルカ先生って言ったそうじゃないか。 里中が知っている。 イルカはいい笑い者さね、かわいそうに。」
「あの子は来ているさ。 一日も休んでない。 どっかの誰かとは違うんだよ。 寧ろ最近の方が出勤率は良いぞ。 その誰かに無理を強いられないからだろうよ。」
「いいや、あの子は元々ああいう子なのさ。 病気なんかじゃない、今はな。 九尾の所為で確かに一時期おかしかったが、あの子はあの子なりに消化しているんだ。 もちろん人格形成には影響しているだろうさ。 オマエだって例外じゃないだろう? あの家? あの家がどうしたって? バカを言うな。 家の所為な訳なかろうが。」
「あの家じゃなければ抱かれないと、そう言われたのかい?」
「ああ、よく覚えているよ。 あの家はイルカが両親と共に暮らしていた家だ。 九尾の夜に焼失したがな。 あの子は家も家財も両親も、全てあの夜に失った。 勿論そういう子はあの子一人じゃなかったが、あの地区に特に多かったんだ。 九尾との激戦区だったからな。 でもあの子は三代目の屋敷に引き取られたから、運のいい子だと思ってたんだがねぇ。 様子を看て欲しいと請われて行ってみれば、縁側でただぼーっと座っていた。 今でも目に浮かぶよ。」
「そうだよ、私と三代目とであの家に連れて行ったんだよ。 イルカは泣いて嫌がった。 はっきり覚えているよ、焼け残っていたのは壁だけだった。 無理矢理だってか? オマエに言われたかぁないがね。 でもね、時計の止まった子は止まった場所まで戻してみるのが一番だったんだよ。 と言うか、当時はそれしか治療と呼べる方法が無かった。 情けないったらありゃしないよ。 でも、イルカはそれで時計が動き出した。 成長が戻ったしね。 今考えると、動き出したのは体の時計だけだったのかもしれないがね…。」
「オマエだって覚えがあるだろう? オマエの時計も、サクモが死んだ時に止まったじゃあないか。 とは言え、オマエは強い子だったし、才能もあったし、周りが放っとかなかったしね。 気がつけばオマエはサッサと壊れた時計を投げ捨てて、代わりに自分で自分の針を倍の速さで回し始めていた。 あっという間に大人を追い越していきやがって、チビのくせに生意気な糞ガキだったねぇ。 でもそれも今考えればイルカと逆だったんだね。 オマエは心の時計はそうやって無理矢理動かしたが、体の時計は放置していた。 いつまで経ってもチビだったよ、オマエは。 よくこんなに成長したもんだ。」
「あの辺一帯は焼け野原になったんだ。 住んでた者達も、忌まわしい記憶を忌んであの土地を捨てて余所へ移っていった。 戻ったのはイルカだけだろう。 イルカは中忍になって直ぐに、あの家を建て直したんだよ。 だからあの家だけポツンとあそこに有るのさ。 三代目に金を借りたんじゃないかねぇ。 よくは知らないが、とにかく前の通りに立て直して、一人であそこに住み始めたらしい。 取り戻したかったんだろうね、昔の通りにさ。 で、器だけは取り戻した。 でも中身は無い。 それに目を背けながら一人で暮らしてきたんだよ。 ナルトを愛して育てて、あの子の心の時計も少しは回り始めてたのかもしれないけど、子供は巣立つもんだ。 オマエにはきつく言われちゃうしねぇ。 え? 聞いてるさ、勿論。 アナタの生徒じゃない、俺の部下ですってか?! オマエも偉くなったもんだ。 生意気なチビのガキだったのにさ!」
「聞いてるよ。 シズネの情報網を甘く見るなよ。 オマエは任務帰りにイルカを犯した。 処理だったんだろう? 違うとは言わさないよ。 イルカから訴えがあればオマエを処分してるところさね。 それに、一回だけならまだしも、オマエはその後もイルカの家に通って結局囲い者にしてしまった。 違う? ふんっ そんな言い訳、通ると思ってるのかい? 詭弁と言うんだよ。 イルカがぼんやりしているのに付け込んで、そのまま情人にしたんだ。 恋人だぁ? ふざけるなっ イルカはそう思ってはいなかったんだろう?」
「しょげるなよ。 言い過ぎたよ。 そこんところをオマエが判ってるんならいいよ。」
「そうさね、あの子は頑固者だよ。 知らなかったのかい? 一緒に住んでたんだろう? はっ 所詮オマエはイルカの表面しか見ていなかったってことだよ。 あの子はあの家で一人、ずっと静かに暮らしてた。 空っぽの家でだよ。 そこへオマエが入り込んで掻き回したんだ。 罪な事さね。 あの子が敢えて見ないようにしていたモノを、オマエは…。」
「知らなかったって? アレも知らなかったコレも知らなかった! 誑しの詭弁だよ。 いい加減におし。 オマエはね、イルカの生活に不躾に入り込んで、空っぽだったあの子の器にちょっぴりづつだけど水を溜めたんだ。 知らなければそれで済んでいたものをあの子に教えて…、オマエは酷な事をした。 その水が無くなった時のことを考えなかったのかい。」
「死んだよ。 みんな死んだ。 私も、オマエ達のことがあってから調べたんだが、資料が残ってたんだよ。 三代目がずっと気に掛けて追跡調査をしてらしたんだよ。 時計が止まった子達で一応の回復を見せた子は、不思議とみんな忍になったらしい。 そしてみんな死んじまった。 もちろん、任務で命を落としたんだ。 自殺? それだけは一人も居ないよ、居ないがな、自分を生かすのは生き抜きたいと願う強い意志に他ならない。 拠り所の有る者と無い者とでは、やはりな…。 三代目がイルカを内勤にしたのも、強ちそこらへんと無関係とは言い切れないな。 なにせ最後の一人だ。」
「時計を直せないかって? イルカの心の時計をか? オマエ…、アレから何年経ってると思ってるんだ。 あの時生まれた赤子がもう12で、下忍になっているんだぞ。 癒せなかった傷は痕になり真皮と癒着し、とっくにその人間の一部になってる。 切り離すことなどできはしない。 オマエのその目の傷だって、もうオマエの一部だろう? イルカもそうだ。 壊れた時計ごとイルカなんだ。」
「傷ごとイルカを愛せないって言うんならサッサと手を引きなっ いつまでもぐずぐず未練がましいこと言ってるんじゃないよっ」
「聞いたのかい? だから私の所為だって言いたいのかい? 責任転嫁もいいところだね。 イルカにかい? 言ったよ、確かに。 オマエが女だったらどんなにいいだろうってさ。 悪かったかい? 本当の事だろう? オマエの遺伝子は残さなきゃならない。 オマエが誰か女と結婚してくれりゃあ話は…」
「判った判った、煩い子だね全く。 子供さえ作ってくれりゃあ文句はないよ。 その後はイルカと縒りを戻すなり何なりすりゃあいいじゃないか。 え? なに青臭いこと言ってんだい。 オマエ、今まで自分がしてきた事を忘れたとは言わさないよ! いったい何人女を泣かせてきたと思ってんだい、ええ?」
「反省はオマエが泣かした女達に言うんだね。 大挙して押し寄せたって? 聞いたよ。 はっはっ バカだね、オマエがちゃんと会って説明しないからだろう。 その分イルカに皺寄せが、…そうだよ、そんな事も知らなかったのかい? 女達がイルカの所へ行って、カカシを出せって迫ったらしいよ。 いや、私も聞いた話だから確かじゃないが、誕生日だって去年までは女達からくるプレゼントで認識してたんじゃないのかい? そうだろう? それが今年は突然門前払いじゃあ彼女らも納得しないやね。 そうだよ、イルカに無理矢理押し付けたらしいよ。 一度はオマエに直接言ってくれと断ったらしいが、オマエが任務で当日出払っていたから仕方無かったんだろ。 イルカはそういう子だよ。 家に有っただろう?」
「そりゃあアレだな、女達が押し付けようとした物を見て思ったんじゃないのかい。 形の残る物は贈るまいってさ。 あの子らしいじゃないか。」
「それで、それを持って帰れって言われたのかい? で、その日のうちに女どもが押しかけてきたってか? はっはっはっ 自業自得じゃないか。 え? イルカが知ってて帰らせたかどうかって? そんな事まで私が知るか! だが、そうかもな。 差し詰め、彼女らに詰め寄られて約束させられたんだろうよ。 その日だけはオマエを帰すってさ。 そりゃあ、自分の家に押しかけられたらイルカだって堪んないだろうからね。」
「…それで? どうしたんだい。 イルカに荷物運びを手伝わせてその後どうしたんだ、と聞いてるんだよ。 連れ込もうとした? それで拒否されて突き放したってか? バカだよオマエは。 頭にきてたって? そんなの言い訳になるかい。 イルカは女達が来る事を知ってたんだろ? 居られる訳なかろうが。 だから余計にって…オマエ、勝手だねぇ」
「イルカが自分からオマエの所に来るまで? 意地を張るでないよ。 絶対あの子は来ない。 賭けてもいいね。 なにぃっ?! アタシが賭けたからには外れるってぇ! 言うじゃないかっ いいよ、本当に賭けようよ。 あの子は来ない。 あの子はね、オマエが残した水を飲み干したら、また空っぽのまんま生きていくんだ。 芯は強い子だからね。 そりゃあ、少しは泣くかもしれないよ? あの子だって何にも感じない訳ないじゃないか。 ぼんやりだけど抜け殻って訳じゃないんだよ? ちゃあんと痛がったり悲しんだりしているさ、決まってるだろう!」
「いや、来ないね。 きっとそんな発想も湧かないのさ、あの子は。 オマエがさよならしたのなら、もう自分はオマエにとって要らなくなったと思うだけさね。 オマエの家で抱かれたがらなかったのも、そこら辺の所に線引きしてたんじゃないのかねぇ。 意識的か無意識かなんて私には判らないけど、私はそう思うよ。」
「そうだよ、オマエは酷な男だよ。 イルカの静かな家を掻き乱すだけ掻き乱して、放ったんだよ。」
「一度放ったんだ、放っておおきよ。 もうあの子に構うな。 心配要らないよ、既に何人か真面目に名乗り出た者が居るらしいし、っておいっ 話はまだ終ってないぞっ! 任務どうするんだっ! ったく、バカばっかりだね、この里は!」

1ヶ月ぶりだ。 この道を辿るのも、あの垣を見るのも。 緑なす小道。 葉陰から射す日の光。 山の辺の、森の縁の家。 いつの間にか煩かった蝉の声がしていない。 静かで、風が木々をざわめかす音のみが満ちる。 イルカは一人、この森のあの家に住んでいる。
「何しに来たって言われたらどうしよっかな」
酷い言い方をした。 驚いた顔をしていた。 キョトンとしていた。 小首を傾げ、何か考えるようにして、一二回、目を瞬いた。 彼がその顔を歪ませて自分の前で泣いていたら、女共がいくら押し寄せようとも、その腕を掴んで離さなかったろうに。 彼は、キョトンとした顔のまま消えた。
「これじゃ、任務帰りには見えないな。 疲れてもないし、チャクラも切れてないし。 なんかいい言い訳、ないかな。」
あの人はずっと、処理で抱かれてると思ってた。 1時間だけ抱かせろ、なんて言っても怒らなかった。 態度でどれほど愛情を訴えてみても、情の深い人だ、くらいにしか感じてなかった。 知ってたよ。 どんなに嫉妬心を露にしてみせても、独占欲としか受け取らないし、一晩中名前を呼びながら抱き明かしても、絶倫だくらいにしか思ってないんだ。
「あー〜〜、わたっしーのー こーいはぁ〜〜♪」
止めよ。 こう静かだと鼻歌も歌い辛い。 イルカに聞かれたら恥ずかしいし。
「みなぁみぃの〜 風に乗って走ぃるわぁ〜〜♪」
それでも小声で後を続けながら門を入り、飛び石伝いに玄関へ歩こうとしてふと横の庭を見ると、自分の部屋だった客間の縁側に堆く布団が積まれていた。 布団を干すのが好きな人だったよ、そう言えば。 そこに自分の布団の柄が見えたので胸がツキンと痛む。 近寄ってみると、取り込んだ布団の間に黒いチョンマゲが見えた。
「また、うたた寝してる」
ちょっとほっとする自分がなんか哀れでおかしい。 そっと顔を覗く。 イルカは丸まってスースー寝息を立てていた。
「俺の布団も干してくれたんだね、イルカ先生」
隣に座って日向ぼっこをして待ったが、イルカは一向に起きる様子がなかった。
「相変わらず、あどけない顔しちゃって」
でも少し顎が尖った? 痩せましたか?イルカ先生。 俺が居なくて少しは寂しかった?
「風邪ひくよ」
愛してます。 恋人になってください。 そう言ったらこの人はきっと俺を拒む。 綱手の婆が余計なことを言ったから。 俺には子供は産めません、とか? アナタが自分のDNAを残すのは義務です、とか? いや、そんな事は言わないな。 俺はアナタなんか愛してません、なんて言われた日にゃあ、哀しくって泣いちまう。
「あなたのぉ〜 決してお邪魔ぁは しないかぁら〜 お側にぃ置いて欲しいぃぃのぉよぉ〜〜♪」
いや、セックスはお邪魔か? ああ、抱きたいな。 一ヶ月シテないもんな。
「そんな顔して寝てると襲っちゃいますよぉ」
ぷにぷにと頬を指先で突くと、イルカはやっと目を覚ました。
・・・
「風邪引きますよ」
起きるとカカシが隣に居た。 夢かな、と最初に思った。 まだ寝てるのか、俺。 体を起こすと涎が垂れていて慌てて手の甲で口元を擦り、顔のあった場所を擦る。 ちょっと濡れてるかも。 せっかく干したのに。 こそっとカカシの方を窺うと、ニヤニヤ笑っていた。
「ご、ごめんなさいっ アナタの布団に、あの、そ、そんなに付いてませんから」
顔から火が出るほど恥ずかしかった。 いい大人がうたた寝して涎垂らしてるの見られてたのか?
「起こしてくださればよかったのに。 いつからいらしたんですか?」
「さっき」
まだ笑っている。 もう、意地悪な人だ。 まだ頬がカッカする。 ひたすら下を向いていると、カカシの手が顎を掴んで上向かされてしまった。
「少し痩せた? ちゃんと食べてる?」
「そう…ですか?」
痩せたかな、俺。 自分で自分の頬を擦ってみても、痩せたかどうかなんて判らない。 きっと幾らも違わない。 気の所為だ。
「気の所為ですよ」
「いいえ、顎が尖ってます」
それに、と言ってカカシは立ち上がった。 帰るのだろうか? もう此処へは来ないと思っていた。 きっとまた任務帰りか何かだろう。 でも、たいして疲れてもいないようだし、チャクラ切れでもないようだ。 もう少し話していたかったが、引き止める理由がない。 送ろうと一緒に立って縁から降りると、手首をぐいと掴まれた。
「ほら、腕もこんな細くなってる」
「いえ、元々こんなもんですよ?」
そのまま手首を掴んだままで引いて歩かれて、いったいどうするつもりだろうと思っていると玄関に向かう。 寄って行くつもりなのか?
「あの、カカシさん? 寄っていかれるんですか?」
「はい、泊まります」
「え?!」
ちょっと吃驚して声が大きくなってしまうと、カカシは立ち止まって振り向いた。
「ダメですか?」
「いえ、ダメではないですが…」
カカシはちょっと眉尻を下げて微笑んだ。 なんだか情け無さそうな顔だと思ったが、また前を向いて歩き出したのでよく見ることはできなかった。 それにしても…。 おかしいなぁ、確かさようならって言われたんだけどな。 アレってそういう意味だと思ってたんだけど、ただの挨拶だったのかなもしかして。 まぁいいか、と引かれるままに歩いていると、カカシは前を向いたままでボソリと呟いた。
「一ヶ月も会えなくて寂しかったですよ、俺」
「ああ、はい俺もです …っあたっ」
手を引かれていたので足元を見たまま歩いていると、ドシリとカカシの背にぶつかり鼻を打つ。
「すみません、よく前見て無くって」
なに急に立ち止まって何かあったっけ?と鼻を擦りながら謝ると、カカシがくるっと振り返った。 その顔が歪んで今にも泣きそうに見えた。
「ど…どうしたんですか? そんなに痛かったですか?」
「痛かったです」
「すみませんっ」
そんな強くはぶつかってないはずだけど、と訝りながらもカカシの背を擦ってやると、「違います、こっちです」と胸を指される。
「ごめんなさい、この辺ですか?」
背中だと思ったが胸だったか、と尚も胸に手を当てて擦るが、ベストの上からではあまり役に立たない気がした。 何やってんだろ、俺、とちょっと思っているとその手も掴まれ、両手を持ち上げられてカカシの口元まで運ばれる。
「ね、イルカ先生。 アンタ他の男に付き合ってくれって申し込まれたんでしょ? それってどうしたの? OKした?」
「は? なんの話ですか?」
「なんの話って…… ちっ あんの糞婆っ」
「あ…の…?」
剣呑な空気に少し怯めば、カカシは掴んだ両手を更にぐいと引き上げて体ごと引き寄せてきた。
「飯、食わせてください」
「あ、はい」
「その前に、アンタを食います」
「はぁ」
やっぱりそうくるか、といつも通り返事をすれば、カカシは目を細めてクククと笑った。
「アンタはそうでなきゃね」
「はぁ… うわっ」
セックスならアレかな、布団敷かなきゃだな、涎垂らしちゃったけどシーツ敷けばいいかなとぼんやり考えているとグルンと視界が回って抱き上げられたことを知る。 また姫抱きなんかして。 俺これ嫌いなんだよな、と溜息吐きつつカカシの首に腕を回すと、上半身を抱えた方の腕を更に上げて接吻けてきた。 軽くも無い男を抱き上げた上でそれでは腕が辛かろうと思い自分から顔を寄せると、カカシの目が少し潤んだように見えた。
***
アンタ達はアレね、もう宛ら夫婦ね。 そう言われた。 恋人同士の期間が無かったという事に関しては残念至極だが、イルカを見る顔が亭主の顔だと言われてこそばゆい。 ”亭主”か。 ちょっといい響き。
はっきり申し込めば断られると判っているので、結局俺達は前のままで居る。 言っておくが、断られるのは俺だけじゃなくって他のヤツらもおんなじなのだ。 実際、玉砕した男共が数人居たらしいしな。 俺は狡いので、そこらへんのところは暈したままで一緒に居させてもらうほうを選んだ訳だ。 でも綱手の婆も言ってたじゃないか。 傷も、年月が経って痕になれば、真皮と癒着してその人の一部になる、と。 俺はあの人の傷になる。 それで気がついたら離れられなくなっていればいいな、と思うのだ。
最近は、接吻ければ応えるようになったし、自分から縋り付いてくるし、突き込めば併せて腰を振るようにもなった。 し・あ・わ・せ〜vv 黙れっ恥知らず! そういう事を人前で言うなっ はい、さいですか。 紅姉さんの指南は尽きない。 早く熊とくっつけっ そうすりゃちょっとは落ち着くだろうさ。 相変わらず人んち押しかけては浴びるほど酒なんか飲まなくなるだろ? 頼むよ。 アスマ、オマエもしっかりしろよ。 オマエだけにゃあ言われたかねぇって…、俺はアレよ、この人の亭主よ亭主。 へへんだっ
嗚呼それにつけても、紅に家を知られたのははたけカカシ一生の不覚である。 喧しいことこの上ない。 蝉以上。 せっかく人里離れた静かな家なのにさ。 ちょっと入れば樹海だぜ? そんな、人と獣の境界線にあるような、森の縁にある家に、今日も通い夫をする俺。 イルカは「はぁ」と返事をする。
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