森の縁の家で
5
やじ‐うま【野次馬・弥次馬】《「おやじ馬」の略とも「やんちゃ馬」の略ともいう》
1. 自分に関係のないことに、興味本位で騒ぎ立て、見物すること。また、人のしりについて騒ぎ回ること。
また、その人々。
2. 父馬。老いた牡馬。また、気性の強い馬。
馬
◇ vsイルカ 一回戦
「あらイルカ、今日は受付?」
「はい、紅先生、任務おつかれさまでした。 ご無事で何よりです。」
「はいこれ、報告書、よろしく」
「はい、拝見します」
「ところでー、アンタ、あのカカシと付き合ってるんですって?」
「はい」
「カカシと同棲してるって噂もあるわ」
「はい」
「ってことはアレよね、そういう仲ってことよね」
「はい」
「…イルカ」
「こことここ、誤字があります。 それと日付が記入漏れです。 後は結構です。」
「わ、わるかったわ」
「いえ」
「イルカちゃん」
「はい」
「…なんでもない」
結論:リアクションの薄い子は面白くない。
◇ vsイルカ 二回戦
「あらイルカ、お昼? 手作り弁当なのね!」
「あ、はい」
「カカシのヤツにも作ったげてんの?」
「いえ、自分の分だけです」
「…な、なんで?」
「作ってくれって言われないから」
「あ、そう…。 と、ところでねぇ、イルカちゃん。 カカシのことなんだけど」
「はい」
「押し掛けなんだって?」
「はぁ、まぁ」
「じゃ、最初はあれ? もしかして無理矢理?」
「はぁ、まぁ」
「そ、そうなの? それじゃあ嫌じゃないの? カカシと付き合うなんて」
「いえ、べつに」
「なんで?!」
「はぁ、なぜでしょう」
「普通そういうのはね、”強姦”って言うのよ? 判ってる?」
「はぁ、まぁ」
「強姦された相手よ? 嫌でしょ?普通」
「いえ、べつに」
「なんでよ?!」
「はぁ、なぜでしょう」
「もしかして、最初はどうでも今はもうカカシとは恋人同士?みたいな?」
「いえ…そういう訳じゃあ…」
「なんで?」
「カカシさんからは、そのような事は一言も言われてませんし、俺も聞いてみたことありませんし」
「そんな曖昧な関係でいいの? 満足なの?」
「あ…の」
「なによ?」
「元々処理でしたし、満足とかそういうのはあんまり」
「処理って、アンタずーっとこのままでも平気なの?」
「はぁ、まぁ」
「だからなんでよ?」
「さぁ」
「…」
結論:イルカを攻めても面白くない。
◇ vsカカシ 一回戦
「おい、紅ッ イルカ先生に余計な自覚を促すのやめろよ!」
「何よ、何の話?」
「イルカ先生に、強姦魔と暮らすのは嫌だろうとか、それが普通だとか色々色々」
「ああ、あれ。 そうよ。 悪い?」
「悪いよ!」
「イルカがぼんやりちゃんだからアタシがフォローしてあげたんじゃない」
「それが余計だって言うんだ! あの人からぼんやり取ったら俺となんか居てくれなくなっちゃうだろ!」
「自覚あるじゃない」
「当たり前だろ。 毎日戦々恐々としてるんだぞっ」
「そこまで惚れててなんで強姦なんかしたのよ?」
「最初は…そりゃ、その…処理だったって言うか…だったから」
「じゃあやっぱりイルカの体の具合が好かったって、そういう事でしょ?」
「そうだけど、今は違うもんっ」
「どこがどう違うのよ?」
「顔も好きだし、声も好きだし」
「それはアレでしょ? 喘ぐ顔とか声とか、そっちに付随した話でしょ? 同じじゃない」
「違うもんっ 寝てる時の顔とかすっごくかわいいなって心底思うもん。 声だって普段「いってらっしゃい」と「かおかえりなさい」とかあの声で一度でも言われてみろ? 今日も一日がんばるぞってなるんだぞ!」
「はいはい、興奮しない」
「だ、だいたい、最初の時だってあの寝顔にヤラレちゃったみたいなもんだったし」
「わーかった、わーかったから」
「もちろん、あの声で喘がれたらもう堪んないのよ? 何回だって勃起てるね俺は」
「いいから黙れ」
「とにかく、もうイルカ先生に余計な口出しは無用だからな!」
「はいはい」
結論:カカシは苛め甲斐があるがウザイ。
◇ vsイルカ 三回戦
「だいたいアンタはぼんやりし過ぎよ、イルカ」
「はぁ、そうでしょうか」
「アスマも言ってたわ、昔っからぼんやりだったって」
「子供の頃はそうだったみたいですけど、今は普通だと思いますよ」
「本人は自覚無いのよね。 でなきゃカカシなんかにつけ込まれたりしないでしょ」
「俺、つけ込まれてるんですか」
「イイ具合に漬かってるわよ」
「沢庵ですか」(そこでイルカ、後ろを見ずにチョークを2本投げる)
「白菜キムチなんかもいいわね」
「いいすね、今晩チゲにしようかな。 イサキとワカナ、後で職員室来いよ。」
「あらいいわね、アタシもお呼ばれしちゃおうかしら」
「どうぞ」
「でも家が判んないわ。 アンタんち遠いのよね?」
「ええ、でもならカカシさんと一緒にいらしたらいいですよ。 アスマさんも誘ってください。」
「鍋は大勢で突くほうが美味いのよね。 酒を持ってこさせるわ。」
「アスマさんにですか?」
「そうよ、他に誰がいるのよ」
「ご結婚されないんですか?」
「なななな、なにを言い出すのよ! なんでアタシがアスマなんかと!」
「すみません」
「そこで謝んないでよ!」
「はぁ、すみません」
「もう、いいわ。 テスト中お邪魔したわね」
「いいえ」
「じゃ、今晩窺うわ」
「お待ちしてます」
結論:丸め込もうとして逆に丸め込まれたかんじ。 なかなかデキル。 それに、ぼんやりだとアカデミー教師は務まらない。
◇ vsカカシ 二回戦
「カッカシ〜、鍋よ、鍋!」
「はぁ?」
「イルカんちで鍋よぉ」
「なんだそりゃ」
「お呼ばれしたのよ〜」
「誰に」
「イルカに決まってんでしょ。 案内よろしくね。 アタシ道わかんないし」
「教えるもんか! 来るな!」
「酷いわぁ、アタシに何か恨みでもあるのぉ」
「あるッ! オマエまたイルカ先生に余計なこと言うだろッ」
「余計なことなんてなんにも言ってないじゃない」
「言った! 曖昧な関係で満足かとか」
「アンタ、どっかで聞いてんの?」
「イルカ先生にこれ以上近付くな!」
「どうしてはっきりさせてやんないのよ? かわいそうでしょ」
「なんにも知らないくせに判ったようなこと言うなよっ 俺は、俺は…恐いんだよ」
「なにが?」
「イルカ先生が、自覚するのが…恐いんだ」
結論:こんなカカシ、見たこと無い。
◇ vsカカシ 三回戦 +イルカ +アスマ
「な…んでオマエら居るわけ?」
「あら、イルカに誘われたのよ、ねぇ」
「俺は紅に酒運ばされただけだ」
「鍋は大勢で囲んだ方が美味いって言うじゃない」
「俺、昼間断ったろ!」
「べっつにアンタに連れてきてもらわなくってもアスマが知ってたわ、イルカの家」
「来んなっつったんだよ!」
「アンタの家じゃないでしょう!」
「あ、カカシさん、おかえりなさい。 今ちょうど」
「イルカ先生ぇ、なんですかぁ、コイツら〜」
「はぁ、アスマ先生と紅先生ですが」
「そうじゃなくって!」
「酒と鍋の具もたくさん持ってきてくださって、助かっちゃいました」
「そんなの言ってくれたら俺がいっくらでも」
「まぁまぁ、落ち着いて。 いいからお座んなさいよ」
「誰だオマエ、ここの主人か?」
「主人はイルカよ」
「アスマさん、猪口はこれでいいですか?」
「おう、…や、俺はこの湯呑でいいや」
「イルカ先生、ソイツから離れてっ」
「今、燗をつけますね」
「いや、これは冷やが美味いんだ」
「近付いちゃダメッ」
「そうですか? 紅先生はどうされます?」
「アタシも冷やでいいわ」
「カカシさんは?」
「むぅ…」
「燗、つけますか?」
「俺も冷やでいいですぅ」
「なに拗ねてんのよ」
「拗ねてないもん」
「大人げねぇぞ」
「どうせ俺は子供ですぅ」
「カカシさん、あの… すみません、勝手に。 嫌でした? 冷や」
「いえ…、冷やでいいです…」
「でも」
「イルカ先生の作る物ならなんでも好きです〜v」
「いえ、冷や酒は注ぐだけ…」
「熱いわ」
「熱いぞ」
「あ、鍋煮えてる!」
「かっわい〜わね〜」
「オマエら、食ったらサッサと帰れよ」
「アタシ泊まるー」
「な、何勝手なことっ ちっとは遠慮しろよっ」
「今日はとことん飲むわー」
「俺は帰る」
「アスマ…アンタ喧嘩売ってる?」
「明日朝から任務だからよ」
「任務くらいなによ!」
「おい、コイツちゃんと連れて帰れよ」
「おう」
「なにがオウよなにが!」
「お待たせしました。 あ、そこちょっと除けてください。」
「待ってましたー」
「肉肉」
「取り皿取り皿」
「はい、ここです」
「酒酒」
「箸箸」
「はい、どうぞ」
「ポン酢ポン酢」
「はい、ゴマ垂れもありますよ」
「いいからイルカ先生、こんなヤツラ放っといて座って座って」
「肉肉」
「肉ばっか先に取るなっ イルカ先生、食べて食べて」
「アスマッ その松茸はアタシのよッ」
「早いもん勝ち〜」
「ちょっと、出しなさいッ 出しなさいよッ」
「はい、イルカ先生。 取ってあげますねv」
「あ、どうも」
「吐けッ この熊ッ」
「痛ぇな」
「イルカ先生も遠慮してないで、サバイバルに勝ち残れませんよ、はいv」
「あ、ありがとうございます」
「…」
「…」
「はい、イルカ先生。 お肉いっぱい食べてもっと太ってくださいv」
「えっと、俺、白菜とか白滝とかのほうが」
「…」
「…」
「はい、イルカ先生。 この酒けっこうイケますよv」
「あ、どうもすいません。 わ、これ美味しいですね!」
「熊にしては気が利いてますね。 はい、どんどんイッチャッて」
「でも俺酒弱いし、あんまり酔うと後片付けとか」
「そんなの俺がやりますって」
「でもほんとに弱いんですけど」
「大丈夫、介抱してさし上げますともvv」
「あのでも、多分、寝ちゃうと思うんですけど」
「大丈夫大丈夫、このはたけカカシ、お床のお世話もいたしますよvvv」
「あ、あの、でも、寝ちゃったら俺、お相手はちょっと無理ですけど」
「ぜんっぜんオッケーでーすッ ノープロブレームッ! イルカ先生は眠っててくださーいッ」
「…熱いわ」
「…熱いな」
:
:
「ほんとに寝たわ、この子」
「ほんとに姫抱きなのな、アイツ」
「カカシ…変わったわ」
「イルカも変わった」
「帰ろっか」
「おう」
結論:熱かった。
***
その日、急の任務に上忍だけの4マンセルが組まれ、アスマと自分とカカシも呼び出された。 姿の見えないカカシを捜してアカデミーへ。 イルカの居所がカカシの居所と捜せば、授業中のはずのイルカの姿も無かった。 だが、辛うじて辿れるくらいに残された気配。 行き着いた資料庫で、二人は抱きあって接吻けを交わしていた。 戸を開けた自分達に気付いたイルカは少し体を身動がせたが、カカシは見向きもせずイルカを離そうともしなかった。
「イルカ先生、こっち集中して。 約束」
「…はい」
惜しい惜しい、時間が惜しい。 一分でも長く、一秒でも多く。 戸際にアスマと立って、黙って待った。 イルカの潔さには驚かされっぱなしで大分慣れてきたが、ここまでカカシとの仲を隠さないでいられるものかと、逆に彼のカカシへの想いの複雑さを感じて、カカシが少し哀れになった。 カカシがイルカとの仲をはっきりさせたがらない理由が、なんとなく解った気がしたからだ。 不毛だわ。 隣を見上げると、明らかに煙草を我慢して苛ついている様の男が火の点いていない煙草を噛んでいた。 「先に行っていていいわよ」と喉元まで出かかった。 でも黙っていた。 二人の邪魔はしない。 時間が惜しいから。
「…から」
「はい」
「じゃ、行ってくるね」
「ご無事で」
頷くイルカの顎を捕らえ、その濡れた唇を親指で拭う。 同時に引き上げられる口布。 鋭く光り出す瞳。 カカシは任務に赴く。 イルカは見送る。
「待たせたな」
「待たされた」
「じゃね、イルカちゃん」
「紅先生もアスマ先生も、どうぞご無事で」
オマケね、と嫌味を言うつもりで振り向くと、受付けでイルカが誰にも送る真摯な眼差しに会い、私は。
・・・
「約束してくれたんだ。 任務に行く前にキスしてくれるって」
「いつ?」
「出立した日の前の前の日くらいかな。 あの前の日はイルカ先生なんか変だった。 帰ったら俺の好物ばっかり並んでて」
「好きなものって?」
「秋刀魚の塩焼きとか、茄子の味噌汁とか」
「旬だからじゃない?」
「でも、俺イルカ先生に自分の好み言ったことないし」
「だから、ただ単に旬の物を出しただけじゃない?」
「聞かれないしさ」
「あらそう」
「でも、嬉しかったんだ。 どっかで聞いて用意してくれたのかなって」
「どっかで聞いて、ねぇ」
「夜も、すごく…すんごくサービスよくってさ。 いつも言ってくれないこととか、いっぱい言ってくれて」
「サービスってねアンタ、商売女みたいな言い方よしなさいよ」
「だって、イルカ先生いつまで経っても俺のこと、処理で抱いてるって思ってるんだもん」
「知ってたの?」
「知ってるさ…それくらい」
「だから聞けないのね、イルカに。 自分達の関係をどう思うかって。」
「いいんだ、俺。 今のままで充分。」
「オマエ、誕生日いつだ?」
「俺? 来月」
「10月だったっけ?」
「うんにゃ、9月」
「今、何月か知ってっか?」
「9月…おわっ 今月、俺誕生月だよ…ってアレ?」
「アホ」
「ボケ」
「あれ…」
「誕生日、いつだよ」
「15日」
「先週の金曜か」
「出てきた日ね」
「その、サービスよかった日ってのはいつだよ?」
「だから、この任務に出る三日くらい前だよ。 俺、あの翌日任務で、イルカ先生にキスしてもらって朝出て、帰ったの次の日の午後ですぐこの任務入って、だからイルカ先生んちに帰れないから、アカデミー行って、イルカ先生捜して…」
「前倒しでもらってたのね、プレゼント」
「気付いてなかったんか」
「…どうして?」
「…どうしてって、なにが?」
「どうして…俺なんかに、プレゼント? くれるの?」
「アンタを祝いたかったんでしょ」
「どうして」
「それ以上ボケたこと言ってっと殴るぞっ」
「…」
「泣かしたわ、アスマ」
「…」
「いーけないんだ〜いけないんだっ」
「…」
「誰かなんか言ってよ」
私は、野次馬を降りた。
BACK / NEXT