Fat IRUKA's Painful Efforts Days
-太イルカ、その涙ぐましい努力の日々-
JEANS
ねぇカカシさん、とイルカはふと思いついた日頃の疑問をカカシに問うた。 それは、別段確認する必要性も意味も、一般的にもイルカ個人的にも全然無いものだったが、一旦気になりだすと聞いて見ずにはいられない、という些細ではあるが好きな相手についての興味としてはかなり価値ある事柄だった。
「カカシさんって、ジーンズ何センチ切るんですか?」
そう、こんな事別に聞いても聞かなくっても、ああそうですか、で終ってしまう事柄だ。 でも、先日久方ぶりにジーンズを新調したイルカは、試着室で係員さんに裾上げ分を測ってもらいながら、「カカシだったらどのくらい裾を上げるんだろう?」とふと考えたことを思い出したのだ。 カカシは足が長いし細い。 ついつい太りがちな自分と違って、体型が変わることも無いようだし何を着ても似合う。 自分みたいに一々試着して確かめなくても、もしかしたら何インチとサイズを見るだけで買えるのかもしれない。 裾上げなんかも、一々測ってもらわずとも店員に「何センチ切ってちょ」と言うだけで済むのかも、と長々と寝そべって愛読書を読み耽っているカカシを溜息混じりに眺めた。
「………は?」
だが、そんなイルカの期待に満ちた瞳の輝きに面食らうように、カカシは読んでいた本から顔を上げて小首を傾げた。
「何が何ですって?」
「ジーンズですよ。 何センチくらい切るんですか?」
「ジーンズを…切る?」
そこで更に首を傾けてカカシは斜にイルカを見上げた。 何を言っているのか判らない、と言った表情だった。 そう言えばあまりジーンズ姿のカカシを見た事が無い。 いつも忍服か、着物か、イルカの家にお泊りする時用にイルカが用意したパジャマか…。 全然穿いたことが無いって事はないと思うんだけどなー、と取り敢えず確認してみる。
「えーと、カカシさんってジーンズ穿かないってことはないですよね?」
「穿きますよ」
「じゃ買う時にほら、切ってもらうじゃないですか? それが何センチくらいかなって」
「切るって…ジーンズのどこを切るんです? 短パンにリフォームするとか?」
「違います! だからー、ジーンズ新しく買うときにー、裾上げ分は何センチくらい切るんですかって」
「え? 裾上げって…スーツじゃなくてジーンズをですか? サイズ合わせて買うのに、どうして裾上げが必要なんですか?」
「…」
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もしかして、
この人ジーンズ切った事無いのか?
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「も…いいです」
「はぁ?」
こういう人だよ、と訝しげに眉を顰めるカカシのながーい足を見遣りつつ、イルカは聞いた自分を呪ったのであった夏の午後。
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